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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第六部:蛇足なゼンザ
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序章 銃声鳴る余興1

「終わりが近い」

「そうじゃのう」


 緊迫した張り詰めた雰囲気の声に、のんびりとした幼い声が答える。

 少年と呼ぶにも幼すぎる子供の前に座るのは、黒スーツに黒メガネといかにも怪しい雰囲気の男だった。

 怪しいが、個性もない。型にはめて作った大量生産品みたいだ。

 そう《道化》は思って、笑っていた。

 にやにやと、全てを見透かした瞳で。


「……《神の全知》、いい加減教えてほしい。いや、もう認めないか?」

「なんじゃ? 儂に何を求めているのじゃ、お主は」


 すっと《道化》がテーブルに手を伸ばす。

 それだけの行動。ただテーブルの上に置いてあったクッキーに手を伸ばしただけ。

 それだけなのに。


「――――ッ!」


 男は拳銃を取り出して、銃口を向けた。

 表情は硬いままだったが、その反射的な動作はまさしく怯えから来るものだった。

 頭に冷たい塊がぶつかっているのを感じながら、《道化》はクッキーを口に入れる。

 彼は甘いものが好きだ。酒は飲めない。

 子供の体では、子供の経験しかつめない。 

 その頭にいくら《知恵》が詰まっていても。


「ゆっくり話そう。その為にわざわざ儂が島から出てやったんじゃから。お主が島に来れんと言うから、重い腰を上げてやったんじゃ」


 眼下に眩い灯が散らばる高級ホテルの一室。

 最上階のスウィートルーム。

 凝った刺繍の絨毯。ワインレッドのソファはふかふかで気持ちがいい。

《道化》は抑えようとしたが、その初めての経験に興奮していた。

 ここに黒服がいなければはしゃげたのに。

 銃を突きつけられていながら、《道化》が考えているのはそのことだけだった。


「何十年ぶりじゃろうか、この引きこもりを引っ張り出すとは、お主らも大したもんじゃのう」

「……誉めているのか?」

「もちろんじゃよ。本来ならば、お主らが出てくるのはもう一年遅いはずじゃった」


 事実を伝えると、黒服の顔色が変わる。


「……どういうことか」

「お主らは理由を知っている。だからお主は儂を呼び出した。お主らが嫌っている否理師を引っ張り出してまで、確かめようとした」


 銃が頭から離された。

《道化》は自由になった首を動かし、黒服の顔を覗き込む。

 満面の笑顔で、口に歪な笑みを浮かべて。


「お主らは優秀じゃよ。早まりつつある終末の時に、正確に対処している。だからそのご褒美のつもりで儂はここにやってきたのじゃ。誰にも告げずに、たった一人で」

「やはり……お前らのせいか」

「儂らのせいではない。これは《運命》じゃ。お主らは否理師を誤解している。否理師も所詮は人間――神の《運命》にただ巻きこまれるしかない、無力な蠅じゃ」


 全身を震わせている黒服に向けて囁くと、《道化》はゆったりソファにもたれかかる。

《道化》の自室、《子供部屋》にもいいかもしれない。持って帰ろうかな、と思って止める。

 雰囲気に合わない。

 でも、次に由己にメイド服を着せて写真を撮るときに、その素材としてはいいかなぁと夢想する。

 思わずにやにやしてしまう《道化》を見て、黒服は呆然としている。

 信じられないものを見る目をしている。

 そう言う目で見られるのは、もう飽きた。


「……くっ、おまえらのせいだろうが、《終末》も! 《神の全知》だって、神をおとしめて無理矢理奪ったのだ !」

「……要らないから押し付けた。神はそう言うじゃろ。それにこれは預かっただけ。そろそろ返さねばのぅ。儂も所詮人間じゃから」


 一度は離され、しかし向けられたままの銃口に、冷たい鉄の塊に自分から額に当てた。《道化》は笑っていた。口の端を裂けんばかりに釣り上げて。


「さぁ、儂からの教授は以上じゃ。お主らはどこへ進む」

「……知れたこと」


 容赦なく発せられた音、呆気なく椅子から崩れ落ちた小さな体。

 男は嫌悪の表情で眺めて唾を吐きかける。


「蛇め……地獄に堕ちろ」


《道化》の顔は笑みに歪んだままだった。男の全てを嗤うように。

 虚ろな瞳には、何も映っていない。


 

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