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不思議な少年

惟光氏は、二条 光の課題のために商店街の観察をします。

 どこにでもあるような商店街だった。

 どうして、ここを課題に選んだのか、それすら分からない。そんな平凡な通りだ。


 人通りの少ない道を端から端まで歩く。


 さほど、大きな商店街じゃない。


 駅寄りに小さな喫茶店があるのに気付いた。

 指定された喫茶店だ。


 むこうが指定したとおり、この商店街を観察するには一番の場所だ、と直感した。




 八時五十分。息を整えて、店に入った。


 


 窓に面した席に先客がいた。


 ジーンズに薄紫のセーターを着た高校ぐらいの子だ。

 背中まである長い髪と少年らしい装いに、ちぐはぐなものを感じた。

 不思議な存在感がある。



 この子、不登校か?



 しかし、そんなことは関係ない。


 今やるべきことは、この商店街の現状分析だった。

 窓際に座らないと、通りの観察ができないのだ。




 さりげなく声を掛けた。



「ここ、座っていい?」

「ダメ」



 簡単に断られた。

 


 テーブルには席が四つ。少年が座っている席を除いても、三つも空いているのだ。




「誰か、来るのか?」

「いや……」

「だったら、良いじゃないか。俺は、この席に用があるんだ」



 少年は、通行人を認めてノート型パソコンに手早く書き込みをする。

 俺の方を見向きもしない。




「君も二条ジュニアの課題をしてるのか?」


 

 こんな年若い少年が俺と同じ課題に取り組んでいるのに驚いた。



「二条ジュニア?ああ、そう呼ぶ人がいるって聞いてたけど、本当にいるんだ」


 上の空だ。



「頼む。俺の最後で最大のチャンスなんだ」


 頭の上で両手を合わせて拝み倒した。


「うるさいなあ。勝手に座ったら?」


 了解を得たものと判断して勝手に座り、鞄からレポート用紙とボールペンを取り出す。



 通る人の性別や職業を観察しながら、通行量を記入していく。我ながらアナログな方法だと思うが、このやり方が性に合ってる。

 

 人通りは、まばらだった。客足が減る二八(二月と八月)だからだろうか?

 

 注文を取りに来たマスターに訊くと、駅の向こう側にショッピングセンターができてから、いつもこんな調子だと言う。



 最悪だった。

 人の流れが変わってしまったのだ。

 

 

 ここの振興策を考えるのは、簡単ではないようだ。


 気を引き締めて観察を始めた。





 少年も同じことをしていた。


 目は商店街を見据えている。昼食だって観察しながらだ。凛とした気配で、単に学校をさぼって遊んでいるとは思えなかった。


 やはり、ジュニアの課題に取り組んでいるのだ。



 一時頃、少年のスマホに着信音が鳴った。メールを読んだ少年が面白くなさそうに息を吐く。手早く画面をタップして返信する。

 

 二時頃、こんなうらぶれた商店街に不似合いな、いかにも、私は執事です、と言わんばかりの初老の紳士が喫茶店に現れた。


 紳士は、真っ直ぐ少年に近寄って囁いた。


「お迎えにあがりました」

「お前が直々に迎えに来たと言うことは……」

「若旦那さまは、お約束の時間にお戻りになられないことにお怒りです」


 少年は天を仰いだ。


「また、叱られる」

「私からも謝って差し上げます。ですから、お急ぎ下さい」

「でも、まだ、二時なんだ。最低七時まで観察したい……あの人、今日は、遅くなるって話だったんじゃない?」

「急にキャンセルになったようで、先ほどお帰りになられました」

 


 頭をかきむしった少年は、俺を向いて目をきらめかせた。


「何時まで観察するの?」

「一応、九時まで」


 急に話題を振られて、どぎまぎした。五時間近く同席したのに、少年の方から声をかけてきたのは初めてだ。


 結構、可愛い声だ。




「悪いけど、あなたのデータ、売ってくれない?」


 言ってる意味が分からない。

 何を売ってくれって?


「さっきから見てた。

 あなたもボクと同じことをしているようだ。だから、そのデータ、そのままコピーとって、ここのマスターに預けて欲しい。二万払う」

「二万って?どういう意味だ?

 データをマスターに渡すとどうなるんだ?」


「後日、私がコピーを受け取りに参上いたします。あなたさまがコピーと引き替えにお金を受け取っていただけるよう、ただ今、マスターにお金をお預けします。それで如何でしょう?」


 執事が慣れた様子で交渉する。

 



 二万。それだけあれば、十日、いや、二週間分の食費になるだろう。悪くない提案だった。


 


 そんなにデータが欲しいのだろうか?


 そんな金持ちなら、二条ジュニアの課題をこなさなくても、よさそうなものなのに。



「では、交渉成立ということで、お後を、よろしくお願い申しあげます。……さま、お急ぎ下さい」

 


 紳士がマスターに諭吉を渡し、少年を連れて出て行った。





不思議な少年と遭遇した惟光氏は、二万の金に目がくらんでデータを売ることになります。これが、吉と出るか凶と出るか……。

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