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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第四部:歪なヨゲン
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五章 ツミ深きアイ2

 エンドは刀を構える。


「私は《絶対終末》を諦める気は一切ない。この私の意思は、在須とは全く関係がないこ」

「そんなこと……関係ない。あの人は、嫌い」

 

 エレミヤは顔をそむける。

 言い当てられたくないことを言われた子供のように。

 エンドはその反応を見て、くっと嗤った。


「じゃあ、私の中にある在須を殺すとして……どうする? 私を殺すか?」


 エレミヤはその言葉に、びくりと体を震わせる。


「えっ、……えっ!? しっ、しないよ。できないよ。私はお母様を守りたいだけなんだから」

「……」

「……お母様が傷つくの、嫌だから。それだけだから」


 先ほど魔女に使おうとしたのと同じカードを、巫女服の懐から取り出す。

 文字は見えないように裏を向けているが、おそらくは封印か何かの効力を示すものに違いなかった。

 魔女はくっと笑う。


「エレミヤ。私に勝てると思っているのか? この、《終末の魔女》に」

「勝てるよ。だって、……その体、弱いでしょ? それに、私はこの世界で一番の、《才能》……の持ち主だよ」


 業を用いずとも、《預言》できてしまうほどの《才能》。それに恵まれたものは過去にもいたが、エレミヤほど洗練された者はいなかっただろう。

 魔女が育てたから。

 魔女に救われたから。

 エレミヤは自分の力に誇りを持っていた。


「今は、お母様よりも……強いんだよ」


 それは母への感謝の気持ちを込めた言葉だったが、エンドは苦笑のような表情を浮かべた。


「……?」

「確かに、あなたは強くなった」


 首を傾げたエレミヤに、母は言う。


「でもね、あなたは私にはまだ、まだだ。それにね、母としてこれを告げるのは苦しいことなんだが、現・世界一の《才能》を持つものはあなたではない」

「……? お母様、聞いてなかった、の? 私はその子を、殺したよ」

「在須を舐めるな、エレミヤ」


 少しの動揺もなく、エンドは言い切る。


「彼の才能は、今までに現れたどの否理師でさえ及べない域に達している。まだ未熟と言えども、あなた程度に敗れる器じゃない」


 じわりと、エレミヤの眼に涙が浮かぶ。歯を食いしばり、カードを持つ手に力を込めた。

 自己を否定されたことへの怒りよりも、そこに見えるのは――嫉妬。


「ダメ。お母様は私のもの。お母様は私のもの、なんだから。そんな顔しちゃダメ……私は殺したよ。死んだんだよ!?」

「死なないよ。彼は」


 その瞳に浮かぶのは、呆れが混じった、どこか悲しそうな色。


『彼が死ぬ《未来》なんて、ありえないんだから』


 音にせず、そう口の中で呟いた。


×××


 地下にまで響く轟音。

 ガラスの破片が散らばる中、彼は身を横たえていた。

 全身を真っ赤に染め、上から響く戦闘の音にも指一つピクリと動かさない。

 そこに――――、

 神が、降りた。


「深漸くん、見~つっけた」


 何もない空間から染み出すように、彼女は彼の傍らに姿を現した。

 蒼白な彼の顔を、地面に手をついて覗き込む。


「もう! 私から逃げようとするからこうなるんだよ」


 不満そうな言葉とは裏腹に、彼女は頬を染めて嬉しそうに笑う。

 彼は答えない。

 ただ物体としてそこにあるかのようで、溢れた血は、彼女の足元まで広がっている。

 彼の頬に、神は真っ赤に濡れた手を添える。


「わっ! 深漸くん、冷え性だねぇ。健康に悪いよ?」


 暖かい血液に対して、冷たすぎる体温。

 その両方を感じて、神は笑った。


「すっごいなぁ。深漸くんは」


 全身に巻かれている真っ赤な包帯を見て、楽しそうに言う。


「無意識で業を行使できる人なんていないはずだよ? いくら治癒の業が初歩であったとしてもさ、人の想いからなる《想片》を操るためには、人の意思が必要なのに……いやぁ、(わたし)にもどうしてそこまでチートなのかわかりません」


 まぁ、今は全知じゃないからね。と、照れるように頬を掻いた。


「その勘――じゃないね、《才能》には、(わたし)でも目を見張るものがあるよ。(わたし)を驚かせるなんて、さっすが深漸くんは私の愛しの人だ」


 うんうん、と頷いて、ようやく彼の頬から手を離す。


「でも深漸くんの《才能》ができるのは、ここまでなんだね。このままじゃあ、結局死んじゃうよ?」


 失った血の量が多すぎた。傷つけた部位が悪かった。

 本来なら致命傷から集中的に治癒させるべきところなのに、無意識化ではコントロールまではままならないようだ。浅い傷はすでに治っているようだが、死の危機にさらされていることには変わりない。


「しっかたないなぁ~。情けない彼氏のために、私が手伝ってあげるよ」


 返事をしない彼に、彼女は一方的に話しかける。


「そのかわり、帰ったら私の家に絶対遊びに来てもらうよ! おいしいオムライス作って、楽しみに待ってたんだからね」


 約束を反故にされたことは本気で起こっていたらしく、そう言う時は不満そうに顔を膨らました。

 ふと、彼女は自分の手が血に濡れているのに、今気づいたかのように見た。

 真っ赤に染まった手のひらをしばし眺めて、


「……えへへ」


その手でそっと、自分の頬を押さえた。


「彼色に、染まっちゃいました~。……なんて」


 幸福(しあわせ)そうに、微笑んだ。



 お久しぶりとなりました。

 なかなか更新できずにすみません(汗


 今月はおそらくこの状況が続きます。来月は改善されることを祈るばかりです。


 次話に在須が起きるのか? それともその前に戦闘が終わってしまうのか?

 精一杯書かせていただきます。

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