#13_混合(ダブル)の少女と魔人族の少女+他二名
「お待ちしておりました、ヒデキ殿」
今日も商会で出迎えてくれたのはセドルさんだった。
アベルは王都で犯罪奴隷だけではなく、他の奴隷商人と商談があって明日には戻るようだ。
『ゲート』を使った郵便配達する冒険者から手紙が届いたらしい。
その中の一枚に自分宛の手紙もあった…読んでみて気になる所を要約すると三点。
一つ、犯罪奴隷のエルフを競り落としたとの事…アルベルト商会への引渡しは明々後日。
名前はミリアリア、精霊種、エルフ族、14歳、五十万セシル…彼女の詳細は会って確認との事。
幾つか注意点も書いてあった…エルフ族は12歳になると霊力側、魔力側に分かれて成長する。
霊力が強ければブロンド髪のハイエルフに、魔力が強ければダークブラウンのダークエルフになる。
エルフ全般で肌はきめ細かく、ハイエルフは色白でダークエルフは褐色の肌をしている。
これは種族特性が強く残っている時期…エルフなら長寿で繁殖力が弱い時期に絶滅を防ぐ為の対策だった。
時間の経過で種族特性が弱まり、短命、繁殖力が高まるなど人間の部分が強く現れるようになった。
絶滅する危険性が消えても過去の対策は残り続け、現代まで続いている…問題はここから。
ミリアリアはエルフ族…14歳なのにプラチナブロンドのエルフ族のままだった。
稀にいるらしく、どちらの種族にもなれなかった『ハーフエルフ』と呼ばれているらしい。
「…それでも、この商談を続けますかな、ヒデキ殿」
「別に俺は気になりません。そのまま続けてください」
「承知いたしました」
プラチナブロンドか…地球に居たときも大半の天然物は子供の時分だけらしいし、エルフもそうなのか。
色々似ているところもあるんだな、この世界も。
二つ、家を探してみてはどうかとの事。
ミリアリアを購入すれば奴隷は三人だから宿では生活が難しい。
フーリア亭の女主人の弟が、ポーレスの町で家の売却相手を探しているから紹介してもらえとあった。
前住人が魔導技術者兼人形師らしく恐れられているらしい…霊術を使えるから大丈夫だろうとの事。
三つ、エルシアを明日には引き渡せるとの事…。
「…あのセドルさん、エルシアが明日には引き渡せるらしいのですが?」
「おお、そうでしたな。現在は最終確認をしておりまして…見ていかれますかな?」
「邪魔をしちゃうのも悪いので、やめておきます」
明日は裏口ではなく、正面口から来て欲しいとの事。
ミリアリアは王都の収容所で一通りの教育は済んでいる…明々後日には一緒の生活かもしれない。
本気で家の購入を考えないといけない。
「それでは行ってまいります、旦那様」
「どうも今日が最後になるらしい…楽しんできてくれ」
「はい」
笑顔でこちらを見送るエミリアを背にして冒険者ギルドに向かう。
今日はエミリアもいないのでシルファン達は宿屋で休憩してもらっている。
ダンジョンの事を話すなら、時間をとられるかもしれないからだ。
「…なんだ? 随分と慌しいな」
ギルドにいた冒険者達が次々と東の門へと走っていく…人数は少ないが全員、鎧や武器を装備している。
もしかしたらダンジョンの入口が見つかったかもしれない…街道からかなり近かったし。
邪魔にならないように暫く待っていよう…!?
