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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第五部:マボロシの夢
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第二章 ツタエたいコトノハ1

 不幸と言うものは、起こるときは度重なるもので。

 唄華の家に閉じ込められ、助けを求めようとケータイを取り出すとピーという切ない音と共に電源が落ちた。

 待て待て待て待て。

 はい? いや、こんなつもりはなかったんですが。

 俺はさっさと家に帰って、エンドに樹のことを報告しなければいけないんだが。

 恐る恐る世に聞く南京錠をひっぱってみる。案の定、外れるわけがない。ていうか、こんなものを生まれて初めて見た。

 南京錠二つに、鎖がじゃらじゃら。〈想片〉を使えば簡単に引きちぎることはできるが、樹にばれたらやばい。

 つまり……選択肢はひとつしかない?


「いや、ありえないだろ……」


 いや、唄華だからあり得る。

 せっかく口に出して否定したのに、脳内で一瞬にして認めてしまった。

 窓から逃げたくても、唄華のことだからぬかりないだろうし。

 あー、待て待て待て待て。

 頭をがしがしと乱暴に掻く。

 何をこんなにあせってるんだ。なんかあるわけないだろ。さすがに唄華でも、流石の唄華でも、まさかの唄華でも……


「深漸くんっ!」

「おわっ!!」


 ビクッと体全身がはねて、振り返った。


「もうそんなに怖がらなくてもいいのに~。子供がいるのに、そんな情けないところ見せてどうするの?」

「唄華……、俺をこの家から出せ」

「ん? 何を言ってるのか、ワカリマセン?」

「そんなわざとらしくとぼけなくていいから! それになんだよその格好!?」


 にやりと笑い、唄華はエプロンの裾を持ちくるりと回る。


「若奥様風、ふりふりエプロン。本当はこれ一枚だけの仕様なんだけど、今日は自重してみました」

「お前の思考が、子供の教育に悪いんだが」


 だめだ。いつもの唄華ペース。絶対に俺をこの巣から逃す気はない……


「それに、深漸くん」


 唄華がそっと俺の耳元に顔を寄せる。思わずのけぞりそうになったが、次の瞬間凍りついた。


『あの子、エンドちゃん関連の子なんでしょ?』


 ひそひそと囁く言葉に俺は目を見開く。


『……え。お前、何言って』

『とぼけないでよ。私は、深漸くんのことならなんでもわかっちゃうんだから~』


 くすくすと声をひそめた笑い。


『ね、あの子は何なの?』


 畳み掛けるように聞く唄華に、俺は観念して口を開く。


『否理師だ。おそらく……いや、間違いなく――文化祭の時、永河原先輩の事件にかかわっていたやつだ』


 ――死んだはずの双子の妹を、生き返らしてくれた《魔法使い》

『ふ~ん』と、唄華の反応は淡泊だったが、俺としては複雑な思いを拭えない。顔をしかめて沈黙する俺に、唄華は少し冷めた調子で告げた。


『で、深漸くん家に入れるわけにいかない子を、私に簡単に預けちゃうんだ。私がどうなちゃってもいいってことなのかな』

『あっ……!』


 その可能性は――すっかり頭から抜け落ちていた。

 さぁっと血の気が引いた感覚がした。俺の気持ちを読んだのか唄華は楽しそうに笑った。


『意地悪言って、ごめんね。本当はわかってるよ。深漸くんは私を信頼してくれたんだよね』


 そういうつもりじゃなかった。ただ、思い至らなかっただけで。

 油断したとか、思慮が足らなかったとか、俺の甘さのせいで――唄華を危険に巻きこもうとしているなんて。


『すっごく嬉しい。でも、やっぱり私ひとりじゃ怖いから、今晩は一緒に居てくれるよね』


 そう言われたら、断れるはずがなかった。

 唄華が俺からそっと離れる。止めていた息をはぁと吐く。


「悪い……」

「ううん。全然いいよ。もうご飯は出来てるから早く上がって」

「あぁ……」


 いつもと変わらない、壊れたかのような満面の笑み。

 俺の気持ちなんか全部読めているくせに、自分に都合が悪いことは一切聞いてないふりをするそのいい(・・)性格も、どんな時も変わらない。

 そんな唄華にほっとしている自分がいることに、俺はまだ気づいていなかった。


