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第26話 きっちり回収いたします!

「おかえり、ミナミ……」

テラローザの里に着いた時に、にこやかに迎えてくれたのは、優しい笑顔のレドグレイ。

客間に入ったところで、私は疲れ果て仏頂面をした四バカ勇者に囲まれた。


「てめぇ!よくも俺たちを勝手に売りやがったな!」

一日中、厩舎の掃除をさせられ、糞尿の臭いが鼻について不機嫌なウォル。

「もう、力が入らない……」

立ちっぱなしで馬のタテガミにブラシをかけて肩や足腰がヘロヘロなのはアイル。

「くっ、腰が……」

飼料の運搬など単純力仕事を黙々とやり過ぎたのはオーカー。

「あぁ、楽しかったぁ……」

久しぶりに再会した兄と馬の世話をして回ったアッシュは、充実した一日だったらしい。



「仕方ないでしょ?いつまでもタダ飯が食えると思わないでよね。働かざる者、食うべからずよ。退いて、私も疲れたわ~」

突っかかるウォルをいなして、私はソファーにどっかりと座る。



「よ、久しぶり」

「「「「フェズ~!」」」」


クタクタでへばってた四人(三人?)は私の後ろから入ってきた、甘いマスクのイケメンに漸く気がついたらしい。


「ミナミとどこで会ったの?」

と無邪気に一番元気なアッシュが口を開く。

「あぁ、コーラルリーフで色々あってな」

「色々?誰と?」

フェズが馴れ馴れしく、私の肩に手を置いて、私に邪険に払われたのをじっと見てたアイルが突っ込む。


「フェズとはクエスト片づけてる最中に会ったの」

「コーラルリーフのお土産はないのか?」

片手で何かを催促するウォル。

「呪いのアイテムならゲットしたけど、欲しい?もれなくアンテッド女の呪いつきよ」

「いや、食い物じゃなかったら要らね」


私の言葉にアンテッドを思い出したのか、フェズは心底嫌そうな顔をする。

アンテッド、完全にトラウマになっちゃってるわね。


「で、クエストはどうだったんだ?ミナミ姫」

真面目なオーカーが尋ねる。

「ん~、報酬回収できたのは二件かな。あんまり実入りのいいのがなくて」

オーカーに財布を振ってみせた。

うん、パンパンには程遠い。


「一人で半日で二つ……知ってたけど、化け物だね。うちの聖女姫は。普通は数人のパーティーで何十日もかけてやるもんでしょ」

「なんか言った?アイル」

ジロリ、と睨みつけてもフワフワ天使は平気な顔で私の財布を覗いてきた。

「ねぇねぇ、今日のクエスト伝票ってないの?」


「あるわよ。アイル、あんたにしては良いこと言った!これ見てよ、レド」

タデの実のクエスト伝票をレドに見せる。


「これは……怪しいですね」

「でしょ、このフリント牧場、有名な飼料の生産者みたい」

「確か、ここテラローザの飼料もフリント製品が主力でしたね。後で厩舎長に伝えてきます。フリント牧場を当たってもらいましょう」

「そうね、お願い。私もちょうどいいクエストがあることを思い出したわ」

「どれ?」

私の手元を覗きこむ勇者ズ。


「これよ」

私は持っていたクエスト伝票をアイルに渡した。


『コーラルリーフ城下町の西地区にあるカジノによく出没するという噂の男に天誅をくだして下さい。

彼は私の愛する人を奪っただけでは飽きたらず、他の令嬢や既婚のご婦人方にまで魔手を伸ばして弄んでいます。しかも、最低なことに金品を貢がせたり、巻き上げたりしているようです。

何卒、世の中の女性の敵に制裁をお願いします』


「これって」

「もしかしてフェズ……?」

アッシュとアイルが顔を見合わせる。

鈍いオーカーとウォルはあまりピンとこなかったようだ。


「フェズ、お尋ね者じゃん!」アッシュ。

「最低~、人間のクズ?」アイル。

「ゴキブリ以下の存在だな」オーカー。

「巻き上げた金品俺によこせ」ウォル。


「お前ら、言いたい放題か?」

年下勇者ズに好き放題言われるフェズ。


「まぁ、1500G回収できて犯人も捕まえられるかもなら、いいんじゃない?」

「えっ、何?フェズ捕まえたら1500G!?」

ウォル、両目がGマークになってる……。


「やっぱりまだ、僕を売る気満々なんだ……」

「当たり前でしょ。ギルドじゃなくて明日、直接フリント牧場に回収に行くわよ」

「……ちゃんと、後で助けてくれるんだろうね?」

めっちゃ不信の目ですね。フェズ君。


「さぁて。それは貴方次第よ。私の役に立ってくれるわね、勇者フェズ?」

私はニッコリと極上の笑顔で微笑んだ。


「やっぱり、さようなら。ミナミっ!」

……フェズが真っ青な顔で怯えて部屋から逃げ出そうとした。ひょっとして、最後のフレーズでアンテッド思い出しちゃったかな~?


「出た。魔王の微笑み」

四バカ勇者が呟く。


失礼な奴らめ。

後で覚えておきなさいよ。


蜘蛛の糸(スパイダーロープ)

あっと言う間に魔法の糸で拘束されて床に転がるフェズ。


涙目で転がるフェズにウォルとアイルがしゃがみこんで淡々と諭していた。

「フェズ、諦めろ……」

「あの人が一番人でなしなんだからね。今日は僕達のカラダを売って自分だけ甘い汁を……」


「あんたたちも一緒にグルグル巻きになりたかったの?」

疲れてイライラしていた私は、アイルとウォルにもシュルシュルと糸を向ける。


「何にも言ってませーん」

「今日のご飯は何かなぁ?楽しみだなぁ!」

慌てて二人は仲良く食堂に駆け込んで行く。


「姫、私達もご飯にしましょうか?」

何事もなかったかのように、レドがグルグルになったままのフェズを引き摺って、弟たちを伴って部屋を出た。




し~ん。


部屋があっと言う間に静まりかえる。


「あの子たち、賑やか過ぎるのよね……」

賑やかさにすっかり慣れて、静かな部屋に違和感を覚える自分に私は驚く。


「静かだと落ち着かないって、ちょっとヤバくない?」



私……いつの間にか、この生活にすっかり慣れちゃったみたいです。

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