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錆びた金貨と、蒼く輝く剣  作者: なおゆき
幻想の冒険者たち
32/61

風の追い剥ぎ団①

2020.3.2

時系列を明記しておりませんでしたので、申し訳ありませんが追記しました。

フレンとシャルがギルドに所属してから1日経過した後に巨大獣討伐のために塔を昇っています。

現時点よりも前に読んで頂いた方、混乱を招いてしまい申し訳ありませんでした。

他人の物を奪うのが悪いことだって?


そりゃそうだ。誰だって自分の物は大切だし、意味もなく誰かに渡したくないものさ。

だけど他人の物が欲しくなる気持ちもわかるだろう?


お腹が空いているときに、美味しそうにパンを頬張るヤツがいたら、恨めしく羨ましく思って、腹の音が鳴っているってのに、なんで俺の手にはパンが握られていないんだろうと嘆くだろう。


自分はもう何年も前から同じ服ばっかり着ていて、ところどころは擦り切れて穴が空いてるってのに、街中でキレイで今流行りの服を着ている同年代のヤツがいたら、悲しくって悔しくって、なんで私の服はこんなにかっこ悪いんだろうって泣きたくなるだろう。


そこで簡単にパンを買えるヤツぁパンを買えばいいさ。服屋に行ってお気に入りの服を片っ端から手に入れられるヤツぁ手に入れればいいさ。誰も傷つかない。まるっとハッピーエンドだよ。


だけどパンを買う金。銅貨数枚のはした金すら持たないヤツらはどうやってパンを食えばいい?

服屋に入ろうもんなら臭いだの汚いだの言われて門前払いされたヤツらはどうやって服を買えばいい?


なんの不自由もなくキレイな服を着て、嬉しそうにパンを食ってるヤツらから奪い取るしかねえだろうさ。


俺たちはそうやって生きてきたんだ。


ーーにいちゃん、あたし大きくなったら毎日ケーキ食べるんだ!

ーーそうか! よし、それじゃあ兄ちゃんがお金をいっぱい稼いできてやるからな!

ーーうん!



「ふがっ!」


幻想の塔3階のとある安全地帯(セーフティポイント)では二人の冒険者パーティがテントを張っていた。

テントの入り口には焚き火があり、その前に寝転がっていた男が自分のいびきで意識を取り戻していた。


「おっと、俺としたことが、いかんいかん」


男は自分がいつの間にか寝てしまったことに気づき、頭を振ってなんとか目を覚まそうとする。

緊張感なく寝てしまうだなんて、もし隣の者に知られてしまったら、そしりを受けるのは免れないだろう。


「ちょっと、兄ちゃん! 今寝てたでしょ!」


だが、その心配は全くの無意味。隣に座っている女の子が気づかないわけもなく、烈火のごとく怒っていた。


「い、いやいや、この俺が寝落ちなんてするわけないだろ? ミリアも面白いことを言うようになったな! はっはっは!」

「ちょっと! しっかりしてよね! ここんところ、ろくな獲物にありつけてないんだから!」

「ふふん、なぁに心配するなミリア。泣く子も黙る“風の追い剥ぎ団”の団長である俺様が、今日とんでもない獲物をゲットする夢を見たのだからな!」

「……兄ちゃん、もう来年で二十歳だろ? もう少ししっかりしてくれないと困るよ」

「その、急にマジな顔になるのやめて、ミリア。母ちゃんと同じ顔すんのマジやめて」

「そりゃ母ちゃんも天国で心配してるよ……せっかく教会の人たちがまともな仕事を持ってきてくれたってのに、話も聞かずに飛び出すんだから」

「そ、そんなこと言って! ミリアも兄ちゃんと離れるのが寂しくなって付いてきたんだろ!?」

「バッ! んなわけあるかいッ! 生活力皆無の兄ちゃんじゃ2日で餓死すると思って、仕方なく一緒にいてやってるんだよ! 冒険者になるって偉そうなこと言って孤児院を出たってのに、ソッコーで身ぐるみ剥がされてんだから世話ないよ!」

「あれは運命だったのだよ我が妹よ。神が俺様の才能に嫉妬して試練を与えただけのこと……!」

「それがきっかけで盗賊ギルドを設立するとはね……はぁ、とにかく! 今日を逃したら酒場の裏で残飯あさりだからね!」

「そりゃ困る。この“風の追い剥ぎ団”特製マントが汚れてしまうじゃないか」

「……そのギルド名やめない? 団員が兄ちゃんと私の二人しかいないから……」

「い、いいんだ! 今からいっぱい増えるの!」

「だといいけど……」



フレンとシャルがギルドに所属した翌日、巨大獣(ヒュージモンスター)の討伐を目論むフレン一行は幻想の塔3階へと足を運んでいた。前回練習がてら昇っていたおかげで、今回はフレンも落ち着いた足取りで3階に難なく到達することができた。