×××


 夜は嫌いだ。

 暗闇が嫌いだ。

 目を閉じたら、巻き戻る。

 あの時へ、あの時へ。引きずり込まれる『死』の感覚。

 僕のじゃない。

 そう叫んで、ふりほどいて、何かを掴むように手を伸ばす。

 僕のじゃない。

 僕じゃない。


 君を見てると、辛い。

 僕の乾いた心が、ずきずきと痛む。

 だから、君の手を掴もうと手を伸ばした。

 闇へ。僕の怖いものに。

 だから、手を取って――


×××


「起きたか」

「……っ」

「声を出すな。まだ体が辛いのだろう?」 


 目覚めた唯生の視界に覆いかぶさるようにしていたのは、自分よりも幼き姿の魔女。彼女は優しい瞳と声で、唯生の身体をいたわった。

 冷たいタオルで顔をそっとふかれる。ぼんやりする頭で、唯生は自分の身体が汗にまみれていることに気が付いた。


「うなされていたぞ。悪い夢でも見たか?」


 柔らかい声に、自分を見つめるまなざしに、唯生は既視感を覚える。

 そう、これは――。


「――――っ!」

「唯生っ!!」


 こみあげてきた吐き気に体を九の字におって起き上がると、すばやく魔女が手近にあったゴミ箱を渡す。

 鼻につく酸っぱい匂いと、全身の痛みに唯生は顔をしかめる。


「すまない、唯生。君の身体を理を捻じ曲げて癒した反動で――」


 違う。それじゃない。

 そうじゃないんです。

 言葉は出てこなかったが、唯生は首を振って否定した。

 さっき頭に浮かんできた映像もいっしょに振り切るように。

 次の瞬間――突然晴れ渡るように意識が晴れた。


「っあ……あの子は……」


 口から洩れたのは掠れた非常に聞き取りにくい声だったが、魔女は聞き逃さないでいてくれた。


「今、在須が探しに行ってる。と、言ってもそれから何時間も経っているのだが……、あのバカは何をやっているんだ」


 その乱暴な口調には、明らかな心配の色が混じっていた。

 それを聞いて、唯生は焦る。


「行かない……と」

「待て、まだ体が」

「僕が……行かないと」

 

 足を動かそうとしたのに、突っ張った感覚と共に痛みが走って前に倒れ込みそうになった。慌てて魔女は彼の体を支えた。


「ほら、まだ無理だ。君にもわかっているはずだ」

「すみません……でも」


 その頑なな唯生の様子に、魔女は在須を重ねて――声を荒げる。


「わかっているはずだ。君は否理師ではない、ただの少年だ。一人で行ったって、何にもできないのはわかっていただろうに、どうしてそんな無茶をする。何が君を動かすんだ」


 必死な魔女の言葉を、唯生はぼんやり聞いた。どうやらまだ頭に十分な血が回っていないようだ。

 ふらつく頭を抑えながら、途切れ途切れに言う。


「別に……力が、ある、とか……関係ないです」


 むしろ、力がないからこそ唯生は立ち上がるのだ。


「僕はただ、あの子と……あの子と、話をしたいだけ、なんです」


 行かないと、いけないのに。

 まだ、この手を伸ばさないといけないのに。

 その時、その場を乱すかのように可愛らしい電子音が鳴った。

 魔女が表情を変え、机の上に置きっぱなしだったケータイをとった。まだ小学生の身分の彼女に連絡をとる相手など、数人しかいない。案の定、それは先ほど話題に上った在須からのメールだった。

 文面を読むと、また魔女は顔を曇らせた。


「ま、じょさま……?」

「何でもない」


 そう言ってケータイを閉じようとして、魔女はピタリと動作を止めた。


「君を一人で行かせるわけにはいかない。あの子は危険だ。また君にそんな傷を……いや、今度こそ殺しにくる。たとえ相手が君の兄弟でも、そんな危険人物の前に君をのうのうと晒すことはできない――だから」


 魔女は悩んでいた。

 言葉をつむぎながら、悩んでいた。

 だけど、


「一緒に、行こう」


 優しすぎる気持ちは、人の想いを踏みにじる。

 彼から、教えてもらったから。



 唄華の得意料理は、にくじゃがとか家庭的なものがいいな~と思ってます。私が好きだからです。


 お好み焼きでも可ですが……


 でも、実際は何料理でもどんとこいと言う感じなのでしょう。


 さて、唄華はどのごはんで在須の胃袋を攻めることにしたのでしょうか……w

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