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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第四部:歪なヨゲン
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終章 進展・振り出し

 三連休最終日。さすがにもう帰らないとやばいので、日常生活に差し障りない程度に傷を治すと、早々に立ち去ることにした。


「養生しないと、また刻兎くんに叱られるぞ」


 エンドの言葉にぎくりとなる。

 最近、自分で治癒できるようになったため病院に行ってなかったことを思い出した。


「これ……そろそろ呼び出される頃だよな」

「そうだな。楽しみだ」


 鬼……。

 あれから、地下の惨状はすぐさまエンドが対処した。

 形だけは元に戻ったが、完全に修復するのには一年かかるとのことだった。

 しかし余裕な表情でそれを語ったエンドの様子から、《絶対終末》へのプランは結局揺るがなかったようだ。


「また来てねじゃ、ダーリン」

「内股で上目づかいを男、しかも幼児にやられても引くだけだからやめろ」

「つまらんのう」


《道化》はぷくーっと頬を膨らます。

 俺たちが降り立った海岸で、見送りは《道化》のみ。


「《預言者》は自主謹慎しておる。あの子は真面目じゃからのう」

「《道化》……お前、全部わかってたんだろ。わかってて、何もしなかったのか?」


 なぜ《神の全知》と呼ばれるこいつが、地震を起こしてその隙に地下に――なんて穴だらけのエレミヤの策略を未然に防ぐことができなかったのか。

《道化》はニヤニヤ笑うだけで、エンドが言った。


「わかっていても、できないことがある。……エレミヤが、そうだっただろう」


 言葉を濁すエンドに、またかと思う。終末のことと言い、その他にもことあるごとに、エンドは俺に隠している。

 どれだけ聞いても、まだ未熟者だからとしか言わない。

 今までは、触れずにいたけど……


「なぁ、《道化》、どうして、わかってたのに、何もしなかったんだ」

「在須!」


 俺は、エンドの話を無視して、《道化》だけに問いかけた。

 肌が黒い、幼い少年の姿をした彼は、その顔に似つかわしくない笑みを浮かべる。


「儂は全てを知っている。この世界の過去、理、すでに在る物、すでに起こってしまった事象については、なーんでもじゃ。未来についても、既に決まっている《運命》のことは、よーく知っている」

「既に、決まっている未来?」

「終末はのう、その《運命》の一つ、絶対不可避のものなのじゃ」


 道化がくくくっと嗤う。


「だから、儂は言う。おぬしの目的は《無理》じゃと」


 バッサリと言い捨てられた。

 でも、そんな言葉はもう聞き飽きた。

 いつまでうじうじしてるんだよ。


「やりきってみないと、わからないだろうが」


 返した言葉に、道化は「おっ」と少し驚いた顔をして、またにんまりと口角を持ち上げた。


「……少しはやる気が出てきたか? さて……じゃあ、おぬしは儂に何を聞く」

「終末は、どうして起こるんだ」


 エンドに聞いてもはぐらかされる、最大の疑問だった。

 どうしてそんなものが決まっているのか。

 エンドは顔を俯ける。道化は楽しそうに笑った。


「終末とは、理が崩壊する故に訪れるもの。では、その理を司るものとは?」


 この世のルールを司るもの。

 それはこの世界を支配している存在と言っていいもの。


「《神》、とか……? いや、そんなもの……」

「ピンポーンじゃ」


 思わず口から洩れた言葉を、道化がすかさず拾ってきた。


「えっ、本当にいるのか?」

「むむ?《反逆者》は、無神論者じゃったか?」

「いや、そういうわけでもないけど……」


 曖昧に語尾を濁す。

 別に信じていない(・・・・・・)わけではないけど、信じている(・・・・・)わけでもなかった。

 ただの言葉。よくて、概念。

 そんな存在がいると断定されても、現実感が全くない。


「じゃあ、その《神》が、理を壊すってことか?」


 神話によくある、気まぐれな神様のように。


「いやいや。それならば、《神》を説得すればいいだけの話じゃから、だれもここまで絶望せぬよ」

「《神》を知っているような口ぶりだな」

「儂は直接みたことはないのじゃが。この《全知》は神と取引をして得たものじゃからな。過去にはお茶会をした者もいると聞く」


 想像しているよりも、気安そうな神様だ。


「だったら、なんで」

「何ものにも避けられるものはある。それは理よりも絶対的で、神の支配の外側にあるもの――それこそが、《終わり》じゃ」

「《終わり》?」

「まぁ、つまり《神》が死ぬ(・・)んじゃよ。だから当然、理も崩壊するのじゃ」


 あっさりと言われ、俺はただ言葉を反復する。


「神が……死ぬ? いや、死ぬって、《神》なのに?」

「この世界にある《終わり》だけは、神が作ったものじゃないという事じゃな。神さえもその絶対に縛られている。なら、神を支配しているものは何か。《全知》の儂もこの点に関してはさっぱりでな……」

