その1番「天使って・・・」
気持ちのいい朝です。
私の名前は、エンル。職業は天使です。
私のこれからの仕事は・・・そう、ある人の人生をずぅっと見る事・・・です。
長いようですが、短い仕事なんです。こういう仕事が一番多いんです。
私は、どれくらいの人の人生を見てきたでしょうか・・・?
百歳まで生きたもの、悲しい過去を持った者、事故で急に逝ったモノ・・・
たくさんいました。たくさんいて、たくさんあって・・・
その人それぞれの、「色」がありました。
その色はとっても綺麗で、透き通っていて・・・
これから、私が見ていく人の人生はどんな「色」なんでしょう・・・?
とっても楽しみ・・・でもあり・・・切ない・・・です。
「うわぁああああ!!!くるなぁあああ!!!」
「いいじゃないかー、オレはお前の・・」
「ただの兄でしょぉおお!!」
少女と、青年が、砂煙を出しながら凄いスピードで駆け抜けていきます。
あ・・・この女の子が私がこれから見る人ですか・・・
たしか、名前は・・・「柚若優」さんでしたね。
天使ノートにも書いてありますし。
で、優さんを追っているのは優さんの兄の「柚若猛」さんですね。
・・・猛さんにとっては、愛だと思うのですが、それ嫌がらせにしか見えません・・・
ストーカーと言うものじゃないでしょうか・・・
「死ねぇええ!!この、くそ兄貴ぃいいい!!!」
「酷いよー、兄に向かってー」
「今日から学校なの!!だから、付いてこないで!!」
「え〜、そうなの〜」
「そう!!イエス!!マイディー!!だから、帰れぇえええ!!」
イエス・・・?マイディー?何でしょう・・その言葉は・・・可笑しい英語ですね・・
優さんは、少し黒いみたいです。
それに、猛さんの事、嫌いみたいです。
その後も・・・優さんと猛さんとの、激しい戦いが続きました・・・・
やっと、学校に着いた優さんは、暗い森の中に居ました。
優さんは転校生で、今日から「水鏡高等学校」にこれから通うみたいです。
この学校の隣にある、「水島男子高等学校」、さらにとなりには「水葉女子高等学校」があります。
全ての学校名に「水」という言葉が付いているのは、この町、「水煙町」が水は豊かだからそうです。
その他にも、いろいろな説が取り上げられていますがね。
でも―なぜ、優さんはこんな暗い森の中に居るのでしょうか・・・・?
近づいて、様子を見に行っていましょう。
さっきまで、宙にいたのですが、地べた・・・つまり地面に足をつけました。
どーしたんですか〜、優さ〜ん。
口には出しませんが、パクパクと口を動かして伝えようとします。
聞こえるはずないんですがね。人間には、私達の姿は見えないのです。
私が、優さんの周りで口をパクパクさせて様子を見ていると、優さんが急に笑い始めました。
「ついに捕まいたぞー!!コスプレ女ー!!」
そう言うと、私の体はガシリと、優さんの手に掴まれていました。
解こうとしたのですが、解けません。
――あ・・・もしかして優さんって――
「さっきから、私の後を付いて来て!ストーカーよ、ストーカー!」
私の姿が見えるんですか!!
私は、じたばた暴れます。
基本、天使の体は小さいものなのです。
身長は、人間で言うと幼稚園の年中ぐらい・・・小さいんです。
もちろん、優さんより小さいです。
「もしかして、幼稚園生!?・・・・ごめんなさい、私が悪かったです。」
優さんは、私を人間の幼稚園生と勘違いして私から手を離しました。
天使ですからねっ、人の心理ぐらい読めますよっ!
「あの〜、私が見えるんですか・・・?」
恐る、恐る聞いてみると、優さんは「はぁ!?」と私を驚いた目で見ました。
言葉に出さなくとも、目で分かるものなんですね、気持ちって。
・・・・ちょっと、優さん、引いたみたいです。
「え〜と、大丈夫?頭。」
「ここ」と、優さんは、自分のおでこを人差し指で指差しました。
頭大丈夫?という意味なんでしょう。
「私、天使なんです。そして、私はあなたを見る仕事を与えられたんです。」
見えてしまったものはしょうがない。私は、自分の正体―天使だという事を彼女に話しました。
そして――自分の仕事であなたを見続けるということも。
優さんは、ぽかんと口を「お」の形に開けて、しばらく呆然としていました。
「え、えと・・・戦○物の見すぎじゃない?君。」
「だから、違いますっ!!」
「だって、天使っていうなら翼とか生えている・・・」
人間はこう、勝手にイメージするのが少し嫌いです。
なんで、どう考えたら、背中に翼があるってことになるのですか。
まったく・・・ぷぅ〜・・・
まぁ・・・今回は、天使だという事を信じてもらうために・・・空を飛んでみますか。
私は、つま先で立ち、軽くジャンプをしました。
そして、イメージするのです。
自分が空を飛んでいるイメージを・・・・
「う、うあ・・・飛んでるーーー!!」
優さん、さすがに驚いていますね。
腰を抜かして、びっくりしています。
「これで、信じてもらえましたか?」
「うん、うん」と、優さんは首を縦に振りました。
目をぱっちり開いて、あんぐりと口を開いた顔で私を見ています。
・・・私がそんなに珍しいですか?
珍しいかも・・知れませんけど。
「私は、エンル。あなたの名前は知っています。・・・優さん、これからお願いしますね?」
「は、はぁ・・」
まだ、驚いた顔をしています。
ざっ・・・今まで、私と優さんの二人だけだった静かな暗い森に、足音が聞こえました。
「独り言が多いのね。」
その少女かと思えるその声は恐ろしいほど透き通っていました。
私と、優さんの頬に汗が一筋、流れました。
「私は、槍内 潤奈。この学院の生徒会長」
嫌な予感、そして、波乱の幕開けの感じがしました・・・