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終わりなき道

 イタリアの地から、ローマ軍は根絶やしにされた。十万と号した大軍は、その姿を残さなかった。

 全軍潰滅。その言葉が、ファビウスの頭の中で繰り返された。伝令はファビウス邸に向かい、スキピオからの報告書を渡した。

「カヌシウムまで逃げ延びた兵はおよそ七千。セルウィリウス、ミヌキウス、エミリウス殿は戦死。ウァロ殿以下五十騎は、ウェヌシアに撤退されました」

 伝令の兵士は急いで来たようで、鎧も肌着トゥニカもぼろぼろのままだった。カンネーでの激戦が、その一つ一つのきずに刻み込まれている。

「ミヌキウスも、エミリウスも死んだのか……」

 ファビウスが、噛み締めるように呟く。ミヌキウスと共に、派閥を超えて戦うのはこれからだった。これからであろうに。苦悶の嗚咽が、ファビウスの喉を締め付ける。

「スキピオ殿からもう一つ、言伝ことづてを預かっております。エミリウス殿は、ファビウス殿との約束を忘れませんでした。最後まで、ウァロ殿をお止めになりました。そしてミヌキウス殿は、兵士を逃がすために最後まで、戦場に立ち続けました」

「分かった。もう下がってよい」

 懇願するように、ファビウスの言葉は苦痛に満ちていた。その日、ファビウスは邸の門を固く閉じた。急報の届いた元老院は、悲鳴のように増設を唱え、軍団を新設し直した。シチリアに送っていたマルケルス率いるローマ軍も呼び寄せた。帰還したマルケルスは、馬を飛ばしてローマへと急いだ。そびえ立つローマの城門を潜り抜けると、ファビウスの邸に押し入った。

 奴隷の案内を払いのけて、マルケルスは奥にある書斎に入る。

「どうなっている」

 マルケルスの言い方には、多分に怒気が含まれていた。乱れたトーガの隙間から、汗の滴りが見える。長方形の机に押しつぶされたように肘をついて座っていたファビウスが、ゆっくりと顔を上げた。マルケルスは重い羊毛のトーガを脱ぎ捨てると、肌着トゥニカのままファビウスに迫った。トゥニカの腰帯には、剣が吊架されている。扉から入る夏の光が、ファビウスの顔を照らす。途端に、マルケルスは口をつぐんだ。

「カンネーの軍は、全滅したのじゃ。セルウィリウスも、ミヌキウスも、みな、死んでしまった」

 マルケルスが、目を見開いた。普段、あまり表情を表に出さない男だが、隠しきれていなかった。十万に達する軍団が全滅したことなど、古今東西で伝わってなどいない。アレクサンドロスがペルシアの大軍を打ち破ったが、それはあくまで敗走させただけだ。全滅などとは程遠い。

「エミリウスも、死んだのか」

 その言葉に、覇気はなかった。マルケルスの心に響いたのは、エミリウスの死だった。ファビウスの首肯が、肌身にその事実を伝えた。マルケルスが天を仰ぐ。糸が切れたように、マルケルスはそばの椅子に体を投げた。その巨体が、椅子を軋ませる。それからマルケルスは、頭を抱えたまま動かなくなった。

「エミリウスは、最期までウァロを止めたのじゃ。それでも、止まらなかった。これは、運命なのかもしれぬ」

 ゆっくりと、ファビウスは伝えた。エミリウスとマルケルスは、数十年来の友であった。戦いなどなければ、今日も晩餐を共にしたのだろう。過ごした日々に、もう戻れはしない。不器用な男でも、その苦しみは耐え難いはずだ。長く生きたファビウスには、痛いほど良く分かった。

 しばらくして、表情を落ち着かせたマルケルスは柄を握りしめて立ち上がった。

「どこへゆくのじゃ」

「ウァロのもとへ」

 斬る、と吐き捨てるように言った。

「執政官を斬れば、国外追放は免れぬ。儂は、おぬしまで失いたくはない」

 頼む、とファビウスはマルケルスを引き留めた。扉にかけていた手が、止まる。激情が、喉元を過ぎた。マルケルスは下を向くと、その手を下ろした。

「ファビウス、お前は悲しくないのか。悔しくないのか!」

 マルケルスはファビウスの方を向く。久しく流れなかった感情が、堰を切ったかのように体中を巡りだしていた。震えが止まらない。マルケルスは腰帯から剣を外すと、それを思い切り床に叩きつけた。金属音が、部屋にこだまする。

「悔しいに決まっておろう。ミヌキウスは、儂の息子同然じゃった」

 ファビウスは、枯れた声で言った。後に続いた言葉は、尻すぼみに消えた。

「ちぎった友の死を、悲しまない者はおらぬ。じゃが、それで祖国を見失うな。嗚咽を漏らそうとも、祖国の崩壊は止まらぬ。食い止めねば、ならぬのだ」

 ファビウスは、拳を握りしめた。マルケルスは、ファビウスを見つめた。ファビウスの眼の中に、得も言えぬたかぶりがあった。二人の刻まれてきた歳が、部屋の大気を圧する。その時、使いの者が入ってきた。

「御主人様、ウァロ執政官がご帰還なされました」

 マルケルスが振り向く。使いは雰囲気を察したらしく、一礼するとそそくさと出ていってしまった。ファビウスとマルケルスは視線を交わすと、すぐに邸を出た。馬車を使わず、大通りを早歩きで縫っていく。いつものような賑わいが、広場フォルムにはない。ウァロの帰還を知った人の殆どが、城門へと向かってしまっているのだろう。

 人だかりが見えた。大柄なマルケルスは、人々の頭越しにウァロを見つけたらしい。ファビウスは群衆の中を潜り抜けて最前列へと出た。ウァロは緋色の外套(パルダメントゥム)も着けずに、寂れた姿で騎乗していた。敗残兵七千を連れずに帰ってきたらしい。

 恐らく、カヌシウムに行けば殺されると思ったのだろう。兵を連れていない執政官は、その金色に輝く鎧さえも虚しかった。その容姿が、集まった人々に敗報を克明にし、暗澹たる気持ちにさせた。人々は、口々にウァロを非難した。もはや陰口ではなかった。ウァロの馬は、晒し者のようにゆっくりと通りを抜けていく。

 その姿を見た時、マルケルスの手は柄を離れていた。怒る価値を、見出せなかったのだろう。

「ウァロを、助けてやるかの」

 ファビウスが、飄々と人々の間を潜り抜けた。そしてウァロの前に立つと、一つ咳払いをした。馬から落ちるようにウァロが降りる。焦るウァロとは対照的に、ファビウスの顔は穏やかだった。

「元老院を代表して感謝する、ウァロよ。おぬしは勇敢にも、ローマへ戻ってきてくれた。ここに、その勇気を称賛しよう」

 そう言って、ファビウスはウァロの手を握りしめた。余りにも意外な言葉だった。それはウァロも同じだったらしく、呆然とファビウスを見つめている。

「ローマが誇る大軍勢をもってさえ、蛮族バルバルスを止めることは出来なかった。これは、神が与えたもうたローマへの試練に違いない。神は今、ローマを試しておる。天下を治める器があるかどうか、問うておるのじゃ。そしてウァロは、蛮族の恐ろしい追撃をかわして帰ってきた。ローマが持つ不撓不屈の精神を、その身で神に見せたのじゃ。この快挙を、皆で祝福しよう」

