#15_エルシア参戦とロミーナ初実戦
「おや? ヒデキ、君一人かい?」
以前、連れてこられた応接室で待っていると、アベルが一人でやってきた。
エルシアの引渡しではなく、ミリアリアと呼ぶエルフの少女の話か。
「ちょっとした事があってな。それで昨日のエルフの話だが…」
「もちろん、その話もするが成否を確認してもいいかい…内容によっては僕も考える必要があるのでね」
「…他言無用だ」
「…言いふらす気はないよ」
アベルなりの奴隷商人の流儀があるのだろう。
儀式と称してロミーナを嬲り者したのではないかと疑っているのかもしれない。
性魔術、房中術の事をインターネットで得た説明を交えて話て見た。
「…とまぁ、そんな感じでロミーナは喋れるようになって、眼もグリーンに戻った」
「ほぉー。不思議な話だが、何とか医学的な流れを構築できないか?」
「さぁな。医者がどんな治療をしてるか知らんし。そもそも感覚でやっているから…教えるのも無理」
「そうか…」
なにやら考え込むアベルに嫌な未来を視た気がする。
「また、何かよからぬ事を…」
「違う違う…それほど変な事を考えてばかりじゃないよ…気になる話を思い出してね」
「それほどねぇ…で気になるとは?」
「実は奴隷オークションとは別にある奴隷商人が大会を開いているんだ。
ああ、オークションは年に四回程やっているよ…次回は二の季節、一の月だね。
それで大会の話だが…実は混合同一が九年連続優勝してるんだ…」
季節とか月とか分からんのだが…後でエミリアに聞こう。
ハイブリットって何だ? 地球で言うハイブリットなのか?
「ハイブリット…混合と関係があるのか?」
「稀に生まれるダブルから、更に稀に誕生するのがハイブリットだよ。
大会に現れるまで伝説だったんだけどね…ダブルが病弱ならハイブリットは化物だね。
で、ダブルを治療できるなら、ハイブリットも作り出せるんじゃないかと…ね。
出現時は六歳…先程の仮説が正しければ、人体改造は重罪行為だ」
この国…奴隷の保護を手厚くしてるが、生死不問の件もあるし…人道的なのか、非道なのか分からん。
「それよりも、ミリアリアの話じゃなかったのか?」
「そのつもりだったが、もう必要ないかな。ロミーナを買い取るくらいだし」
「つまり『ハーフエルフ』とは他種族のダブルに値するってことか」
「そういう事だね。あっ、違いもあるよ、エルフの種族特性を持っているからね」
「その辺は気にしてないから。あとは本人と会ってからだな」
「そうだね。それじゃ、エルシアを連れてくるよ」
アベルが出て行って、少し経った頃、ドアがノックされる。
返事をすると、ゆったりとした膝丈まである上着…チェニックにズボン姿の女性が入ってきた。
エミリアと同じようなバッグを手に持っている。
「お久しぶりです、旦那様。…妹から旦那様と呼ぶようにと言われたのだけど、よかったかしら」
「久しぶり。そうだな…エミリアと同じように呼んでくれ。どこまで聞いている?」
「旦那様の名前と、連れている従魔の名前くらいね。あの娘、何を聞いても答えてくれないから」
「それは、俺の指示だ。最初から情報を得た後だと驚きに欠けると思ってね」
その後も幾つか会話を続けていたが、エルシアが訝しむ表情をした。
「…この喋り方に疑問はないの? 奴隷としては礼を欠く感じにしているのだけど?」
「行き過ぎないように気をつけてくれればいいさ、エミリアの様に最初から緊張されても困る」
