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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第四部:歪なヨゲン
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三章 タエズ知恵をモトメル3

 否理師じゃない?

 一般人?

 唯生は淡々と言った。


「僕の父が否理師だったので、その縁で先生に引き取られたんです」


 簡潔に言い切られた言葉は、それ以上容易に踏み込むなという拒絶のようなものを感じた。

 中学生くらいなのに明らかに学校にも通っていない。こんな異常だらけの、数か月前まで一般人だった俺にはついて行けない世界に、平然と住んでいる。

 それだけで、彼の困難を想像することは簡単だった。

 だから俺は、もうそのことについて何も聞かないことにした。


「そうか。なぁ、俺はもう寝たいんだが、用事は全部終わったんだろ」


「はい」

 

 そう言って頷いたので、俺は唯生がすぐに出ていくもんだと思った。

 しかし、


「……」


「…………」


「……用事は、終わったんだよな」


「はい。ありがとうございました」


 深々と頭を下げる唯生。いや、だったらなんで出ていかないんだ!


「僕に構わず、お休みください」


「無理だ」


 そんなに人の顔を凝視してくる奴のそばで、落ち着いて寝れるわけがない。


「さっさと部屋に帰れよ」


「それはできません」


 促した言葉は、バッサリと切られた。

 わけがわからない。この会話が通じないのはどうすればいいものか。否理師じゃなくても、唯生は間違いなく変わりものの中に入ってしまうと思う。どうしようもなく俺は頭を抱えた。


「もう終わったって言っときながら、何でだよ」


「僕の用事は終わりました。でもこれは、先生からの……」


 その時だった。

 唯生が言葉を全部言い切らないうちに、地面が大きく揺らいだ。


「地震かっ!?」


 大きな横揺れは立っていられないほどで、机が倒れる音、その上にあったろうそくが落ちで砕けた音もした。

 暗闇の中、混乱しそうになるのを落ち着かせ、こういう緊急時の基本、何度も学校で訓練させられた通りとりあえずベットの下に潜り込もうとして、

 とんでもないことに気が付いた。


「! 唯生、何してるんだ!」


 彼は部屋の扉へとふらふらしながら向かっていた。

 暗闇の中に溶けるように見えなくなりかけていた唯生の姿を、俺は視覚よりも勘を頼って気配をとらえ、その腕を掴んだ。


「無闇に外に出ようとするな! 危ないだろ」


「床が……揺れている」


 表情はわからないが、その声は明らかに混乱していた。

 先ほどまでの淡々とした感じが消え、怯えている。


「ただの地震だ! 落ち着け、とにかくベットの下に」


「こ、れが……地震………?」


 掴んだ腕が震えている。こいつ、地震は初めてなのか。

 ここまでひどい揺れは俺も初めてだけど、唯生は未知の現象に怯えきっていた。


「大丈夫だ、すぐにおさまる。とにかく落ち着け――」


 ――――地が裂けたかのような音がした。

 揺れというより、大地がかきまぜられているかのような、そんな感覚を受けた。

 踏みとどまっていられず、俺は床に転がり、そのまま振り乱された。

 暗闇なのが最悪だ。

 いや、ろうそくに灯をともしていたら火事になっていたかもしれない。だったら、これは幸運だったのか。

 冷静を通り越して、現実逃避のように無駄なことばかり頭に浮かんだ。

 身体があちこちぶつかって、でもどうすることもできずただ体を丸めていた。


 その間は数時間ほどにも感じられたが、実際はたがだが一分もなかっただろう。

 徐々に揺れは収まっていき、気が付いた時には波が引くようにおさまっていた。


「唯生……、大丈夫か?」


 返事はない。

 俺はふらふらする身体を起こす。

 さっきまで腕を掴んでいたのに、いつのまにか離してしまったらしい。気配を探ろうとしても、頭がふらついてそれもできない。


「おい……!」


「大、丈夫……?」


 キィと、ドアが開いて、柔らかな光が見えた。ろうそくにともされた火がゆらりと揺れている。


「エレミヤ?」


 ろうそくを持ったエレミヤは、俺と目が合うと首を傾げた。


「無、事?」


「あぁ、俺は大丈夫。だけど、唯生は……」


 そう言って横を見て、愕然となる。


「唯生!」


 唯生はうつぶせになって倒れていた。完全に気を失っている。

 慌てて近寄ると、よく見えないが大きなけがはしてなさそうだった。恐怖故の失神だったらいいが、頭を打ったという事もある。

 揺さぶるのも躊躇われ、俺はあたふたするしかない。


「大丈夫……、すぐに、保健担当……が、くる」


 エレミヤの声に振り向くと、彼女の目の前にカードが一枚浮かんでいた。

 なんとなく感じる様子だと……通信、か?

 ほっと、肩の力が抜けた。


「それ……より、あなた、痛く……ないの?」


「は?」


 部屋に入ってきたエレミヤはろうそくを置くと、座り込んでいる俺の前でしゃがんで手を伸ばしてきた。

 突然のことに強張った俺の顔をぐいっと、彼女はその手で乱雑に拭った。


「血、出てる」


「あ……あっ、本当だ」


 自分でも触ってみるとぬめりとした感覚があった。どうやら頭を軽く切ったらしい。

 反応が鈍い俺をじっと、エレミヤが見つめてくるので焦って言った。


「大丈夫だ。俺、痛みないから、《治癒》の業も覚えてるし」


「ふうん……」


 少し不満げに、エレミヤは口を尖らせた。

 何か怒らせるようなことを言ったか?

 エレミヤは容姿は完全に大人の女性なのだが、行動はいちいち子どもっぽくてどうかかわっていけばいいのか全然分からない。

 非難のような視線から逃れるべく目を泳がせていると、信じられないものを見てしまった。

 みっ、巫女服……。

 神社の巫女さんの一般的なあれ。白い小袖に真っ赤な袴。腰まで流れる赤い髪と、西洋人形のような顔に全く似合ってなく、違和感を放っていた。

 エレミヤまでも衣装チェンジ!?

 この島の主は何やってるんだよ!


「……落ち、ついた?」


「落ち着いたというか、別の方向に混乱がいってしまったというか」


「行こう」


 そう言うと、エレミヤはぐっと俺の腕を引っ張った。唐突な行動に、俺は目を白黒させる。


「おい、どうした」


「行こう……早、く」


 動かない俺にイラついたのか、エレミヤは眉根を寄せた。


「この……ために、初めてのイタズラ……したのに」


 俺は目を見開くだけで、何も言えなかった。

 エレミヤはそんな俺の挙動に、不思議そうに首を傾げた。


 まるで、善悪を知らない《子供》のように。


 遅くなりました!

 なかなか進んでいません、ごめんなさい。


 これからもたびたびこのようなことがあると思いますが、絶対に全力で書き切りますので、どうぞこれからもよろしくお願いします。


 最近、唄華の絵描いたり、在須の絵を描いたりしてます(twitterで一部公開)。いや、そんな暇あるなら書けという事なのですが、それでも楽しいのでついつい……


(いつか)うまくなったら、(たぶん)挿絵を入れたいです。

全然そんな予感を持てないほど、絵の技術が一向に上がりません……

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