従者の苦悩〜12歳の自覚〜
ルシア視点です。
僕の主人は、鈍い。 かと思えば、大人びた視点で意見を言ったり、何年も側にいても、分からないことだらけだ。
一つ年下の僕は、エミリーより背が低かったが、それまでは主人と従者というよりは、遊び仲間のような存在だった。
おおらかなサレニー候の教育方針のおかげで、訓練は楽ではなかったが、エミリーの姉達の従者ともくだけた関係になれた。
主人であるエミリーの様子が変わったのは、8歳の誕生パーティの後からだ。
パーティ自体はエミリーの体調不良のため、中止になり、再会できたのは4日後だった。
突然の発熱後に会えたエミリーは、それまでの遊び仲間のおてんば娘の表情はなりを潜めて、深い慈しみの表情を浮かべていたのだ。
まだ体調が戻っていないだろうに「ごめんなさい」と涙を浮かべながら、僕の手を握りしめた。
守らなきゃいけない僕の方が、護られているようだった。。
その後は時折、遠いところを見つめている様子もあったが、年相応の無邪気な笑顔を、見せてくれた。
あの一件で、従者としての自覚が強まり、魔法も武術も習得に熱が入った。
困ったことといえば、12歳の頃から魔力のやり取りの感覚が変わってしまった。
エミリーに伝えるわけにもいかず、ナディア様の従者である4つ年上のキースに相談した。
「で、どんな感覚なわけ? 昔は確か、ほっぺたつねられるようなだっけ?」
「昔はそうだったけど、今はどんなっていうか、熱いようなムズムズするような、むしろエミリーを無茶苦茶にしたいような、、」
「あー、ルシアくん、それって性欲。。」
あけすけですね、キース先輩。
「やっぱり、そうでしょうか先輩」
「俺が感じてるわけじゃないけど、一般的にはそうでしょ 魔力やり取り以外でもそう感じるときないの?」
「普段は押さえ込んでますからね。 やり取りのときはどうしても、感情開かないとエミリーの魔力と混ざりませんから。」
「かーっムッツリめ。 俺とナディア様なんて、10歳の頃に魔力やり取り終わったよー?」
「エミリー様の容量がまだ多くないままなのが、一因ですかね」
「エミリー様って本当変わってるよな 優秀なのに残念っていうか」
そういうとこも変だけど、達観しているというか、自分が愛される立場のはずがないって思い込んでるとこ、あるよなぁ。
エミリー様の容量はまだ小さいから、従者からの補給が欠かせない。 だからこそ、自分の存在意義を感じられるのだ。
「んで、まあやり取りはまだ必要なわけだし、解決策はお前が我慢するしかないんじゃね?」
「ですかね、、」
ひとまず、ハグだと押し倒す危険があるから、握手にとどめてもらおうと誓う12歳のルシア少年なのでした。