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黒猫は満月の夜に  作者: 雪嶋ゆえ
Chapter1 黒猫と告白
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Chapter1...05

 その日の夜、風呂から上がった碧生はアイスクリームが食べたくなったのだが、冷凍庫に目的の物はなかった。

 ないとなると無性に食べたくなる。服に着替え、簡単に髪の毛を乾かすと、近くのコンビニエンスストアまで買いに出た。

 いざ店の中に入ってしまうと、目的のアイスクリーム以外にも、スナック菓子も欲しくなってしまい、帰り道のコンビニ袋の中身は、アイスの他に菓子が二つ入っていた。時折カサカサとビニール袋の音をさせながら、家までの短い距離を歩く。

 近道の裏道に入れば、辺りを照らすのは等間隔に設置されている街灯の明りしかなく、薄暗い。そんな中、急に塀の影から何かの気配を感じて、碧生は一瞬びくりとする。

 だがその気配は小さく、気づけば自分の足元に来ていて、視線を落とせば少し小さい黒猫がいた。子猫という程小さい訳ではないのだが、大人と言う程大きくもない、と称した方がいいのだろうか。

 そして、その猫は小さくニャー、と鳴くと、碧生の足元に絡まるように擦り寄ってきた。猫が甘える時特有の、ゴロゴロという鳴き声も聞こえてくる。

「……え? お前、もしかしてこないだ助けた奴か?」

 碧生の問いかけるような呟きに、まるで返事をしたかの如く、猫はまたニャーと一声鳴いた。

「あはは。そっか、お前元気だったんだなぁ。なんだよ、あの時は逃げた癖に」

 しゃがみ込んだ碧生は、笑いながら猫の頭を撫でる。すると甘えるように猫は碧生に擦り寄ってくるばかりだった。そんな様子は可愛らしいとは思うものの、碧生もそろそろ家に戻らないといけない。

「じゃあな、元気でな」

 これだけ人懐っこいなら、きっと飼い猫だろう、毛並みもいいし、特に痩せこけている訳でもないのだからと、碧生は考えながら、その場から立ち上がり、自宅へと歩き始める。

 だが、暫く歩いても、黒猫は碧生についてきていた。碧生は少し困ったような表情を浮かべてしまう。

「お前、自分ちに帰れよ、どこかちゃんとしたうちがあるんだろ?」

 碧生が少し屈んで、言い聞かせるように話しかけても、今度は言葉の意味等わからない、とでも言いたげに、ただ碧生に擦り寄ってくるばかりだ。

「困ったなぁ、うち猫飼えるのかな……」

 首を傾げながらも碧生は立ち上がり、再び歩き出すのだが、やはり黒猫はついてきて、結局家の玄関に辿りついてしまった。

 碧生は玄関の扉の前で、暫く思案してから、チャイムを鳴らした。勿論、普通ならそんな事はしないのだが、いつものように扉を開ければ黒猫が入ってしまうのではないかと思ったからだった。

「はあい。……碧生? どうしたの、チャイムなんて鳴らして」

 案の定、玄関のドアを開けた鈴菜は、碧生の顔を見た途端、不思議そうな表情をしてみせた。

「えーと、あのさ、うちって動物飼う事できないかな?」

「動物?」

 少し困ったような響きをにじませた碧生の言葉に、鈴菜は首を傾げた。そのタイミングを見計らったかのように、碧生の足元で、黒猫は一言、ニャーと鳴いた。

「あら。あらあらあら」

 まるで何かの呪文のようにそんな言葉を繰り返しながら、鈴菜がしゃがみ込み、黒猫の頭を撫でると、猫は嬉しそうにゴロゴロと鳴いて、甘えるように鈴菜にも擦り寄った。

「この猫を飼いたいって事?」

「……なんかなつかれちゃって、ダメかな?」

 窺うように言いながらも、この様子ならなんとかなるのではないか、碧生は少し楽観的になっていた。

「この子を飼う、なんて無理だと思うな」

 鈴菜の口元には、少し自嘲するかのような笑みが浮かび、碧生は一瞬違和感を覚える。だがすぐに鈴菜の言葉は碧生の『飼いたい』という提案の否定なんだと思い、反論した。

「なんで? ちゃんと面倒なら俺が見るし……なんだったら小遣い減らしてもらってもいいし」

 そこまで口にしながら、何故だか自分が少しムキになっていると感じる。それは普段、自分に甘い鈴菜の、予想外の否定の言葉にカッとなってしまっているのかもしれない、とも頭の隅では考える。

