その12 葬儀
いつも通りに訓練を終えた俺ジャン・ピエールは、いつもの酒場で久々にムハマさんと酒盛りをした。
店主特製塩ダレの地鶏モモ肉の炭火焼きをつまみに麦酒を飲む。うん、いろいろ惜しい。
「……醤油ダレの焼き鳥……食べたいなぁ」
思わず俺は、呟いてしまう。もちろん、他に聞こえないくらいコッソリとだ。
エウレア地方には、醤油なんか存在しない。意味不明なことを言うヤツだなんて、ムハマさんに思われたくないしな。
「……『ショウユ』? そう言えば、イヴァールのヤツが口にしていたな」
「ええっ!? あ、あるんですか!」
マジかよ!? ベルレアン伯爵領に二十年いたけど、そんなの聞いたことないぜ!
もしかして、ヴォーリ連合国のドワーフは醤油を作っているのか!?
「おっ、おお……確かだな……そうそう『シノブやアミィが出してくれるんだが……』って言っていたな。その『ショウユ』とか、他に……お、思い出した! 『ミソ』という調味料もあるそうだぞ」
「えええっ!? み、味噌もあるんですか!」
詳しく聞いてみると、シノブ様やアミィ様(大神官様だから昔みたいに『さん』とは呼べないぜ)が醤油や味噌を出してくれるらしい。
「で、どこから取り寄せているんですか!? 醤油と味噌を!」
「それがな……『聞くな。今のも忘れろ』って言われてな。おっと、だから秘密だぞ」
な、何それ!? ここまで聞かせておいて、それは無いだろ!
「そんな殺生な! 醤油と味噌があれば、こんな塩ダレだけで食べなくっても……」
「……お客さん、ウチの料理に文句があるなら出て行ってくれんかね? もちろん御代はいらないよ!」
振り向くと、そこには青筋立てた店主が立っていた。
……どうしたかって? 当然、席を立ったさ。伝家の宝刀『ジャンピングジャパニーズ土下座』を繰り出すためにな!
お陰で許してもらえたけど、当分あの店には行けないなぁ……こっちだと土下座する人っていないんだ。
◆ ◆ ◆ ◆
「ふう……」
大きく息を吐き出した俺ジャン・ピエールは、そのまま未明の空を見上げた。すると、東の星が不自然に遮られるたのに気がついた。
「竜……シノブ様?」
よく見ると十近い影が空にあった。シノブ様が無事に炎竜たちを助け、ここゴドヴィング伯爵領の領都ギレシュタットに帰還されたんだ。
「これで終わりか……」
「……今回は抵抗が激しかったな。何か魔道具を着けていたらしいが、そのせいか?」
兵士たちの言葉に、俺は我に返る。
中央区では多くの荷馬車があわただしく動いていた。倒した帝国軍人や自決した領主一族や家臣の遺体を神殿……その奥の葬祭殿に移送しているからだ。
ベルレアン伯爵コルネーユ様と先代伯爵アンリ様は、真っ先に領主の館と周囲の遺体を片付けさせた。そして先代アシャール公爵ベランジェ様が、先に攻略したメグレンブルクから葬儀を担当する神官たちを呼び寄せた。
「急げ! 早く片付けてギレシュタットの掌握を終えるんだ!」
俺は新たに呼び寄せられた兵士たちに指示を出しながら、しばし思いふける。先んじて片づけるのは、シノブ様を悩ませたくない親心なんだろうな……って。
後で聞いたら、ベランジェ様達はシノブ様に何があったかは伝えたらしい。だけど、そのまま見せるのを避けたのは間違いないのだろう。
「しかし、帝国にも葬祭殿ってあったんだな……」
俺は目の前の建物を見つめる。まあ、信じる神が違おうが、葬儀の必要があるのは変わらない。だったら、同じようなことを考えるか。
ちなみにメリエンヌ王国なら、よほど小さい神殿じゃなければ葬祭殿が別にある。もちろんニュテスさまに祈り、輪廻の輪に戻るよう願う場だ。
中に入ると、葬祭殿には相当数の遺体が並べられ、白い布が被せられていた。一部は間に合わずシーツで代用していたけどな。
事前の情報どおりなら、ギレシュタットには八百名の守護隊がいたらしい。ただし、八割近くは戦闘奴隷だから、立ち向かってくるのは二百人ほどだ。もっとも多くは無力化の魔道具で体力を失っていたから捕縛に成功した。
そこまではメグレンブルクとほぼ同じだが、こちらでは領主や主だった家臣が戦いを挑んできた。このうち、高位の者は体力強化の魔道具を所持していた。で、それが無力化を相殺したようだ。相手はメグレンブルクでのことを知っていたから、前もって準備していたんだろう。
流石に死者が百人に届くことはなかったが、その半分じゃ済まなかっただろうな。
◆ ◆ ◆ ◆
シノブ様は夜明けまでに各神殿の異神像を改造したらしい。しかもメグレンブルクと同じで、神殿で遠距離転移ができるようになったという。
そしてシノブ様は、救出した炎竜達が西の安全な山に飛び去ったのを見送った後、神殿の転移を使ってメグレンブルクのリーベルガウに戻ったそうだ。
現在、帝国進攻の総本部はリーベルガウだし、そこには今回の作戦に参加してくれた竜たちの子供や保護者役もいる。
ちなみにゴドヴィングには、五頭もの竜が残ってくれるそうだ。だから、安心して次のことを相談しに行ったんだろうな。もちろんベランジェ様達の配慮もあるんだろうけど。
墓地で神官たちが祈りを捧げている。更に彼らは魔術で地面に穴を掘り、そこに兵士たちが遺灰が入った骨壷を運んでいく。
埋葬は火葬が殆どだ。しかも都市や大きな町には専用の火葬場があり、大抵は墓地に併設されている。
この世界には火や熱を出す魔道具がある。そのため鍛治も炉の魔道具で行うことが多いそうだ。だから、葬儀も都市部では薪を使わない。
欠点は、魔道具を使うのに魔力が必要ってことくらいだ。そのため大勢の死者が出ると、多くの神官が集められ魔力を提供するらしい。
なお、とりあえずの埋葬が終わったら、供養のための石碑が建てられるという。まあ、死者に鞭打っても仕方ない。ニュテスさまのところで生まれ変わるんだもんな。
次は帝都ベーリングラードに向かうことになるだろうという話だ。しかし前回と同じで多少時間を置いて態勢を整えるんだろうな。
それにしても騎士になってからこっち、前線に出っぱなしで鎧の新調が間に合ってないんだよ。騎士の全身鎧は体に合わないと着けられないし、剣や槍みたいに借りるのも難しい。
だけど『二週間戦争』の時から変わらず革鎧と部分鎧の混合ってのもなぁ。今回の作戦で、ところどころ傷んで来ているし……。
お読みいただき、ありがとうございます。
前半はアマノ王国建国後、その王都アマノシュタットでの光景です。なので、創世暦1001年6月以降のことです。
後半は創世暦1001年2月27日未明から夜明けです。フライユ伯爵領に移籍し小隊長になったジャン・ピエールさんは、帝国のゴドヴィング伯爵領の攻略を終えようとしています。




