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錆びた金貨と、蒼く輝く剣  作者: なおゆき
幻想の冒険者たち
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風の追い剥ぎ団③

アリシアは明らかにこの二人が訳ありで、普通の冒険者ではないと感づいていた。何より気になるのは安全地帯セーフティポイントで休憩をしている二人の様子だ。

普通の冒険者なら、安全地帯セーフティポイントを中間地点と捉える。パーティの様子を鑑みて、この先に進むのか、それとも大事をとって引き返すのか。傷ついた仲間がいればゆっくりと治療をしたり、装備に不安があれば修理をしたり、冒険に備えるのが当たり前のことだ。


だが、この二人は明らかに暇を持て余していた。

テントを張ることも、焚き火を熾すことも、食事をすることも、それぞれは不自然な行動ではないが、すべてが揃った状態でしかも当人たちが寝転がって無駄な雑談をしているのだ。


この二人がここを拠点として長時間居座り、そして何かを待っていることは明白だった。


そして極めつけに自分たちを呼び止める男。これはもう確定ではないか。

アリシアは自分の考えに確信を持って、不敵な笑いを押し殺すのであった。



フレンは二人が兄妹の冒険者であることに感動を覚えており、そして何か訳ありなのだろうと考えていた。

気になったのはミリアと呼ばれる女の子の格好だ。シャルと同じような軽装で、とても動きやすそうな装備をしていて、武器は短剣。

多くの冒険者を広場で見学していたフレンには、彼女の装備が貧弱なものであることが一目瞭然だった。

下手をすれば自分と同等かそれ以下。つまり幻想の塔の3階に到達するにはイマイチ実力が足らないように見える。


一方の兄ちゃんと呼ばれる男は、熟練の冒険者のそれだ。

武器こそマントに隠れて見えないが、その他の装備は中堅の冒険者と比べても遜色はない。そしてシャルに対して驚いていない様子は、きっとはじめから自分たちが安全地帯セーフティポイントに入り込んだことに気づいていたのだろう。

それほどの余裕を見せていたのだ。


そこから考えられるのは、きっと兄の方が先に冒険者として活動をしていて、妹はそれを追いかける形で冒険者になったのだろう。冒険者は危険な仕事だ。わざわざ妹を後追いで冒険者にしたがる兄などいないだろう。

きっと何か訳があって兄妹で冒険者なんてものをやっているのだろう。


そう考えたら、姉のマールやサニアの気持ちが少しわかった気がして、嬉しいような申し訳ないような、なんとも中途半端な顔をしてしまうのだった。


シャルは二人がなんて良い人なのだろうと嬉しく思った。

つい兄妹水入らずのところに割って入ってしまい、アリシアにも怒られ、フレンにも呆れられてしまう事態になってしまったというのに、怒って追い出すどころかお茶に誘ってくれるなんて。


シャルが生まれ育ったヴィルフィス一家ではいろいろな人々を見た。

食べ物を買うお金がなくて必死なもの、ギャンブルをしたいだけの欲深いもの、男に貢ぐために大金が必要なもの。

それぞれがそれぞれの理由を持っていて、すべての人間にとって平等の価値を持つお金に頼ってくる。


父親はその人々を食い物にしていた。

それがとても悪いこととは思っていない。この国の法に則って行っている事業だ。そのおかげで自分も大きく育つことができた。

一家のみんなも自分に良くしてくれた。あの父親の娘なのだから、丁寧に接するのは当たり前のことだろう。みんなの心には少なからず恐怖の感情があったことだと思う。


それでも良かった。表面上でも家族のように接してくれるだけでも自分は幸せ者だと思っている。


しかし、ふとしたときに思ってしまう。自分に兄弟がいれば、自分の母親が生きていれば、と。


ここで出会った兄妹の冒険者はとても仲が良さそうで、そして人が良いと来た。

ぜひとも仲良くなりたい。このお茶のお誘いを断る理由なんてどこにもない。


シャルは頬を少し紅潮させ、子犬のような人懐っこい笑顔を浮かべるのであった。

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