「まてまて、置いていくな」


 話が分からなくなってくる。

 頭を押さえて、ゆっくり道化の話を反芻する。


「つまり、俺が《終末》を防ぐためには……神が死なないようにすればいいってことか?」

「そうじゃ。だが寿命を延ばすことでは、問題を先延ばしにするだけじゃぞ。お主は神の《終わり》を奪い、不死の存在にせねばならぬという事じゃ」


 何も言えずにいると、道化は嗤った。自嘲するように小さく、諦め混じりの瞳で。


「だから言ってるじゃろ? 《無理》だと」


 俺がしようとしていることは、《神》を越えようとすることで。


「……上等じゃないか」


 これは強がりだ。


「やってやるよ」


 一瞬でも《無理》だと思ってしまった自分を否定するかのように。


「俺は諦めない」


 もう引き返せない。あれだけエンドやエレミヤに偉そうに言っといて、逃げられるわけない。

 自分に言い聞かせるようにする俺に、道化が言った。


「ひゃはは、おぬしの役に立てたというなら幸いじゃ。では……この情報を教えてやった対価をもらおうかのう」

「え……? おい、俺もフォルケルトみたいに何か買ってきたりとか、お前の言うことを聞けってことか? それ、最初に言ってくれよ!」


 心の準備が……


「たいしたもんじゃないぞ。初回だからのう。ただ、『今まで何で話してくれなかった……』なんて、無粋な質問を《魔女》にするでない。《神》に関する質問もこれから一切《魔女》に対してはご法度じゃ。これだけを守ってくれればいい」

「は?」

「《道化》!」


 道化の言葉に、エンドが血相変えて反応する。


「本当は心苦しかったのじゃろ? 何度もはぐらかすのは。これは友人として、儂からのおせっかいじゃ」

「な、何を言ってるんだ」

「すまない……在須」

「はあっ!?」


 突然、エンドが深々と頭を下げた。


「ど、どうした、エンド」

「律儀すぎるの~、《魔女》。神の存在を弟子に教えるのは基礎中の基礎なのに、できなかったのはお主のせいではない。神の呪いによって話すことを禁じられているから、仕方ないじゃろ」

「禁じられている?」


 だから、エンドは俺の質問に何一つ答えてくれなかったのか。

 いや、答えられなかったのか。


「エンド、お前と神って」

「は~い。ストップじゃ。もう、そんなこと聞いちゃだめじゃぞ。乙女の秘密は、乙女をさらに美しく……」

「道化、うるさい」


 毒を吐くように、ずばりと道化を切って捨てるエンドが、その表情はやはりうかないものだ。

 俺はため息を吐く。


「わかった……。つまり、お前に聞けばいいという事か?」

「ここからは、追加料金をいただくがな。《魔女狩り》のように儂の下僕に……いや、ペット、いいや、おもちゃか……」

「どっちにしろ、酷い扱いをされそうだな……」


 あきれるようにためいきをつくと、俺はエンドの頭にポンと手を置いた。


「在須……?」

「じゃ、帰るか」


 エンドは目をぱちくりさせたが、すぐにこくりと頭を下げる。


「道化、その話の続きはまたすぐに聞くから」

「わかった。お主で遊べる日を楽しみにしとるよ」


 うっわ~、めっちゃ楽しそう。

 嫌な予感に背筋がぞぞっとしながら、俺は島に背を向けた。

 エンドはまだおどおどしていたが、すぐにまたいつものような冷静さを取り戻したかのように、しっかりと顔を前に向ける。

 やっと一歩前進したかと思ったけど、まだまだスタート地点にさえ立ててなかったことを思い知らされた。

 気持ちばかりが先走りしている。


 でも……


「《神》か……」


 エンドに聞こえないように呟く。

 実感がわかないのは、なぜだろう。

 道化の言葉が頭の中でうまく結びつかないのは、遠すぎる存在だからじゃない。

 当然のように、あたりまえに近くにあるモノのような気がして――


 なぜだろう?



 

 あわわ、まただいぶ時間が空いてしまいました……

 すみません(汗


 次回からは五部……でしたよね。あっ、はい。五部でした(確認した)


 いままでずっと影が薄かった唯生くんに、活躍してほしいがための話を書きます。

 この子の名前が好きです。


 まだまだ時間がかりそうですが、これからもよろしくお願いします。

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