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ある会社員の話

■twitterでのある会話


みっちー@仕事やめたい 〉 まえちゃんさん荒れてますねwww


まえちゃん 〉 そりゃ荒れますよwww 上司に苛められて、僕のライフはほぼゼロですwww


みっちー@仕事やめたい 〉 で、今日はどんなことがあったんです?


まえちゃん 〉 今日はみんなの前で公開処刑ですよwww


みっちー@仕事やめたい 〉 公開処刑wwww


まえちゃん 〉 僕「今回の企画書です!」バサッ クソ上司「酷すぎwww 良くこんな企画書出してきたなwww m9」そして企画書はビリビリに……


みっちー@仕事やめたい 〉ヒドスギワロタwww


まえちゃん 〉 みんなの前で破るとか、酷すぎませんか! もぅ泣いちゃいますよ(;ω;)


みっちー@仕事やめたい 〉 (T_T)\(-_-)


まえちゃん 〉 みっちーさんありがとです(;ω;)


みっちー@仕事やめたい 〉 お互い酷い上司をもってツラいね…… ホント


まえちゃん 〉 日々ストレス溜まりまくりですよ。あーあー、明日会社に隕石が落ちて、休みになればいいのにwww


みっちー@仕事やめたい 〉 どこの小学生ですかwww しかし禿同


まえちゃん 〉 さて、社畜なんでそろそろ寝ます


みっちー@仕事やめたい 〉 ですね。睡眠大事、ぜったい。


まえちゃん 〉 明日はどんな嫌がらせが待っているんだろう…… ではでは、おやすー


みっちー@仕事やめたい 〉 まえちゃんさんファイト! おやすー


   *   


働くと言うのは奴隷と変わりないんじゃあないか。


足をぶらぶらさせながら彼は飴をがりっと噛んだ。確か彼が好きな飴は苺味だったはずだ。あの甘ったるい人工的な味が堪らないのだと言う。確かに僕もその意見には賛成だが、僕が愛する飴はメロンだ。彼はそれを聞くといつも「お前は貧乏性だからメロンが好きなんだろ?」とからかう。その意見には断固反対だ。大体メロンが飴にはメロンな果肉も汁も入ってはいないのに、貧乏性呼ばわりとは酷い。


「ニートが何を言っても説得力は無いよ」

「お前はニートを差別するのか! 何て奴だ! 僕はねニートになりたいと願ってなったんだ! この仕事に誇りさえ抱いている。それに引き替えお前はどうだ? 正社員でも無い、どっちつかずのフリーターだろう? いつもいつも愚痴ばかり言っているじゃあないか」

「ふ、フリーターを馬鹿にするな! ……俺はフリーターになりたくてなった訳じゃないけど……」


僕は何となくやりきれなくなって、舐めていた飴を噛んだ。メロン味の綺麗な丸だったそれは一瞬で歪な形のブロックになった。

「お前ともっとだらだら喋りたい。時間を忘れて友として語り合いたい。でもこの世界は人を奴隷の如く働かせる。このフリーターの僕でさえ!」

「もうそんな時間なんだ……嫌だなぁ」

「そうだ、嫌だ。酷い世の中だよ。さて逝くぞ、龍」

「……また死ぬ方の漢字使ってるだろ、和馬」



【>>鬱憤はらしのはらりらり<<】



メールを送信した後というのは何か大事な物を捨てた時の気分に似ている。もう後戻り出来ないその瞬間、諦めに似た感情が波に乗ってやって来る。

「……これで良かったんだ」

くたびれたシャツに、くたびれたズボン。首は壊れた人形の様にペコペコ。顔には愛想笑い。

しかし男が期待した言葉は投げ掛けられず、いつも罵声ばかり。

人間性を否定される。

人間でありながら、お前は馬鹿な奴だ。会社にとって何の利益も産み出さないただの塵だ。しまいには部下の前で、こんな上司じゃお前も出世しないぞと笑われる。

一体俺が奴に何をしたというんだ?