「…へぇ、お兄さん、面白い気配を感じるねぇ~」
最後に降りてきた長い金髪、碧眼の赤黒い肌を持つ少女…魔人族。
少女の後ろには同じように赤黒い肌、黒い長髪に頭に生えた二本の角のメイド服の女性…鬼人族。
フードや外套で隠しているが丸分かりの魔鎧種…しかも白騎士かよ。
「…っ!?」
思わず、腰の霊式短刀を抜いて対魔人族レベルの霊力を放出しそうになった。
「待った! 待った!!…未だにヤマトだと魔人族を見たら、斬れって教えられてるの!?」
「………ハァハァ」
「………」
危ない危ない、ここは町中だし…相手は反対方向に飛びのいて降参のポーズをとっている。
鬼人族の女性はかなり息が荒い、白騎士も剣こそ作成してないが、かなり警戒している。
「お兄さんでしょ、魔鎧種だけじゃなく銀狼種や天竜種を連れてる魔獣使い…ヒデキ・ナルカミさん」
「人の名前を確認する前に、自分の名前を伝えるのが礼儀だと思うが…お嬢さん」
「貴様!? お嬢様に対する無礼は許しませんよ! このヴァレリー家付きのメイド、アシュリーが…」
「やめなよ、アシュリー。そういった威勢のあるセリフは腕の鳥肌を消してからにして」
メイドの人――アシュリーが前に出ようとするのを押さえる魔人族のお嬢さん。
どうやら先程の霊力を感じ取れたようだ…さすがは鬼人族、すぐ収めたと思ったのだが。
「お兄さんは魔鎧種って気付いているよね。この娘の名前はディアーナ…私の従魔だよ。
私はリリム…リリム・ヴァレリー…見ての通り、魔人族だよ」
「…先程は失礼しました。私はヴァレリー家のメイド、アシュリーと申します」
鑑定をしてみると確かに名前は合っている…だが、それ以外が見えない。
自分の鑑定スキルが低いのか…それとも別の要因があるのか…。
「…確かに俺はヒデキだが、何か用だったか? えっと、ヴァレリーさん」
「リリムでいいよ、ヒデキさん。あっ、ヒデキさんって呼ばせてもらうね」
「わかった」
「ぐぬぬ…」
後ろのメイドが何やら文句を言いたそうだが…お嬢様命令が発動しているのか、唸っているだけだった。
「声を掛けたのは簡単。珍しい魔獣使いが…しかも同じ魔鎧種の黒騎士を連れてるんだもん。
お話したくなるよねー。…他意はないよ」
「そうか…あいにくとウチのは宿屋で休憩中だよ。ギルドに報告もあるし、話はここまででいいか?」
「オッケー、オッケー。私達も西に行かないといけないし、この町は休憩ついで寄っただけだから」
そのまま笑顔で分かれて西の門へと一行は歩いていく…気になる所は幾つもある。
あるにはあるが、藪をつついてドラゴンが飛び出してきても困るし、仕方がないだろう。
そのまま冒険者ギルドに向かおう。
「ヒデキさん、お疲れ様です! すみません、今は凄く忙しいのです!!
ダンジョンですよ! この町の傍にダンジョンの入口が見つかったんです!!」
「あー、はい、その事で…」
こちらと会話することなくアザリーが動き回っている。
「王都のギルド本部に連絡しなきゃ」とか「周辺のギルド職員に招集の連絡しなきゃ」などなど。
「おう、アザリー、戻った」
「あっ!? コンランドさん………随分早かったですね?」
「どうも狩られた後らしい、階層主が逃げ回っている。罠を張ろうにも人数が少ない。
一階層はゴブリン、コボルトだ」
自分の少し後から入ってきた獣人種の男――コンランドは毛深い顔を、これまた毛深い手で擦っていた。
鑑定には熊人族、38歳、獣斧士と表示された…まぁ背中にどデカイ戦斧を背負っているから分かりやすい。
報告に便乗させてもらうか…いつまでも黙っているわけにはいかないだろう。
「二階層はホーンラビット、ウッドパペットのようです。報告が遅れました」
「えっ!? それじゃあ、ヒデキさん達が階層主を?」
「なに? このフード被った奴が歪魔の招待と同時に階層主と魔物五百体を狩ったのか!?」
「コンランドさん、ヒデキさんは魔獣使いで話題の人ですよ」
別に話題に上げて欲しいなど思ったことはない。
紹介された以上、無視するわけにもいくまい。
「…よく他人から目付きで誤解されることがあるので、フードをしています…ヒデキ・ナルカミです。
魔物を倒したのは私ではなく連れの…うわぁ!?」
人が話しているのに勝手にフードを外したよ、この人!
