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錆びた金貨と、蒼く輝く剣  作者: なおゆき
幻想の冒険者たち
21/61

金貸し一家ヴィルフィス

 階段の上のフロアはだだっ広い応接間になっていた。さっき入り口にいた女性もその応接間におり、他の女性も数人、さらに柄の悪そうな男がこれまた数人、壁際に沿うように立っている。


「そこに座りな」


 促されたのは大きくてフカフカのソファだった。中央にはガラス製のテーブルがあり、その上には豪奢な灰皿が置いてある。


 フレンの向かいのソファにドカっと腰掛けると、親父は懐から紙巻き煙草を取り出し、口に咥える。すかさず女たちが駆け寄り、それぞれがマッチをすると、その中の一本が煙草に火をつけるのだった。


「それで、カーミラはなんて?」

「はい……カーミラさんは僕に借金を帳消しにするようにって依頼をされまして、とりあえずヴィルフィスさんに話を聞いてみようと……」

「ぷはぁ……そうかいそうかい」


 親父は煙草の煙を盛大に吹き出して、何度も頷いた。


「だが、そりゃできねえ相談ってヤツだな。アイツがウチに借金してる金額は金貨10枚だ。何かと世話になっちゃあいるが、全部を帳消しになんてできねえな」

「世話になってる……ですか?」

「んん? あの女から聞いちゃいねえのかい? アイツはもともと金貨10枚じゃおさまらねえほどの借金をしてるのさ。だが、アイツは凄腕の創製者クリエイターだ。借金を減らす代わりに、ウチの仕事を手伝ってもらってるのさ」

「そうだったんですか」


 下っ端であろう金髪の男があそこまで絡んでいるというのに、親父であるこの男がフレンに甘いはずがない。しかし、カーミラに利用価値があるとわかっていての、この対応なのだろうとフレンは少し、事の展開を理解し始めていた。


「あの、親父さんは……」


「ベイカー。ベイカー=ヴィルフィスだ。俺のことはベイカーと呼びな。ヴィルフィス一家の頭を張ってる」


「えっと、ベイカーさんとしては全部じゃなければ、借金を減らしてもいいって考えているのですか?」

 さっきの『全部を帳消しになんてできない』という科白をフレンは聞き逃さなかった。全部はできない……つまり、一部はできるということだろう。


「条件によっちゃ、半分まで減らしてもいいと考えている」

「条件……?」


 こうまで物騒な組織の長の出す条件だ。きっと一筋縄ではいかないはずだ。フレンは何をふっかけられるのだろうと身構えた。


「おう! シャル!」


 ベイカーは大きく両手を叩いて声を上げた。すると壁際に立っていた一人の女の子が一歩前に足を踏み出した。


「シャル、自己紹介しな」

「はい! 私の名前はシャル。ヴィルフィス一家の一人娘です!」


 シャルと呼ばれた女の子は満面の笑みを浮かべて答えた。とても金貸し屋の一人娘とは思えない爽やかな笑顔だ。歳の頃もフレンと同じくらいだろうか。少女と言っても良いほどである。金色の長い髪がふんわりと揺れて、とても高貴なものに思えた。


「よろしくお願いします! えーっと……」

「あっ、僕はフレン。フレン=ブラーシュです!」

「ブラーシュ? 坊主、あのブラーシュ家の関係者か?」


 フレンの名前を聞いたベイカーが驚いた顔をした。


「ブラーシュ家をご存知ですか?」

「お前の家は有名だぞ? なにせあのマール=ブラーシュが跡継ぎになった家だからな」

「マール様!? もしかして、マール様の弟さんですか!?」

 突然、シャルは大慌ててフレンにかけよるとその両手を掴んで、目をキラキラと輝かせた。


「あ、うん……マールは僕の姉様だけど」

「わあ、すごい! あのマール様の弟君! これは運命です親父!」

「親父と呼ぶな、パパと呼べバカヤロウ……なるほど、カーミラのヤツ、これを知ってて坊主に使いを頼みやがったのか……」

「?」


 何が何だかわからないフレンはシャルに両手を掴まれたまま困惑するしかなかった。


「私、マール様に憧れて冒険者になったんです!」

「ぼ、冒険者? 金貸し一家じゃないの?」

「ハァ……困ったことにな。コイツは金貸し業をするよりも、冒険者になりたいんだとよ」

 ベイカーは眉毛をハの字にして情けない声を出す。シャルが冒険者としての道を歩むことに反対なのだろう。


「フレンさんももしかして冒険者を……?」

「は、はい……僕も数ヶ月前から冒険者になったばかりの駆け出しで……」

「なんという! おや……パパ! 私決めました! フレンさんとパーティを組みます!」

「ほう、ならばそれしかないようだな。よし!」

「え、ちょっと! パーティ!? 何を言ってるんですか!?」


 パーティを組むというとんでもない科白にさすがのフレンもソファから立ち上がる。アリシア同様、人とパーティを組むってこんな突発的なものなのだろうか、と不安になる。


「まあまあ、話を聞け坊主」


 するとベイカーはフレンにゆっくりと近づき、耳元に顔を寄せた。


「……シャルはな冒険者に憧れているのだが、こやつはその……バカでな……」

「は、はぁ……」


 親父が小さい声でとんでもないことを口走る。当のシャルは聞こえているのか聞こえていないのか、ニッコリと笑って小動物のように小首をかしげているだけだ。その様子を見るだけで親父の言うことが信じられる気がした。


