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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第五部:マボロシの夢
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第一章 モウ一つのハンギャク1

「在須。あんた、何か隠してるんじゃないでしょうね?」


 どすの利いた声が響いて、うっと思わず足を止めた。


「なっ、何言ってるんだよ?」

「まぁ、もう高校生だし、親に秘密がないわけないだろうけど……家の中に隠されるのはねぇ」


 後ろを振り返って母の顔を見れない。

 は? こんなに勘がいい人だっけ。

 おれの勘って、もしかして遺伝だったのか?


「この家には、鈴璃ちゃんもいるしねぇ」


 まさか……エンドのことまで…………!?


「気をつけな。思春期男子」

「……はぁっ!?」


 意味不明な言葉に振り返ると、母はニヤニヤ笑っていた。

 

「いやいや、別に母は怒らないよ。むしろ健全だと、息子の成長っぷりに涙をながしてやりたいところだ。それにしてもそこまでどうようするなんて……どれほど見られたくないほどやばいものを持っているのか。そこはちょっと心配かな」

「なっ、何言って……」


 そこで俺は気づいた。

 母が何を言いたいのか。


「バ……バカかっ! 俺はそんなもの……」

「それ以上は、言わなくていい。かまかけた時の動揺っぷり、ビデオに録画して息子の成長記録にしておけばよかった」


 ぷぷぷ、と母は笑いながらリビングを出ていく。

 追いかけて、何か言ってやろうと思ったが、


「在須お兄ちゃん」


 入れ違いに入ってきたエンドに、それは妨げられた。

 階段の中途から俺に声をかけたエンドの表情は笑っていたが、眼が完全に据わっている。


「ちょっとわからない問題があるの。教えてくれない?」

「あ、あぁ。わかった」


 やばい。怒ってる。

 くそっ、俺だって急いで様子を見に行こうと思っていたのに。

 

 さっさと行ってしまったエンドに、いて行く形で彼女の部屋に行く。

 今朝、家を出る前にかけていた人払いとかもろもろの業はすでに解除しているようで、すんなり部屋に入っていったので俺もそれに従う。

 後ろ手で扉を閉めながら、俺はエンドに問う。


「……様子は?」

「安定している。だが、意識はまだ戻らない」


 エンドのベットに横たわる人物は、白い包帯塗れの状態でとても痛々しかった。

 浅い息を繰り返す彼に、俺はそっと近寄る。


「おい、唯生」


 返事はもちろんない。

 別に期待していたわけではないが、何もできない自分に歯噛みしてしまう。

 これらの処置を行ったのは全てエンドだ。

 昨晩、唯生を保護して連れて帰ったエンドは、俺に治療の間の見張りを頼んできた。

 俺は一晩、屋根に上るなりして警戒していたが何の変化もなかった。

 勘にも、とくに引っかかるものはなく。

 でも、唯生をこんな風にした奴は必ずいる。

 単純な事故ではありえない全身の裂傷、切り傷。出血がひどく、左足の骨も粉々に砕かれていた。


「相手は……否理師か?」

「十中八九、そうとみて間違いはないだろうな」


 ベットの傍に座り、怪我の治り具合を診ながらエンドは言った。


「私が発見した時、唯生は落下している最中だった。誰かに跳ね飛ばされ、地上十メートルのあたりをな。そんなことができるのは、否理師しかいない。唯生の救出を優先して、相手の顔を見れなかったのが残念だ」


 エンドが腕に触ると、無意識ながらも唯生が痛そうに顔を歪ませた。

 それを見てエンドもつらそうに、目を伏せる。


「悪いな、唯生。あまり急速に治すわけにもいかない。我慢してくれ」


 こういうところは、本当に善意の魔女と言うかんじだ。

 修行時に、その優しさを一ミリでもいいから残してもらいたい。


「でも、どうして唯生が紙邱にいるんだ? 唯生はあの島に住んでいるんだろう。それとも、またお前を尋ねてか?」


 以前、文化祭のときにエンドが唯生と会ったという話はすでに聞いていた。

 エンドが口を開こうとした時――


『その質問には、儂が答えてやろう』


 声が不意に響いた。


「誰だ!?」


 俺は《想片》を取り出して構える。赤い包帯が、しゅるしゅると宙を舞う。


『おやおや、《反逆者》よ。もう儂の声を忘れたのかのう?』


 人を小ばかにするような響き、聞き覚えがある声。


「《道化》か?」

『ピンポーンじゃ』


 楽しそうに弾む声に、黒い肌の子供がはしゃいでる情景が目に浮かんだ。


「脅かすなよ」


 俺はほっとして、想片をしまった。エンドは最初から気づいていたのだろう。落ち着いた様子で、姿の見えない《道化》に話しかけるな。


「久しぶりだな、《道化》。といっても、まだ一か月ぶりくらいだが」

『じゃなー。そちらはそろそろ、木枯らしが冷たい頃か? 焼き芋にあこがれがあるのじゃが」

「こちらの状況はわかっているだろう」

『もちろんじゃ』


《神の全知》は、全てを知っている者は軽くそう返した。


「なら聞こう。唯生がこうなることは知っていたか」

 

 姿の見えない相手に、エンドは静かに問う。

 間髪入れず、返事は帰ってくる。


『予想は出来たが、知らなかった』


 簡潔な答えに「そうか」とエンドは返した。

《道化》が知らなかったという事は、唯生がこうなることは《運命》じゃなかったということか。

 誰にも干渉できない、絶対的な未来。


「じゃあ、唯生をこんなやつにした奴のことも知らないのか?」

『むむ? 《反逆者》よ。お主は儂のことについて、本当はまだ理解しておらぬのじゃないか? すでにある事象、起こってしまい既に過去となっている事柄について、儂は全て知っている。じゃからこその――《全知》じゃ』


 ひゃはは、と道化は嗤う。

 バカにされたようで、すこしいらっと来る。


「だったら教えろよ。一体どこのどいつが唯生を……」

『《魔女》よ。おぬしにも大体想像はついているのだろう。唯生にここまでするのが、いったい何者なのか』

「まぁな。やるとしたら、彼しかいないだろう」


 唯生を見ながら、エンドは呟くように言う。

 その眼に憂いを混じらせながら、遠い記憶を回想するかのように。


「在須。お前にはこの話をした方がいいかもしれない」

「……何をだ」

「ある男の話。絶対に逆らおうとして、叶わなかった男の話――。唯生の、父親の話だ」


 



 

 

 

 

 

 

 

約一か月ぶりとなりすみません(汗


次話は唯生の過去にちょこっと触れます。

ストーリーはすでに練っているので、文章にまとめるようにがんばります。

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