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#11_初報酬とヒデキの修行


黒い壁に手を入れて、次に頭から入ってみる。

次に目に映ったのは見覚えのある場所だった…フーリアの町のゲート出入口だ。

冒険者のレベルが2でも一キロ程度なら移動魔法は有効らしい…限界を調べる気はない。

守衛からギルドカードのチェックを受けて、町へと入る。


時間を守衛に確認したら昼まで時間があるようだ…先に冒険者ギルドへ向かうか。

歩きながらエミリアの様子を見てみたが問題はなさそう…出入口から冒険者ギルドは近いのでもう着いた。

念の為にギルド内の様子を確認してみると、多くの冒険者は出発しているようだ。


「大丈夫そうだ。クエスト報告と換金をしてくるけど、エミリアはどうする?」

「旦那様のお傍にいます。ジョブを付け替える必要はありませんので」

「わかった」


シルファン達にはエミリアの警護を頼んである…冒険者達がチョッカイをかける事もあるまい。


「よ、ようこそ探索・冒険者ギルドへ。ヒデキさん、エミリアさん、お疲れ様です」

「…お疲れ様です」

「お疲れ様です、アザリーさん」


初日や本日早朝にお世話になっている受付嬢のアザリーさん。

獣人種、栗鼠人族の女性で赤毛と少々のそばかすが特徴の18歳…尻尾の形状を見ると、確かにリスだな。

エミリアが奴隷だと分かっているが、特に忌避することなく同じ冒険者として扱ってくれている。

しかし、自分やシルファン達には恐怖感が拭えないらしく…時折ドモる。


「どうしたんですか、お二方。出発して三時間程しか経っていませんよ」

「昼からは別の用があるので…ギルドカードの確認をお願いします」

「承りました。では、カードの確認を…はぁ~、さすがは有能な魔獣使いですね。全クエスト完了です」


冒険者ギルドカードには幾つかの魔導技術が使用されていた。

その一つ、魔晶石の魔素を吸収する性質を研究した成果がカードに施されている。


討伐対象をカードに登録し、対象となる魔物の魔素をカードが感知するとカウントされる。

ギルド員はカウントの結果を見て、クエスト完了を判断していた。


「クエストの報酬は合計銀貨三枚になります。ドロップアイテムの精算もしますか? 私、今暇ですし」

「…そうですね。お願いできますか」


一クエスト、銀貨一枚と思うなかれ、初心者クエストの中でも一番の報酬だ…薬草採りは時間がなぁ。

魔石や兎の毛皮、ゴブリン達のドロップ品を受付のカウンターに並べていく。

兎の肉は一つでいいか…シルファン達の食事に使えるし。


「…え? ウォーリアナイフ!?」

「あ…」

「え?」


しまった、ゴブリンナイフを出した時に誤って出してしまった。

まずい…この辺りにゴブリンウォーリアなんていないのに。

エミリアも驚いて声を出してしまった…すぐに口を閉じて後ろに控えている。


「凄いですよ、ヒデキさん!

 ゴブリンウォーリア達なら通常ドロップですが、普通のゴブリン達からはレアドロップの品ですよ」

「…はぁ。あ、いや、運が良かっただけですよ」

「では、精算をしてきますね。銀貨や銅貨は通常のお支払いでいいですか?」

「お願いします」


木製のトレイにドロップアイテムを乗せて、受付の奥にある精算室へとアザリーが向かっていく。

後ろからエミリアがそっと近付くと耳打ちしてきた。


「…すみません。私が回収していた時は気付く事が出来ませんでした」

「…いや、あれは固有スキルの結果だ。この事は内緒な」

「…畏まりました」


錬金術師のジョブは学のある人に発現しそうだし、エミリアには黙っていよう。

同じように声の音量を抑えてヒソヒソと話しているとアザリーが戻ってきた。


「お待たせしました。魔石はレベル1が最多ですが、2や3も含まれていたので六百八十ですね。

 ウォーリアナイフは百、他と合わせて五百六十…合計で1540セシルね」


ゴブリンナイフやコボルトナイフは確か十セシルだったような…まさに錬金術!