アザリーさんがビックリして震えだした。
「………なるほどな。確かに、この目付き、この貫禄。誤解されてもしょうがない」
「ガクガクプルプル」
「………連れの者が倒してくれましたよ」
フードを戻しながら、一応最後まで言い切る…全く、貫禄ならそちらの方があるだろうに。
それとアザリーさんは震えすぎだ…女性は少ないけど普通に話せる人が増えたんだけどなー。
「えっと…とりあえず、ご無事でなによりでした。
それでは詳しい話や換金精算もしたいでしょうから、奥で伺います」
「そいじゃ、俺は逃げ回る魔物狩りでもしようかね。
坊主、ダンジョンに挑むならどこかで会うだろう…またな!」
「ええ、縁がありましたら、どこかで」
コンランドは笑いながらギルドを出て行った…無作法だが、気さくな人だ。
地球にいたころに読んだライトノベルに出てくる冒険者のイメージによく似ている。
アザリーの案内で奥の部屋に行くと…一緒に部屋に入ってきた。
「あれ、連絡とかで忙しいのでは?」
「ダンジョンの情報を聞き出すのもギルド職員の仕事ですからね。
このチャンスに仕事を押し付けてきました」
「なるほど…」
それからはアザリーにダンジョンに転移される前後の事を根掘り葉掘りと聞かれた。
質問に答えながら二百個以上の魔石やそれ以上のナイフを取り出していると、彼女の顔色が悪くなっていった。
確かに計算するだけでも一苦労だろう…前回の四分の一くらいでも待たされると感じたくらいだ。
気分転換に別の話題でも振ってみるか。
「そういえば、アザリーさんはポーレスの町は詳しいですか?」
「うん、知ってるよ。今でもそこに住んでるからね」
「えっ!? この町じゃないなら…移動魔法ですか?」
「そそ。こう見えても昔は冒険者だったのだよ…すぐ引退したけどね」
「才能がなかったからね~。でも時々魔物退治もしてるんだよ」としみじみ語るアザリー。
しかし思わぬ情報を収穫してしまった…この機会を逃すものか。
「丁度、その町に用があったんです。連れて行ってもらえますか?
移動魔法の代行商売なら出来るんですよね…銀貨一枚で」
「いいよ。今日は早く上がるし、日が落ちる頃に東の門のゲート前でいい?…明日からは地獄の日々が…」
「ありがとうございます」
「いえいえ。帰るついでですし、臨時収入もできてラッキーですよ。よし、報告書はこれで終わり」
「お疲れ様でした」
「それでは…これらを精算してきますね。このまま待っていてください…時間が掛かりますけど」
木で出来た台車を押して、アザリーが部屋から出て行った。
昨日の四倍、いや職場の状態を考えれば五倍は時間が掛かるかもしれない。
「…チャクラでも練習するか」
魔装や霊装の初歩練習を気力に置き換えて身体に装う…思った以上に性質が似ている。
記録から魔力、霊力の関係を知った時、何故人間の肉体は崩壊しないで安定しているのかと考えた。
最初は霊力で魔力を中和して消滅させていると思っていた。
だが、ある一定量の魔力と霊力が接触すると後にエネルギー爆発が起こる場面を何度も見ることがあった。
物質と反物質ではないが似たような………いや、所詮、自分は大学に行く学力もない高卒ニートだ。
考えたところで、ありきたりな答えしか出せないだろう。
「おそらく人間の身体が安定しているのは、この気力…『チャクラ』のおかげだろう。ならば…」
地球にあったファンタジーな力の使用方法が有効かもしれない…ダ○の冒険とか色々。
そんな妄想をしているとアザリーが疲れた顔で貨幣を持ってきた。
エミリアの迎えに行くまで三十分程か…少し早いが商館に行ってみようか。
「…旦那様、あの…」
「…なんか随分と暗い表情だな」
商館裏口のドアから出てきたエミリアは、昨日とは打って変わって暗い表情をしていた。
彼女の後ろからセドルさんが申し訳なさそうな表情をしている。
「申し訳ありません、ヒデキ殿。少々、彼女には酷な現実を見せてしまいました。
エミリアさん、奴隷とは主人の命を聞くことです。彼女の事は忘れなさい」
「…はい。わかっています」
最後の方は小声のため、こちらには聞こえない…失礼しますと言ってセドルさんが裏口を閉める。
後に残ったのは暗い表情をしたエミリアと元から暗い表情をした自分…いかん、空気が重い。
なんとかして雰囲気の打破しなくてはと考えていたら、エミリアから動いた。
「…旦那様、実はダンジョンで旦那様達が戦われている時、赤黒い光を見たのですが、あれは…」
「そうか、魔晄を見たか。あれは魔力が発する光で、エミリアは魔力を視覚できる様になった。
性魔術の効果が出始めたんだな」
「やはり、そうだったのですね! それなら! 旦那様ならロミーナさんを…あっ!?
