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その15 大帝殿 後編

 今、ベーリンゲン帝国の帝都ベーリングラードの中央には、二つの巨大な竜の像が存在した。それは、竜たちが造り上げた全長150mを超える岩石の塊だ。

 まずは皇帝が座す『黒雷宮』の中枢たる『大帝殿』の正面に、一つが地に降り。更に一つが、地上の像を守るように宙に浮き。それぞれに岩竜が二頭と炎竜が二頭の計四頭、合わせて八頭もの竜が集っている。


 これは帝国に潜む異神の雷を凌ぐための策である。

 電気を通し難い岩の像の背に鉄の高い背びれを付け、そこから大地に巨艦の錨を繋ぐための鉄鎖を垂らしている。要するに避雷針となるものを装着し、雷を無効化しつつ『黒雷宮』に戦士たちを運ぶのものだ。

 とはいえ途中の空路では見事に効果を発揮した雷避けも、帝都に迫ってからは無用の長物と化していた。流石の異神も帝都の民を巻き添えにするつもりはなかったのか、ここでは雷を降らせることはなかったのだ。


 だからと言って油断は出来ない。再び戦士たちを像の中に匿うかもしれないからだ。そこで上空の巨竜像には四頭の竜が入ったまま、磐船を内蔵していた残り一つ、地上に降りたものも二頭が外に出ただけだ。

 像から出たのは岩竜ガンドと炎竜ジルンだ。彼らは自身の翼で宙に舞い、竜の血を悪用した異形たちを倒していく。しかし岩竜の長老ヴルムとジルンの(つがい)ニトラは万一のときに巨竜像を動かすべく、待機を続けている。

 強力な力を持つ竜が二頭もいれば、どれだけ紛い物がいても関係ない。しかし竜たちは非常に賢明で用心深い。そのため彼らは自分たちを愚弄するかのような醜悪な異形にも、冷静さを保っていたのだ。


 とはいえ、そんな竜たちでも驚くことは当然あった。


──この魔力は?──


──もしや新たな敵か?──


 魔力に対しての感覚が鋭い竜たちは突然の波動に驚いた。シノブに比べると遥かに小さい。アミィたち眷属ほどでもない。しかし人間にしては非常に大きなもの、そしてそこに込められた闇の気配は長き時を生きた竜でも知る者は数少ない。


──心配ない。これは()の者だ──


 ざわめく同胞たちに、岩竜ガンドが思念を発した。この魔力に、彼は覚えがあったのだ。


──知っているのか、ガンド?──


 炎竜ジルン、ガンドと同じく宙に浮いている巨竜が興味の滲む思念を発した。

 その間も、ジルンは細く絞ったブレスを放ち続けている。竜にとって何かをしつつ思念を交わすなど、造作も無いことだ。そのため問い掛けが終わるころには、彼らに敵対するものは屋外から絶える。


──ああ、あれは『光の使い』の手の者だ。もっとも『光の使い』自身は知らぬようだがな──


 岩竜ガンドがシノブの異名『光の使い』を出すと、竜たちから感嘆の思念が湧き起こる。しかし当のガンドは宙の一点に留まったまま、じっと地上を見つめていた。

 ガンドは地下で戦っているであろう愛娘オルムル、そしてシノブやアミィ、ホリィを案じているのだ。しかし彼は、自身が良く知る魔力を今は感じ取ることができないでいた。

 地下には何らかの結界が張られたらしい。おそらく結界は、異神が造り出したものなのだろう。シノブたちの力とは違う不気味な波動にガンドの不安は募るようで、彼は大地の一角に顔を向けたままである。


──知らせずとも良いのか?──


 再びジルンがガンドに問うた。

 ジルンは先日まで帝国に(とら)われた自分たちを救ってくれたシノブに強い恩義を感じているようだ。そのため彼はシノブに告げねばと考えたのだろう。


──神々が教えていないのだから、相応の理由があるはず。ならば我らが口出しするべきではない──


 ガンドはジルンたちに、神々が関与しているのではと応じた。それを聞いてジルンも納得したらしく、彼はガンドと同じく地上へと顔を向けた。


──時が来れば自ら明かすのであろう? ……『闇の騎士』よ──


 既に闇の魔力の気配は収まっていた。しかし岩竜ガンドは発した者の魔力波動を見失っていないらしい。彼は『大帝殿』の一角を注視する。

 だが、それはほんの僅かな間だけであった。何故(なぜ)ならガンドは再び娘の気配を探るべく、大地へと向き直っていたからだ。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 『大帝殿』では、槍を拾い上げたジャン・ピエールが通路に寄りかかり、遠くから聞こえる喧騒に耳を傾けていた。戦いは、まだ続いているのだ。


「そろそろ合流しないと……」


 ジャンは疲れ果てた体に鞭打ち、槍を杖にしながら奥に向かおうとする。そのとき脇道から、一体の魔人が現れた。


「く……こんな時に!」


 なんとかジャンは槍を構えるが、魔力が尽きた体は思うように動かない。そのため魔人の爪の一撃でジャンの槍は弾かれ、しかも革鎧ごと胸を切り裂かれた。


「うわっ!」


 思わずジャンは、苦悶の声を上げる。

 ジャンの胸からは鮮血が飛び散っている。しかも彼は、己を裂いた腕の一振りで後ろに飛ばされた。

 だが、飛ばされたのは悪いことばかりではなかった。お陰でジャンは、どうにか間合いを取れたのだ。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」


 槍を構えなおし、ジャンは気合とともに突撃する。


「くっ、槍が!?」


 距離を稼いだため、ジャンの一撃は加速も加わり充分な重さを伴っていた。しかし槍は急所を捉えられず、逆に掴まれてしまう。

 そして魔人の腕が振り上げられ……。


「若さに任せた無謀はいけませんな」


 声と共に魔人は小剣で刺し貫かれ、力を失い床に崩れ落ちた。いつの間にか、一人の猫の獣人が現れジャンの危機を救ったのだ。


「イナーリオ隊長?」


 ジャンは自身を助けたのが、アルバーノ・イナーリオだと気が付く。特殊任務を担当しているという噂もある猫の獣人は、ジャンと魔人の双方に悟られることなく忍び寄ったようだ。


「私の担当は終わりましてね、こちらに戻ってきたのですよ……しかし、なかなかの激戦ですな」


 ジャンの肩を支えたアルバーノは周囲に目をやると僅かに驚きが滲む声を上げた。そこにはジャンが倒した十五体とアルバーノが屠った一体の、合わせて十六の魔人が倒れていたのだ。


 一方のジャンは、支える猫の獣人に感嘆の視線を向けていた。ジャンとは違い、アルバーノは返り血こそ浴びているが傷一つない。その姿に彼は憧れめいたものを(いだ)いたらしい。


「あ、あり……」


 ジャンは礼を言わねばと思ったようだ。しかし彼の言葉は途切れたままとなる。大地を揺るがす激しい振動が発生したからだ。

 しかし、少しすると揺れと轟音は収まった。


「な、なんだか空気が……」


「我らが主君が邪神を倒したようですな」


 ジャンの呟きに、アルバーノは微笑みながら答える。しかし、その言葉はジャンには届いていなかったようだ。おそらく安堵と疲労、そして失血のためだろう、ジャンは気を失ってしまったからだ。


 お読みいただき、ありがとうございます。


 今回は、全て創世暦1001年3月6日の帝都決戦です。

 ジャン・ピエールさんも加わった『大帝殿』の戦いは、無事に終わりを迎えたようです。


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