第28話 アンテッドの獲物!
「ここ、でいいのよね……?」
「人の住むところ?ここ……」
「確かに酷いわね。こんなところに売られたら怨みもたまるわ」
崩れかけの小屋の前に私とフェズは立っていた。ここは、元娼館の裏側にある、かつて娼婦たちの居住スペースだった場所だ。北の墓地からも程近い。周囲の薄暗いうっそうとした雑木林が昼間なのに不気味さを誘う。
頬キズの男にドラブの元婚約者カメリアの売られた娼館探しを依頼し、彼女が売られた娼館を突き止めてもらったが、店は経営不振で先月で閉めていた。
何でもアンテッドが夜な夜な出るという風評被害が原因だとか。
「こんなところに連れてきてどうするつもりだ?」
全身をグルグルに拘束されたドラブがわめいた。因みに、逃げ出さないようにフェズも同じ状態にしてあります。はい。
「どうするって、アンテッドの餌にするのよ?」
私のセリフに青ざめるドラブ。
「アンテッドって一体何のことだ……」
「カメリアの本体を探すの。せいぜい喚いて誘き寄せてちょうだい」
急にピタリとドラブは黙りこむ。
う~ん、保身は素早い男だ。
「探索の光」
崩れかけた建物をマッピングしてみるが、特に怪しいところは見当たらない。
「もう、帰ろうよ……」
青い顔でガクガクしてフェズが幼い子どものように私に訴えた。
「う~ん、もうちょっと」
「じゃあ、こいつが居るから、僕はもう帰ってもいい?」
「ダメよ。あんたはエサその2なんだから。イケメン好きアンテッド呼び出し用人員」
「……!!」
そんなフェズの様子を見て、ニヤニヤと笑うドラブ。
「随分と余裕じゃないの、ドラブ。ここにはカメリアは居ないのかしら?」
「……」
「じゃあ、こっちはどうかしらね」
一瞬、ドラブの視線が泳ぐ。
「当たり」
「何のことだ?」
「真実の光」
雑木林の一点が光る。
「あっちか」
魔法で拘束したエサその1とその2を雑木林の光が放れた一点まで引き摺っていく。
「大地の叫び」
光を放つ部分の地面を崩すと中から予想通り、白骨化した死体が見つかった。
「こんにちは、カメリア」
「ギ、ギ、ギ……」
怨念の本体である精神体は先日、大方私が浄化してしまったが、死体にまだ黒い怨念の殘滓が纏わりついていた。
頭蓋骨の眼窩に妖しい光がともり、ドラブに向けられる。
「あなたが探していたドラブを連れてきたわ」
「「ヒィィィ!」」
エサその1とその2が叫ぶ。
「うるさい」
カメリアの埋まっていた穴へ私はドラブを蹴り入れた。
「ギ、ギ、ギ……ドラブ、サマ。ヤット、ワタシ ノ モノ……」
ナイフが胸に刺さった白骨が愛しそうに、ドラブを抱きしめる。
「俺が悪かった!カメリア、許してくれ。殺すつもりなんかなかったんだ……!頼む!」
白骨に抱かれて、地面に引きずり込まれながらドラブはもがき喚く。
「やっぱ、ここに埋めたのはお前?」
冷たく私はドラブを見下ろした。
「カメリア、こいつはあなたの好きにするがいいわ」
「ドラブ、サマ……モウ、ハナサナイ……」
暗い穴の中へ白骨がドラブをしっかり絡めとりながら、消えていく。
ドラブの姿が完全に消えたのを見計らって、私は最後の浄化魔法を唱えた。
「聖なる祝福」
地面から気を失ったドラブが浮き上がる。余程の恐怖だったのか、顔をひきつらせて気絶しているようだ。
彼が今後正気を保てるかは、私の知ったことではないわ。
自業自得というものでしょう。