男は自分を馬鹿にしている上司、仙田の顔を嫌嫌ながら思い出す。

人を馬鹿にした様な薄ら笑いと対照的な笑わない眼。埴輪を潰して伸ばした如くその顔は、いつも殴ってやりたいと思っていた。

そんな時に知ったのだ。この「はらりらり」というサイトを。

 どこのサイトでソースを見つけたのだったか。その日は仙田に怒られてむしゃくしゃしていた。確か怒られた理由は「シャツの色が気に入らない」だった。夏らしく水色のシャツで出勤したのが気に入らなかったらしい。

「よくそんな色のシャツで会社に来られるな、前田ァ。社会人として恥ずかしくないのか?」

 その一言が男をキレさせた。仕事の事で起こられるなら、少々理不尽な文句でも許せる。

 しかし男はよりにもよって私物である水色のシャツを侮辱したのだ。ただのシャツだ。スーパーで1980円で夏用に買ったシャツ。

 だからこそ男は許せなかった。



龍が和馬のスマートフォンを覗くと、そこには依頼人の名前がでかでかと書かれていた。

「……また老人モードか」

「老人モードとは失礼だぞ。僕はこの憐れで愚かな羊の事を考えるべく、こうしているんだ」

和馬は龍の鼻先にスマホを押し付ける。龍は「仙田誠一」と書かれた字面をただ見る。 知らない相手だ。街ですれ違ったことさえ無いと思われるそいつは、どんな悪人なのだろう。

「こいつは一体何をやらかしたんだろうなぁ……。どんな事をやって、人から嫌われて」

「いつも言ってるだろう? いいか龍。世間様っていうのは、完全なピラミッド世界だよ。」

「まぁな。強い者が弱い者を喰らう。そうなんだけど……」

和馬はふんと鼻を鳴らす。

「現に龍、お前は喰らわれているじゃあないか。フリーターという弱い立場で、経営者に安く使われている」

それを言われてしまうと頭が痛い。龍が黙ってしまうと、和馬が軽く頭を叩いた。

「まぁ気にすんな。それでも、訳の分からないまま、日々の生活のためかフリーターになってる龍は好感が持てるよ。人間らしい」

「……そりゃどーも」

けなされているんだか、誉められているんだか。

「しかし、まぁ……」

龍は一息ついてから、スマホに写し出された名前をじっと見た。

「コイツは弱者に鬱憤を晴らされても文句が言えない奴って事だ」

「そういうこと」

いつものバンダナが龍に渡される。慣れた手つきで口を隠すように頭の上で括る。ナ

「……本当に和馬の趣味は悪いよなぁ」

「この素晴らしいセンスに何て事を言うんだ」

バンダナにプリントされているのは大きな口。

 相手を喰らうような毒々しい色。



仙田と言う男は時代に取り残されたような男だった。高度成長期と共に採用され、若さで国と自身が絶頂期だった頃は何でも出来ると思っていた。しかし上司にはその若さを妬まれ、あれだけやりたかった仕事が食うための手段としか思えなくなったその瞬間、未来が見えなくなった。

そしてバブルがはじけた。

「……くそ」

毎日一杯だけ飲む酒だけが、仙田を慰める。昔の事を思い出し、感傷に浸ってしまう。男一人暮らしの汚いアパート生活。まさか自分の未来がこんなものだとは思わなかった。 苛苛苛苛する。

酒をまた煽る。もう残りが少ない。暑さのせいか、氷が溶けるのが早い。ほとんど水と化してしまった酒は、もう酒の味では無かった。

口が乾く。酔いが醒めてしまう。

不快な顔が不意に蘇る。そうだ、あの馬鹿な部下。斜陽時代の化身の様な奴。

別に前田と言う男が嫌いな訳では無い。ただ、その生きてきた時代が許せないのだ。何をしても駄目だ、閉塞感という気質が前田を通して見えた。その事で苛苛して前田を虐めると、奴の眼は仙田を「バブル時代の老害」としか見ていなかった。

「俺だってなぁ……俺だって……」

酒は、既に無くなった。



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仕事が終わって帰宅する時間が一番好きだ。道子はしみじみと一日の幸せを噛み締めた。

(今日もあのオヤジ、ホントにウザかったわー。小言ばっかり言ってきてさ。もぅマジ死んでよ)

自分は仕事が出来ないくせにさ、と道子は笑う。

 新卒で有名ブランドのデザイナーとして、働くことになった時は本当に嬉しかった。好きな仕事が出来る事に幸せを感じたし、この仕事をずっと続けていこうと思った。


 そうあんなオヤジが上司で無ければ。


 買い物袋からネギがはみ出しているのが少し気になったが、あと何百メートルで家に着く。我慢するしかない。

(家に帰ったらまずメイク落としてー、そんでご飯作らなきゃあ。今日も麻婆豆腐かなー元あるし)

そんなとりとめのないことを考えながら歩いていたら、いつの間にかマンションに着いていた。

道子はアパートの四階に住んでいる。ボロい建物の相場に合った家賃で、それは仕方がないと諦めている。ただその分のお金を化粧品や服にまわせるため、妥協していた。道子の価値基準では自分を美しくする道具を手に入れることが最優先事項なのだ。

バックの中から家の鍵を探す。

(んーあれー……、ん? 隣の部屋の人、部屋の鍵空いてるー……、不用心だしぃ)

どんな人が住んでいるんだろう。いつも気になっていた。

(声かけてあげるんだったら、親切な人だしいいよね……?)