「シャルの武器いいなぁ。なんか特別って感じがする」


3階の通路で、フレンは隣を歩くシャルが身につけている漆黒の鉄腕を見て、物欲しそうな顔をした。


「何言ってるんですか! フレンさんだって大きな剣をお持ちじゃないですか!」

「そうなんだけど……」


確かに、ランダムダイスからの祝いの品であるバスタードソードを背中に装備しているフレンは初めての重装備に心躍らせているのだが、シャルの装備品は見るからに希少価値が高そうで、うまくは言えないが何やら“スゴそう”なのである。


「まぁ、フレンくんの気持ちもわからないでもないけど」


そこに見かねたアリシアが口を挟む。


「バスタードソードは言ってしまえばどこにでも手に入る一般的な武器だからね。ソルジャーの標準装備と言ってもいいくらい。一方のシャドウナックルは幻想の塔で手に入れたレア装備。同じものは二つとない特別品」


借り物だけど。と一言付け加えるアリシアだったが、フレンの耳には届いていない。


「だよね! やっぱそれレア装備だよね! 街中でも酒場でも噴水広場でもこんな装備してる冒険者見たことなかったから」

「あんた、どんだけ冒険者観察してんのよ……」


冒険者に昔から憧れがあるフレンは、街中で先輩冒険者の出で立ちや装備品を眺めるのが好きだったのだ。どんな装備が一般的で、どんな装備が希少なのか、装備の名前や実際の希少価値などはわからないが、なんとなく目利きができるようになっていた。


「いいなぁ、僕も誰も持ってないようなレア装備を発見したいよ」

「そう思うなら少しでも上の階層に挑戦しなさいよ」


はあ、とため息交じりにアリシアは手を頭にやって首を振る。

冒険者への憧れだけがどんどん大きく膨らんで、自分のことはどうにも過小評価してしまうようだ。フレンが思い描く冒険者というヒーローへの期待と幻想の塔への恐怖心は比例しているのだろう。


だが、フレンと出会ってからこっち。アリシアはこと戦闘において、フレンのことを決して弱いと思っていない。むしろ高いポテンシャルを秘めていると感じている。


(あとは知識と自信ね。それこそ前者がないから後者が立たないのだろうけど)


知識があれば事前の準備もできるし、冷静に戦況を分析できる。彼我の戦力差を計れるようになれば、自ずと自信もついてくるだろう。


「二人とも、止まって……!」

「!?」


すると突然、険しい顔つきに表情を変えたフレンが二人の腕を掴んだ。


「え、どうしたんですか? フレンさん?」


何もない通路で急に腕を掴まれたシャルは困惑の声を上げる。


「しっ、近くから話し声が聞こえる……」

「話し声……ってことは人間よね。つまり他の冒険者パーティかしら。ってか、何も聞こえないんだけどアンタ適当なこと言ってないわよね?」


改めて聞き耳を立てて見たアリシアだが、フレンの言う話し声とやらは聞こえてこない。

だが、掴まれた腕が少し痛みを感じるほどには、フレンの真剣さが伝わってきた。


「他の冒険者との遭遇は良いこともあれば悪いこともある。最近は冒険者をターゲットにした盗賊の被害が相次いでいるって聞くわ」

「ひえぇ、盗賊ですか? 冒険者さんから盗みを働くなんて、度胸のある方々ですね」

「ここはまだ最下層に近いからね。初心者に毛が生えた程度の自称中級冒険者が浮足立っているところを狙われるらしいわ」


実際、冒険者管理局でも問題視されているのが、幻想の塔に出没する盗賊だ。

盗賊自体は立派なクラスのひとつではあるのだが、それをモンスターを相手取るためではなく、人間相手にスキルを使えば、それはただの略奪者に成り下がる。

幾度となく盗賊討伐の冒険者パーティが作られ、対策を行っているのだが、初心者冒険者を相手にした盗賊行為はモンスターと戦うよりも余程安全に金を稼げるために盗賊は後を絶たないのであった。


「引き返したほうがいいかな……」


こちらは駆け出しも駆け出しの初心者冒険者が二人もいる。ここで熟練の盗賊冒険者に襲われでもしたらとてもじゃないが逃げ切ることはできない。

それなら見つかる前に避けて通るのが得策だろう。


「はっ、バカねぇ。冒険者相手に盗みを働くってのは、自分が大した冒険者じゃないって自ら露呈しているようなもんよ。初心者からお金巻き上げたって、大金になるわけがないわ」


だがフレンの言葉にアリシアは即座に反論する。


「で、でも……!」

「でもじゃない! 盗賊なんて返り討ちにしてくれるわ! 行くわよ!!」

「あっ、待ってください! 先生!」

掴まれた腕を振り切るとアリシアは臨戦態勢の状態で鼻息荒くずんずんと前に進んで行ってしまった。それに続いてシャルも慌ててついていってしまう。


どうやらフレンの選択は間違いだったようだ。

アリシアの怒りのスイッチを押してしまったばかりか、火に油を注ぐ結果になってしまった。


「どうして女性の冒険者ってのはみんな血の気が多いんだろうなぁ……」


自分の姉から始まり、アリシアやシャル、ランダムダイスのリッカなど、出会った女性がみんな男前なものだからフレンはなんとも自分が情けなく感じつつも、それはもう仕方のないことだと諦めもつくような、複雑な感情をいだきながら、腹をくくって二人の背中を追いかけたのだった。


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