「そう…分かったわ、旦那様」
頭の中に緊張している妹の姿を思い浮かべたのか、くすりと笑った…その仕草だけでも絵になる。
やはり美人だな、エミリアやロミーナとはタイプが違う。
「じゃあ、行こうか。宿にエミリア達が戻っているかもしれない」
「ええ」
前回と同様にアイテムボックスに荷物を入れて応接間を出る。
やはり前回と同様にアベルが待っていた。
「やぁ、そろそろ戻るのかい?」
「ああ。次は明日だな」
アベルとは翌日の予定を確認して、商館を出る…大通り向かいながら、これからの事を考えないと。
あの宿屋のベッドは大きいが、さすがに大人四人は無理がある…二名小さいからなんとか…。
「…旦那様。明日も商館に用があるの?」
じっと黙っていたエルシアが声を掛けてきた…少し視線がきつい気がする。
商館=奴隷だから、即座に新しい奴隷を手に入れるつもりなのかと思われたかもしれない。
実際にその通りなのだが。
「明日はミリアリアってエルフ少女の交渉をする。
本来はエルシアの後方支援と考えていたんだが、エミリアの状況次第では用途が変わるかもな」
こちらの返答が意外だったのか目をパチパチとしていた。
「…待って、待って旦那様。私の後方支援も驚きだけど、妹も…エミリアも戦いに出てるの?」
「本人の意思だ。彼女自身が覚悟を持って挑んでいる」
「そう…あの娘が…」
何かを考えているのか、エルシアが黙り込んでしまった。
宿のフーリア亭に到着して女将に挨拶してみると、珍しく引き止められた。
「昨日、エミリアちゃんから頼まれてた件だけど、返答がきたよ…是非とも来てくれってさ。
明日の夕刻にポータルの北ゲートで待ってるってさ…あたしが言うのもなんだけど…大丈夫かい?」
「まぁ…なんとかしてみますよ。実際に住むかどうかは確認してみてからですけど」
「そうかい。うまく行ったら、当日の宿泊費はサービスするよ」
「その時はお願いします。ところでいつも使っている部屋の隣って空いてます?」
「すまないね、もう客を通してるんだ。階下なら空いてるけど、どうする?」
「一度確認してからにします。食事を二人分追加してください…幾らですか?」
「…760セシルだよ。銅貨の釣りを出すかい?」
「いえ、銀貨7枚と銅貨60枚です」
鍵が出てきたという事はエミリア達はまだ戻ってないのか。
エルシアは疑問に感じていたのだろう…階段を上っていると、質問をしてきた。
「旦那様、質問があるのだけど…よろしいかしら?」
「どうぞ…ああ、食事を二人分追加した事なら、一つはエルシアの分だよ。
もう一つはエミリアから紹介を受けてくれ」
「あら…こんな高級宿で奴隷に食事をさせるなんてお優しいのね。
では、頼まれていた件とは何かしら」
「先程の女将…じゃなくて、女主人の弟がポータルの町で家の売却をしてると聞いてね。
エミリアに紹介状を書いてもらうように頼んだんだ…俺は別件で忙しかったからな」
ドアの鍵を開けて、寝室に入る…エルシアの荷物を出して、床に置いておこう。
おっとエルシアに床に座らないように言っておかないと…!?
「…んん、んふぅ…、ふふふ…こういった事はお嫌いかしら…んん!?」
「…ふぅ。まさか女性に押し倒される日が来るとは思わなかったな」
振り向いた途端、エルシアにベッドに押し倒された…更にいきなりディープとは。
驚いたのは一瞬で反撃をしておいたが、この娘…思いっきり慣れてる!!