 何かを察したのか、ウァロはファビウスの前に跪いた。

「偉大なる老ファビウスよ、申し訳ございません。私は最後の一兵になるまで戦い抜きました。しかし、エミリウス以下多くの戦友が死に、ついに撤退せざるをえなかった所存にございます。おお、私は神の試練にただ耐えうるしかなかったのです」

 呆気にとられている市民に、ウァロが巧みに語りかける。ファビウスはウァロを抱きしめた。群衆から、盛大に拍手が起きた。派閥を超えた抱擁が、群衆の胸を突いた。ウァロは抱きしめられたまま、ファビウスの耳元で「どういうことだ」と呟いた。

「おぬしの名声を回復させてやる。その代り、これからは儂の支持に回れ。それで手打ちじゃ」

 ウァロの顔が沈黙する。ファビウスの抱擁が強くなる。

「儂の口は軽い。うっかり、カンネーでの無様な敗走を暴露してしまうかもしれんの」

 唐突に、ウァロを抱き締める力が強くなった。震える手を、抑えるためだった。しばらく後、ファビウスはその手を離した。ウァロが、民衆に向き直る。

「我が身の未熟さゆえに、無敗なるローマ軍に泥を塗ってしまった。すまない。諸君の信頼に、応えることが出来なかった。神々にこの身を捧げたとしても、贖えるものではない。だがしかし、絶望しないでほしい。ローマにはまだ、希望がある。ここにおられるファビウス殿が、私達にはまだ残っている。この方は、ハンニバルの前に立ちはだかること十数度、ただの一度も敗れたことのない名将である」

 ウァロが、ファビウスを指し示した。かつてファビウスを愚図野郎コンクタトールと罵っていた口が、今は称賛する言葉を吐いていた。

「それがどれほどの偉業であったかは、私も、兵士も、皆が知るところである。どうであろう。もう一度、この御仁に賭けてみようではないか」

 ウァロは抑揚をつけ、聴衆の感情を揺さぶりながら演説をした。それから種々の賛辞と扇動するような謳い文句が、ウァロの口から流れ出る。群衆が、歓声を上げた。

「ハンニバルは雪辱に燃え、我がローマを滅ぼさんとしている。皆で力を合わせて、家族を守ろうではないか。この、生まれ育った祖国パトリアを守ろうではないか。野蛮な復讐者に、祖国を蹂躙させてはならない!」

 ローマの厭戦気分は、敗北したウァロを抱き込むことで払拭された。敗将を受け入れるということが美談となり、自分達がどれだけすぐれているかという矜持も擽られたらしい。ウァロを迎えた元老院は、早速に協議を開始した。だが、議場は空席が半分を占めた。元老院議員の多くは上級将校としても従軍しており、ハンニバルに殲滅されるごとに徐々にその数を減らしていたのだが、カンネーによってついに元老院議員の半数が消えてしまった。三百人いた議員も、今や百三十人にまで減っていた。閑散とした議場は、沈痛な静寂に包まれていた。

 ウァロが元老院に辿り着いて間もなく、南イタリア最大の都市カプアが離反した。南イタリア三大都市の中でも群を抜いて大きく、かつてはローマと肩を並べる大都市でもあった。カプアは度々反乱を起こしたが、ここ数十年はローマ連合に従順であった。故に、その衝撃は大きかった。カプアのあるカンパニアでは雪崩をうったように叛旗が翻り、それは南イタリアへと波及していった。

 ウァロは元老院への報告を終えると、緊急事態を宣言し、ファビウスの側近であるユニウス・ペラを独裁官に任命した。悲惨な状況のローマを立て直すには、もはやファビウスしかいない。事実上の指揮系統は、完全にファビウスに回った。

 主導権が渡って間もなく、ハンニバルからの使者がローマへと訪れた。公式上の名目は捕虜交換であったが、実際は講和の打診であった。ハンニバルによって討ち取られた兵は十六万。数字だけ見れば、負け戦は確定であった。普通の国ならば、講和が適当なのだろう。しかし、ファビウスはこれを門前払いした。使者の口上を訊く間もなく、ローマから追い出した。

 なぜ、拒否をしたのか、議会が終えた後、議員達はファビウスを囲んで問い質した。議会ではペラが独裁官権限で即答したため、理由を訊くいとまもなかった。

「簡単なことじゃ。今講和をすれば、ハンニバルは南イタリア諸都市を離反させるじゃろう、南イタリアはローマ連合に総計で十万の兵力を提供しておる。それが、ハンニバルの下に降ることになるのじゃ。さらにイベリア《ヒスパニア》にはハンニバルの弟が三万の軍勢を持っておる。もしも講和の後、ヒスパニア、カルタゴがハンニバルに兵力を与えたらどうなるか。ハンニバルは南イタリアに二十万の兵力でもって君臨することとなるじゃろう。今、五万の軍勢でさえ儂らは苦しめられておるのに、二十万も奴に与えてみよ。それこそ、ローマが滅亡するであろう」

 低い声で脅すように、締め括った。

 日が落ち、議会が終わると、マルケルスはファビウスに止められた。夕食に招きたいと、マルケルスは邸へと誘われた。ファビウスの邸はローマでも一際目立つ。その夕食はさらに豪勢だった。脚が一つの円卓に、二人では食べきれないほど様々な料理が置かれる。皿の一つ一つが銀で出来ており、質素であることを良しとするローマらしくなかった。奴隷が葡萄酒ウィヌムの入った大甕クラテールを持ってくると、柄杓で二人の杯に注いだ。そして水の入ったアンフォラを抱えて、二人の杯に柄杓三杯分の水を注いで割っていく。酸味の強い葡萄酒は、それくらいで飲みやすくなる。葡萄酒をそのまま飲むのはガリアなどの蛮族くらいで、互角に割るのさえ祝祭日くらいだった。

「おぬしはもう下がってよい。酌は儂がやる。しばらくの間、このアトリウムに人を近づけんでくれんかの」

 奴隷は一礼すると、ファビウスの言に従って下がった。マルケルスは分厚い豚肉を切り分け、その一つを自分の皿に盛った。ファビウスと食事をするのは、祭儀などを除けば初めてであった。平民派であり、政に興味のないマルケルスは、今まで接点がなかった。

 食事を終え、香辛料で汚れた手を水で拭っていると、ファビウスが切り出した。

「実は、頼みがある」

「なんだ」

「将校となり得る議員の数が、半分を切った。いつまでもおぬしを温存していられるほど、ローマに余裕はない。おぬしには、再び戦場へ出てもらいたいのじゃ」

老兵トリアーリの出番、か」

 マルケルスが笑う。

「良いだろう。エミリウスを討った男の刃を、見てみたい」

「おぬしまで主戦派に回ったら敵わぬ」

 ファビウスが飄々とおどけてみせる。本当にこの男は食えなかった。実際、一度は真剣に刃を交わしたい。いや、そのまま首を跳ね飛ばしてやりたい。口に出せば感情がわき出てくる。マルケルスは自分で葡萄酒を注いだ。いい加減に入れたせいか、少し酒が強くなった。

