三章 ケツイを叫ぶ君のコトバ2
「お前……誰だ」
男は突然現れた少女に困惑しながらも、警戒心をむき出しにして言った。
それを見て、エンドはくっ、と笑った。
「不敬だよ、若造が。年長者には、敬語を使うのが礼儀だろう」
その少女らしからぬ何者かに、男は驚いて目を見開く。
「お前……まさか、《魔女》か……?」
「その通り、私こそ《終末の魔女》だ」
威風堂々したその存在に、驚愕して顔をこわばらせる。男はゆっくりと、状況を確認するかのように呟いた。
「お前が……《魔女》…………ちっちぇ」
その言葉に俺が「え?」と、思わず声を漏らした瞬間、男は「ぷっ」と吹き出した。
「お前が……《魔女》……ぷっ、あはっ、あははは、あはははははははははははははははは!! ちっちぇ! 何だよ、その姿!! あははははははははははははははは!!」
男は腹を抱えて、目に涙を浮かべて笑う。
……すっげー笑ってる。ここが往来じゃなかったら、床を転がりまわってるぐらいの勢いで。
エンドは不愉快を露わにして眉をひそめる。
「何がおかしい」
「いや、だってよお、めっちゃ可愛らしい姿じゃねぇかよ。あはは、あの《魔女》が、あの《魔女》が、ガキって……あはははははははは!!」
「……いいかげん、舐めてくれるなよ」
エンドは低い声で、唸るように言った。
「たとえ姿がどんなものであろうと、《魔女》が《魔女》だということは変わらない。それは君もよく知っているはずだ。なぁ――《魔女狩り》」
途端、男はぴたりと笑うのをやめ、静かにエンドを睨む。
「……なぜ、それを」
「そのジッポはよく覚えているよ。とても……懐かしい。君が《魔女狩り》を継いでいるということは、先代は亡くなったんだね」
「…………あぁ、そうだ」
「そして君は、《魔女狩り》の名を冠したものとして、《魔女》を狩りに来たのだね」
「あぁ、そうだよ!!」
表情を一変させ、《魔女狩り》は咆哮した。――ただ立ち尽くすしかない俺を、ぞっとさせるほどの、強い強い異様なほどの憎悪の表情で、《魔女狩り》は《魔女》を見ている。
それに応えるように、エンドは優しく微笑んだ。
「いいよ、《魔女狩り》。私も、ちょうど暇していたんだ。《想片》も補充したかったし、ぜひお手合わせ願おう」
そう言い、ビー玉を握った右手をおもむろに掲げ、嘲笑う。
「ちびるなよ、ガキ」
「……お前こそ、《魔女狩り》なめてんじゃねーぞ!! くそビッチが!!」
激昂した《魔女狩り》が、ジッポを構え、何かをしようとした瞬間――、
「なーんてね」
エンドはにやりと笑うと、ビー玉をアスファルトに叩きつけた。
あっさりと割れたビー玉から激しい風が吹き出し、その風はエンドと――状況についていけずただ困惑していた――俺を包みこんだ。
「おっ、おい、エンド! 何だ、これ!」
激しい風の中、腕で顔を庇いながら、俺は悲鳴にも似た声を上げてしまう。
「こら! 待て! お前逃げる気かよ」
《魔女狩り》の声に、エンドは風に髪を振り乱しながら答える。
「人聞きが悪いことを言う。この場は戦闘に向いてないから、君も私も戦いやすいところに移動しようという暗黙の提案だよ。 わからないのかい? なぁに、心配するな。逃げはしないよ。今晩中に――君に、会いに行く」
風が一段と強くなった。俺は、こらえきれず目を閉じる。