「さて…この体勢はどういった事か聞いてもいいか?」
「一つ勝負を致しませんか、旦那様。
私が勝てば、妹を…エミリアを戦いに連れて行くのを止めて頂きたいの」
「姉の思いやりか? 俺から命令する気はないぞ…勝てばエミリアの説得を容認するよ。
俺が勝った場合は…」
◆
場所は変わって大岩にある温泉施設に移る。
漸く身体が動くようになった二人の少女は、浴槽から上がり着替えを行っていた。
ロミーナの体も時間が経つにつれて、普通のドワーフ並に動けるようになっている。
「…はぁ。なんと云うか凄いのです、ご主人様は…」
「そうですよ。凄いんですよ、旦那様は」
同じ主人の奴隷になったロミーナに、エミリアの口から内緒話指定された話まで聞かせていた。
曰く、喪失者となったその日に数十倍のレベル差がある盗賊を粉砕した。
曰く、いともたやすく戦闘系ジョブを一般獣人レベルの自分に発現させた。
曰く、最終的に四名の中で一番魔物に群がれたが傷一つなく数百の魔物を退治したなどなど。
現実離れした話ではあるが、誰もが見捨てるしかない『ダブル』の自分を救ったのは渦中の人だ。
きっと本当の話なのだろうと思ってロミーナは受け入れていた。
「衣食住も心配する必要はないですよ、ロミーナさん」
「…エミリアさん、私の事は呼び捨てで構わないと思います。
年は一つ上ですが貴方は統括の立場を持っています。
そ、それに身勝手かもしれませんが、私は…その…と、友達と思ってもいいですか!?」
「…では、私の事もエミリアと呼んでください。私もお友達には呼び捨てで呼んで欲しいです」
笑顔を浮かべたエミリアが握手を求める…ロミーナも瞳に涙を浮かべながら手をとった。
「エミリア…私もご主人様に連れて行って頂けるよう、頼んでみようと思うの」
「一緒に頑張りましょうね、ロミーナ。でもその前に…前髪を切りましょう。
旦那様も仰っていましたが、隠すのは勿体無いですよ」
「そ、そうかな。………エミリアの方が可愛いと思うけど…」
「そ、そんなことは…あっ! ロミーナ、姉さんには気を付けてください。
姉さんはりょうち…こほん。村で可愛い女の子とみれば手を出し、お姉様と呼ばせる淫魔です。
男性が嫌いではなく、興味を持てないようでしたが…ま、まさか…いけません、旦那様が危険です!」
主人の従魔であるシルファン達に移動魔法を要求するエミリアの背を見ながら、ロミーナは呟いた。
「………淫魔ってなんだろう?」
◆
ベッドに裸のエルシアが倒れ伏す…荒い息をしながら、身体を起こす事が出来ないようだ。
「ハァハァ…ハゥ…こ、こんな…こんな事が。私が負けるなんて…」
「ハァハァ…これで…勝負は俺の勝ちだな。賭けの条件は守ってもらうぞ」
さすがに体力がきつい…朝から何度目だろうか。
エルシアの横に倒れこんで仰向けになったら、こちらに体を寄せてきた。
「フフフ…すごいのね、旦那様。ここまで男性に興味を持ったのは初めてよ」
「光栄だな…それで守る気はあるのか?」
「ええ、貴方の元にいる限りは守るわ。フフフ…だって自分を買い戻す気が失せたもの。
だから『自分を買い戻すために無茶はしない』の条件は絶対に守るわ」
「それを聞いて安心したよ。昼まで寝るから起こしてく…れ…」
「はい…私の旦那様…」
どのくらい時間が経ったのだろうか…身体の調子は既に完全回復している。
寝る直前に魔獣使いの『リンク』を体力回復量にセットしておいてよかった。
意識がはっきりしてくると、左右の胸板に重みが、左足にも誰かいる。
目を開けば裸の美少女達が自分にしがみついて寝てる…何を言っているのかわからねーと思うが…以下略。
「あ、起きられましたか、旦那様」
いち早く反応したのはエミリアだった…寝ていたのではなく、目を閉じていただけか。
「…この状況は一体…」
エミリア曰く…。
シルファン達と共に帰ってきた一行は、部屋の鍵がかかってない事に気付いて突入した。