「ハンニバルへの対抗手段を考えたのじゃ。ただ一度の決戦に訴えるのは愚策。かといって南イタリアが離反した今、兵糧攻めも効果が乏しい。出来ることはただ一つ。ひたすらに、奴の軍団を削るしかあるまい」

 ファビウスが出し惜しみするようにゆっくりと話す。だがそれは、口に出すまでもないことだった。恐らく、次の言葉をどう言うか迷っているのだろう。穏やかな表情は崩れず、一見すると愚鈍な性格とも取れる。この男の心の中を、本当に見破れる者はいないだろう。

奴隷ウォロネスを買い取り、奴隷軍団を作る。それでハンニバルの軍団を削り、奴を南イタリアから追い出す。奴隷兵が使えるかどうか。軍に精通しているおぬしの意見が訊きたい」

 思わず、口につけていた杯を離した。

「本気か」

 捨駒として、ファビウスは奴隷軍団を作ろうとしていた。確かにそれならば、ローマ軍に傷をつけずにハンニバル古参の兵を削ることが出来る。この二年の戦いで、敵の陣容はおおよそ把握していた。アルプスを越えてきた二万六千の中で一番の脅威は、ヌミディア騎兵だ。馬の脚一つでも落とせれば、補充の出来ないカルタゴ軍の戦力は半減する。

「戦術としては、問題はない。だが奴隷達の士気や統率を維持するには、相当の困難があり、凡将ではまず無理だ。特にファビウス、お前が率いる気ならば止めておけ。お前の素質は、そういうところにはない」

 マルケルスが、直入に言った。ファビウスの視線が、左に動いた。やはり、自ら率いるつもりだったのだろう。ファビウスの器は、兵の一人々々を鼓舞していく前線司令官としての素質ではない。そこよりももっと上、大局的な戦略に長けている。講和の話を即座に一蹴したことでも、その戦略眼の程が窺える。

「同じく、俺にも無理だ。俺は兵士を畏怖させることこそ出来ても、奴隷達と肩が組めるほど世話焼きではない」

 ファビウスが唸った。マルケルスは杯を乾すと、再び葡萄酒を注いだ。今度は、上手に配分する。

「しかし、率いられる奴がいない訳ではない。一人だけならば知っている。平民プレブスだがな」

「誰じゃ」

 ファビウスが体を前に出した。

「グラックスという男だ。奴ほど、訓練兵に愛された者を俺は知らない。将校トリブヌスとしての実戦経験も多くある」

 議員達の指揮能力について、ファビウスは余り知らない。歳のせいか、ファビウスの足は訓練場であるマルスの野から遠のいていた。

「主戦派であるが、上手い戦をする。そう簡単には敗けぬ。ウァロを抱き込んだ今ならば、協力してくれるだろう」

「主戦派か」

ファビウスは考えておくと言うと、杯を傾けた。

「ところでマルケルス。おぬしにもう一つ、頼みがある」

「なんだ」

「カンネーの敗兵を、率いて欲しい。大急ぎで編成したのじゃが、兵が足りぬ。独裁官の四個軍団と南イタリアに派遣する二個軍団しか編成できず、カプア南方のノーラを守る守備隊がいないのじゃ」

ファビウスが、杯を置いた。無理な願いであることは、承知しているようだった。一度負けた兵を、再び戦場に立たすのは難しい。特に地獄を見た兵ならば、心に癒えぬ傷を負ってしまっている。軍に戻すだけでも、大変な作業だった。それでも、徴兵が難しくなっているのは事実だろう。十六万の兵の損失を考えると、およそ二十四万までが動員可能兵力だが、財政面を考慮するともっと減るのかもしれない。

「恐らく、ハンニバルはカプア周辺の制圧に乗り出すじゃろう。ペラの四個軍団にハンニバルの主力を食い止めさせるが、別動隊がそちらに向かうやもしれぬ。それを防ぎ、可能ならばハンニバルの背後を突いてもらいたい。ペラとの挟撃がなれば、ハンニバルの軍勢をだいぶ削ることができよう。翌年の軍団を再編成するまでの間だけ、頼めぬか」

「構わぬ。敗軍の立て直しは、軍人の仕事だ」

カンネー軍団の中には、エミリウスの忘れ形見がいる。マルケルスが零すように言った。エミリウスの育てきれなかった義息子だった。マルケルスはエミリウスからスキピオの剣の手ほどきを頼まれていたが、その鍛錬もまだ終えていない。スキピオのことが、他人事に感じられなかった。戦以外には畑を耕すことしかしてこなかった自分の心は、エミリウスに出会って変わった。こういうことに衝動が駆られるのも、腐れ縁がなしたものなのか。新たにやることが増えた。だがそれは、鬱陶しいものではなかった。

「一つ訊いておきたい」

「なんじゃ」

「ハンニバル以外ならば、屠っても良いのだな」

「やれるものならば、じゃがな」

 マルケルスは笑った。激情の置き場所が、決まった。

 翌日、ファビウスに報告が入った。ハンニバルは、四万五千の兵力を三つに分けた。カルタロという武将が一万の兵でノーラへ。そしてハンノという武将が一万を率い、南端のブルッティウム地方へ向かった。

 南イタリアは、大きく五つの地方に分けられる。時計回りに北東をアプリア地方、南東をカラブリア地方、南西をブルッティウム地方、北東をカンパニア地方、そして中央部がルカニア地方だった。カプアがあるのはカンパニア地方であり、今ハンニバルの領地はここだけであった。

 すぐさま、ローマでは六個軍団が編成された。南イタリアに派遣される二個軍団の将はウァロ。任務は南イタリアの離反を阻止すること。そしてハンニバルと対峙する四個軍団は、独裁官ペラと、その副官である騎兵長官マギステル・エクィトゥムにはファビウスから抜擢されたグラックスが率いる。マルケルスの推す男がどれほどなのか、試すつもりだった。ペラの任務は、ハンニバルを食い止めカプア入城を阻止すること。カプアと連携を取らせなければ、南イタリアに広がる反ローマの風も下火となる。そしてマルケルスにはカンネーの兵を与え、ノーラの防御を任した。全軍はすぐさまに出陣した。

 城壁から見送るファビウスに、悪寒が走る。曇天の空に、雷鳴が響く。雨が降る前に、と議員のブテオに促され、議事堂クリアへと戻った。

早速ローマに吉報が入った。一万の別動隊がノーラを急襲したが、間一髪で到着したマルケルスが軍を建て直し反撃。カルタゴ軍五千を討ち取り、ハンニバルのもとへと敗走させたとのことだった。

 鬼神の如き采配であった。紛うことなく、マルケルスはローマ随一の名将だ。敗残兵を率いることは、傭兵とはまた違う困難が付きまとう。戦うこと自体を恐れている兵もいるのだ。それを克服する唯一の方法は、勝つことだった。だが、劣勢のそれも敗残兵を率いて勝てる男は、イタリア中を探してもマルケルスしかいないだろう。

