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隻翼のドラグーン -あの竜空へもう一度-  作者: 葵大和
第三章 動乱の予兆
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35話 「人と竜と、時代の変わり目」

「お前の気持ちもわかる。しかし同時に、私にも譲れないものがある。勝つにしろ負けるにしろ、ここを通らなければドラセリアに未来はない」


 ヨルンガルドの魔の手が、フレデリクの脳裏にはっきりと映っていた。


「お前も知っている――というか、お前の方が知っているだろうが、ドラセリアは民衆が思っているよりずっと危うい位置に立っている」


 フレデリクは自分個人が竜乗りとしてすぐれているとは思っていない。

 少なくとも父アルフレアのようにはなれないと知っていた。


 ――私に国を率いるまでの武力はない。


「ヨルンガルドが今再び攻勢を取ってくれば、ドラセリアは陥落するかもしれん」

「やってみないとわからないだろ」

「そうかもな。――だが」


 あらゆる点でドラセリアは停滞している。

 敗戦がきっかけでそうなったとも取れるが、元はといえばドラセリアがそのはじまりから竜と共に生きてきたことが要因だろう。


「私たちは竜に頼りすぎたのだ」


 竜とは、一個隊で人の軍隊に匹敵する力を秘めている。

 今の竜は昔に比べてやや小型で、その昔天上でし烈な戦いを繰り広げたという白竜や黒竜と比べると力こそ弱いかもしれないが、戦術単位としては燃費や小回りの点からもなかなか捨てたものではない。

 むしろ人と共に行くにしては、最適化がなされたとも言える。

 ――しかし。


「人も竜も、二体同体で空を翔けることに慣れてしまった。人は竜に頼り、竜もまた人のレベルに合わせて空を飛ぶようになった。だが、人のみの力としては、竜に頼ってここまでやってきたドラセリア人と、常に人のみで他国と争ってきたヨルンガルドは、比べるまでもない」


 フレデリクは歴史を冷静に俯瞰する。

 それゆえに自分を含むドラセリア人をさえ暗に『劣る』と言ってのける。


「仮に、もし今野生の竜が襲ってきたら、おそらくドラセリアの新竜だけでは対抗はできないし、人が手を貸したとてそれは同じだろう」


 『ドラグーン』という戦闘形態に特化しすぎた。

 

「いまやヨルンガルドは人のみの力で天空の竜を落とさんばかり。精巧にして強大な魔術しかり、それを魔術士以外にも発動可能にする術機しかり。いにしえからなにかを奪う戦いをなりわいにしてきた連中には、もうただのドラグーンでは対抗できないところまで来ている」


 だからフレデリクはこのドラゴンレースを優勝したのち、自分が竜騎兵団の長になったあかつきには、大規模な軍制改革を行うつもりでいた。


「私が勝てばそれを行う。もし負けたら『レイデュラント家がついに負けた』という民衆の心を利用して同じく意識の転換を図る。もしかしたらもうドラグーンの時代は終わったのかもしれないと、民衆に気づかせるのだ」

「兄貴が負けたからってドラグーンの時代が終わったなんて思わないかもしれないだろう」

「いいや、思う。少なくとも誰かを気づかせるきっかけにはなる。レイデュラント家が常に最強のドラグーンであったからこそ――」


 すでにさきの戦でそのきっかけが生まれている。

 父アルフレアの戦死。

 あれはドラセリア人に衝撃をもたらした。

 歴代のドラグーンの中でも優れていると言われたアルフレアが、戦場で凶刃に臥したのだ。

 民衆は思ったかもしれない。

 たまたま運が悪かった。――同時に、もしかしたら、と。


「あと一歩。きっかけがあればドラセリアは良くも悪くも新たな時代の到来を知る。混乱も起きるだろう。それでもまだ、倒れるわけにはいかない」


 フレデリクはドラセリアが好きだ。

 ミアハほどではないにしろ竜のことも好いている。

 自分の祖先たちが竜同士の戦いに敗れ、助けを求めてきた竜の手を取ったことを――今でも誇りに思っている。


「私にできることなどあまり多くはない。私は、お前やミアハ、それにルナフレアと違って特に才気に恵まれたわけではないからな」


 フレデリクは珍しく自嘲するように笑った。

 無論フレデリクとて弟たちが才能だけで能力を得たわけではないことを知っている。

 それでもやはり、人は平等ではない。

 そのことにいまさら文句をつけようなどとは思わないが、冷静に、客観的に見て、やはり才気というのは存在するし、その才気は正しく生かすべきだとも思っていた。


「お前を苦しめてしまう私を許してくれ、ラディカ。お前に譲れないものがあるように、やはり私にも譲れないものがあるのだ」


 役割、という言葉がフレデリクの脳裏をよぎった。

 それに命を賭してしまえる自分をどこかでバカな男だともう一人の自分が笑っている。

 それでもフレデリクは自分の決断のもと、その命をレイデュラント公爵という名前にかける決意を持っていた。

 

「あの日のことを今でも思い出す」


 ラディカと同じ。


「私は無力だった。だが今、ようやくここまで来た。私がレイデュラント公爵として使命をまっとうすることが、ひいてはお前たちを守ることに繋がると私は信じている」


 フレデリクの青い瞳の中にも、苛烈な意志の光があった。

 


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『やあ、葵です。』
(個人ブログ)
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