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第12話 ブリーダーの里 テラローザ!

「あっ、兄さん」

テラローザ村にたどり着いたら、入り口であっさりレドグレイをアッシュが見つけた。


「なんか、こんなアッサリ見つかるもの?」

ウォルのセリフにアイルが同調する。

「都合良すぎる展開だね?」

「まぁ、同じ方向に進んでるんだから、そりゃ会うだろうけどなぁ」



「アッシュじゃないか」

アッシュに良く似ている優しげな顔立ち、長身でサラサラブロンドヘアのイケメンが嬉しそうな顔をして駆け寄ってきた。

「レド兄さん!」

「どうしてここへ?」

弟を抱きしめながら、レドは訝しげに首を傾ける。

「ミナミ姫と一緒に来たんだよ~。ちょうど兄さんを探してたところだったんだ」


「ミナミ姫?聖女様か?」

「うん、兄さんたちが村を出た後に来たんだよ~」

アッシュにニコニコ紹介されて、私はとりあえず頭をペコリと下げてみた。


「え?何か自己紹介的なことしないの?会ったことないんでしょ?」

アイルに突っ込まれて、渋々名乗った。

「ミナミです。よろしく」

「聖女姫ですって言わないの?」

「言わない」


だって、変じゃない?

どうも~、ご紹介いただいた召喚されたっぽい聖女です、って自分から名乗るか?普通。

それに私にとっては毎晩ゲームで見慣れている顔だから、全然初めまして感がなくて挨拶するのもビミョーなんだよね。


「初めまして、ミナミ姫。弟がお世話になってます」

照れながら、手を差し出すレド。


少年のまま、大人になったような優しさが滲み出てる線の細い青年。

本当、全く勇者には向いてない感じの体型だ。このゲームの制作者の趣味だろうか?このゲーム、ムキムキ系勇者があんまり出てこない気がする。敢えていうなら、ロンサールがムキムキ系かなぁ。


「ところで、あなたはここの村で何してるの?」

私は率直な疑問をぶつけた。

レドの格好は完全に地元住民の作業着だ。


「それが頼まれて、馬のお世話みたいなことをしてるです」

「何で?」

「たまたま、馬が暴れるところに通りがかって……それを宥めたら、何となく流れでここに。まだ馬たちが落ち着かないので、厩舎のお手伝いをさせてもらっています」

「ふ~ん」


「お願いします、レド様っ!また三番厩舎で暴れてる馬がっ!!」

「はい、すぐ行きます。では、姫。失礼します」

呼びに来た村人について、レドは村の西の厩舎に走っていってしまった。



「何で暴れてるのかしら? ブリーダーの里でそんな急に暴れる馬が出るなんて、おかしくない?」

結構真剣な私の疑問に、適当に答える勇者たち。


「魔王のせいじゃないのか?」オーカー。

「お腹すいたのかな?」アッシュ。

「いや、飯が不味かったんだろ」ウォルテール。

「同じご飯に飽きたんじゃない?」アイル。


「……魔王?あとの理由は全部、あんたたちのことじゃないの?」

私の冷たい反論にもめげず、ぐいぐいアイルは私の背中を厩舎の方に押してきた。

「とりあえず、見に行ってみようよ~」


皆でレドが走って行った厩舎に、ぞろぞろと移動する。


厩舎に近づくと、馬が足で壁を蹴りあげてるのか、バタンバタンと凄い音と興奮した嘶きが聞こえてきた。


「大丈夫だから、どうしたの?」

穏やかに、ゆっくりレドが興奮して暴れる馬に近づいていく。

「もう大丈夫」

穏やかにタテガミを撫で、レドが静かに囁くように声をかけると、魔法にかかったように暴れ馬は落ち着いていく。

「いい子だね」

レドの顔に鼻面を擦りつけて馬は甘えかかった。



「すごいなぁ~」

厩舎の枠に並んで見学する勇者ズから感嘆の声があがる。


「勇者っていうより、獣医?」

「なんか僕、動物相手にこういう話見たことある~!」

「ほぉら、怖くない、怖くないって噛まれるやつじゃね?」

「それそれ!黄色いちっちゃいヤツにカプって!」


ワイワイ騒いでいたせいか、厩舎の少年が寄ってきた。

「レド様とお知り合いの方ですか?」


「はい、弟です。兄がお世話になってます」

アッシュが深々と頭を下げた。

「イヤイヤ、こちらこそお世話になってます。頭をあげてください」

少年は恐縮して、両手をブンブンさせる。


「ここ名馬の里、テラローザの名だたるブリーダーたちもお手上げの状態なんです。静めることができるのは、レド様だけなんですから」

「ところで、なんで馬たちは暴れてるの?」

私の問いかけに、厩舎の少年は困った顔をして答えた。


「原因は現在調査中ですが、さっぱりわからなくて…」

「やっぱ、飯が不味いとか?それか魔王が馬を暴れさせてるんじゃね?」

「ウォル。あんた、しつこいわよ」

「ご飯といえば、宿はお決まりですか?よろしければ、ご案内させていただきますが。まずは厩舎の食堂で夕飯は如何でしょう?」

年下の少年の誘いに、大喜びで食堂に案内を促す年上勇者たち。


「やったぁ」アッシュ。

「ありがたい」オーカー。

「早く行こうぜー」ウォル。

「で、ここの名物って何?」アイル。


四人の背中が遠ざかる。


あらあら、私。乗り遅れてしまったわ。

一人、ポツンと取り残された私。


あの子たち、ちょっとは遠慮とか……するわけないか。



てゆーか、この村の驕りでしょうね?

そこ一番大事。



私は厩舎の窓枠に凭れ、財布の残金を思い出して溜め息をついた。



「やれやれ、人間は都合の悪いことが起こると何でも我のせいにしたがるな」

突然背後から抱きつかれ、低音の艶っぽい声が耳元で響く。

「カーディナル!?」

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