第27話 聖女姫は姉御?
「今日こそは、払って貰うぞドラブ」
言っとくけど、これは私の台詞ではない。
フリント牧場にフェズを連れてやって来たら、見るからに堅気ではない雰囲気がプンプンしている二人組がドラブを締め上げているところに遭遇。
一人は目つきが半端なく悪く、もう一人は頬に目立つ傷が刻まれた、いかにも裏社会の人間です、という出で立ちの黒づくめの男達。
臆病なフェズは怯えて、入室せずに物陰に隠れてしまう。
「なんだ、お前ら」
いやぁ、お約束で凄まれました。
「あ、私も取り立てに来たところなのでお構い無く。先にどうぞ」
親切に譲って差し上げる私。
「あぁ?お嬢ちゃん、ふざけてるのか?」
「もしかしてと思うが、ドラブの新しい女か?とんだ上玉じゃないか…。顔も肌も極上、胸もデカいし、こりゃあ高く売れるぜ」
黒づくめの二人組は私の全身を舐めるように見て、口笛を吹く。
ドラブがコクコクと頷きながら、とんでもないことを言った。
「上玉だろ?そいつをやるから今日は勘弁してくれ」
依頼人を売ったんか?ドラブの奴。本当にゲスい男だ。
「お嬢ちゃん、どういう趣味か知らないが、彼氏は選んだ方が…」
「氷柱壁」
 
カッキーン……!
氷柱で固めたドラブを私は回し蹴りで思いっきり蹴り倒す。
ドゴッ、バキンッ!
いやぁ、よい音……。
凍ったドラブごと真っ二つに割れなくて残念だわ。勢い余って分厚い木材の机は割っちゃったけど。
「趣味が、何だって?」
木片を払い落としながら、 ニッコリ私は二人組の男に微笑んだ。
「ええと……素敵なお洋服ですね、お嬢様?」
ころっと口調の変わる取り立て二人組。
「そうね。ありがとう。で、私コイツから金を回収したいんだけど、金庫のある場所知らないかしら?」
調子よく、頬にキズがある方の男が手揉みしながら答える。
「金庫なんざ、空っぽですぜ。こいつ、借金まみれのギャンブル狂でさぁ」
「じゃあ、金目のものとか差し押さえるものはないの?」
「牧場も既に抵当に入ってるし、家具も目ぼしいものは質入れ済、身内もいないし剥げるところはもうないな」
そう答えた目つきの悪い男の方向に、私は氷漬けのドラブを蹴って転がす。
「ふん、まだまだ甘いわね、こいつの身体が残ってるじゃないの?」
「はぁ……内臓とかですか?」
「それは最後でしょ?もうちょっと搾り取るところまで搾る余地があるんじゃない?」
「これじゃどっちが裏社会の人間かわからない……」
フェズの呟きが聞こえる。確かに。ちょっとこいつらの女ボスっぽくなっちゃったかも。
「でも、こいつあまり役に立ちませんぜ、姉御」
あら、姉御呼びになっちゃってるわ。ま、いいか。
「この男、牧場経営も下手くそで……経営を助けてもらってた自分の婚約者まで、結婚式当日に娼館に売った、どうしようもないクズですぜ」
「うわぁ、どんだけゲスい奴なの」
さすがに、私も顔が歪んだ。
 
アンテッドの正体がわかっちゃったわ。アンテッドの餌食にするべきはコイツね。
「最近は、媚薬を使って金持ちのお嬢様をたらし込もうとしたらしいけど、失敗しやがって。相手からはストーカー扱いで結局金は取れず。女一人、コマすことすらできねぇ」
金持ちお嬢様……ローズか。媚薬盛られたんか。気の毒に……そりゃあ、本人、間違いだって言うハズよ。
「そういえば、姉御。こいつ近々、大金が転がり込むみたいなことをやたらと言ってましたぜ。だから猶予をくれってイヤに自信たっぷりいいやがって」
「馬がどうのこうのっていってたな」
「へぇ、金になる馬がここに居たの?」
「いや、厩舎は空っぽでさ」
「それが、名馬で一杯になるなんてふざけたことを言って……やけに自信のある様子でしたぜ」
「名馬ね……何処から連れてくるつもりだったのやら」
「さぁ……?」
おそらく名馬の仕入先はテラローザ。
タデの実でアレルギーを起こさせて、暴れ馬として買い叩いて高値で転売するつもりだったとみた。
頭はソコソコ回るのか?いずれにしろ、カジノに私財を傾けるほど入れ込む中毒者の浅知恵だ。
「そういえば、飼料の工場はまだ動いてるんじゃないの?あれをさっさと差し押さえして、売り払ったらどうなの?」
窓の外にみえるサイロと高い煙突が並ぶ工場を私は指差した。
「あの工場はダメですぜ、姉御」
渋い顔で頬キズの男が答える。
「なぜ?」
「タデの実やら、材料を東の森でコノヤローが乱獲したせいで、魔物が怒って村を襲うようになって…。住民から不買運動が凄くて、売上はさっぱり。従業員からも給料未払いで山盛り訴えられてる。こんなケチのついた赤字の工場を引き受ける買い手なんかいませんぜ……」
東の森……こないだ私が焼いたところじゃん。
あそこもこいつのせいかぁ。
「あんた達に頼みがあるんだけど……」
私が二人組の男に依頼した内容を聞いたフェズは、蒼白になってその場からダッシュで逃げていった。
 