も、申し訳ありません、旦那様。…出過ぎた真似を致しました」
何のことだろうと確認すると、エミリアは申し訳ありませんと繰り返すだけ。
先程のロミーナとは欧州煎餅…じゃないよな、奴隷商だし人名だよな。
性魔術からの話の流れで自分に頼みたい事があるとすれば女性…だよね?
さすがに頼まれて動く案件じゃない…女性奴隷購入なら数十万の金が動くし。
だが、しかし…。
「…となれば。エミリア、前に出した命令を覚えているか?」
「え? …はっ!? …わかりました」
突然のことに驚いたエミリアだが、キョロキョロと辺りを見渡して何かに気付いたようだ。
路上ではあるが、自分たちしかいない二人きりだと…。
「じゃなくて…合格だ。よく頑張ったな、エミリア」
「ありがとうございます、旦那様」
「さて、きちんと命令をこなせた褒美に、無茶な願い以外なら、何にか一つ言っていいぞ。
奴隷から解放して欲しいは無し」
「…えっ? …あっ!? …あ、ありがとうございます、旦那様!」
同じセリフでも感情の入った感謝のセリフだ。
どうか、高い奴隷ではありませんように。
「旦那様に会って頂きたい人がいるのです。では、さっそく商館へ…」
「商館へ行くなら勝手知ったる裏口からではなく、正面口から行くぞ。お客になるわけだしな」
「はい!」
商館の裏口から正面口に周り、守衛に奴隷購入を伝える前にセドルさんが現れた。
どうやら盗み聞きをしていたようだ…別に大きな声だったわけじゃないよな。
セドルさんの案内で向かったのは、上階にある奴隷女性用の部屋ではなく地下だった。
自主的な手伝いでエミリアが地下倉庫に向かった時、部屋を間違えてロミーナと出会ったと云う。
エミリアは奴隷に覚えさせる最低限の学習分を荷馬車の中で殆ど済ませていた。
商館についた初日から休憩時間などは彼女と会って話をしていたと云う。
彼女の異変を知ったのは今日…つまり魔力を視覚できる様になってからだ。
セドルさんが先に部屋へと入って何か言っているようだ…暫くして部屋に招かれる。
部屋に入る前から気付いていたが…ここまで酷いものなのか。
「なるほど…彼女が…」
「はい。ロミーナさんです」
「…は、初め、まして。ロ、ロミーナ…です」
喋りづらそうに言葉を発した見た目はドワーフの女性は、頼りなさそうに立っていた。
暗いので分かり辛いが黒紫色の髪にドワーフ特有の尖った耳。
前髪で完全に目や顔を隠して口しか見えない。
長い髪はゆるやかに二つに分けて首の前で一つにしている。
身長はエミリアと同じか…若干低いな。
胸の大きさは身長にあった大きさで巨でも微でもない。
胴や足の長さのバランスに文句は無いな。
「セドルさん、そこにある椅子を彼女に…」
「畏まりした、さぁ…ロミーナ、お客様がお許しになられた。座りなさい」
「は、は…い」
エミリアがハラハラした表情でこちらとロミーナを見比べている。
ロミーナは椅子に座るのも一苦労のようでヨロヨロと椅子に座った。
「…それではご説明させて頂きます。
この娘は、この地域を担当していた、前商会の会長が被虐用目的で10歳の時に両親から買い取りました。
奴隷は法の守護がありますが、五年残れば生死不問になります…つまり暴行虐待が容認されるのです。
その為、生死不問の奴隷は強力な魔力を放つ宝石を掘る為に鉱山採掘に買われるのが常でございます」
「くだらない目的だが、買われない根拠があったわけだ。生死不問でも買われなかったら?」
「廃棄処分は免れないかと…」
セドルさんは淡々とありのままを話してくれた。
とてもじゃないが購入意欲を持たせるやり方じゃない。
「…身の上話もいいが、名前や年齢は?」
