#01_目覚め
暗い。
目を開けているつもりだが、何も映らない。
自分はなぜこんな所にいるのだろうか。
頭がぼんやりするが、体があるのは感じ取れる。
しかし指を動かそうとすると、まったく反応してくれない。
指だけじゃない、体全体がまるで鉛のように重い。
どうにかして体が動かないものかと試行錯誤していると、嗅ぎなれない匂いがする。
いや、本当に知らないのかと疑問が頭をよぎる。
知っているはずだ、なぜなら彼女達は…。
彼女達とは誰のことだ。
そもそも自分は誰なのだろうか…。
名前…名前は……鳴神英輝…。
うん、確かに、これが自分の名前だ。
女神に霊体を魂ごと砕かれてしまい、本来は全てを初期化されるところを免れた。
しかし魂の殆どは初期化されて、転生先である世界に放り込まれたはずだ。
その魂に引っ張られるように…自分もこの世界にやってきた。
では、この体は転生した来世の自分なのだろうか。
来世の自分を乗っ取ってしまい、今の自分がいるのだろうか…。
自問自答していると見たことのない光景が頭の中に蘇る。
漆黒の大剣、浅黒い肌、金髪碧眼の青年を持っている刀で攻撃している自分。
時折、目端に写る銀色の狼や、漆黒の全身鎧に身に付けている人?
そして黄金の鱗と翼を持つドラゴンが青年を追い詰めていく。
青年も負けじと強力な魔法を放つが、自分の刀で魔法がかき消されてしまう。
自分を逸れた魔法は地面に巨大なクレーターを次々と作っていく。
聞いたこともない言葉を交わす自分は相手のスキを見つけて突きを放つ。
刀に纏った青白い光が相手が纏っている赤黒い光を切り裂き、心臓を貫く。
相手が事切れたのを確認して、刀を何もなかった空間に出てきたアイテムボックスに入れる。
翼が傷ついていたのか、ドラゴンが足元に降りてきた。
安心した矢先に、地鳴りが起きて大地が裂けた。
遠くなっていく空が最後に見えたところで頭の中にあった映像が終了した。
来世の自分の記憶なのか…いや、記憶とはとても呼べない。
というか、アイテムボックスって何だ?
まったく実感がない…自分の目線で撮られた記録映像を見ているようだ。
うん、記録と呼んだほうがしっくりくる。
この記録を頼りに、今の自分の状況を整理しよう。
…………
………………
……………………ファンタジーだ。
全ての記録を確認したわけではないが、あまりにも現実感がなく受け入れるのに苦労した。
ともかく灯りの代わりになる術を見つける事が出来たのは幸いだ。
地球にいたころに父親から受けた言葉なければ、既に思考を放棄していただろう。
『歩みを止め、思考を放棄した者を私は人間とは認めない』
就活に失敗した自分は抜け殻のような状態だった。
当時の自分にはきつい言葉だったが、物事に対して考え続けることが出来たのは父親の言葉のおかげだろう。
この状況は強引に推理するしかないが…女神の力と魂が欠けていた事が影響しているはずだ。
来世…つまり二度目の自分は先程の映像の後に死亡した…もしくは女神が言っていた『初期化』したのだろう。
繋ぎにしては大量の血を魂に注いでいた…なにかしらの影響はあるべきと考える。
そして欠けていた魂が今の自分…三度目の英輝のはずだ。
検証する術も確証を得る手段もないが、この線で進めていこう。
では『再設定』とは………………あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
あ、頭が、頭が割れるように痛い!?
無秩序に頭の中に情報が流れ込んでくる。
体がまともに動いたのならば、転がり回っていただろう。
停止、ストップ、設定終了!!