「んー、そういう問題じゃなくてね。どっちにしてもうちにこの子を長居させる事はできないと思うけど……」

「なんだよ、それ。わかるように説明しろよっ……」

 碧生がそこまで口にしかけた所で、黒猫は碧生の足元を、わざとすり抜けるようにしてからその場から離れ、玄関の外へと向かう。

「おい……」

 思わず碧生が黒猫に声をかけると、振り向いた猫は、ニャー、とだけ鳴いてすぐに走り去ってしまった。

「大丈夫。あの子には帰る家があるのよ」

 ついて来られた時は少し困っていたくらいのに、自分の傍から居なくなった途端、なんだか少し寂しい気持ちになってしまった碧生に、鈴菜はそう声をかけた。

 そうなのだ、碧生だってそう思っていた。あの猫は人を怖がらない。きっと飼い猫なのだと。気まぐれに気に入った人間の後をついてきただけなのだろう。

 でも本当に? 本当にそういう意味で鈴菜は言葉を綴っていたのだろうか? 妙な疑問が頭をもたげる。思い出してみれば言葉の節々に感じる小さな違和感。だけどそれはどこから来ているのかわからなくて、考えるのも面倒になってきて、碧生は小さく首を振ってから、玄関に入り、ドアを閉めた。


     ◇     ◇     ◇



 何か見たいものがある訳でもないが、碧生は自室に戻るとテレビの電源を入れた。映しだされたのは毒にもならなさそうなバラエティー番組で、内容は頭には入ってこず、ただ眺めるだけだった。

 そしてゆっくりと、買ってきたカップアイスを食べ終えると、空になった容器とスプーンをコンビニの袋にいれ、袋の手提げの部分で結び、ゴミ箱へと放り込んだ。


 ――そろそろ寝ようかな。


 暫くしてから碧生は立ち上がると、テレビの前まで行き、直接電源ボタンを切った。部屋の中は静かになり、壁掛け時計の針は十一時二十五分を指していた。


 カリカリ。


 そんな時、どこからか、なんの音かわからないが、聞こえた気がして、碧生は見慣れた自分の部屋をキョロキョロと見回した。

 するとまたカリカリ、と音が響いてきて、それは窓から聞こえた物だと気づく。

 小首を傾げながらカーテンを開けると、窓の下の方からやはりカリカリと音がして、そちらに首を動かせば、闇の中に大きな金色の瞳が浮かび上がっていて、よく見れば溶け込んでいた黒猫のフォルムが浮かび上がってくる。

「え? あれ?」

 不思議に思いつつも窓際まで来た碧生は、窓の鍵を外し、窓を十数センチ程開けた所で黒猫はスルリと部屋の中に入り込む。ワンテンポ遅れて碧生が猫の動きを追えば、ベッドの上にちょこんと座っていた。

「お前、なんだよ、家に帰ったんじゃかなったのか?」

 碧生が少しの驚きを抱いたまま、ベッドに近寄ると、まるで碧生のスペースを用意したかの如く、黒猫はベッドの端に移動した。

「……えーと……」

 そう言いながら碧生が手を伸ばし、猫を抱え上げても、おとなしいものだったが、窓の傍につれていくと、碧生の腕の辺りを蹴って床に降り立ち、再びベッドの上に飛び乗る。そして、ここから出る気はないと主張するかの如く、黒猫は丸まって寝る体制を見せた。

「……しょうがないなぁ、お前、ここで寝てくか?」

 左手は腰にやり、右手で頭を掻きながら、碧生が溜息をつきながらそう言えば、猫はまるで返事をするかのように、ニャー、とひと声、鳴いた。

「んだよ、現金な奴だなぁ」

 碧生は呆れたように小さく溜息を着くと、苦笑いを浮かべた。



 - 黒猫と告白 end -


ちょっとあとがき


まあ、まりあの正体とか、皆さまわかってますよね…と思いつつ、今はやはり特に触れませんが。

黒猫にはじまり、黒猫に終わる章でしたね、タイトルにも黒猫が入ってるから当然なのかもしれないですけども。

個人的には碧生くんと黒猫が一緒に寝ちゃうのはそこはかとなくえろい気になってます、ごめんなさい、バカですか…。

一般向なんですけど、ネタ的にちょいえろい話かもしれない…けど所詮R15にする必要性も感じないレベルです。

まだ本格的に出さないといけないキャラも居ますし、次からちょっとづつお話動かしたいと思っています。

よろしくお願いしますー。

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