ベッドで寝ている裸の自分と姉の姿を見て、口論になった。
勝負に負けて無茶をしないと約束したので冒険者をやめろと説得された。
幾度かの応酬で姉を説き伏せ、ロミーナと友達になったなど世間話をした。
部屋を別にとる話が出てきたので…。
「…実際に寝てみようと提案が出たので皆で位置取りを決めていました」
「なるほど…」
既に全員が着替えを済ませて、自分は椅子に、女性三名はベッドの端に腰掛けている。
ロミーナはエミリアの冒険者服、俺の皮装備一式を『防具整形』で調整して着てもらった。
攻撃など当たらないと言って、エルシアは普通のチェニックとズボンだ…一応、皮の盾を渡した。
エミリアは普段通りだが、姉に太ってみえると言われて剥れている。
「…本当にやるんだな、ロミーナ?」
「はい…。この命、ご主人様の為に使いたいです」
「ならば、絶対に無茶はしない事だ…俺の為に命を使いたいならな。
あと髪を切ったんだな、似合ってるぞ」
「ありがとうございます、ご主人様!」
ロミーナの前髪は眉の辺りで横一直線に切られていた…ドワーフの女性の伝統的な髪形らしい。
首の前で髪を纏めているのは髭代わりだとか…ドワーフの女性は髭が生えないそうだ。
既にエミリアの前例がある為、断りにくい。
まぁ…新しいジョブがあることも確認できたし、丁度いいか…フィールドの魔物の数にも限りがあるし。
宿の食堂で全員分の昼食を頼み、食事の後に冒険者ギルドに行くと冒険者達が酒盛りをしていた。
エミリアを見慣れた冒険者が、今度はエルシアに目を移す…逆にエミリアはほっとしていた。
掃討戦終了の打ち上げのようだ…普段の安酒よりも一段上を頼んでいる人が多い。
酔っ払いに絡まれないようにシルファン達に睨みを利かせて貰い、受付に到着。
運良くアザリーさんが担当になった…というか、他の職員が怖がっている…派遣職員だろうか。
「あら、ヒデキさん。今日は随分とおそ…いえ、大所帯になりましたね…」
「はぁ、まぁ、なんと言いましょうか…色々ありまして。エルシアとロミーナです…登録をお願いします」
「なるほど、彼女がエミリアさんの……はい、登録は完了しました。ようこそ、探索・冒険者ギルドへ」
「ありがとう」
「こ、これからお願いします」
男の視線など何も感じないエルシアがアザリーのみに反応した。
大勢の人がいるのでロミーナは萎縮しているようだ。
「ところで魔物討伐クエストってまだあります?」
「ダンジョンに行かれないならありますよ…新入りさん用ですか?」
「そんなところです。北に行こうと思うので、クエストは関連したので」
「はい、お任せください………はい、登録完了です。頑張ってきてくださいね」
アザリーの見送りを受けてギルドから出ると酔っ払いが騒ぎ出した。
多いのは「この世の中は間違っている」や「神は死んだー」などなど。
「なぜロリッ娘が奴ばかりに!!」など少数ながら危ない奴がいるようだ。
『ゲート』を使用してお馴染みの大岩の前に到着、さて…何体魔物が必要だだろうか。
一通り、鑑定を行ってジョブ数を確認する。
自分とエミリアで合計二体、エルシアは獣戦士、獣剣士があるから四体。そしてロミーナは…。
メインジョブ 冒険者Lv1、従者Lv1、ドワーフLv1、ドヴェルグLv1のサブが鍛冶師Lv5
必要な魔物は六体か…と、いうか、もう従者があるのか早いな。
種族ジョブが二つあるのは小源を分けた影響か、『ダブル』の所以か。
鍛冶師の固有スキルは『鍛治錬成』だったか…銅板って買い取って貰えるのかな。
前回同様に線を引いて、魔力を放つ…ロミーナが驚き、エルシアは特に変化は見当たらない。
「エミリア、説明はしたと言ったな?」
「はい、姉さんは宿で、ロミーナには休憩している時に伝えました」
「わかった…これから魔物を集めてくるから、三人は暫く待機な。
一通りの武器は置いておくから、手に馴染むか確認してくれ」
