2話 黒い人
「こんにちは」
それは、なんとも形容しがたい絶妙なバランスの柔らかい声。まるで、耳が布団に包まれているような気がするほどだ。
「!?!?!? うわびっくりしたぁ……」
黒い帽子に黒い服に黒い髪に黒い爪で青白い肌で、何より真っ黒な羽がある美青年……こんなのリアルに存在するわけないよな。
そう思い、少年は『黒い何か』をスルーしてまた歩き始めた。
「はじめましてぇ!」
「……」
きっと幻覚だ。うん。疲れ溜まってるのかも。
早く帰って寝よう、と決めて無視をする。
「あのぉ!!?」
「……」
「無視ですかぁ!?」
「……誰だよ
あ! しまった! 思わず返事したじゃん! あぁ、なんて良い人っ……!!」
「よくぞ聞いてくれましたぁ! 私の名はブラックバーd……」
「ごめん俺急ぎの用事あるから」
「ちょっとぉぉお!?!?」
こんな厨二病を相手にする時間なんて俺にはないんだ、とでも言うように冷たい目を向ける。どうせ帰ってもやることなんてないんだけれど。
「どうせ家に帰っても暇なのでしょぅ? なんなら私の話を聞いてくださいよぉー!」
「その、語尾の小文字うざいからやめろ」
小文字厨は嫌われるからな、と軽蔑した目を向ける。
すると、『ブラックバーなんちゃら』が困惑した顔をする。
「語尾に小文字をつけると親しみやすくなると聞いたので試してみたのですが、逆効果だったようですね。なんせこの見た目ですから怖がられることが多くて……」
「いや服装変えればいいんじゃないか?」
「この服、気に入ってるんですよー!」
「えっまじか。気持ち悪」
「何が!?」
「そっか。お疲れ」
適当に返事をすると、また無視して歩き始める。
気持ち悪い奴は関わらないのが1番って姉さんが言ってたし。
「ちょっとちょっとちょっと!!!!!なんで無視するんですか!!?!?」
「気持ち悪いからだよ」
「全くひどい奴ですね。
私の名はグリーフといいます。グリとでも呼んでください」
「あだ名で呼ぶのは好きじゃないんだ、グリーフで。
てか、ブラックバーなんとかじゃねーのかよ」
「あぁ、冗談ですよ!反応面白そうだと思って」
そう言って、グリーフとやらは好青年らしく爽やかに笑う。
くそ、かっこいいじゃねぇか。不覚にも悔しく感じてしまう俺氏。
……じゃねぇだろ!!!!?!!
「俺はお前の話聞くなんて言ってないぞ!?」
「聞かないなら無理矢理でも聞かせるしかないでしょう?」
と、爽やかな笑みを浮かべたままグリーフが言う。
「お前将来ロクな大人になれねーぞ!」
「私はもう大人ですよ?」
「え?」