「……すいませーん、隣の402の山口ですけどー」

 返事が無い。聴こえなかったのか?

 道子はそっと扉を開ける。


喰われた。


「な、なに、ナニコレ……、え」

壁が真っ赤に塗られてる。まるで何かに食べられたように、思えるほど、それは喉に似ていた。

今にもどくんどくんと脈を打ちそうなそれは、よくみると蛍光スプレーで描かれた一本の線だった。

なぜ部屋の模様がこんなに異様なのか。これは、何か、起こっている。

喉を通らなければ。胃へ進まなければ。

部屋の奥へ道子は一歩一歩這うように歩く。


「やぁお姉さん! 鬱憤はらし場へようこそ!」

「……おい、和馬。その言い方止めろ」

口裂け男が二人。そばに転がっているのは、贅肉がついた醜いオヤジ。


「え、え、な、なにあなたたち」

「怪しいものじゃあありません! 私たちは社会の鬱憤を晴らすお仕事をしているボランティアのものです!」

背の少し高い方の男が答えた。よく見ると口が裂けている訳ではなくて、そういう柄をしたバンダナを口に巻いている。

「ん、んんんんんん」

オヤジが何かを言っているが、口にガムテープが貼られており、喋れていない。

「も、もしかして、ご、強盗……!」

「だーかーらー、鬱憤を晴らすボランティアだってば!」

「そ、そんな事……聞いたことな……」

背の低い黒髪の男が、隣にいる男を睨んだ。

「和馬の言い方は誤解を招くよ……。なぁお姉さん、見たところOL……いや、服装、メイクが個性的だ……何かクリエイトしている職業か? としたらデザイナーってとこか?」

「えぇ! スゴいわね、あなた! 当たりよ! びっくりしちゃう……」

職業をピンポイントで当てられるなんて。それに黒髪の方はまだまともそうだと、道子は安心する。

「とするとお姉さんのデザインにケチをつける奴はいないか? センスが古いから、お姉さんの斬新なファッションが分からない奴」

「そーよ、あのオヤジ! 私の上司なんだけどね、ほんっと私のデザインばかり文句言うのよ! あいつ、えこひいきがすごくて、自分が気に入っている可愛い子のデザインしか通さないの! 本当に頭にきちゃう!」

思い出しただけで腸が煮えかえる。あのたれ目の嫌らしい顔は吐き気がする。

その様子を見た口裂け黒髪男は笑う。道子からは分からないが、確かに龍は笑っていた。

「もしも、あなたがその人に仕返し出来るとしたらどうですか? しかもあなたがやったということが分からず、お金もかからないなら?」

「そりゃあ……」


ありがたいわよ。


その瞬間、龍と和馬は笑った。



仙田誠一は嵐が去ったあとの誰もいない町に取り残されたようだった。


いったい、なにが、おこっていたんだ。


すでに口の拘束具は取られ、手足も自由になっていたが、とても動こうとは思わなかった。

夢だと思いたかった。

しかし、壁一面に塗られた赤いスプレーは彼がいる現在を知らしめる。

(……俺は、怨まれていたのか? 俺は、時代から取り残されていたのか? 俺は、社会の不必要な存在なのか? 俺は、俺は、俺は)

頭を抱える。

思い返してみれば、自分が生きてきた間に何をしてきたのだろう。いつだって親や、先輩や、上司に怒られ、その鬱憤を晴らすように弟や、後輩や、部下を苛めた。

新しい時代を憎んでいた。

「……そいつらからの、俺への文なのか?」 壁に赤いスプレーで書かれた仙田誠一という男に対する辛辣なコメントだった。


 親愛なる仙田誠一 様

 怨んでやる、この老害が



■Twitterでのある会話


みっちー@仕事募集中 〉 あーせいせいした。


さょさょ 〉 どしたの?


みっちー@仕事募集中 〉 前言ってたオヤジいるじゃん? そいつに痛い目見せられたから!


さょさょ 〉 良かったね! キモかったんでしょ!


みっちー@仕事募集中 〉 そうそうー! はっきり言ってやったの! キモいってwwww


さょさょ 〉 みっちー度胸あるぅwwww


みっちー@仕事募集中 〉 いや直接じゃないからwwww


さょさょ 〉 どゆこと?


みっちー@仕事募集中 〉


鬱憤はらしサイト「はらりらり」って知ってる?



【続……?】


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