ショートソード、ロングソード、エイミー製太刀や短槍、鉄の籠手などの武器各種を置いておく。
ついでシルファン達のジョブも発現させてしまおう…魔法使いや魔術師なら簡単だろう。
魔術、魔法の発動を見せて、魔力の流れを知れば、本人の好みはあるが高位の魔獣は使用する事が出来る。
「…私はショートソードかしらね。慣れているし…」
「わぁ、この太刀凄いです。これが魔鎧種の武具生成…」
アイテムボックスから盗賊ゼガンが持っていたバトルアックスを取り出す…使うのは初めてだ。
まずは素振りから、しっかり地面に足を付いて…上段からの振り下ろし、横薙ぎ…身体は問題ないか。
ついでに盾もエイミーから借りている…ウォーリアナイフを三本進呈した。
「旦那様、斧を使うのは初めてみますね…あっ!? この武器は…」
「気付いたか? 盗賊が使っていたやつだ。ちょっと斧を使う人を見たのでな…試しだ」
エミリアと話していると、茂みからゴブリンが現れたが…爆音と共に地面に倒れる。
まずはシルファンが『ファイアーボール』を無詠唱で放ったか…ティアンが『ウォーター』で消火してる。
全員、突然の魔法に驚いていた…きちんと手加減をしてくれたようだ、ゆっくりとゴブリンが起きた
「おいしょ…」
頭をかち割るように上段から振り下ろす…絶命して魔石とゴブリンナイフになった。
これで発現していなかったら斧術スキルをつけないといけないが…よし、あった、斧術士だ。
斧術士…固有スキル『トマホーク』
斧術で戦いに挑んだ者に発現するジョブ。
斧術、槌・鎚術など戦闘スキル系が備わっている。
爆音に気付いたのか、この周囲にいたゴブリン達が集まってきた…全部で八体。
余裕の表情のエルシア、緊張気味だがエミリアは槍をちゃんと構えている。
初めてだろうからロミーナが慌てているのはしょうがない。
「全員、陣の中で戦闘を開始しろ。数が一体になったら囲んで待機!」
ロミーナの背後から一体のゴブリンが襲い掛かってくる。
槍術士の盾術で防御、相手の体勢を崩して魔装化ショートソードで切り伏せる…よし、瀕死状態だ。
そんな僅かの間に元気な奴は三体になっていた…他のはスキルを使ってないのに瀕死状態だ。
今度はティアンが魔法を使い、シルファンが魔術を使っていた…念の為、スキルを使用しておこう。
エイミーは太刀で峰打ちをしている…おお、魔法を刀に纏わせてるよ! あ、魔術で消火した。
鑑定にも次々と新しいジョブが発現しているのが分かる…無いよりはいいよな。
言うだけの事はあるな、エルシアは遊んでいる…全く無駄の無い避け方だ、相手の動きが分かるのか?
体捌きは特に武術を修得した動きではない…すごく自然な動きでゴブリンの攻撃を避けている。
避けているだけではない、一つ避けるたびに相手を斬りつけ、ゴブリンは既にボロボロだ。
気になるのは身体を纏う赤黒い靄――魔力量が盗賊ブライアンよりも遥かに多い。
ゴブリンの魔力壁では全く攻撃を防げていない。
「まぁ、森にいるゴブリンなんて…こんなものね」
「エルシア、こいつへの攻撃はそこまででいい。後は俺のスキルで…これで、よし」
「これは…瀕死状態を維持してる…のかしら?」
「ああ、あるジョブの固有スキルだ」
さて、エミリアは…「やぁ!」…おお、レベル1とはいえ、一対一でゴブリンを押している。
「…ちゃんと戦えている。…本ばかり読んでいた、あの娘が。頑張っていたのね、エミリア」
「とはいえ、倒されると探すのが面倒なので…エミリア、下がれ!」
「はい!」
既にこの戦いの意味を知っているエミリアは、躊躇無く後退する…入れ替わるように攻撃して瀕死状態。
残り一体はシルファン達に囲まれて、逃げようとしても逃げれない。
「『アースバインド』…よし、これでいいか」
地面が隆起して残っていたゴブリンを覆う、頭部だけを出して土に埋まっていた。
必死に暴れているが抜け出す事は出来ないようだ…その間に瀕死のゴブリン達を一列に並べておく。