 ようやく良い報せが入ったと、元老院だけでなくローマ中が沸きあがった。それでも、これは小さな光に過ぎない。ファビウスはじっと地図を見つめていた。数日後、ペラがハンニバルと対陣したとの報告が入る。ここまで、ファビウスの予想通りだった。後はマルケルスが背後へと急行すれば、ハンニバルは窮地に陥る。だが翌日には、その作戦は覆された。

「報告。嵐に紛れてカルタゴ軍はユニウス・ペラ独裁官の陣営を数度にわたって夜襲。虚を突かれた四個軍団は壊滅しました」

「一日も、耐えられなかったというのか」

 まだ雨水が乾き切っていない肌着トゥニカもそのままに、使者は頷いた。立ちはだかるローマ軍を、ハンニバルは嘲笑うように踏み潰していく。これ以上ない悲報に、ファビウスは言葉を失った。ただ使者の報告では、敗走する中、ただ一人騎兵長官のグラックスが上手く軍を建て直し、ヒルピニへと撤退したとのことだった。追撃は、全てグラックスが躱したとのことだった。

 ハンニバルのカプア入城が確実になったことで、本格的な長期戦になった。ファビウスは、後方でのローマ立て直しに追われた。大動員による物資、兵士への俸給に加え、ハンニバルによるイタリア蹂躙がローマの財政を圧迫した。ファビウスは三人銀行委員会トレス・ウィリ・メンサリィを設置。実質的に財政を緊縮させ、軍費を捻出させた。また、物品の請負人からは掛け売りで物資を調達した。新規の元老院議員も選りすぐり、百七十人増やして定員の三百人へと回復させた。グラックスを翌年の執政官にすることも決められた。

 長い戦いが始まる。議事堂で一人、ファビウスは白い外套(トーガ)を握りしめた。


 眩むほどの高い城門を、雷光の旗が潜り抜けた。その後ろを、様々な形の軍旗が続いていく。防具はローマ軍と同じ鎖帷子に腰を越える鎧だが、全軍の生やしている荒々しい髭とその雑多な軍旗が、カルタゴ軍であることを示していた。

 カプアの市民は、怯えながらその軍団を歓迎した。中央をゆくハンニバルは白馬に乗って、その背を伸ばし、真紅の外套を翻す。激戦を勝ち抜いてきた証のように、右目は眼帯で覆われていた。その威を形容するかのように、大柄な馬に跨った騎兵が続く。イベリア騎兵だ。ハンニバルは群衆に手を振らず、射抜くように巨大都市の街並みをその左目で見つめた。灰色と褐色で覆われた背の高い居住区が広がっている。

 カプアはたびたび反乱を起こしていた。そのたびに、ローマ軍に鎮圧されている。南イタリア三大都市の一つであるが、その中でも群を抜いた繁栄を謳歌しており、商業にかけてはローマに匹敵していた。カプアの人々もその矜持を持っており、ギリシア《ヘレネス》やカルタゴなどいにしえの大国と深い交易を行なっていた彼らにとって、一農村に過ぎなかったローマを見下すことが多かった。

 兵士達の宿舎が割り当てられると、カプアの長であるカラウィウスは都市中央にある白亜館アエデス・アルバの一室でカルタゴ将校をもてなした。久々に、ハンニバルも将校も鎧を脱いだ。代わりに、将校達は足元まであるゆったりとした外套ローブを羽織った。ハンニバルも臙脂えんじ色で縁取ったものを羽織り、煌々と照らされた卓の先頭に座った。

 カラウィウスが命じると、ギリシア製の金色の長机に色とりどりの食材が運ばれてきた。カルタゴから入手したであろう品々で満たされていた。カルタゴ人の好む甘い粥や、酒はカルタゴから取り寄せたであろう無花果カイスのものだった。十日ともたない酒なので、ハンニバル達のために用意されたのであろう。椅子も絢爛な装飾に加え、動物の毛皮が敷かれていた。

 ハンニバルは立ち上がると、杯を掲げた。将校達も、杯を手に取った。

諸君ヤブールバアルにより結ばれたカプアの同胞ハブル達との契りが永遠であらんことを。ローマを下し、両国に再び覇権が戻らんことを祈り、乾杯」

 酒と水を互角に入れた杯を一つ、ハンニバルは飲み干す。将校も杯を空にした。

「いつか死ぬことを忘れるな。精一杯飲み、今日を楽しめ」

 ハンニバルが口元を上げると、それが合図かのように皆は騒ぎ出した。様々な珍味に手を出す。カラウィウスが、たどたどしいフェニキア語でハンニバルに酌をした。「(ヘー)」の発音は、ギリシア語のそれだった。ハンニバルがギリシア語で返す。途端に、カラウィウスはギリシア語へ切り替えて饒舌に喋りだした。カプアではラテン語が日常で使われてはいるが、殊に商売で使うギリシア語ならば、美辞麗句に特化していたのだろう。

髭をくすぐる雫を拭うと、ハンニバル自身はそれ以上の飲酒はった。代わりに、ポスカと呼ばれる酢に甘味を混ぜ合わせたものを水で割って飲んだ。軍にいる間は酒に溺れない。父の教えは身体に染みついていた。宴もたけなわになると、ハスドルバルやマゴの騒がしい声がよく響いた。歌劇団が、宴を賑わす。ひと時の宴は、深更まで続いた。

 翌朝。ハンニバルは街の外れに割り当てられた宿舎を巡回した。石畳の上を、乾いた音で馬が闊歩していく。宿舎に提供された建物は、どれも四階から五階建ての灰色の高層建築物であり、二万五千の兵を収容することが出来た。将校達は、カラウィウスの取り計らいで貴族の家に住まわせてもらっていた。

 ハンニバルが宿舎に戻ろうとした時、未だ酒の抜けきっていないハスドルバルが、宿舎の前で眠り込んでいた。

「こんなところで寝るな、起きろ」

 ハンニバルが馬上から声をかけると、途端に直立した。

「あいや、申し訳ありません将軍」

 ハスドルバルがはだけたローブを急いで直した。朝から手厳しいと、小さく呟く。ハンニバルの表情が少し和らいだ。そのまま、ハンニバルは自らの宿舎へと向かった。宿舎には、すでにギリシアの奴隷商人達が列をなしていた。書記官であるギリシア人のソシュロスを傍に置いて、ハンニバルはローマ兵捕虜を売却した。値は崩れることなく、相場通りで売り払うことができた。それを済ませると、各部隊長に傭兵への俸給を渡すよう命じた。終戦すればその何倍もの俸給をやると伝え、隊長達に再び忠誠を誓わせた。

 人が去った宿舎の中が静まり返る。ローマ風の白い外套(トーガ)を着た男が、戸口に立っていた。扉を開ける音はなかった

「シレノスか」

 戸口に立った男が一礼する。背の小さい男だった。長い間ローマに潜伏させていたので、顔を合わすのは久方ぶりだった。よく見ると、服の端々に豪華な縁取りがされており、庶民というよりも商人のようだった。

