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二条御殿


 翌日、俺は、二条御殿の東棟の一室に引っ越した。


 引っ越しと言っても、荷物もほとんどないのだ。手回り品を持ち込むだけの簡単なものだ。


 松嶋執事によれば、俺に与えられた部屋は、書生や食客に用意されたもので、二条家では、代々、この種の人間を雇うのだそうだ。



「あの紫の少年も食客なんですか?」

「あの方は、特別な方です。言うなら、若旦那さまの同士です」

「同士って?」

「あの方は、政策提言だけじゃなく、若旦那さまのテレビでのご発言や、ご交友、それにご結婚についてもアドバイスなさいます」

「ってあの子、高校ぐらいじゃないですか?学校、どうしてるんですか?」

「すでに飛び級で、ハーバードを卒業されています」

「あの子の友達は?」

「おりません。強いて言えば、若旦那さまになります」

「でも、ジュニアは、どうして、あの子を隠しておきたいんですか?あんな綺麗な子なんから、宣伝に使えるでしょうに」

「美しすぎるのです。女性票が減るかも知れません」



 女性票が減る?

 それって、どういう意味だ?



「あの方は、女性なのでございます」

「どう見ても、少年だったように思うのですが……」

「お二人のお考えがあってのことです。

 あの方が女性のなりで出歩くと、許嫁の葵さまも真っ青になられるでしょう。

 いずれにしろ、あなたさまが、あのお部屋へ招かれることはないでしょう。用事があるときは、あの方の方からお出でになります」

 




 信じられない世界だった。


 守秘義務――想像以上の秘密だった。


 



「二条御殿は、ザッと三つの棟に分けることができるんです。

 光さまの住んでいる東棟、旦那様と奥様がお住みになってらっしゃる中央棟、旦那様の弟さんで、医学博士の二条尚光博士が居住スペース兼研究所にしている西棟です。

 中央棟は、光さまや紫さまが図書室を利用されるくらいで、他は、応接間ぐらいしかお出でになりません。ダイニングにしても、もっぱら、東棟のそれを利用されています。

 惟光さんがあちらへ行かれるのは、多分、図書室ぐらいになると思いますので、後でご案内します。

 食事ですが、私達は、中央棟の台所脇のお部屋で頂くのですが、惟光さんは、紫さまのお守りという大役がありますので、東棟のダイニングでお召し上がり下さい」


 昨夜、紫の部屋で見たメイドが、楽しそうに説明した。


「この屋敷じゃ、ジュニア専用のダイニングやリビングがあるのか?」


「ええ、そうです。昨日、あなたが招待されたダイニングがそれです。

 元々、光さまのお部屋だったんですが、旦那さまや奥様と離れて、くつろいだり、お食事したりするのに使われるようになって、そう呼ばれるようになったんです。


 旦那さまと奥様は、東京にいらっしゃることが多いのですが、こちらへ帰られたとき、お邪魔しないようにって、光さまが遠慮されてるようなのです」

 

 内緒の話をこっそり教えようと、片目をつぶってニヤリと笑った。


「ここだけの話、奥様は後妻でしょ?しかも、お会いになってみれば分かります。ものすごくお綺麗なんです。だから、旦那さま、光さまを奥様に会わせたくないみたいなんです。


 だって、光さまより十五ほど年が上だって話だけど、二人で並んでらしたら、おひな様みたいなんですもの」

「で、食事もリビングも別になってるのか?」

「ええ、でも、用事があるときは行き来なさいますし、お客があるときはご一緒されます。

 ただ、何となく、光さまと奥様ってぎくしゃくしてるんです」

「格式の高い家って大変なんだな」



 感想を漏らすと、メイドが笑った。


 わりと可愛い顔立ちで、人の良さそうな娘だ。



「君、昨日、紫の部屋にいなかったか?」

「ええ、美保といいます。私、紫さまのお世話をするよう言われているんです。年も若いし、看護師免許があるから」

「メイドの仕事をするのに看護師免許がなんかいるのか?」

「紫さま、あんまりお丈夫じゃないんです。だから……」





「ここが図書室です」



 入って、驚いた。


 そんじょそこらの図書館より蔵書が多い。明らかに希少本と見受けられる本も当然のような顔をして並んでいた。

 ここまで来ると、羨望を通り越して、感嘆に値する。


 呆然と一周した。

 かなりの広さがある。


 溜息が出た。


 閲覧用の机があって、何気なく見ると紫がいた。

 

 今日は、白いシャツに藤色のカーディガンを羽織っている。相変わらずジーンズで、十六歳と聞いたが、表情があどけないせいだろうか、年より幼く見えた。


 紫は、調べものをしているようだった。本のあちこちに付箋がついている。


「美保ちゃん、悪いけど、これ、いつものように、付箋の部分コピーして、ボクのデスクに置いといてくれない?

 惟光さんは、ボクが事務室へ案内するから」

「分かりました。何カ所あるんですか?」

「えっとね。一、二、三……六つ。よろしくね」

「ラジャ!」


 美保が敬礼した。メイド姿で敬礼すると、不思議なミスマッチだ。



豪華で広大な二条御殿は、惟光氏にとって驚きの連続です。

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