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錆びた金貨と、蒼く輝く剣  作者: なおゆき
幻想の冒険者たち
33/61

風の追い剥ぎ団②

アリシアが安全地帯セーフティポイントに足を踏み入れる。


他の冒険者パーティのすべてが盗賊というわけでは勿論ないが、警戒することに越したことはない。

その右手には、首から外したロザリオがすでに握られており、腰に差したメイスもすぐに取り出せるよう意識を高めていた。


「って、あれ?」


だが、そんな警戒心は目の前の光景によってまたたく間に霧散した。


「あーあ、鴨がネギと鍋と調味料背負ってくるような、楽でリッチな獲物こないかなぁ」

「ふふん、果報は寝て待てと言うだろう。何事も慌てず騒がず大きな心でもってどっしりと構えていれば、多分良いことあるよきっと」

「なんで最後適当なのさ!」


そこはのどかなキャンプ風景であった。

少し大きめのテントが張ってあり、その近くに焚き火をしながら仰向けで横になっている、テンガロンハットを被って大きめのマントに身を包んだ髭面の男と、黒い髪をポニーテールに縛った小柄な少女の二人が雑談をしている光景。何やら魚かなにかを焼いて食べた形跡まである。


「ちょ、ちょっとアリシアぁ〜。どんどん先に行かないでよ。盗賊が出たらどうするの!」

「先生! ご無事ですかぁ!?」


ようやく追いついたフレンとシャルは息を切らしながらアリシアの横に並ぶ。


「あーと、問題ないわ。大丈夫。今日も低階層は平和平和」

「え?」


投げやりなアリシアの言葉を聞いて、フレンとシャルは同時に前方をみやり、あのキャンプ風景を目にする。


「でもさ兄ちゃん、その果報は寝て待てってさ、都合のいい言葉だよねー。だってさ、待つ時間が明確じゃないもん。明日かも知れないし、10年後かもしれない。それに、何かしら良いことがあったらそれが果報になっちゃうわけでしょ? そりゃそのうち良いことのひとつやふたつ出てくるよ。お金拾ったとか、売店のおっちゃんがおまけしてくれた、とか。それをありがたがって、やっぱり待ってれば良いことがあるんだって思ってるのはどうなんだろ」

「いきなり饒舌だねミリアちゃん……この言葉は東の国から伝わったものだからな、兄ちゃんも深い意味は知らない。ちょっと使ってみたかっただけだ。ごめん」

「あ、その言葉ってちょっと意味が違ってて、精一杯頑張ったあとは運を天に任せるしかないんだから焦っても仕方ない、とかそんな意味みたいですよ?」

「え?」

「は? シャル?」


いつの間にか、シャルは焚き火の横に寝転がる男女に近づいて親しげに話しかけているではないか。突然知らない人に話しかけられた二人は驚きで目を丸くしていたが、それはフレンとアリシアも一緒だった。


「うわぁっ!? 一体いつから!? てか、なんかいっぱいいる!?」


しばらくの間があったものの、ミリアは一気に飛び起きると腰のナイフに手をかけて身構えた。しかし、相手は話しかけてきた少女だけでなく、他にも二人もいたのだから驚きを隠しきれない。


「あぁ、驚かせちゃってごめんなさい。邪魔するつもりはなかったのですが、うちの親父が東の国の“ことわざ”にハマっててよく聞かされてたもので」

「そりゃあご親切にどうも。こちらには冒険に?」

「観光客をもてなす地元民みたいになってるよ兄ちゃん!」


一方の兄ちゃんと呼ばれている青年は、もう驚いた様子もなく、そして起きる様子もなく、寝転がったまま笑顔で応対している。


「す、すいません、うちの子が。よく言って聞かせますから」

「ほら、シャル。この人たち、休憩していたところなんだから、邪魔しちゃ悪いよ」


すると少し離れたところにいたフレンとアリシアも駆け寄ってきた。アリシアは営業的なスマイルを浮かべながらシャルの頭を鷲掴んで強制的に下げさせている。


「あばばば、ごめんなさい! ごめんなさい先生!」

「あ、えっと、まあ、気にしないでください。ちょっと驚いただけなので……」

「これはこれは、美しいお嬢さんが3人も。やはり寝て待っていると良いことが起きるものだ」

「だから、それは――」

「おい、もう黙ってろ」


口を開こうものなら、頭蓋骨がミシミシと嫌な音がするので、シャルは声を発することをやめた。


「すいません、お邪魔しました。さ、ふたりとも行こう」


こういうときには一番常識的な面を見せるフレンが二人に頭を下げると、半泣き状態のシャルの手を引いて歩き出す。アリシアもそれに続いてペコリとお辞儀をするとフレンの後を追った。


「!」


三人とすれ違う一瞬、ミリアはそれを見逃さなかった。

半泣きの少女には到底似つかわしくない、無骨なデザインをしたソレを。


「兄ちゃん……!」

「わかってる、兄ちゃんに任せておけ」


焦った様子のミリアに対して、兄ちゃんは余裕の表情でウィンクを飛ばすと、ゆっくりと身体を起こした。


「いやいや、お嬢さん方。そんなに焦らずとも良いではないですか。ここで会ったのも何かの縁。一緒に休んでいきませんか? 大したおもてなしはできませんが、お茶くらいは出しますよ」


屈託のない笑みと朗らかな声色。

敵対心など微塵もみせない兄ちゃんの言葉に振り向いた三人は、三者三様の表情を浮かべるのだった。

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