「エルシア…弓の扱いは?」
「経験はあるけど、ジョブは発現してないわ」
「ロミーナは…おーい、帰ってこーい」
「大丈夫ですよ、ロミーナ。もう終わりましたから!」
「…は、はい。もう大丈夫です」
初戦闘を終えてもロミーナのパニックは収まっていなかった。
自分やエミリアの声を聞いてようやく戻ってきたか…まぁ、焦る必要はどこにもない。
「エルシア、ロミーナ、自分のゲノムカードを確認してくれ。
弓術スキルがあれば弓矢を持って、各自一体を仕留めてくれ」
「…本当に、こんな事が可能なのね」
まだ妹の話を完全に信じてないのか訝しむエルシアだが、驚きの表情をした。
ロミーナは素直に信じて弓を構え、矢を放つ…よし、ジョブが発現した。
エルシアも続いて、ジョブを発現させる…残りの魔物も前回と同じように狩ってもらった。
その間に来た魔物も瀕死状態にする。
「体感してもらったから分かると思うが…女神像や秘術の事は他言無用だ」
「ええ、喋りません。…レベルは低いけど五年の経験が、短時間で覆されるなんてね」
「大丈夫です、ご主人様の秘密は喋らないです」
魔法や霊術関連以外で魔物との戦いで得られるジョブは、騎士以外を全て修得させた。
さすがにロミーナに騎士を得させるのは酷か…まずは姉妹から始めてもらおう。
拘束したゴブリンの周りに『アースウォール』で土壁を作って、趣旨を説明する。
「さて、これから二人一組で防御の練習に入る。槍術士の盾術スキルを使用して前衛に。
後衛は待機して前衛に守ってもらう事…ロミーナはさすがに怖いだろうから待機だ」
「あ、あの! …実はご主人様に報告したい事があります!
変わったジョブで、従者と云うのが発現してるんです。
それで固有スキルを使ってみたら、すごく身体が軽くなって、動きもよくなるんです。
こ、怖いけど…それを使えば頑張れると思うんです!」
「…聞いた事があるわね。
主人に敬愛してる人に発現して、固有スキルは主人の影響を受けて能力上昇するスキルよ」
「…そうなんだ、エンゲージってあったから、てっきり…」
姉の説明を受けて妹が何か呟いたが、よく聞き取れなかった。
ともかく、やる気があるなら試してもらうか。
「わかった…では、ロミーナは最後に行ってもらう。
エミリア、エルシアの順で始めてくれ…危険と判断したらゴブリンは倒してよし」
「はい、わかりました」
「ええ、わかったわ、旦那様」
土壁から滑り降りる姉妹に、壁をよじ登ろうとしたゴブリンが気付く…予想通り襲い掛かった。
盾術による防御を駆使して、相手の攻撃を弾いて防いで後衛に向かわないようにすると…発現した。
その後も順調に騎士のジョブが発現している。
「ロミーナ、後ろには俺が付いている…緊張してもいい、意識を手放すな」
「は、はい…頑張ります」
相手となるゴブリンは、攻撃されていないので疲れなどないようだ。
気力弾を作って、頭部にぶち当てる…よし、怯んだ!
「交代! いくぞ、ロミーナ」
「はい!」
エミリア達の後方にある土壁を崩して、姉妹の出口を用意する。
ゴブリンの体勢が整う前に滑り落ちて、ロミーナが前に出る。
怒ったゴブリンが闇雲にナイフを振り回し始めた…ロミーナが恐れて後ろに下がる。
「前に出ろ、ロミーナ。今回のジョブは前に出て後衛を守ろうとしないと発現しない」
「は、はい!」
こちらの声に答えるように、ロミーナが前に出る…今朝方まで弱体化していく身体だったのに。
普通の身体に生まれていれば、今とは違う人生を手にしていただろうな。
「よし、交代だ! うりゃ!!」
斧術士の固有スキル『トマホーク』を使用して魔装化ショートソードを投げてみる。
回転しながらゴブリンの頭部を切り裂いた剣は、一定の飛距離になると回転しながら戻ってきた。
ちょうど手の位置で回転してる剣の柄がきて、受け止める事が出来た…ブーメランかよ!?
