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その2 ベルレアン時代

 仕事が終わり、俺ジャン・ピエールは行きつけの酒場で夕飯を食べていた。王都だけあってアマノシュタットは店が多い。独身者としては助かるね。

 そこに故郷セリュジエールから付き合いのある昔なじみ、ミュレ先輩がやってきた。


「やぁ、ジャン、ちょっといいかい?」


 ミュレ先輩は平民から子爵になった凄い人だ。それも魔術の研究や魔道具の開発でという変わり種だよ。そのせいか、ちょっと常識外れなところがある。何がって?


「ミュレ先輩、いいんですか? 新婚でしょ?」


 奥さんのカロルさん、怒っていないかな……でもミュレ先輩を手伝っているときのカロルさん、とても幸せそうだし。案外お許しが出ているのかも?


「いやいや、研究所に篭もっていたら流石にね……それに他の人間の話を聞くのも発想の転換に役立つし」


「ああ……いま、放送の魔道具の研究を進めていたんでしたっけ?」


 俺はカロルさんを大切にしないと、と言ったつもりなんだが。流石はミュレ先輩。


「そうそう、声は送れるようになったから今度は風景も一緒に送れるようにとね。でもなかなか進まなくってね」


「(あ~、いきなりビデオカメラを作ろうとしちゃってるのか)何事も一気に進めるのは難しいんじゃないですか?

うわさに聞くアミィさまの幻術ですが、風景を切り取って映す術もあるとか。まずそのあたりから研究するのはどうなんですか?」


 カメラがなきゃ、その先のビデオカメラは作れないでしょ……って思うんだが。


「……ああ! それは気が付かなかった。そうだね、まずそれを基礎とするのはアリかも……さしずめ『魔法の目』ってところかな……ありがとう、早速やってみるよ!」


 ミュレ先輩は、そう言うと店を飛び出していった。あ~あ、研究所に逆戻りか?


「まったく、あわただしいなぁ」


 俺は酒を口に運び、昔に思いを馳せる。最初に頭に浮かんだのは十年ほど前、ベルレアン伯爵領のセリュジエールで兵士を目指したころだった。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 前世を思い出して以来、俺は体を鍛えたり武術を習ったりしつつ過ごしていた。そして十歳頃には、一番上の兄が従士枠で領軍本部隊に採用された。


 親父は引退まで教導官として勤めるようだ。兄貴が実績を積んだら騎士の位を譲るんだろう。

 兄貴が軍に入ったからだろう、武官より文官を目指してはどうかと親に勧められたけど……前世の記憶の分、年の割に頭が良く思われていたんだろうな。でも上には上がいるだろうと、あくまでも武官を目指した。


 ともかく俺は十五になってすぐ、平民枠で兵士に志願した。騎士家の生まれとはいえ三男坊だから、平民枠さ。

 メリエンヌ王国は徴兵制ではなく志願制だ。軍は出世を目指す平民にとっての登竜門的なところがあり、前世でいう公務員試験みたいな感じかな。

 試験は筆記や適性、それに体力検査などだ。また、志願した職と合わなくても別の仕事で採用されるケースもある。それに普通の仕事よりも安定していると結構な志願者がいるから、平民にとっては狭き門だ。

 もちろん、ここセリュジエールも同じさ。


 まぁ、しっかり準備していたので俺は希望通り兵士として採用された。でも、最後の面接でマレシャル司令とアジェ本部隊大隊長、ブロイーヌ東門大隊長が一堂に会していたのには驚いた。

 マクシム・ド・ブロイーヌ大隊長……姓が示す通りブロイーヌ子爵の息子さ。ブロイーヌ子爵は領主のベルレアン伯爵コルネーユ様の従兄弟だから、ご一族様なんだよ。

 しかもアジェ大隊長が親父と兄貴のことを話してくれたのもまた……結局兄弟そろって同じ部隊も良くないだろうと北門大隊に配属された。後のことを考えると、ブロイーヌ大隊長の下じゃなくて良かったんだろうなぁ。

 この年、親父は引退、兄貴は騎士となった。騎士や従士は、よほどのことが無ければ子供に跡を譲れるんだ。とはいえ、皆それでも大喜びさ。


 北門大隊第三小隊に配属された俺は、新人ってことで下働きによく使われた。まぁ、下っ端のパシリは前世で自衛隊にいたこともあるので経験済みだ(任期満了で退職したけどね)。年の割に落ち着いてるって言われるけど精神年齢が四十近いせいだとは口が裂けても言えないや。


 そんな風に勤めていたんだけれども、部隊としての訓練っていうのは特に決まっていなくて(朝・昼・夜の勤務の日は時間があるけど事務仕事や装備の手入れ、非常時に備えての待機なんかも含まれる)熱心な人は非番の日のどちらかで領軍の訓練場で励むっていうのが常らしい。


 出世することが目標な俺は当然真面目に訓練を欠かさないつもりだった。そこで小隊唯一の魔術兵の人に教えを請おうと思ったのだけど、その人は教えるのは苦手というので知り合いの魔術兵を紹介してくれた。


 それが後に参謀になる、当時まだ魔術兵だったミュレ先輩だった。年上だけど気さくな人だったので、当時から先輩と呼んで色々と魔力・魔術の使い方を教えてもらったものだ。

 まぁ、応用して色々ヤバい使い方ができる魔術を編み出してはいたけど、流石にそれは秘密にしていたなぁ。魔力も全開で使うのは避けていたし。ニュテスさまの加護がバレたら大騒ぎだろうから。

 端から見るとちょっと魔術が使えるけど、身体能力強化のほうが得意な兵士なはずだった……と思う。


 訓練自体は、それほど変わったことはなかったよ。

 まぁ、たまに領主ご令嬢のシャルロット様がやって来て百人組手みたいなことをやったり……はあったけどね。五年前だからシャルロット様は十三歳……でも、あの当時から兵士レベルじゃ歯が立たないほど強かった。素質があるっていうのは凄いと本当に思ったよ。

 俺? 兄貴と模擬戦をやってお前の槍は美しくないと怒られていたなぁ。槍が銃剣格闘の使い方に近くて、突くよりも穂先で切る、石突で殴打するなんてザラだったんだ。強いけど荒々しいと言われたよ。

 まあ、そんな感じで日々を過ごしていた。


 それが変わったのは、きっとあの日、シャルロット様以下五人、三頭が北門を駆け抜けた日からだな……と今はおぼろげながら思う。


 お読みいただき、ありがとうございます。


 前半はアマノ王国建国後、その王都アマノシュタットでの光景です。

 なのでマルタンは、ミュレ子爵マルタンですね。一方のジャン・ピエールさん(20歳)は王都守護隊の騎士です。マルタンの結婚後ですから、創世暦1001年7月以降のことです。


 後半の殆どはジャン・ピエールさんの少年期から成人(15歳)くらいです。入隊時でアマノ王国建国の五年前、創世暦996年ごろとなります。


 最後の一行のみ創世暦1000年8月、シノブがセリュジエールに初めて来たときの描写です。


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