「申し訳ございません。ノーラを離反させることが出来ませんでした」

「よい。ローマにも、人がいたということだ」

 シレノスは頭を下げた。ノーラでは、ローマ連合離脱の気運が高まっていた。それに付け入ろうとシレノスに扇動を行なわせたが、すんでの所でマルケルスという将が軍を引き連れ鎮圧した。それだけでなく、カルタロの軍を壊滅させた。補充のできないハンニバル軍団にとって、一度の敗北は大きかった。

「ローマの状況はどうなっている」

「数日前に執政官選挙が行われ、貴族派のポストゥミウスと平民派のグラックスが選ばれました。それに続いて翌年の軍団編成が行なわれ、十五個軍団となり十九万の兵力が投入されます」

「少々多いな」

「ハンニバル殿に割かれる軍団がそれぞれ二万五千から三万へ増強となり、およそ九万の軍勢となりました」

「ほう。愚図野郎コンクタトールの御老公は、よほど俺が怖いらしいな」

 ハンニバルが笑った。

「ローマの世論はどうなっている。厭戦へと傾いているか」

「ファビウスに世論を押さえられております。カルタゴは復讐に燃え、ローマを滅ぼすまで戦争を止めないと市民は信じ、挙国一致の体制を固めております」

 シレノスが俯く。小さな溜め息が、ハンニバルから漏れた。講和の目途は立ちそうになかった。厭戦気分を蔓延させるために幾度も敗北させ、ローマと講和を行なう筈だった。それを狙ったからこそ、今まで決戦を挑んできたのだ。だが、ローマは屈しなかった。自国を疲弊させてでも、この戦いに勝とうとしている。戦いを長引かせるのは、兵法通りに考えれば上策ではない。それは、先の戦争を体験しているローマも同様に感じている筈だ。それにも拘わらず、ローマは長期戦を挑もうとしている。それほどまでに、カルタゴと共に歩むことを嫌うのか。

「今後は、ローマでは諜報だけに徹して部下を引き上げよ」

「畏まりました」

 一礼すると、シレノスは下がった。ハンニバルはこめかみを押さえながら、地図を眺めていた。

マハルバルは厩舎で馬を洗っていた。自分で世話をするのが、ヌミディア騎兵の習慣だった。訓練の後の一風景だ。櫛で毛並みを梳かしていると、マハルバルは伝令に呼ばれた。ハンニバルが宿舎に来いと命じたのだ。マハルバルは櫛を置いて兵士を解散させると、白亜館へと向かった。その二階の正面にある部屋が、ハンニバルの執務室だった。金具の甲高い音と共に、衛兵が木製の扉が開けた。

「御呼びでしょうか、将軍ラブ・アマナト

「話がしたい。扉を閉めよ」

 マハルバルが中に入ると、扉が閉められた。部屋の中にはマゴもいた。中央の机には、イタリアだけでなく西地中海全体が描かれている。

「ローマが、講和の使者を門前払いしてきた」

「早期講和は崩れたのか」

 マハルバルが肩の力を抜く。早期講和は、二人で話し合って導き出したものだった。イベリアにいる頃からこの戦いについて練り合わせ、そこを一つの区切りと決めていた。

「ヌミディア騎兵の馬も老齢化してきている。補填しなければ長期戦は戦えないぞ」

「分かっている。アフリカ(ファラカ)の兵を動かす」

「アフリカのですか」

 マゴが首をひねる。ハンニバルが地図の端を指さした。マゴが覗き込む。そこには地図を覆い尽くすようなアフリカの大地が描かれており、その北端に駒が置かれている。戦争が始まってすぐ、ハンニバルはカルタゴ本国に二万のイベリア兵を送っている。それは戦争を嫌がる本国を宥めるためでもあり、また、講和後の南イタリアを鎮撫するための後詰であった。二万の兵は新たに一万のアフリカ兵を雇い、三万に増えていた。恐らくその数が、船に乗せて渡せられる限界であった。

「この兵を上陸させ、後詰にするということだ」

「しかし、どうやってイタリアへ上陸させるのですか。地中海はローマ海軍で埋め尽くされておりますし、抜けるのは難しいのでは」

「シレノスの部隊に、叛乱を起こしてもらう」

 ハンニバルは卓上の駒を、地図の各所に置いていった。

「西のサルディニア、南のシチリア、そして東方のマケドニア。ローマを囲むように叛乱を起こし、海軍を分散させる。そうすれば、地中海の扉は開く」

 マケドニアが宣戦布告し、シチリア島とサルディニア島で叛乱が起きる。確かに、一国の海軍が捌き切れる規模ではない。だが、それは針の穴を通すような計画だった。

「マケドニアとは、話をつけているのか」

「密使としてソシュロスを送った。翌年の夏には、正式な同盟が結べるはずだ」

 マケドニアは、ギリシアの北方にある大国であった。かつてはアレクサンドロスを輩出し、東方を束ねる大帝国となったが、後継者争いが起こり、今は一辺境国に収まっていた。マケドニアは、ローマの治めるイリュリア地方を欲していた。

「私に、アフリカから持ってこさせようというのか」

 全てを察したかのように、マハルバルが言う。だが、ハンニバルは頷かなかった。

「これはマゴに任せたい。お前には別のことをやってもらう」

 ハンニバルが、一片のビブロスを取り出した。

「計画を前倒しに始める」

「計画ですか」

「南イタリア諸都市を束ねる行政組織の設置だ。これからは戦線が広がる。軍団を動かしながら各戦線の兵站や諸都市の内政に気を配ることは不可能だ。また、ローマへの厭戦工作の必要もある」

 それは、古くから二人の間で温めていた計画だった。行政組織はそのまま、第二のバルカ家の基盤とする。マハルバルが南イタリアを治め、ハンニバルがイベリアを治める。そしてカルタゴを改革していく。だが、それは戦いが終わってからの話だった。

「分かった。今度は陰から、お前を支えよう」

 マハルバルは頷いた。考えていたものと現実は往々にして違う。ふと一瞥すると、ハンニバルの表情はどこか居心地悪そうだった。

 マゴとマハルバルは一礼して退室する。

「兄が不安そうな顔をしているのを、私は初めて見ました」

「それだけ大変だということだ。お前も、援軍を必ず届けるのだぞ」

「大丈夫です。任せてください」

マゴが笑う。ふと見せたハンニバルの表情が、いまだ忘れられなかった。あの表情は、少年の頃にも見たことがある。兵士の間では、ハンニバルを魔王と呼ぶ声もあった。敵味方が死ぬ戦場で、ハンニバルの表情は冷徹だった。だがその男にも、弱さはある。厳しい教育を受けていたハンニバルは、いつも独りだった。マハルバルが机を並べて共に学んだのは、孤独を埋めるせめてもの慰めだった。そんなハンニバルが自分に夢を語ったのはいつの頃だったか。夕刻の、稽古帰りだったことは覚えている。ハンニバルは眼を逸らし、「部族の違うお前には関係のないことかもしれない」と前置きをおいてから、語りだした。