「…さようですか。名前はロミーナ、年は明日…15になります」
買われない根拠は口にしたくないのか。
アザリーとの約束もある…あまり時間は掛けられない。
「ロミーナだったね。前髪を上げて顔と………目を見せてくれ」
この言葉に自分以外の人間がビクッと体を振るわせる。
セドルさんは諦めたようにロミーナの前髪を上げた。
「…ドワーフは童顔のままらしいな、可愛らしい顔じゃないか…隠すのは勿体無いぞ」
「あ、あり、がとう、ござ、います」
すぐに前髪が下ろされてロミーナの顔が隠された。
思っていた以上に顔は可愛らしかった…そして思ったとおり、目が異常な状態になっている。
眼球の中に赤黒い色と青白い色…最後に混じったように紫の色。
それらの色が絶え間なく眼を侵食していた。
「これが、アベルが言っていた…」
「はい、二種の種族の力が混じって生まれた子…混合です。
同じ精霊種のエルフは対策を施し『ハーフエルフ』で済んでいますが、現代にその魔法は存在しません。
魔力と霊力が暴走し、年を追う毎に身体の自由を奪っていきます」
なるほど、それで喋りづらそうなのか。
「…忌み嫌われてるから、両親に売られたか。よく十年無事でしたね」
「大半から…でございます。彼女の祖父は普通の孫として可愛がっていました。
優れた鍛冶師で身体が動いているうちは彼女も祖父の仕事を手伝っていたそうです。
彼女が十歳を迎える前に亡くなりました…お喋りが過ぎましたな。
そろそろ、商談と致しましょう」
「…どうぞ」
被虐趣味は持ち合わせていないが、人情で動くわけにもいかん。
どうか心が迷わない金額でありますように。
「エミリアさんよりヒデキ殿の儀式の話は聞き及んでおります。
ロミーナの金額は生死不問を含めまして金貨一枚…一万セシルでございます」
「…え?」
あれ? 金額の桁がおかしくないですか?
「ロミーナの奴隷契約は明日で五年目…妥当な価格になりましょう。
生死不問はロミーナ本人も納得しております…儀式に失敗して死んだとしても構わないと」
「はぁ…買う前に本人に聞いていいですか?」
「構いませんとも」
本人に確認をとってみると、あっさり頷いた…目が生きる希望があるならば挑みたいと云っている。
確かにエミリアには儀式の事を話してもいいと言ってあった。
「エミリア…どこまで話した? というか、儀式に失敗したら死ぬってなに?」
「そ、その…最初は優しいけど…最後の方はとても激しいとか…。時々気絶しちゃう事もあるとかです。
失敗したら死ぬとは、ロミーナさんの体力で持つのかなっと思いまして…」
恥ずかしがって、両人差し指をちょんちょんと合わせて話す仕草は可愛いが、後でお仕置だ。
彼女を助けられるかどうかは怪しいが、事情を聞いて助けになりたいとも思う。
「成功するか分からない。俺は医者でもなければ知識があるわけでもない。それでもいいんだな」
「は、い。おねが、いします、だ、んな、さま」
「ふむ…旦那様はエミリアに散々言わせてきたので、ロミーナは治ったらご主人様と呼ぶように!」
「旦那様、それじゃあ…!」
嬉しそうなエミリアに頷いて、アイテムボックスから金貨一枚を取り出し、セドルさんに渡す。
「ああ、ロミーナは俺が買い取らせてもらう」
「お、おお…! あ、ありがとうございます、ヒデキ殿。
さっそく生死不問の書類とレオン会長をお呼びに「その必要はないぞ、セドル!」…若旦那!」
聞き覚えのある声に振り向くと、ドアにもたれるアベルの姿があった。
「ヒデキ、なにやら面白そうなことをやって「やはり貴様の策略かぁー、アベル!」…うひゃあ!?」
ちっ…反射的に殴りかかってしまった為に、狙いが甘かった。
「ま、待ってくれ、ヒデキ! 今回は私は関係してない!!」