かなり大袈裟だが、コボルトウォーリアを倒せるようになったら小銭稼ぎになるかもしれない。


1セシルが10円として一万五千…時給五千円か。

原発の復旧作業員が時給一万円だが、こちらは魔物相手で命懸けでも神の能力補正がある。

しかしメンテ費用だの色々経費が…まぁ、どんな職業でも最初は黒字ギリギリだろう。

奴隷持てる冒険者ってどのレベルまで上げればいいんだか…。


「ヒデキさん、他のクエストを受けられますか? といっても、この辺りの魔物退治しかありませんが」

「今日と同じクエストをお願いします」

「わかりました。ギルドガードにホーンラビット、ゴブリン、コボルトの討伐依頼をセットしますね。

 またのお越しをお待ちしております」


アザリーに見送られ冒険者ギルドを後にする。

着替えやシャワーを浴びる時間もいるだろう…一旦、宿屋に戻るか。


「これから宿屋に戻ろうと思う。…エミリア、着替えは初日に着ていた服で頼む」

「はい、旦那様の仰せの通りにします」

「エルシアも、同じように服を選んで欲しいが収入次第だ。それまで内緒にして欲しい」

「畏まりました」


さほど時間が掛かることなくフーリア亭に到着した。

やはり市がやっていないと閑散とした印象を受けるな。


「しまった、酒場で昼食を摂ればよかったな」

「宿の食堂は昼でも営業していると女主人の方が仰られていました」

「…わかった。今日はそちらで摂るとしよう」


宿に入ると女将がカウンターに座って帳簿をつけていた。

食堂の方は調理場で動きがみられる…準備中かな。


「おや、早かったね。今日はもういいのかい?」

「午後からまた出る気だけど、所用があってね。今日の分の支払いを頼む」

「あいよ。内容変更が無いのなら六百セシルだね」

「銀貨六枚だ。食堂でも昼食が摂れるって聞いたが…まだ時間じゃないのか?」

「注文受付はもうちょっと先になるね。パンとスープでいいなら一人十セシルで部屋に持っていくよ」

「わかった。それで構わない」


女将から鍵を受け取り、昨日と同じ部屋へと向かう。

先にシルファン達の部屋を開けて、休憩していてもらおう。


「あっ…。エイミー、エミリアを送るついでに騎士団に行ってくるから。しばらく寛いでいてくれ」

「…(分かりました)」


部屋に入って、気配を探知…特に異常なし。

ファンタジー世界だし、地球の日本じゃないからな…毎回チェックをしないと。

皮の装備一式を脱いでいるとエミリアがこちらを見上げていた。

昨晩の事を思い出してベッドに座ると、エミリアからキスされた。

啄ばむ様なキスから舌を絡めるディープへと変わる…昨日よりも硬さの抜けたキスだ。


「…んっ。ど、どうでしょうか、旦那様」

「ああ、悪くない。エミリアの自己評価は?」

「…まだまだ旦那様には及ばないと…」

「わかった。では実習にしようか」


身体の緊張も昨日より和らいでいる…かなり恥ずかしかったが、効果があったのだろうか。

キスを終えると首筋の匂いを嗅いできたので頭を撫でる…尻尾が揺れてるし、表情も嫌がっていない。

エミリアもこの状況に慣れようと頑張っているのだ…自分も慣れるようにしないと。

結局、昼食が届くまでこれらの行為を繰り返していた。


「エミリア、シャワーの準備はしとくから汗を流していいぞ」

「…はい、ありがとうございます」


反射的に断ろうとしたエミリアだが思い直してくれたようだ。

シャワー室へ向かい、水瓶にお湯を溜めておく…瞬間給湯器なみの速さだ。

お湯が溜まったことを伝えてエミリアに背を向ける形でベッドに横になる。

こちらを伺うように服を脱いでいた女性に対する男の配慮と云うものだ。

シャツとスカート――村娘スタイルに着替えるまで、そのままの姿勢でいた…寝ちゃいそうになった。


