3話 半人間
「私はもう大人ですよ?」
「え?」
「だから、私は大人なんです」
「お前あれか? 不治の病にかかって外見が変わらなくなってしまった感じか?」
となると老けないということ……あの美青年ぶりを維持できるのは羨ましい。
「違いますよ。私、カラスなんです。半人間みたいな?」
「ごめんな? 俺カラス嫌いなんだわ。申し訳ない、マジで。じゃあな」
「ちょぉっーと!! 私はカラスにもなれ人間にもなれるんです。すごいでしょう?」
ねぇ? とでも聞こえてきそうな言い方だ。
「俺は学生にもなれニートにもなれるんです。すごいだろ?」
「すみません。それは、ちょっと、かなり引きますね……」
ブラグリは本当に申し訳なさそうな顔で言うからタチが悪い。本当に、ろくな人間じゃないだろう。
……人間、ではないのか。
「うぅん! そ、そうか? ニートってすごいんだぞ? 毎日好きなことし放題なんだぞ?」
「そして、半人間の私には特殊能力があるんです」
「無視かよ……」
「この世界には、半動物であり特殊能力を持つ者が他にも存在します。そういった人間たちを集めた組織を【アニマルウォーリア】といいます」
「まじか素直にすげぇ……」
「あなたには、今から【アニマルウォーリア】に来てもらいます。わーいやったねー(棒)」
「棒読みとか怖いからやめてくれよ?
しかも、今から来てもらいますとか頭おかしいだろ!? 怪しすぎるわ!!!」
「大丈夫です。あなたには、無事に、いつも通りに、帰ってもらわなくてはだめなのですから。危なくはないですよ」
少年の心は、少し揺らいだようだったが、すぐに口を尖らせてこう反論した。
「俺はをお前を信じねぇぞ!? 何があっても信じねぇぞ!?!?」
「では今から貴方と私以外の時を止めます。
……その前に、名前を教えてください」
「梶ヶ谷 未央」
「わかりました。未央さん、私の背中に飛び乗ってください! 1,2,3ハイ!!!」
「うをぉぉぉぉおおおお!!!!?」
うっわたっけぇぇぇぇえええ!!!
「俺高所恐怖症なんですけどぉぉ!?」
「語尾に小文字つけないでください、気持ち悪い」
「俺のセリフパクんな!?!?」
「やられたらやり返す。10倍返し、です」
「いや今の10倍でもなんでもなかったけどな!?!?」
「ちょっと、気が散るので黙ってください」
「声出さないと怖くて死ぬ!!」
「黙れよ」
「ぇ……」
……こっわ。声低っ。ブラグリこっわ。
でも、でも! このまま黙ってたら割とガチでつらいんですけど。
もうすでに震え止まんないし涙出てきたんですけどぉ!?
今ここ雲の上だぞ!! カラスはこんな高いとこ飛ばねぇよ!!!!!
そう思いながらも、怖さに圧倒されてしまった未央は大人しくする。
「もうすぐ着きますよ! 今の内に涙拭いといてください。はいハンカチ」
さっきまでの柔らかい口調にさりげない優しさ。やはりグリーフは間違いなくイケメンだった。
「あぁ、出来るだけ急いでくれぇぇ!?!? なんっっで急降下してんだよお前ぇ!?!?」
「こうした方が早く着くので。怖かったならすみません」
そんな優しく透き通ったイケボで謝られたら許しちゃうじゃん。
「いや、大丈夫。全然怖くねーから気にすんな!」
「そうですか。ではもう少し急ぎますよ!」
「うをぉぉぉぉおおおお!?!?!?ちょっとは気にしろよぉぉおおおおおおお!!!」
それに対するブラグリの返事はなく、ただただ恥ずかしく未央の叫びだけが空にこだまするのであった。