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その19 西海

 子供たちはお昼寝の時間だ。そこで俺ジャン・ピエールは孤児院を後にし、マネッリ商会の支店の一つに足を運んだ。


(今のところ、良い食材は交易商の直営店を当たるのが一番だな)


 少し遠いんだが、俺はマネッリ商会までの道を歩いていく。

 実は王都だと、まだまだ生肉は高い。畜産はしているんだが、元が支配階級向けなんだ。旧帝国時代の村人は奴隷なんだけど、彼らは皇帝や貴族の食べ物として牛や豚などを育てていたんだよ。

 騎士や従士、平民でも兵士などは、そこそこ良い肉が回ったらしいが、それでも燻製や干し肉だって。そのおこぼれが街に出たくらいだ。


 他のエウレア地方の国はというと、意外に食肉の種類は多いし量もあった。ただ、地域の差が激しい。流通が未発達なせいもあるんだろうな。

 大規模な畜産を行っているところもあるし、逆に魔獣の森の近くで狩猟に頼っているところもある。森の外に出てくる魔獣は小物なことが多いんだ。


(それに魔力があるしな……)


 俺は農業には詳しくないが、魔力があるせいか牛や豚、鶏などを育てるのは地球より楽なような気がする。牧草や雑穀にも魔力が含まれているからだろうか。ただ、それらも魔力が多めな土地じゃないと駄目だから、向き不向きが激しいんだろうな。

 内政官たちも名産品を広めようと頑張ってはいるが、元の数が多くないからな。今は他国から親牛や親豚自体を輸入しているらしい。磐船があるから輸送は可能なんだ。


(頑張って広めて欲しいな……俺は牛肉や豚肉が好きだから)


 山羊や羊はそこそこいるから、今のところ街に出回る肉の多くはそっちだ。ただ、俺は牛肉とかが欲しいんだよ。やっぱり、元が日本人だからかな。

 ベルレアンは平地が多いこともあって、牛や豚の肉も多く出回っていた。それに実家は騎士家だったから、食料事情も悪くなかったからな。


(こっちにもあるにはあるんだが……冷蔵の魔道具が未発達なのが痛いよな)


 アマノ牛やエウシャッセンの長毛豚(ちょうもうぶた)など有名で他国に負けないものもあるんだが、それらの産地は遠いから、生のまま王都まで運べるのは磐船を使った場合くらいだ。

 交易商などでも冷蔵系の魔道具を荷馬車に備えているのは、大商会の更に一部の馬車くらい。そうなるとボドワン商会やマネッリ商会などの大手が強いってことさ。


 輸送速度の問題、冷蔵の魔道具を使用したコスト。どうしても高いものになってしまう。王都近辺の村からでも燻製や干し肉のほうが圧倒的に多いくらいだし。


(地力は案外悪くないみたいだし、親牛や親豚が増えれば改善されるとは思うけど)


 隷属させられ重税を課せられた村々。それらに住んだ人々が生き延びてきた理由には、食料となる作物が多かったことがあるようだ。粟や稗、蕎麦などの救荒作物だな。もしかすると、森の女神アルフールさまの手助けなのかも。


 旧帝国の連中は雑穀は口に合わなかったのか、それを見逃していたようだ。その分だけ麦を多く徴収できると思ったからかもしれん。

 ともかく、それらの雑穀は広まっている。そして税の減免を受けて普通に食べていけるのだから、村々の雑穀は畜産に回っていくはずだ。そうなると将来は、国産の牛肉や豚肉が安く出回る可能性も高い。

 既に、大商会は動き出しているそうだ。もちろん実質的に王国御用達たるボドワン商会やマネッリ商会が知らぬはずもなし。彼らは早くも農家との契約や輸送ルートの構築など頑張っているという。


(さて、着いた)


 今日の目的は各種乾物と南方産魚醤、調理用の酒。それに高いが王都中央支店から取り寄せてもらった豚肉と鶏肉、卵、もちろん生だ。他に小麦粉・そば粉、ネギっぽい香草も買う。


 過去の褒賞金でそれなりに金はあるんだ。なのでこういう時に結構使っている。

 さて、宿舎で料理をしようかな。漢料理だからそこまで丁寧じゃないけどね。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 結局シノブ様は、旧帝国の軍管区とフライユ伯爵領を往復する日々を送っているらしい。あちらこちらに転移できるっていうのも考え物だなぁ。