 カルタゴの再興。ハンニバルは胸の内にあるものを自分にさらけ出した。語る言葉一つ一つに、祖国への想いが溢れ出ていた。ローマを打ち払い、地中海にカルタゴの覇権を取り戻す。訥々と語るハンニバルは、時折不安そうにこちらを見た。語り方を工夫しながら、マハルバルの興味を惹かせようとしていた。いつもは寡黙な男が、見せない努力だった。そう感じた時、胸が熱くなった。一人の人間として、この男は自分を必要としている。誰でもない自分を選んだのだ。

 躊躇いもなく、自分に重みを背負わせてほしかった。自分はハンニバルのそばを離れたりはしない。どれほどの時を、同じ夢を背負ってきたのか。ハンニバル一人で叶えるのではない。共にあることを、気づいてほしかった。

 窓から薄ら日が差す階段を、二人は降りていった。

 冬期は休戦となり、カルタゴ軍は束の間の安息に浸かった。だが、ハンニバルとマハルバルは東奔西走していた。ハンノが南イタリア南西のブルッティウム地方を攻め、南イタリアの西半分を降した。占領した南イタリアの領地を治めるには、ローマとは違った色を出さねばならない。二人は新たに、徴税による繋がりを模索した。ローマは同盟都市に対し、徴税の代わりに兵力の提供を求めていた。それに対して、二人は血ではなく金での繋がりに変えようとした。すぐに大規模な官吏の登用が行なわれ、東方風の徴税機構の創設をマハルバルは行なった。ローマは今、十六万の兵を失ったにもかかわらず更に十九万の動員を行なおうとしている。今までの被害を考えれば、実質三十五万の動員だった。これについていけない諸都市を取り込もうというものだった。

さらに通貨を新たに発行した。ローマでは青銅貨アスならば普及していたが、銀貨デナリウスは発行されたばかりだった。カルタゴやギリシアとの貿易が密だった南イタリアでは、依然としてローマの通貨の力は弱かった。ハンニバルは中立国であるエジプト《アイギュプトゥス》経由でイベリアの銀を密輸すると、ローマの銀貨と合わせて熔かし、新銀貨へと鋳造し直した。通貨の支配は、戦争とはまた違う意味を持つ。通貨の浸透力で勝れば、その供給先は大きな力を持つ。銀の含有率で市場を支配する。物の流れには数多の戦場があった。マハルバルはそういう局面での戦いも一任した。

 マハルバルが内で動き出すと、ハンニバルは軍事面で動いた。カプア近郷のカシリヌムを攻め落とし、カプアの守りを厚く固めた。

 ハンニバルは鎧のまま宿舎に戻ると、計ったようにシレノスが訪ってきた。

「将軍。ノーラの失態に、汚名返上の機会を下さい」

「どうやる」

「ガリアへ向かい、必ずやローマ軍に一矢報いてみせます」

 シレノスの言葉は短かったが、冷静さを失ってはいなかった。恐らく、準備は万端なのだろう。

「立春までに帰ってこい。それ以上は認めぬ」

「はっ」

 シレノスは一礼すると、音もなく出ていった。この年の末、ようやくガリアがローマへと叛旗を翻していた。集まることがなかった部族達の中で、連合が組織されたのだろう。ローマは急遽二個軍団を翌年の執政官となるポストゥミウスに与え、鎮圧に向かわせていた。

 年が改まったオリュンピア期第一四一年第二期(紀元前二一五年)。アルプス越えから、三年が経過しようとしていた。ハンニバルは少数の護衛と共にカプアへと戻り、マケドニアの使者と会談を行った。マケドニアの使者が来ていることは無論、極秘になっている。ローマが海軍を強化する前に、態勢を整えておきたかった。

「それではハンニバル殿、この条文に異論はありませんか」

「異存はない」

 使者のクセノファネスが、確認するように言った。マハルバル他、ハンニバルを監視する長老会議員も居並ぶ中での調印だった。

「それでは我が主フィリッポス大王バシレウスに代わり、ゼウス、ヘラ、アポロンの名の下、ここにカルタゴ(カルケドン)国と友好条約を誓約する」

「カルタゴ《カルケドン》長老会ゲルーシアを代表し、バアル・ハモン、タニト、レシェフの名の下、マケドニアとの盟約が永遠であることを誓う」

 二人は順に署名した。

「この書面はすぐに持ち帰り、王に御報告致します」

「真実の証左として、長老議員であるボスタルを同行させよう」

 クセノファネスは礼を述べる。調印が終わると、使者団は退出した。その日のうちにクセノファネスはカプアを出て、マケドニアへと向かった。迅速に事を運ぶためだった。だが、数日後に使節団はローマ海軍に捕縛され、ボスタルが早々に自白したことでローマは同盟を知った。対してマケドニアは、誓約文書がローマに奪われ条約内容が未確認であるとして、動くことはなかった。すぐに使者を交わしたが、ローマが捕縛してから既にかなりの日数が経っており、時宜は失していた。

マハルバルが悔しそうに、壁に拳をぶつけた。

「迂闊だった。シレノスに護衛を任せておけば、こうはならなかっただろう」

「シレノスは今ガリアにいる。悔やんでも仕方がない。シチリア、サルディニアだけでも動かそう」

「あのマケドニアがわずか一個軍団分の影響力とは情けない。予定の四分の一だ。せめて捕縛された時点で動いてくれれば、情勢はもっと変わっていただろうに」

「もう言うな。ある材料で、戦うしかないのだ」

 左目に苦渋を滲ませ、ハンニバルが言った。ローマは、既に一個軍団をマケドニアのイリュリア地方に送り、ギリシア同盟都市を切り崩しにかかっていた。マケドニアが本格的に動けば、ローマ四個軍団分の勢力となる。だが、それは邪魔をされずにギリシアで大号令を掛けた場合の話だった。集合離散の激しいギリシア諸都市で離間策を取られると、途端に情勢は変わりだす。特にローマという後ろ盾を得られた諸都市は、マケドニアに反旗を翻し始めていた。

 ハンニバルはシレノスの部下であるボグスに伝令を飛ばした。シレノス達の根城はローマからカプアに変わっている。シレノスからは、いつでも叛乱は起こせるとのことだった。マケドニアの不備。不完全だったが、やるしかなかった。


 ローマ元老院に、ガリアから急報が届いた。

「報告! ガリア鎮圧に向かったポストゥミウス執政官コンスルが、リタナ森にてガリアの伏兵に遭い捕縛。二個軍団も壊滅しました」

 伝令の報告に、元老院議員は震えあがった。捕虜となったポストゥミウスの処置は残酷だった。生きたまま脳髄をくり抜かれ、頭蓋骨は黄金で塗りたくられて祭器として使われたという。ハンニバルとは違う狂気が、議員を怖気づかせた。新年が改まり、いまだ執政官の就任式も行われていない中での惨劇だった。

急ぎ執政官の決め直しが行われ、ファビウスが再び選ばれた。

元老院議員セナトール諸君。儂が執政官コンスルとなったからには、その命に従って貰う。まず、ハンニバルと決戦することを禁ず。命があるまで、軍の合流を禁ず。この二つを破った者は何人であろうと追放する。よいかの」

