第9話 勇者の需要はありません!
封印が解けたと同時に魔王カーディナルの姿は掻き消えた。
とりあえず、戻ろ……。
私は一気に地上へ戻った。
地上に戻ると三弱トリオ、もとい、三人の勇者はお昼寝から目覚めたところだった。
「あれ?ミナミ姫。ひょっとして一人で洞窟に行ってきたの?」
やっぱり一番に気づいたのは、アッシュ。
「あ~、ミナミ姫、ズルいっ、一人だけお宝ゲットしてるぅ」
私の腕にはまった金の腕輪を目ざとく見つけたのはアイル。
「欲しいの?」
「え…、くれるのぉ?」
「はい、触れるものならね」
私は腕から外してアイルに手渡した。
「ありがっ……うわぁっ!」
アイルは腕輪を放り投げた。
「痛っ!!ナニコレぇ、ビリっとするよっ」
「魔王をさっきまで封じてた腕輪だもん。普通の人間じゃ、魔力が強すぎて触れないアイテムよ」
「わかってて渡したの?意地悪ぅ……」
右手を擦りながら、上目遣いで睨んでくるアイル。
まぁ、女子でなくてもめちゃカワイイ仕草ですこと。アイルは女の子に生まれたら良かったのに……。
「アイルがズルいズルい、言うからでしょ?」
「僕、そんな物騒な腕輪いらな~い」
「ハイハイ。でもね勇者君。一応、これがないとこの先、魔王城に行けないんだけど?」
「えっ、そうなの?」
「老人が洞窟に魔王城の手がかりがあるって言ってたでしょ?この腕輪のことだったのよ」
「洞窟にあるのは、海賊のお宝じゃなかったの?」
「宝なんか無かったわよ。あったのは空の宝箱ぐらいかしらね……?」
空の宝箱?
そういえば何か、忘れてきたような…?
「あ~っ……!」
「どうした?ミナミ?」
突然、叫び声をあげた私をオーカーが心配そうに見た。
「ウォルテール…、忘れてた」
「ウォルに会ったの?」
アッシュが首を傾げる。
「どこで?」
「そこ」
今、出てきたばかりの洞窟を指さした。
洞窟の中で氷漬けにしたままだったわ……。
§§§
「ぶえっくしょい」
派手にくしゃみをして、飛沫を撒き散らすウォル。
「きったなーい」
アイルがティッシュの箱を投げつけた。
「そんなこと言ったって、仕方ないだろう?洞窟を探検した挙げ句、氷漬けにされて放置された身になってみろよ」
「探検って、お前。入口の罠にはまって倒れてたんだろ?」
オーカーが、のんびりと事実を述べる。
「でも、その後ミナミ姫と合流して俺はモンスターと戦ったんだっ(ミナミが)」
「そんなことで、威張らないでよ。僕たちもモンスターと戦って倒したんだからねっ(ミナミが)」
「へぇ~っ」
「ふぅ~ん」
ウォルとアイルがお互いの顔を見合わせて肩を叩きあう。
「「やるじゃん~!」」
「あんたたち、主語が抜けてるわよ……!」
私のつっこみはスルーされた。
頭痛い……。
「で、ミナミ~。これからどこいくの?」
アッシュが荷物を片付けて立ち上がる。
「あぁ、次の目的地は北の山岳地方が一番近いかしら。街道に戻って東に進む予定よ」
「ウォルはどうするの~?」
アイルがウォルに尋ねた。
「俺としては、恩返しも兼ねてミナミ姫のお供をしてやろうと思うんだが……」
「そうねぇ。奴隷か下僕かどっちがいい?」
ウォルテールの偉そうな申し出に、私は二択で提案してみた。
「イヤ、どっちも遠慮……」
人のせっかくの親切な提案を断るウォル。
「じゃ、妥協して下男?」
「あのぉ、一応俺、勇者なんですけど……」
「私、勇者一番要らないのよね」
「要らないの?」
アッシュとオーカー、アイルがお互いに不安そうに顔を見合わせる。
「わかったわよ。とりあえず、用がある時は呼ぶから着いてこなくていいわ。勇者ウォルテール、ここで待機」
「アッシュ達は着いてってるのに?」
「ねぇねぇ、ミナミ。古文書には魔王を倒すために勇者が七人必要だって書いてあったんじゃなかった?」
ちっ、アッシュめ。
記憶力も無駄に良いな……。
「あ~、そうだけど。だから用がある時に呼ぶって」
「急にだと間に合わないかもしれないだろ?着いていけば手間が省けるんじゃねーか?」
「いや、手間じゃないから」
「まぁ、遠慮するなって」
こうして、誰もレベルアップしていないのに、最弱勇者団体はまた一人増えたのでした……。