 しかも今度はポワズール伯爵領に出向かれるそうだ。ポワズールとはメリエンヌ王国で唯一西海岸に面した領地だよ。

 ここ旧帝都からポワズールは遠いんだけど、俺ジャン・ピエールも含め話題にしている者は多かった。


「ポワズール伯爵家か……マリーズ様のご実家だからな」


「ああ。シャルロット様やミュリエル様もお喜びになられるだろう」


 先代ベルレアン伯爵アンリ様の奥方マリーズ様は、先々代ポワズール伯爵の娘だ。母方の御実家だから、シャルロット様たちもご同道するわけだな。

 ここ旧帝都はセリュジエールから1000km以上も離れているが、守護隊にはベルレアンやフライユ、王領から来た者が多い。で、多くは騎士や従士だから、こういった事情には詳しいんだ。

 もちろん知らない者もいるけど、今の軍管区の総司令官は東方守護将軍のシノブ様だから、そいつらも興味を示す。今は不在がちだけど、落ち着いたらシノブ様がここを治めるのは確実だからな。


「セレスティーヌ様も同行されるのか……まあ、特別巡見使ではあるが」


「あまり触れないほうが良いんじゃないか?」


 ある小隊長の言葉に、他の者が微妙な顔となる。

 王女であらせられるセレスティーヌ様がフライユ伯爵領に滞在したり、シノブ様と共にカンビーニ王国を訪問したりするのは、特別巡見使っていう新設の役職に就いたからだ。でも、これがシノブ様に嫁入りさせるための方便でしかないのは、誰もが察していることだからな。

 ともかくモテモテだな、チキショーメ!


「あ、ああ……そういえば、次はガルゴン王国か」


「シノブ様はヴォーリ連合国にも訪問されているし、これで協力してくれた各国を巡り終える。そうすれば、少しは旧帝都にも顔を出してくださるさ」


 確かに次は南方のもう一国、ガルゴン王国だ。でも、こちらに暗雲が立ち込めてるとは想像だにしていなかったわけで、当時の俺たちは気楽に構えていた。

 しかし数日後、旧帝都にも更なる噂が入ってくる。


「どうもルシオン海で海難事故が多いらしいぞ」


「西海か……アルマン王国が動いたのか?」


 ルシオン海とはメリエンヌ王国の西に広がる大海だ。地球なら大西洋に相当するんだろう。

 で、大陸はメリエンヌ王国の北がヴォーリ連合国、南がガルゴン王国、そしてアルマン王国とは海峡を挟んで西の島国だ。要するに、場所としてはイギリスに当たる国だ。

 まあ、そんなことを言っても仲間には通じないから、俺は黙って聞いている。


「まさかシノブ様のポワズールへの訪問は、そのせいか? アルマン王国の様子を見に行ったとか?」


「あるな。本部の連中が密かに話していたんだが、シノブ様はポワズールの海で何かを得たらしい。それも、かなりの大物だそうだ」


 中にはアルマン王国の陰謀説も。そのせいでシノブ様が向かったんじゃないかって。

 もし本当なら次は海戦かぁ……まぁ、海軍がいるんだし、俺の出番はないだろう、たぶん、きっと、おそらく。


 そんな話をしていたら、続いて旧帝都に近い三伯爵領の攻略に成功したって話が入る。

 帝都決戦までに比べると遅い進攻速度だけど、一ヶ月弱だから今までの常識からすればムチャクチャ早い。磐船での急襲があるから出来ることだよな。


 とはいえ、それもシノブ様には関係がなく、予定通りガルゴン王国に向かわれたらしい。

 普通なら、戦勝記念祝賀会とかで来るんじゃないかな? やっぱりガルゴン王国に急ぐ理由があるんだろうな。


 お読みいただき、ありがとうございます。


 前半はアマノ王国建国後、その王都アマノシュタットでの光景です。なので、創世暦1001年6月以降のことです。


 後半は、創世暦1001年4月の頭です。

 ジャン・ピエールさんは旧帝都の守護隊東門大隊で働いています。


 以下に大まかな流れを示します。


創世暦1001年 4月 2日 シノブ達、ポワズール伯爵領への訪問をする。ルシオン海で偽装商船を拿捕する。

創世暦1001年 4月 3日 旧皇帝直轄領に近いゾットループ、ドラースマルク、エッテルディンの三伯爵領の都市を攻略終了。

創世暦1001年 4月 4日 シノブ達、ガルゴン王国に旅立つ。


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