 ファビウスが、低い声で厳命した。合流しないというのは、マルケルスが決めたことだった。大軍となれば、動きが遅くなるばかりでなく、ハンニバルに敗れた時の損害が大きくなる。カンネーの教訓だった。分散すれば、一回の損害は最大でも二個軍団で留まる。勝つことを諦めた、徹底した防御戦術だった。

奴隷も集められ、二個軍団が編成された。それはグラックスの配下に組み込まれた。敵の首級を挙げれば自由民にさせるという恩賞も提示してあった。

 それから任地が割り振られる。対ハンニバル戦線には、グラックス、マルケルス、ファビウス。率いる兵にはローマの精鋭部隊が揃えられた。それぞれ三万を率いて、連携してハンニバルの軍勢を削る。南端で動くハンノには、トレッビアの敗将センプローニウス。空白地となった北イタリアには、ウァロが一個軍団で防衛に回された。そしてカンネーの敗残兵はシチリアの防衛へと派遣された。カンネーの敗残兵は、ウァロの罪を擦り付けられた。国を一つにまとめるため、ファビウスとしてもどうしようもなかった。ローマ市民はカンネーの兵を許さず、戦争が終結するまでイタリアの地を踏むことは禁止された。

 翌春。カプアからハンニバル率いる三万が出撃した。後手を取ったファビウスも、軍を急行させる。ハンニバルは電光石火で南へと進軍し、ヌケリアを陥落させた。ノーラですでに待機していたマルケルスが動く。それをすり抜け、ハンニバルの動きは加速した。東へと突き進む。グラックスが前進を塞ごうと動いた時には、カプア近くのノーラに戻っていた。

ハンニバルの狙いはノーラだった。間一髪で戻ったマルケルスが、何とかノーラを防衛する。カプア北方のカレスに布陣したファビウスは、腰を据えてカプアに圧力をかけた。こうすることで、ハンニバルの動きは南イタリア北東のカンパニア地方のみとなる。神出鬼没な動きに少しでも歯止めをかけるためであった。

 南方でも、戦闘は始まった。南端のグルメントゥムで別動隊のハンノ軍とセンプローニウスは衝突。二千人を討ち取り、押し勝ったとのことだった。だが勝利とは裏腹に、南西のブルッティウム地方の殆どの都市がハンニバルに降っていた。恐らく、ハンニバルの隠密部隊が動いているのだろう。ハンノは敗北を気にせず、部下に別動隊を渡して中央のルカニア地方も降していった。南端が三日月の旗に染まる。イタリア南端の戦線もまた、カルタゴ優位で動いていた。

 ファビウスがカレスに対陣した夜、ファビウスの下にイベリアで戦うプブリウスから報告書が届けられた。読み終えたファビウスが、忌々しそうにそれを息子のクィントゥスに渡す。息子のクィントゥスが、蝋燭で照らしながらそれを読んだ。息子も四十を過ぎ、もう間もなく栄誉の道(クルスス・ホノルム)最上段にある執政官に届くまで歳となった。

「アフリカに不穏な軍団があるとのことよ。二万のイベリア《ヒスパニア》兵と一万のアフリカ兵からなる精鋭らしい。しかし奇妙なことに、イベリアでカルタゴ軍が苦戦しても、動く気配がないそうじゃ」

「怪しいですな。アルプスを越えたハンニバルのことですから、また何か策があるのかもしれませぬ」

「可能性として一番あり得るのは、イタリア上陸かの」

 ファビウスの胸中が曇る。ハンニバルに援軍が来ると思うと、恐ろしかった。三万の兵ともなれば、いかに三将といえども、抑えられる自信がなかった。

「しかし、ローマ海軍クラッシスは強化されております。その芽は潰えておりましょう」

 確かに、海上の防備は完璧だ。ハンニバルに援軍が届かないよう、そこは以前から気を付けていた。海軍ならばローマが上であり、早々に破られるはずがない。だがマケドニアが牙を剥き、戦線がまた一つ増えた。これ以上戦線が増えては、戦艦の数が間に合わなくなるだろう。

 プブリウスの報告から間もなく、ローマから伝令がやって来た。

「ファビウス殿に報告。サルディニア島で叛乱が発生しました」

 なだれ込むように、次々と伝令が駆け込んでくる。

「シチリア島でヒエロン僭主が突然死。後継者としてヒエロニュモスが即位し、カルタゴと同盟を締結。シチリア西岸でも陸続と叛旗が翻っております」

 これがハンニバルの狙いか。シチリアもサルディニアも、制海権確保のためには最重要の島であった。予備の四個軍団はその両島を守るために派遣せねばならず、海上防備に回せなくなってしまった。マケドニアも宣戦布告をしてきた。そちらに一個軍団を割いた今、残っている海軍はいない。戦艦を急造しても、間に合うはずがない。三万の兵が動くには、絶好の機会だった。

 両手を胸に当て、ファビウスは天を仰いだ。もう、全ては神に託すしかない。ファビウスは幕舎を出て、月を仰いだ。天上の三日月は、煌々と輝いていた。


 シレノスは暗躍した。南端のイタリアにて、カルタゴ軍十万がハンニバルの援軍に遣ってくると流布した。サルディニア島、シチリア島、マケドニアと動き出した今、その噂は信憑性を増していた。勿論、南イタリアの指導層はその数を鵜呑みにしたわけではなかった。だが、数万の軍勢が来るであろうことは予想していた。これで本格的に、ハンニバルの時代が来ると誰もが予想した。

援軍を受け取りに向かったのはハンノだった。南端のロクリ港へと向かったハンノは、軍船の数に唖然とした。援軍の将であろう男が船から飛び降り、ハンノに報告した。

「本国より援軍を任されたミュットノスです。マゴ殿の代わりにヌミディア騎兵四千と戦象四十頭を連れて参りました」

「四千、だと。三万の軍勢はどうした。マゴはなぜおらんのか」

「それは――」

 少し詰まってから、ミュットノスが答えた。本国の長老会では、元々ハンニバルに否定的であった。ローマの主力がいる南イタリアでは、ハンニバルに対して十数万の兵が用意されている。しかしサルディニア島、イベリア戦線には僅か二個軍団しか配置されていなかった。本国は三万の兵の指揮権を奪い、勝てそうな戦線に割り当てた。三万の軍勢はサルディニア、イベリアへと送られ、ハンニバルに充てられることはなかった。ハンニバルの伯父であるボミルカルが僅かに手を回し、何とか四千の兵をハンニバルへと渡したのだった。

 ハンノが眉間に皺を寄せた。

「どういうことだ。本拠地であるイタリアで勝てば、他の戦線は自ずと自壊するに決まっているであろう」

「保守派のハエドゥスとジスコーネが、他の戦線で確実な勝利を治めれば、ハンニバル殿の軍が潰滅しようと、カルタゴ本国は無傷のまま終戦すると主張なされました」

「奴らは、カルタゴが攻撃されることを考えていないのか」

「ボミルカル殿が主張なされましたが、一蹴されました」

本国の議員達は、勝つことを念頭に置いていなかった。ただ近視眼的に、サルディニアとイベリアの土地に目が眩んだのだ。喉元に剣を突きつけられるまで、奴らは危機にあることを信じないのだろう。