「お待たせしました、旦那様」

「よし、騎士団に行ってから商館に行こう」

「畏まりました」


鍵の持ち出しは出来ないので、先日のように木札を渡された。

女将から騎士団の駐屯地は南地区の中央にあることを教えてもらう。

エミリアと共にのんびりと駐屯地に歩いていた。


「…旦那様。本来はもっと速く歩けるのでは?」

「…まぁな。主人が奴隷に合わせて動くのは珍しいか?」

「珍しいではなく、在りえません。それを受け入れている私も問題なのですが…」

「急ぎの用でもない。本来の俺はのんびり屋なんだ…なので、この速度でも充分だ」


最初に一緒に歩いていた時、足の長さが違うのでエミリアが早歩きをしていた。

それ以来歩く速度はエミリアに合わせていたが、気にしていたのか。


「体格差はどうしようもない。

 俺自身がエミリアが急いで動いているのを見たくないってのもある…気にするな」

「…分かりました。優雅に急いでいないように見える歩法を修得してみせます!」


意外と背が低いことを気にしているのかもしれない…エミリアに体格の話は鬼門か。

そんな話をしていたら、騎士団の駐屯地へと辿りついた…正面に看板が出ている。


「…旦那様。どうやら賞金受け渡しは正面口ではなく、裏にある窓口のようです」

「なるほど、騎士団のメンツってやつかな。しょうがない裏に行くか」


白い外壁に三階建ての広い建築物の裏に廻るべく行動を再開する。

正面口に立っている二人の衛兵に会釈して、裏に来てみた…あ、確かに窓口だ。

随分と小さい窓口だな…カードの確認だけで、相手が誰かなんて気にしないのかもしれない。

備え付けのベルを鳴らしてみると、木製トレイが窓口から出てきて若い男性の声が聞こえた。


「討伐した盗賊のゲノムカードと身分照明できるカードを置いて、窓口から離れてください」

「ああ、分かった…賞金首のカード五枚とギルドカードだ」


トレイにカードを置いて一歩下がると、トレイが窓口に引き込まれた。

賞金首の詳細って教えてもらえるのだろうか。


「…盗賊の賞金額って詳細額を聞くことが出来るのか?」

「…貨幣のやり取りは契約の元に行われます。着服をすれば受付の騎士が盗賊へと落ちます」


ヒソヒソとエミリアに確認してみると、同じように答えを返してくれた。

相手への信頼が無くても騙されない…まぁ、疑っても盗賊に落とされる訳じゃないし、緊張感は必要だ。

このままの考え方でもいいだろう。


「お待たせしました。賞金の金貨は袋の中に入っています。王国の秩序と安寧への協力を感謝します」


棒読みではないが、言い慣れている感じがする挨拶だ。

まぁ相手からすれば賞金目当ての冒険者なんだろうから、こんなものか。

袋を持ち上げると金の重量がどれ程か感じるほどだ…覗いて数えてみると、五人の賞金で五十五枚。


「………行こうか」

「はい。わかりました」


命をお金に替える行為か…さすがに当分はないと思うが慣れないものだ。

いや、彼女も自身全てをお金に替えて自分に買われている。

頭では分かっているのに、地球の…日本の道徳観が未だに残っていた。


駐屯地から雑貨屋に向かい、五分用砂時計を三つ購入してアルベルト商館裏口に到着した。

砂時計は一つ三十セシル…大量生産をしていない時代だからか昼食よりも高いな。

こちらにも呼び出し用のベルがあったので鳴らしてみる…既にドアの近くにいたのかセドルさんが現れた。


「おお、ヒデキ殿ではありませんか。少々早いようですが、よいのですかな?」

「ええ、こちらは大丈夫です。エミリア、頑張ってな」

「はい…旦那様、夕刻まで精一杯勉強してきます!」

「では、夕刻頃にまた来ます」

「確かに。お預かり致します」