「…よし、これで一通りのジョブは全員が発現できた。お疲れ様!」
「お疲れ様です、旦那様」
「お疲れ様。…納得いかないけど、出来てしまうものはしょうがないわね」
「はぁ、はぁ…。お、お疲れ様です、ご主人様…」
レベルが上がった為か、それとも慣れたのか、もしくは両方か…エミリアに疲れはみれない。
エルシアも疲れた様子はなく、レベルも低く、慣れていないロミーナは息が荒い。
「エミリア、三人で風呂にでも入っていてくれ…エルシアも結界を通れるようにしといた」
「わかりました…だ、旦那様は、その、どちらに?」
「俺達はちょっと別件で動く。全員のジョブは全て付けたから外には出ないように」
「え?…あぁー。…はい、分かりました。お気を付けてください」
移動魔法の『ゲート』先をダンジョンの二階層に設定して発動させる。
シルファン達に先行してもらい、エミリアに返答しながらゲートで移動した。
二階層の敵はレベル2のホーンラビットとウッドパペットの合計六百体。
階層主はフレイムラビットとストーンパペットだった。
「さすがに霊装の修行はシルファン達にしてもらう訳にはいけないし…こんなものかな」
一階同様に階層主を探して、その日の生成される魔物を全て相手をした…この階も宝は魔晶石だった。
ホーンラビットからはレアの角が二本、アイテムボックスに入れても大丈夫そうな毛皮と肉が二十個。
こんがり焼けたのが数十個、炭化したのが数知れず…ウッドパペットのドロップアイテムが木片とはな。
たまに棒状のもあったからレアなのだろう…階層主の石人形は…魔力を秘めた石だった。
フレイムラビットからは炎の角を手にする事が出来た! レア物ゲットだぜ!!
ジョブ詳細
ヒデキ・ナルカミ
・人間 Lv16、
戦士 Lv17、闘士 Lv 6、騎士 Lv 5、剣術士 Lv16、槍術士Lv 6、刀術士Lv6、斧術士Lv 5、
弓術士 Lv16、魔法使いLv 6、魔術師 Lv 6、霊術師 Lv 6、狩人 Lv16、探索者Lv6、冒険者Lv 6、
盗賊 Lv16、暗殺者 Lv16、賞金稼ぎLv 6、農人 Lv16、獣使いLv 6、薬師 Lv6、商人 Lv 6、
武器商人Lv 6、防具商人Lv 6、錬金術師Lv 6、魔獣使いLv17、英雄 Lv 7
シルファン
・銀狼 Lv17、
獣戦士Lv17、獣闘士Lv16、獣剣士Lv16、狩人Lv6、魔法使いLv5、魔術師Lv5、
探索者Lv 6、冒険者Lv 6、暗殺者Lv16
ティアン
・天竜 Lv17、
竜戦士Lv17、竜闘士Lv16、竜剣士Lv16、狩人Lv16、魔法使いLv5、魔術師Lv5、
探索者Lv 6、冒険者Lv 6
エイミー
・魔鎧 Lv17、
魔戦士Lv16、魔闘士 Lv5、魔騎士Lv17、魔剣士Lv16、魔槍士Lv6、魔刀士Lv5、魔斧士Lv5、
魔弓士Lv16、魔法使いLv5、魔術師Lv 5、探索者Lv 6、冒険者Lv6
エルシア
・狼人 Lv11、
獣戦士Lv10、獣闘士Lv5、獣騎士Lv5、獣剣士Lv6、獣槍士Lv5、獣刀士Lv5、獣斧士Lv5、
獣弓士Lv 5、探索者Lv5、冒険者Lv5
エミリア
・犬人 Lv7、
獣戦士Lv6、獣闘士Lv6、獣騎士Lv5、獣剣士Lv6、獣槍士Lv6、獣刀士Lv6、獣斧士Lv5、
獣弓士Lv6、探索者Lv6、冒険者Lv6、従者 Lv5
ロミーナ
・ドワーフ Lv5、
ドヴェルグLv5、
剛戦士Lv5、剛闘士Lv5、剛騎士Lv5、剛剣士Lv5、剛槍士Lv5、剛刀士Lv5、剛斧士Lv5、
剛弓士Lv5、探索者Lv5、冒険者Lv5、従者 Lv5、鍛冶師Lv7
感想、誤字脱字の指摘、ご意見などお気軽にお書きください。
読んで下さってありがとうございます。