「今回『は』? やはりアネットの件は仕組んだな。帰りは明日じゃなかったのか!」
「いやいや…あの件は一応、正当な仕事として斡旋したつもりだよ。
店じまいの時間なんだから、客相手は明日になるのは当然じゃないか」
「…アネット?」
「…遺品の売買の相手だ、気にするな、エミリア」
「はぁ、分かりました」
聞き覚えの無い女性の名前にエミリアが首を傾げていたが、余計な事をアベルが言う前に対処する。
その間に簡単な顛末をセドルさんから聞かされている、アベルは何度か頷いていた。
そのままセドルさんは一階へと向かった…生死不問の書類を取りに行ったのだろう。
「話は分かった。ロミーナの私物は彼女の祖父が使っていた霊木製槌とミスリル製鎚の二つしかない。
契約が済み次第、連れて行けるぞ…その儀式とはやらは夜中、日が変わってからにしてくれ。
ミリアリアの件は明日のエルシアを迎えに来たときにするとしよう」
「分かった、ところで日没までどれくらいだ?」
「あと30分程だが…何やら待ち合わせでもしているようだね。手早く終わらせよう」
こちらの左手とロミーナの右手を握り、奴隷商人の固有スキルを使用しているが…読みにくい。
見るのは二度目なのに、幾つかの魔力の流れが途切れて見える。
「はい、これで終了したよ。…どうかしたかい、ヒデキ?」
「いや、別に…」
その後、セドルが持ってきた書類を受け取り、ロミーナを背負ったエミリアを連れてフーリア亭に到着。
自分の我侭なので、と言って背負うのはずっとエミリアだった…夕食も半分ずつ。
「ふ、うう。こ、んな、の。は、じめて、です」
夕食の味にロミーナは泣いていた…さすがに商館生活四年の相手には質素な食事のようだ。
ちなみに俺の分は冷めてもいいのでと言って部屋に置いてある…急いで東の門へ行かねばならない。
「…もうじき日が沈むな。そろそろかな」
「あ、ヒデキさん。こっちですよー」
「お待たせしました」
「いえいえ、指定した時間通りですよ」
エミリア達には事情を説明してパーティ編成を解除してある。
「そういえば、一階層の攻略は出来たのでしょうか?」
「それがねー、昼間、この町の冒険者は殆どがポーレスのダンジョンにいるから人数が少ないのよ。
だから、明日になったら全冒険者で五百体の魔物掃討戦を仕掛けることになったの。
ヒデキさんは大丈夫ですよ…もう突破してますからね」
「なるほど…」
アザリーからの勧誘がきたので了承し、『ゲート』の魔法で移動すると…潮風を感じる。
ポーレスの町はフーリアの町よりも大きな港町だった。
◆
場面はヒデキがリリムと別れた少し後に戻る。
西の門のゲート場に到着した少女は顔がにやけるのを抑えられなかった。
「いや~~、強い、強い。千年前のヤマトの武士と言われたら信じちゃうくらいだよ」
「この地上の生物が最も神に愛されていた時代ですか、お嬢様。我々は勿論、精霊種ですら短命ですよ」
「そんなことは分かってるよ。例え話に決まってるじゃない」
少女の傍で魔力の波動が響いた。
「うん、私も感じることができた。あの人が持っているのは六大魔剣の一本だよ。
でも勝てない…絶対に。だから楽しみだよ、あなたに他の四本を食べてもらって力を得た時の私が。
必ず勝って私のモノにするよ…どちらもね。…フフフ」
暗い笑みを浮かべる少女…リリム・ヴァレリーのゲノムカードを鑑定できていた時、彼はどう思うだろうか。
そのカードのメインジョブには…『魔王』の名が記載されていた。
この少女が物語の終着点なのか、折り返しになるか…予定は未定です。
ヒデキ達が動いている間に裏でこんな少女も動いているんだよぐらいな気持ちでいてください。