第2話 魔王討伐はパスしてもいいですか?
「じゃ、勇者たちよ。幸運を祈る」
私が村長の屋敷の門を叩こうとした時にはすでにアッサリ、サクッと勇者たちを送り出すイベントは終わったらしく、村長以下村人が並んで旗を振っていた。
「あ、ミナミじゃん」
少女のようにも見える可愛らしい顔立ちの少年が私に駆け寄ってきた。
「また昼寝でもしてたのか?もう壮行会のご馳走は全部なくなったぞ」
黒髪短髪の背の高い男が気の毒そうに言った。
「さ、早く行くよ。ミナミ姫」
めっちゃ見覚えのある二人組、ツンツン短髪のイケメンとふわふわ金髪の天使みたいな可愛い少年に私は両脇からがっしりと抱えられた。
「何処へ?」
私の問いに黒髪イケメン、オーカーが真面目に答える。
「魔王城」
「何で?」
全然乗り気じゃない私をユサユサしているのはフワフワ金髪のアイル。
「そんなの魔王を倒しに決まってるでしょ」
綿菓子勇者サマは魔王を倒しに行く気満々の様子。えーと、あんたそんなキャラだったっけ?
「ねぇねぇ、あんたたち。本当にあんな小汚ない予言の書とやらを信じてるの?」
ため息をつきつつ、アイルをデコピンする私。
「いでっ……っ!」
「だいたいあんな、ボロボロの予言の書なんて、何代か前の呆けた村長が自分の妄想や願望を書いただけとは思わないの?」
「でも、ミナミ姫。予言の書通りにミナミは泉に倒れてた。気候も最近はやたら雨がふったり、暑かったり異常だし。これが魔王が現れた予兆と言えば、まぁ納得の一致だよな」
くそ真面目なオーカーは目をキラキラさせて言った。
「私は単なる行き倒れの偶然。異常気象も単なる地球温暖化のなせる業よっ」
私は吐き捨てるように叫んだ。
「チキュウオンダンカ?」
首を可愛く傾げるアイル。
「新しい技の呪文か?」
オーカーが空手チョップのように、右手を構えて振り下ろす。
「チキュ~オンダカ~!」
くっそぉ、異世界人め!
お前たちも二酸化炭素吐いてるんじゃないの?
温暖化は大事なのよっ、地球のピンチよっ。シロクマさんが氷の上で泣いてるわっ。
「頭痛いわ……そんな技あるわけないでしょ!とにかく、私は魔王城に行かないからね。行きたかったら、あんたたち二人で行きなさい」
「ちょっとぉ、どうしちゃったの?ミナミ姫は勇者を率いて魔王と戦う伝説の戦姫でしょ?」
「どちらにしろ、あんたたちとじゃ、無理」
アイルの手を肩から外して私は冷たく言い放った。
「何で?」
「よ、わ、い、か、ら♪」
私はニッコリ二人の勇者に笑ってさしあげましたわ。
「そんなぁ、だってまだ新米レベルだもん。仕方ないじゃん」
「冒険に行く前からレベルアップを求められてもだな。でも将来性ってヤツを…」
あ~、ごちゃごちゃうるさいっ。
「今も将来もあんたたちは弱いの!」
「なんでそんな事わかるんだよ~」
「マル秘、予言の書情報よっ」
っていうか、私の実体験だ。
コイツらにそれを説明する気力もない。理解してもらえるとも思えんし。
もう、あのボロ本の予言で片付けとこ。
「そんな事書いてあった?」
「村長んとこ戻って、じっくり読んできたら?」
「さっきまで呆けた老人の妄想だって言ってなかったか……?」
「大体、今でもそこの物陰にほらぁ一人、隠れてる勇者がいるでしょ。こんなんじゃ、戦闘になっても役に立たないし、あんたたちのレベルも永久に上がらないわよ」
「あ~、アッシュな」
オーカーがコクコクと納得して頷く。
「確かに、魔物なんか見たらヤツは絶対逃げる」
「おーい、アッシュぅ。怖くないから出てこいよ~」
アイルが樽の後ろに隠れてるアッシュを手招きする。
「やだよ~、だってミナミ姫なんか怒ってるもん」
あ~あ、ビクビク子犬勇者、樽の中に頭突っ込んじゃってるよ……。
溜め息を吐いて、村の外れに私は足を向けた。
確か、温泉があるはずだ。
「どこ行くんだ?ミナミ姫」
「やっぱり行くの?置いてかないでぇ」
「着いてこないでって言ってるでしょ。イヤな汗かいたから温泉に行くの。着いてきて覗いたら、あんたたちをこの村ごと消すからね」
指を突きつけて軽く脅すと、追っかけてきていた勇者たちの足がピタリと止まる。
「ふぁ~い」
「本当にやりそうだもんな」
「ミナミ姫が実は魔王だったりして?」
そうね、力的には魔王と同等なんだから。女魔王を名乗って好き放題するのも面白いかもねぇ。