情報の氾濫を停めるために頭の中で停止の言葉を投げかける。
三度目にして一致したのか、痛みがなくなっていった。
やはり女神の力が自分にも宿っている。
痛みで全ての情報を把握できなかったが、おそらく条件指定していないためだ。
パソコンの検索処理と一緒だと思えばいい。
頭の処理能力を超える情報が流れ込んできたのだろう。
二度目の自分の情報を元に再度、再設定と念じてみる。
すると意識の中に痛みを感じないほどの情報が流れ込んできた。
この世界には様々な職業が存在し、ジョブに応じた能力補正とスキルが神の力で宿るという。
スキルには様々なモノがあって、その中で今の自分に必要なスキル『鑑定』を条件に再設定と念じてみた。
全鑑定、人物、武器、防具、道具…様々な鑑定スキルがあるが、ここは全鑑定が無難といえる。
意識をスキルに集中すると全鑑定の内容が頭の中に浮かぶ。
全鑑定…この世のあらゆる事に対して疑念と用心をしていた者に発現するスキル。
使用条件は鑑定と念じればいい。
………うん、実にファンタジー。
むしろゲーム近いのか…スキルは頭に浮かび上がったモノを修得と念じれば自分のモノとなる。
全鑑定を修得した後、一度外して、再度修得…可能だ。
次に武器、防具を修得しようとしてみたが得ることが出来ない。
いくつかパターンを検証してみたが、やはり一つしかスキルを修得できない。
ならば全鑑定でいいだろう。
スキルの取得数は千差万別。
ジョブのレベルを上げればジョブ以外のスキル取得数が稀に増加し、能力補正の熟練度が増せば強化される値も大きくなる。
これは過去の記録から確認済みだ。
続いて自分の状態を確認してみる。
この世界には行ってきた行動、自分の存在証明とも云うべきステイタスが存在する。
他人が見るためにはスキルが必要だが、自分で見る分にはスキルは必要がない。
どうやって確認するかは簡単だ。
特定の言語を念じることにより、脳内に板状の物がイメージ表示させる。
ただそれだけだ。
『ゲノムカード・オープン』
氏名はヒデキ・ナルカミ、性別は男、年齢は15歳。
種族、人間族、メインジョブ、人間Lv1、サブジョブ、なし
スキル、全鑑定、ログ情報、なし
予想が的中しているのが確認できたところで、メインジョブの人間を詳細表示してみる。
熟練度、力、耐久、器用、敏捷、霊力、魔力は全てI。
他のメインジョブは修得していないとなれば、サブジョブもないのが頷ける。
メインジョブはレベルが上がるほどジョブにあった熟練度が上昇する。
複数のジョブを付けることが出来るが、先頭以降のジョブは種族ジョブ以外、熟練度全てのランクが一つ下がる。
三番目は熟練度全てのランクが二つ下がる。
最低はIで止まるが能力補正は雀の涙程度で期待することは出来ない。
サブジョブはメインの時にあった能力補正がなく、スキルのみが使用することが出来る。
逆にメインとは違って、付ける数は個人差が生じる。
種族ジョブのレベルが上がれば稀に増加する。
体力は元々の体力に耐久が反映、スキルを使用する際に必要な精神力は魔力、霊力が反映される。
ログ情報とは生きてきた経緯ではなく、何を殺して生きてきたかを示すものだ。
魔物はもちろん、あらゆる種族の殺害履歴が残る。
カードの情報を見るかぎり、やはり初期化されている。
二度目の自分は10年に渡り、祖父から戦闘技術の修行を積んでいた。
しかも最初に修得したメインジョブは、彼女との出会いによって発現したのだ。
魔獣使い。
最初に嗅いだ匂い、そして頭の中に映った銀色の狼達。
彼女と呼ぶのは魔獣だって性別がある。
三体とも雌だった。
状況確認はこのくらいでいいだろう。
祖父から学んだ『魔装』を行う。
魔装は魔力を体外に出して操作して装う技術で女神の再設定には存在しない。
神が用意したスキルではなく人間が編み出した技術だからだ。
記憶はなくしても、体に染み付いた技術は初期化されていないようだ。
自分としては初めての経験だが問題もなく使用できている。
赤黒い光――魔晄が自分を中心にゆっくりと辺りを照らしていく。
魔力が視認できない人は、先程と変わらない暗闇の中だ。
最初に理解できたのは、ここは光の届かない洞窟の中だということ。
落下してきたときに地下空洞にでも落ちたのだろう。
空気が気になるほど澱んでいないのは外と繋がっているのだろうか。
だが、そんなことは必要になった時に考えればいいのだ。
今の自分に未来があるかどうかも怪しい。
魔力の働きに気付いたのか、同じ場所に落ちていた彼女達がこちらを凝視していた。
鑑定スキルを使用した自分は背中などに冷や汗を流していた。
子供の頃に出会った彼女達につけた名前は今の自分でも判る。
銀色の狼…魔獣・銀狼種のシルファン。
漆黒の全身鎧…魔獣・魔鎧種のエイミー。
黄金のドラゴン…魔獣・天竜種のティアン。
だが鑑定で見える彼女達のステイタスには名前がない。
種族レベルすら1になっていた。
つまり彼女達もまた自分の影響で初期化されているのだ。
く、喰われるかもしれない………。
熟練度の設定を変更して、種族ジョブはランクが下がらないようにしました。