「冒険者とは腕っ節だけでは務まらんだろう。だが、ヴィルフィス一家は見ての通り粗野な連中しかおらん。見ろ、あの部下共の締りのない顔を。インテリジェンスの欠片もない」


 言われて見てみると、さっきの金髪の男があくびを噛み殺していた。なるほど、確かに知性さに欠ける顔であった。

 フレンが複雑な表情を浮かべると、ベイカーはスッとフレンから離れ、今度はみんなにも聞こえる声で口を開いた。


「すまんが、どうにかシャルの夢を叶えてやってくれ!」

「私からもお願いします! フレンさんと冒険すればやがてマール様みたいな格好いい冒険者になれるかも!」


 親父とシャルは見計らったかのように同時に頭を下げる。自分たちの組織のトップとその娘が頭を下げる姿に感動したのか、壁際に立っている構成員たちが拍手をしながら涙を拭っていた。


「……つまり、このシャルさんとパーティを組むことが、カーミラさんの借金を減額してくれる条件、ということですか」

「そういうことだが、それだけじゃない」

「?」


 頭を上げた親父はいたずらをした子どものような憎たらしい笑顔が浮かんでいた。

「娘を《《有名》》冒険者にしてくれたら、もう半分の借金もチャラにしてやろう! これでどうだ! はっはっはっ!」


 豪快に笑い声を上げるベイカーに釣られるように壁際に立っている構成員たちも笑い声を上げる。


「ゆ、有名冒険者って……」

「そうだな、ちゃちゃっとマール=ブラーシュくらい有名にしてくれ」

「む、無理ですよ! 弟の僕が言うのもなんですが姉様は規格違いすぎるんです!」


 今や冒険者ランキングの上位ランカー、お嬢様冒険者、閃光の戦姫などと色々な呼び名が飛び交っているほど注目度の高い存在、それがマールである。そんな姉のようになるなど、無茶にもほどがある。


「私、マール様のようになりたいんです……! そのためだったらどんなことでもします!」

 豪快に笑う親父の隣に座っているシャルは、どこまでも純粋な笑顔と眼差しでフレンを見つめている。


「ハァ……わかりました……とにかく頑張ってみます……えっと、よろしくお願いしますシャルさん」


 この場を収めるのは自分では無理だと判断したフレンは、早くアリシアと合流したいと願いながら、この場は素直に条件を飲むことにした。


「私のことはシャルって呼び捨てにしてくださいっ、フレンさん!」


 おずおずと差し出したフレンの手を、えへへと嬉しそうに両手で握ったシャルはこれでもかと握手した手を上下にぶんぶんと振り回した。

 凄まじい勢いに肩が外れそうになりながら、フレンは二人目のパーティメンバーを獲得したのだった。





 意気揚々と自分の娘が飛び出していく様を見やりながら、親父は煙草を灰皿に押し当てて、その火を消した。


「親父、良かったんで……? カーミラの借金を無しにするなんて」


 壁際に立っていた男の一人が口を開く。男は眼鏡をかけていて、見た目だけなら、とても真面目な好青年に見えたが、話し方や所作といった立ち居振る舞いは、カタギのそれではなかった。


「今までもなんだかんだで、ヤツの借金はほとんど返済できてないんですぜ?」

「カーミラは金のなる木だ。あの女を利用できれば金なんていくらでも湧いてでてくる。あの坊主をよこさなくても譲歩するつもりだったが、その坊主自身も利用価値がありそうと来たもんだ。こりゃみすみす見逃す手もあるまい」


「ブラーシュ家ですか」


「シャルがマール嬢に憧れてんのは本当だ。アイツは昔っから腕っ節の強い女が好きだからな。だが、あの坊主にも興味を示しているみてえじゃねえか……」


 そう言うと親父はくっくっく、と嬉しそうに笑う。


「親父、まさか……!?」

「おっと、人聞きの悪いことは言うなよ? 俺だって人の親だ。娘の相手くらい自由に選ばせてやるさ。ただ、親父と娘が同じ男に惚れ込む可能性はゼロじゃねえだろ? はっはっはっ!」


 やがて大きい口を開いて笑うと、それに釣られるように壁際の構成員たちも笑い声を上げる。眼鏡をかけた青年は一抹の不安を覚えたのだが、ここで一緒に笑っておかないと何をされるかわかったものではなかったため、取り繕うように笑い声を上げるのだった。


 

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