 ハンノは四千のヌミディア騎兵はハンニバルのもとに送り、戦象は機会を狙って北上させることにした。さすがにヌミディア騎兵の動きは早く、未だローマ軍がいる土地を捕捉されずに潜り抜け、ハンニバルのもとまで駆け抜けた。

 ハンノから連絡のあった数日後に、援軍のヌミディア騎兵は到着した。ミュットノスは、ボミルカルからの書状を差し出した。ボミルカルは父が本国の調整役に残した一族の一人であった。

「申し訳ない、とボミルカル殿は申しておりました」

「そうか。長旅ご苦労であった。下がってよい」

 ハンニバルは、重々しく口を動かした。ミュットノスが一礼して下がる。渡されたのは謝罪のふみだった。一族を上げて軍をかき集めたが、それだけが限界であったと、釈明していた。読み終えると、ハンニバルは将校達に目をやった。幕舎にいる将校のだれもが、顔を挙げなかった。ハスドルバルも、口を噤んでいる。声に出すのも莫迦らしかった。カルタゴは明らかに、落日の一途を辿っていた。

ハンニバルは援軍を機に、軍を再編した。機動力の上がった三万の部隊で、ハンニバルはローマの三将を翻弄した。だが、ハンニバルに悲報が届く。

イベリアで、プブリウスと決戦に出た次兄のハスドルバルが敗走。援軍としてきたマゴの奮闘も虚しく、イベリア北部はローマ軍に占拠された。サルディニアへ攻め込んだ一万五千も、本国の司令官バルドがローマ軍と交戦。だが一日としてもたず、叛乱軍の将ハプシコラも破れ、バルドは本国へ敗走した。シチリアでは蜂起したヒエロニュモスが暗殺され、シラクサは早くもローマとの講和に入っていた。地中海の穴は、呆気なく閉ざされた。

 カルタゴの希望は、南イタリアだけとなった。しかし、ローマの三将を破ることは出来なかった。ハンニバルは互角に戦い抜いたが決着はつかず、その年はそこで冬営となった。

 翌年。ローマの執政官はファビウスとマルケルスが選ばれた。ローマでは軍艦百隻が新たに建造され、ハンニバルへの援軍を完全に遮断した。軍団は更に六万が増強され、ハンニバルへの油断は一切なかった。

 この年、南端で新兵二万を鍛え上げていたハンノは、ベネウェントゥムでグラックスと衝突。だがグラックスの指揮は凄まじかった。それに怯えた新兵はすぐさま敗走。新兵のほとんどが討ち取られ、ただヌミディア騎兵だけが生き残る大敗となった。ハンニバルが救援に向かった時には、グラックスはすでにルカニアへと撤退していた。北東のカンパニア地方では、ハンニバルがいない隙を衝いてファビウスとマルケルスがカプアの衛星都市カシリヌムを陥落させた。これでカプアの防衛力が一段と低くなった。ハンニバルは再びカンパニアに戻らざるを得なくなった。南イタリアを、ハンニバルはただひたすらに駆け続ける。じわじわと、ローマは反撃の芽を息吹きだしていった。


マハルバルはハンニバルへと伝令を送った。しばらくして、ハンニバルは全軍を連れてカプアへと帰還してきた。マハルバルは出迎え、ハンニバルの失った兵を新たに補充し、物資を運びこませた。それから、ハンニバルと共に白亜館アエデス・アルバに向かう。そこの二階は、今ではマハルバルの執務室となっていた。

「ハンノが大敗し、アプリア地方を俺が受け持たねばならなくなった。必要ならば、サムニテスに二万の兵を預けてカンパニア地方防衛に割く」

 部屋について早々に、ハンニバルが切り出した。カシリヌムの陥落を重く見ているのだろう。ここはマハルバルによる執務機関であると同時に、南イタリア叛旗の象徴であった。

 だが、マハルバルは首を振った。手元のビブロスをハンニバルに見せた。それは、傭兵との誓約書だった。全てラテン語で書かれている。

「カプアで一万五千の兵を編成した。守るだけならば、これで事足りるだろう。それよりも、私に考えがある」

 マハルバルはカプア周辺の地図を広げた。そして、一点を指す。カプア東部にあるティファタ山であった。

「ここに、城砦を設けて欲しい。ここならばカプアの守りと同時に、南方との道を確保するのにも有効だ」

 ハンニバルは顎に手を当てた。マハルバル自身が下見もし、そこの地理も把握している。そこは要害であった。ひとたび建設されれば、並大抵の攻撃では落ちることはない。カプアを守る上でも良い支城となる。ただし、それゆえにローマ軍は何が何でも落としにかかってくる。そこを守るには相当の覚悟を持った司令官が必要だった。

「守将は、誰にするか決めているのか」

「それは、まだ決めていない」

 嘘だった。マハルバルの中では、既に決まっていた。ただ口にするのを、躊躇っているだけだった。マハルバルは眼をそむけて言った。

「ギスコならばどうか。彼の忍耐力ならば、ここを死守することは出来るかもしれない」

 思ってもないことが、次々と口を突いて出てきた。ギスコの忍耐力を評価したことなど、マハルバルには一度もない。ハンニバルから遠ざける、ただの理由づけだった。

 結局、あれからギスコと話すことはなかった。お互いがお互いを牽制していた。マハルバルがカプア駐留を任命された時、ギスコはほっとしていただろう。ハンニバルの傍で不義を囁く者がいなくなったと、考えたはずだ。

 あの老将は、ハンニバルが羽ばたく際の障壁となる。今のカルタゴに、固執しているのだ。昔は、今の制度が民を救ったのだろう。だが、今では腐った議員しか生み出さず、ハンニバルが存分に力を振るえない。そんな制度に、しがみつく意味はなかった。次は、王の時代だ。

「ギスコ、だと」

「浮かない顔だな。何か問題でもあったのか」

 マハルバルは筆を回しながらハンニバルの表情を窺った。ギスコでは力不足だと考えているのかもしれない。経験だけ豊富な凡将だ。ギスコがこのような別動隊を任されたことはない。特に激戦が予想される籠城に、年老いたギスコの身体が持つかも不安だった。

「いや、ギスコでいく。お前は、建設物資を用意しておけ」

「分かった。それと、ローマの攪乱の方だが――」

「それは、お前に任せているはずだ」

 ハンニバルの言葉は冷たかった。疲労の色が、顔に浮き出ている。明敏なハンニバルですら、今はほかのことを考える余裕はなくなっていた。マハルバルから視線を外して立ち上がると、彼は扉を後ろ手で閉め出ていった。

 それから間もなく、ティファタ山に建築材が集められた。カンパニアの防衛をカプアの傭兵に委任すると、ハンニバルは一転南進した。南方のローマ軍を打ち破り、雷光の旗は南東部のカラブリア地方をほぼ制圧した。ファビウスが動き出す前にハンニバルは北上し、サラピアで冬営した。じわじわとハンニバルの制圧する領土は拡大する。だが、ローマは力で捩じ伏せるべく兵力をさらに拡大させ続け、ハンニバルを圧迫した。終わりのない道。ハンニバルに安息はなかった。


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