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第二十四話 祝いの品

 カセリア氏は、薄茶色の紙に包まれた大きく平べったい荷物を抱えて、アグア氏の屋敷を訪れた。たいていは、裏口から入るという、傍から見れば奇異な振舞が多かったが、今回はきっちりと正面玄関からの訪問であった。


「これは、カセリア様」

 常にキッチリと身なりを整えている、いつもの執事が出迎えた。

「ようこそ、いらっしゃいました」

「どうも、こんにちは。アグアはいるのかい?」

「ええ、ご在宅ですよ。それにしても珍しいですね。きちんと正面玄関からお入りになられるとは」

「私だって、まったくの非常識人ではないからな。さすがに、新婚夫妻の暮らす屋敷に、場違いな訪問の仕方は遠慮しとこうというまでだ」

「そうでしたか」

 執事は表情を緩めて、玄関ホールへカセリア氏を迎え入れた。

「なにやら、大きな荷物をお持ちですね。わたくしが、お運びしましょうか?」

「いいや、大丈夫だ。アグアへの結婚祝いの品だよ。私が直接に渡す方がいいだろう」

 それを聞いた執事は笑みをこぼした。

「カセリア様も、なかなか粋な計らいをなさいますね」

「なあに、たいしことじゃない」

 それから二人は、屋敷の中を進んだ。

「それにしても、こちらは絵画かなにかでしょうか?」

「ご名答。花の絵だよ」

「なるほど、なかなかカセリア様もロマンチストでございますね」

「いや、大したことはない。ほかにいいものが思いつかなかっただけだ。それに画家の友人に頼んだもので私が描いたわけでもないのだがね」

「ははあ、そうでございますか。ですが、大事なのは気持ちでございます」

 そうしているうちに、目的の部屋に到着し、執事は部屋の中へ声をかけてドアを開けた。

「お客様がいらっしゃいました」

 部屋では、アグア氏とその妻アリア氏が、お茶を飲み交わしながら談笑していた。

「なんだい、カセリア君だったの?」

 アグア氏が答えると、カセリア氏は部屋の中へ進んだ。

「どうも、お邪魔しております」

「もしかして、この方が、あのプリパガール・カセリアですの?!」アリア氏は少し驚いたようすだった。

「そうです」

 カセリア氏は名前がプロパガアルだと訂正しようとしたが、タイミングを失ってしまった。

「私は、少し思い込みが過ぎましたわ。もう少しばかり年配の長身でダンディな、素敵なおじ様という感じを、イメージしていましたのに、がっかりですわ」

「まあまあ、そんなことまで言わなくても……」

 アグア氏はとりなすように言った。

 聞いていたカセリア氏は思わず笑いだした。「なるほどね。率直な物言いの女性というわけだな。こちらとしては、アグア氏から聞いた想像通りだよ」

「あら、あなたもなかなかの物言いですわね」

「いやいや、これは褒め言葉と思ってもらって結構だ」

 カセリア氏はそれから、持ってきた荷物を下ろした。

「それで、これだよ」そう言って包みを解いていった。

 中に入っていたのは、額に収められた絵だった。そこには、白と黄色の花が、淡い色彩とタッチで描かれていた。

「あら、素敵な絵ですこと。カセリアさん、絵もお描きになるのかしら?」

「いやいや、画家の友人に頼んだまでのことだ」

「それにしても、なんだって、わざわざ絵なんて持ってきたんだい?」

「もちろん、友人の結婚祝いに決まっているじゃなか。流石に、何も無いなんていうのは、気が引ける。まあ、私のプレゼントのセンスは、このくらいが限界だが……」

「ふーん。まあ充分じゃない」アグア氏は吟味するように絵を眺めた。「ちょっと、サイズが小さい気もするけど。寝室にでも飾ろうかな?」

「寝室は嫌よ」アリア氏がすかさず答えた。「見るたびに、カセリアさんのこと思い出すことになるわ、きっと。せめて食堂にしましょう」

 それを聞いたカセリア氏は苦笑した。

「まあ、好きなようにしてくれ」

「それで、なんの花なの、これ?」

「たしか、カスミソウと黄色のパンジーだ」

「へぇ、それは何か意味があるの?」

「花言葉ですわね」アリア氏は絵を見ながら言った。

「その通りだ」

「カスミソウは〈無垢の愛〉あるいは〈幸運〉ですわ。それから、黄色のパンジーは……たしか〈慎ましい幸せ〉でしたかしら?」

「博学ですな」カセリア氏は感心したように答えた。

「それにしても、意外とロマンチストだね、カセリア君も」

「そんなことはないさ。急場しのぎの知識だ」

「とにかく、持つべきものは友人だね」

「そう言うことだろうな。だが私は、そろそろ帰ることにしよう。二人の楽しい時間を、これ以上邪魔するはよくないだろう」

 するとアグア氏とアリア氏は同時に

「まあ、でもお茶くらい飲んでいったら?」

「謙遜というものは心得てらっしゃいますね」

 と言って、お互いに相違した言葉に顔を見合わせた。

 カセリア氏はその様子に苦笑した。

「まあまあ。遠慮して、次の機会にするとするさ」

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