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錆びた金貨と、蒼く輝く剣  作者: なおゆき
幻想の冒険者たち
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傭兵冒険者①

 赤い液体が入った小瓶を太陽に透かして見る。


 とくに変わった様子がない、何の変哲もないただの小瓶である。

「これを届けるだけで解呪薬を作ってもらえるなんて、カーミラさんって優しい人なんだね」


 工房からの帰り道、サニアと横並びになってフレンは楽しげに歩みを進める。

「それにお守りだって短剣までもらっちゃったし」

 小瓶をバッグにしまうと、代わりにお守りにと手渡された短剣を取り出す。小瓶の液体の色に似た、真紅の短剣だった。

「この前の戦いで僕の短剣がなくなっちゃったし、しばらくはこれを使わせてもらおうかな」


 そう言いながら、何もない空中に向かって素振りをする。特別優れている点はなさそうだが、軽くて扱いやすい剣だ。正直、装備品を買い換えるほどの余裕がないフレンにとって新しい武器をもらえたことは非常に幸運だった。


「フレン様、あまり楽観しすぎませんように」

「?」

 全てが順調だと気分を良くしているフレンとは対照的にサニアの表情はどこか曇っている。


「どうしたのサニアさん?」

「あの創製者クリエイターはどうにも信用できませんわ。この“おつかい”にも何か隠していることがありそうです」

「そうかなぁ。物騒だからって短剣をくれるような人、悪人じゃないと思うけどなぁ。それにモラだってとってもいい子だったし、あんないい子に慕われてるんだから、カーミラさんもいい人だよ」

 うんうん、と一人納得して軽やかに歩みを進めていく。


「ハァ……フレン様の純粋さは美徳でもありますが、ときに恐ろしいほどの欠点でもありますわ……」

「ん? なぁにサニアさん?」

「なんでもありませんわ。ひとまず明日の旅に向けて準備をしなくてはなりませんわね」

「そうだね。馬車も手配しなくちゃいけないし、街に寄ってから帰ろうか」


 サニアがぼやいた小言に気づかなかったのか、フレンはますます楽しそうにしている。そんな姿を見てサニアは、より一層身を引き締めていた。



 工房の森から城下町に帰ってきた二人が市場で旅に必要な食料などの消耗品を購入し、馬車小屋で幌付きの馬車の手配を済ませた頃には、だんだんと陽が暮れ始めていた。


「ふぅ、これで準備完了だね」

「ええ、東の村に行く程度でしたら、このくらいで十分ですわ」


 薬や包帯といった救急道具や半日分の食料を詰めたバックの重さを感じつつ、二人は城下町のシンボルとも言える噴水広場へとやってきた。

 広場は大きな噴水と時計台があり、その時計台の根本にはフレンもよくお世話になっている冒険者管理局がある。そのため、この広場は冒険広場と呼ばれるほどに冒険者たちのたまり場になっていた。


「この時間ですと、冒険者の方々がたくさんいらっしゃいますね」

 時間が遅くなるにつれ、幻想の塔から帰ってくる冒険者の数は多くなってくる。噴水広場はそんな冒険者たちで賑わいを見せ始めていた。


「いやぁ、あのときは危なかったな。回復が間に合ってなかったら全滅だったかもしれん」

「収穫ほとんどなし……どうすんだよ、こんなんじゃ俺たち破産だぜ?」

「見て見て! 私の功績値! これならランキング上がるかも!」


 ざわざわと騒がしいほどに冒険者たちの話し声が聞こえてくる。

 今日、冒険者になってから初めて塔を探索できなかったフレンは彼らの姿を羨望の眼差して見てしまう。


「いいな……僕もあんな冒険がしたい……」


 ある者は報酬の額に狂喜し、ある者は仲間と言い争い、ある者は無事帰還した自分を労う。そんな冒険者然とした彼らにフレンは憧れを抱いていた。


「フレン様、今日はもう遅いですわ。そろそろお屋敷に帰りましょう」

「うん」

 いつか自分も仲間を作って塔の頂上を目指してやる。そう想いを胸に秘めながら、フレンはサニアの後を追った。


 とそのとき


「はいどうもー」

「うわぁっ!? な、なにいきなり!」

 眼前に一人の女性が急に割り込んで来た。


「おっとっと。驚かせてすみません。私は冒険者をやってるアリシアっていいます!」

「はあ」


 アリシアと名乗った女性の格好はどうにも冒険者には見えなかった。

 冒険者といえばモンスターの攻撃を防ぐために鎧を着ていたり、動きやすいような軽装をしていたり、よくある格好というものがあるのだが、彼女といえば修道女のような裾の長いローブを着ており、それでいて装飾が付いていたり、若干の露出があったり、なんだか可愛らしい服装をしていた。


「ありゃ、その目はもしかして信じてませんか?」

 アリシアがずいと顔を近づけてくる。鼻先が当たりそうになるくらい近く、非常に気恥ずかしい。


「何をしていらっしゃるのでしょうか?」

「うぐっ」


 急にアリシアの顔が遠ざかったと思ったら、その背後にはいつも以上に冷淡な顔をしたサニアが立っていた。

 アリシアの首根っこを掴んで引き寄せている。


「うわっ、美人メイド!? もしかして貴方って偉い人でしたか?」

 首を掴まれていることな気にしていないのか、そのままの状態でフレンを指差す。

「偉くはないけど、サニアさんは一応僕の付き人ってことで」

「それでフレン様。この方は一体どちらさまでございますか?」

「あ、申し遅れました。私は冒険者のアリシアと言いまして……」

「……いいから、離してあげようよサニアさん」

 首根っこを掴んだ状態で会話をしようとする二人をフレンは流石に見過ごせなかった。


「これは失礼しました」

 鋭い眼光そのままにサニアは掴んでいた手を素直に離す。

「それで、アリシアさん。僕に何か用ですか?」

「失礼ながら貴方、何か困っていませんか?」

「え?」

「いえね、先程から見ていたんですが、何やら神妙な面持ちで歩いていらっしゃるものですから、何か困りごとかと思いまして」

「いや別にそういうわけじゃ……」

 確かに気落ちしたまま歩いていたかもしれないが、特に困っていることはない。

「見たところ貴方も冒険者ですよね?」

「はい、僕は冒険者のフレンって言います。こちらはサニアさん」

 紹介されたサニアはスカートの裾を持ち上げて慇懃に頭を下げる。

「メイドさんを連れている冒険者なんて見たことないですよ。フレンさんって何者なんですか?」

「ただの駆け出し冒険者ですよ。サニアさんはウチの家で雇っているだけです」


 何もフレン自身が雇っているわけではない。家長のマール、もっと言えば父親が雇ったわけで、それからずっとブラーシュ家で働いてもらっているのだ。


「ほほう、駆け出し。それなら駆け出しのフレンさんに一つご提案が!」

 人差し指を立てたアリシアは満面の笑みを浮かべて続けた。


「私とパーティを組みませんか?」

「はぁ!?」


 出会って数分。唐突に出された有り得ない提案にフレンは素っ頓狂な声を上げた。

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