「いってらっしゃいませ、旦那様」


踵を返して、大通りに向かうと背後でドアの閉まる音がした。

午後からの予定は決めているので、シルファン達を迎えに行こう。


フーリア亭からゲート口へ、ゲートを通って朝方の大岩の所まで戻ってきた。

皮の装備一式は外したままだ…魔装や霊装があれば問題はないだろう。

そこからティアンを半成体にして十キロほど移動する…辺りは枯れ木ばかりの平地だ。

ここならフーリアの町やダグザの村からも離れているので丁度いい。

柔軟運動をきっちりとこなして成体に戻したエイミーと対峙する。


「さて…すっかり鈍っている身体に鞭を入れないとな」

「…(準備運動、小手調べ、魔装全開勝負…問題はありませんね?)」

「…(…この砂の入ったのを上下反対に…挟めばなんとか)」

「…(両方とも頑張れ~)」


お互いの獲物は刃を潰した練習用のショートソード…エイミー製。

時計係をシルファンに頼んで、剣を合わせる間合いで振るう。

唐竹、袈裟切り、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、左切り上げ、右切り上げ、逆風、刺突。

剣を振るう上での九つのパターンを互いに打ち合う…そしてシルファンから合図があった。


「…(五分経過)」

「…(始めましょう)」

「始めよう!」


互いが一足で詰めれる間合いで通常魔装で自然体のまま対峙する…動きがあったのはエイミーからだ。

音の発しない達人が振るう一撃…音すら余分なエネルギーだと云わんばかりの一撃。

それが瞬時に三つの軌跡から振るわれているのを読み取る…これで小手調べと云うだから。


「にゃろ!」


だからといって、即座にやられるつもりも無い…弾き、逸らし、迎撃する。

互いに止まっているわけではない、既に開始場所から数mは離れている。

視界の端で始まりと同時に落ちた枯れ葉は、まだ空中を漂っていた。

僅かの間に何合を交わしたのか…剣を振るうだけは終わりとばかりに『ソニック』を放つ。

向こうもそれを読んでいた、同じようにソニックで迎撃された。


飛来した斬撃が交差した場所は十五mほど左右に切り裂かれ、中央には小さな窪みが出来ていた。

すかさず『ブリット』で間合いを詰める…秒速300mはあったはずだが避けるか!?

上段からの攻撃を受けると、強烈な重圧が身体に掛かる…剣に魔装の力を纏めて潰す『スマッシャー』!

逸らしながら回避すると、数人の人が埋まりそうなクレーターが出来た。


「っ! 『ファイヤーボルト』!!」


過去の魔人族との戦闘から記録を引っ張り出して得た魔法。

炎の矢が閃光と共にエイミーに着弾する…大盾で防がれたか。

自分の背後に三十発の熱量を持った玉が浮かぶ…無詠唱で生み出した『ファイアーボール』。

魔法を行使した者の意思に従い、次々とエイミーに飛来する。


「…!?」


魔法のお返しとばかりにエイミーの身体から黒い球体が三十発…それらが瞬時に大剣や槍などに変わる。

次の瞬間にはこちらに射出された…自分のブリットよりも速い!

魔装の技のスマッシャーで薙ぎ払う。逸れた大剣は大地を抉り、巨大な岩を砕く。


「…(さらに五分経過)」

「…(本番開始します!)」

「一分毎に10%ずつ上げていけ! まずは60%!!」


などと口にしていたら、あっという間に間合いを詰められた…迫るは読み取れるだけで九つの斬撃の軌跡。

八つまで迎撃したが残り一つが間に合わない、右薙ぎの一撃を魔装を厚くして受け止める。


「ぐぉ!?」


地面から足が離れて飛ばされる…追撃防止の為にソニックを放つが、エイミーは止まらない。

しかし着地する時間は稼げた、ここから先は思考は不要…打ち勝つまで剣戟の応酬だ!!


