第20話 スケコマシ勇者?
「やっぱりね……」
西のカジノの最奥カウンターで、お金をたっぷり持ってそうな中年マダムに顔をくっつけて、何か囁いている色気の塊みたいな長身の若い男を発見。
一見、艶やかな黒褐色の髪をかきあげながら微笑んでいる姿は王子様のようだ。
エメラルド色の深い海を連想させる瞳を妖しげに揺らめかせ、王子様には似つかわしくない厭らしい手つきで傍らの女性の髪を撫でていた。
「フェズ!」
「え?君は誰だったかなぁ?」
うっとりと両目をハート型にしたマダムの腰に手を回しながら、フェズが首を傾けた。
「君みたいな綺麗な娘、一回みたら僕は絶対忘れないんだけど?」
「残念ながら初対面よ」
「あぁ、そうなんだ。僕に何か用事かい?」
無駄に微笑むフェズ。
一瞬、他の若い女に話しかけたフェズにキッとなったマダムがその微笑みを見て、またトロトロに蕩けてる。
「用がなければフェズになんか話しかけないわよ……」
私は深~く溜め息をついて、手招きした。
「ふ~ん?何だろうね。ま、いっか。じゃあまたね、マダム。支払いはお願いね」
フェズがマダムの手を取って口づけるとマダムは真っ赤になってうつむいた。
まぁ、良いように金蔓にされちゃって……お気の毒に。
フェズは悪びれることなく、ヒラヒラとマダムに手を振ると私についてきた。
「ねぇ君、名前は?」
「ミナミよ」
「へぇ、あまり聞かない名前だね」
「でしょうね」
冷たく私は答える。
「で、何処へいくの?どこかの休憩宿?随分と積極的だね。まぁ、そういうのも嫌いじゃないけど。それにしても、めっちゃ良い身体~」
「残念ながら行き先は冒険者ギルドよ」
私の肩に回そうとしたフェズの手を捻りあげる。
「イテテ……ギルドだって?」
「あんたを連れてくと1500G貰えるのよ。大人しくついてきなさい」
「君、まさか冒険者なのか?」
「一応そうみたいね」
捻りあげたまま、私は入り口の方へ強引にフェズを引っ張って歩く。
まずはこいつを売ってとっとと金にしよう。
「待って、待ってミナミ!僕を見て?」
フェズが腕を捻られたまま、真剣な表情で私を見つめる。
「愛してるから、お願い。その可愛い手を離してくれない?じゃないとその魅力的な唇にキスも出来ない…」
ったくもう。何なんだ、このセリフ…… 。
本当に砂吐くわっ。
「ムダよ。そんなレベルの低い魅了なんか、私には通用しないわ」
「えぇっ!?」
「勇者の初期スキルをそんなことに使うんじゃないわよ…」
「勇者のスキルって、何でそんなこと知ってるの?」
「私もティントから来たの」
「ティントって?…じゃ、もしかして君が聖女姫?本当に?」
「はいは~い。正解でぇす。ってことで大人しくついてこい」
「やだよぉ、どこの世界に自分のパーティーの勇者を売る聖女が居るんだよ……」
「ここに居るけど?」
「きゃあ、人拐い~っ!」
「人聞きの悪いこと叫ばないでっ」
カジノの入り口でギャアギャア叫ぶフェズのおかげで、回りに人垣が出来てしまった。
囲んできたのは全員女。
「フェズ様を離しなさいよ、このブス!」
「フェズ様、今お助けします!」
「フェズ様を何処に連れていく気なのっ?」
うわぁ、全員魅了かかってんじゃん。
厄介だなぁ。
こいつら、まとめてフェズごと吹っ飛ばしたろか?