「…まぁ、エイミー相手に魔力勝負は無茶なんだよね」


現在、地面に寝転んで空を見上げている…今日も快晴だ。

霊力を使えば相手の魔力を打ち消せるから倒せるが、やればエイミーが死んでしまう。

最後の全力全開勝負まで持ち応えたが、やはり強い。


「…(んー、すっきりしました)」

「最後の二十七連撃なんて、どうしろと云うんだ」


差し出された手を握るとエイミーが起こしてくれた…思わず愚痴ってしまう。

全身に付いた土埃を払っていると、シルファンが近寄ってくる。


「…(では、交代ですね)」

「………三十分休憩してからな」


詠唱略式すら面倒なので無詠唱で『ウォーター』を使用して指から水を出して水分補給。

休憩後に開始した訓練はシルファンの攻撃をひゃー、ひゃー言いながら回避行動に専念した。

お次の訓練はティアンの連続ブレス対ソニックと魔法による応酬戦。

エミリアを迎えに行くまで一時間前には本日の修行は終了した。


「ふぅ…体力、精神力回復量リンクしてようやく回復した」


ティアンの足に掴まれて大岩の所まで戻ってきた。

シルファン、エイミーを半成体に、ティアンを幼体に戻す。

戦闘に支障はないが、多少の休憩は必要かもしれない。


「じゃー、俺は霊力の修行に入るから。危ないから皆は周囲の魔物と遊んでいてくれ。

 エイミー、魔石はこの巾着袋に…それからウォーリアナイフを一つ食べてよし。

 シルファンとティアンは最初に出た兎の肉を食べてよし。

 残りは冒険者ジョブのアイテムボックスに入れてくれ」


それぞれから了解と念を送られると、森の奥へと出掛けていった。

身体に霊力を満たして、アイテムボックスから霊刀『荒鷹』を出す。


「…始めるか」


鞘から抜いた瞬間、荒々しい霊力が辺りを満たしていく…制御してみろと云わんばかりだ。

暴れる霊刀を握って過去の記録から得た型をとる…気を抜けば身体が圧殺されそうだ。

じっくりと、ゆっくりと一つの型になるまで一分以上かけて身体を動かす。

全ての型が終了するまで三十分…多少は霊刀からの圧力も納まってきたようだ。

鞘に収めてアイテムボックスに入れる。


「はぁ…疲れた。とてもじゃないが実戦には使えないな」


しかし幾つかの収穫があった。霊刀もだが、この大岩…結界が施されている。

大分弱っているので、霊力を高めなければ気付かなかった…この術式には見覚えがある。


「この一部だけ…よし、ビンゴ!」


太った人でも通れそうな入り口が出現した…二m程の歩くと広い空間があった。

入り口の反対側には幻術でも仕掛けてあるのだろう…大岩は殆どを刳り貫かれていた。


「おお! やっぱり!! 記録にあった、温泉掘っていた時と同じ術式だ」


大小様々な石が敷かれた洗い場、ちゃんと湯船もある…さすがに水はないが亀裂もないようだ。

地下熱を利用する土と火の魔法式も残っているし、そこからお湯を手繰る水の魔法式もある。


「とりあえず、湯船と放出口に浄化を施して試してみよう。さすがに水は結界外だからヘドロかもしれん」


放出口に常時、口に出すのが嫌なので無詠唱で浄化を掛けておき、水を手繰り寄せる。

案の定、ドロドロとした液体が放出されたが浄化で綺麗な水になって湯船に注がれる。

溜まっていた水が放出されている間に土と火の魔法式も稼動させる。

エミリアを迎えに行く時間になる頃には、温泉施設は完全に使用できる状態にまで復旧した。


「旦那様、何かいい事があったのですか?」

「ああ…使えそうな物を見つけたんだ。今度、エミリアにも見せるよ」

「はい。楽しみにしていますね」

「エミリアも楽しそうだったな。勉学は楽しかった?」

「はい。今日は幾つかの本を読めましたし、姉さんの特訓にも付き合いました。

 世話役…あ、荷馬車にいた人ですが、色々とお話や勉強も出来ました」

「そうか。楽しめたなら、それでいい」

「…きっと旦那様も楽しんで戴けると思います」


舌で指を舐め、魅惑する表情をしたエミリアに背中がぞくぞくした。

そろそろ日も落ちそうな時間だな…町のあちらこちらで照明の準備をしている。

一応、エミリアに聞いておこうかな。


「エミリア…魔法使い、魔術師、霊術師ってジョブがどんな奴に発現するか知っているか?」

「えっと、魔術師は魔術に精通している人で、魔法使いは魔法に精通している人に発現します。

 霊術師も同じですね」


おかしいな、自分に魔術、魔法に精通している点は…あまりないのだが。

全部、相手の魔力の流れを探った結果を使用しているだけだし。


「…そうか。ありがとう、参考になった」

「あっ! 無詠唱できる魔人族は無条件でジョブが発現する事もあるそうです」

「…なるほど、そっちか」

「………つ、つまり旦那様にそれらのジョブが!?」

「うむ。無詠唱で魔法やら、魔術やら、霊術を使っていたら発現していた」

「はぁ…人間族の魔法使いなんて、魔法学園に通える貴族くらいだと思っていました」

「なるほど、つまり…これも内緒だな」

「はい。畏まりました」


宿について、先日と同じように食事をして、先日のようにエミリアがキスと匂いを嗅ぐ。

先日と同じようにお互いの身体を拭いていたが、違いはここからだった。

エミリアがしゃがんだと思ったら…なるほど、これが勉強の成果か。

大変楽しめたので、ベッドの上で初日に見つけたスポットを狙う事にした。

エミリアは行為後に我に返ったのか、恥ずかしがって毛布の中に入り込み、お腹を枕にして眠てしまった。


※ヒデキ・ナルカミの今回の新ジョブ

魔法使い…固有スキル『魔力精錬』

魔法に精通する者に発現するジョブ。

攻撃魔法など魔法スキル系、魔法の知識など支援スキル系が備わっている。


魔術師…固有スキル『魔力強化』

魔術に精通する者に発現するジョブ。

魔術の知識など支援スキル系が備わっている。


霊術師…固有スキル『霊力強化』

霊術に精通する者に発現するジョブ。

霊術の知識など支援スキル系が備わっている。


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