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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第四部:歪なヨゲン
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三章 タエズ知恵をモトメル2

「――――うぅ…………う……うっ……ぶはっ!! ひっ、はあ、はぁっ、はあっ……!?」


 突然の息苦しさに目を覚ました。途端、涼やかな声が耳に飛び込んできた。


「夜分遅くにすみません」


 近くから……って、目の前! 

 少年の顔が俺を覗き込んでいた。それで俺は床に倒れていて……?

 何が起きたかわからず、ただ呆然と自分の状況を確認することしかできない。


 エンドが味噌汁、肉じゃがといった家庭料理を晩飯にふるまい、さすが長く生きてあるだけ絶品で驚かせてしまった。エレミヤはもう絶賛で、感激涙を瞳にうるませていて……、いやいや思考戻りすぎ。

 その後だらだらしていたら結局話は進まないまま深夜になり、塔の近くにあてがわれた部屋で眠っていたのだが……


 これはどういう状況だ?


 夕刻に出会ったあの唯生という少年が、俺を見降ろしている。俺はベットから転げ落ちていて、そして唯生がシーツを握っていることから、俺は無理やり引き下ろされたのだ――ということまでやっと頭が回った。


「すみません。お疲れのようで少々ゆすった程度ではお目覚めにならなかったので、手荒い手段をとりました」


「何をした?」


「ゆすってもダメでしたので、軽く顔を叩きました。それでも一向に目覚められないのでベットから無理やり出させていただき……それでもうまくいかなかったので、呼吸を止めさせてもらいました」


「死ぬわ!」


 どうやら俺の息苦しさの原因はシーツで口と鼻をふさがれたせいのようだ。軽い殺人未遂だぞ……。


「鈍感な方なのですね、驚きました」


 無表情でずばりと言われてしまった。

 頬に手を当てると熱を持っていた。軽くではなく、相当に叩かれたらしい。それで起きないのだから、まぁその評価は妥当だろう。

 鏡で程度を確認したかったが、この部屋にはベットと簡素なタンス程度ぐらいしかない。鍵もかけられないほどだから侵入も簡単だったのだろう。

 やれやれと起き上がると、唯生は一歩下がると深々と頭を下げる。


「すみませんでした」


 言葉に全く誠意が感じられない。ここまで感情がないともうロボットだ。すこし薄気味悪い気分になりながら、俺はベットに腰を下ろす。

 手元に明かりがなくスイッチを付けに行こうかと思ったが、この部屋に電気は通っておらず寝る前にろうそくで明かりを得たことを思い出した。この暗闇でマッチを探すのは面倒だし、唯生も気にしていないようだからまぁいいかと諦める。


「んで、どうして突然俺を起こしたんだ?」


「お尋ねしたいことがありまして」


「そんなの、この部屋に案内してくれた時に言ってくれたら……」


「さっき、ふと思い当たったのです」


 直球だった。思慮深い少年に見えたが、即断即決というタイプらしい。

 どうやら唯生も寝ていたようで、その格好はパジャ……!?


「お前、その格好……」


「クマです」

 

 クマの着ぐるみパジャマ! 部屋が暗かったし、色も黒っぽかったから、目が慣れるまで全気付かなかった。

 沈黙した俺に、唯生は弁解というわけではなく淡々という。


「先生の趣味です」


 先生……、つまり《道化》だよな。唯生がそう彼を呼んでいたのを確かに覚えている。

 あいつコスプレマニアだったのか。じゃあ、あの白衣も、エレミヤのウェデイングドレスも……

 どうしてこんなに楽士と共通点があるのだろう。俺の周りにはこんな奴らしか集まらないという事か?


「……んで、服も着替えず、急いで俺に聞きたいことって何だ?」


「僕と、どこで会いましたか?」


 単刀直入すぎる問いに、俺は「はぁ?」と逆に問い返す。


「いや、会ったことないだろ。あぁ……あれは俺の勘違いだったって、もしかしたら文化祭ですれちがっているかもしれないが」


「じゃあ、なんで僕に会ったことがあるみたいなことを言ったのですか?」


 唯生が身を乗り出して聞く。相変わらずその表情、言葉に感情は乏しいのに――鬼気迫る何かがあった。

 俺は思わず身を引く。


「そんなこと」


 追及されてもと、言いかけてはっとなる。今も実は感じていた既視感。その正体に思い当たった。でも――これは、

 俺の表情が変わったのに気付いたが、唯生はぐっと顔を近づけてくる。近い近い近い! そんな瞬きしない眼で凝視されるの、めちゃくちゃ怖い!


「《反逆者(リベリアス)》さん。遠慮とかはいりません、教えてください」


 あまりの剣幕に、やはり躊躇われたが言った。


「文化祭の時の事件の……先輩が持っていた《想壁》で作られた枝から感じた気配が、なんとなくお前の気配と似てた。それだけだ」


「枝……ですか?」


 明らかに――声音が変わった。

 呆然としているような――、俺は慌てて弁解する。


「いや、なんとなくだし、気にするな。お前があの犯人じゃないのはわかってる。すごく似てるけど、やっぱりなんか別物だし」


「それは、どういう違いでしたか?」


 痛いところを突かれた。俺は顔をしかめる。


「何か……こう、空気が違うっていうか、ふわわ~とか、ふわわわ~んっていう感じというか……あぁっ!! 俺は何を言ってるんだ!」


 感覚のことなど問われても分からない。以前、エンドにも似たような質問されたことがあるが、その時は「ふ~ん」と冷たい目をされた。

 なんとなくだから、説明できるもんじゃないんだよ。


「ありがとうございました。これで疑問が氷解しました」


 また、深々と唯生は頭を下げる。今回のはさっきよりも丁寧で、それだけで心の入れようが違うのがすぐ見てとれた。


「見直しました、《反逆者》さん」


 見直された……、さっきまでの俺の評価はどんなものだったのか気になる。

 鈍感に何もプラスされていなければ別にいいのだが。


「これからも、よろしくお願いします」


 そう言って、彼は手を差し伸べてくる。

 あっけなさすぎて、「ここまで人を無理やり起こして、もう終わりか?」と拍子抜けしたが、どこか唯生が満足げだったので悪い気はしなかった。唯生を薄気味悪いと感じたことも、どうやら俺の勘繰りすぎだったようだ。手を伸ばして軽く握りあう。


「あれだけの会話だったのにここまで気にしてくるなんて、その探究心は《神の全知》の弟子だからってことか?」


 俺が感心してそう言うと、唯生は首を傾げ、すぐに首を振った。


「僕は、先生の弟子ではありません。この僕が使っている先生という呼称は、あくまでも敬愛しているという意味でそれ以上のものではないので」


 あの《道化》が尊敬されてるだと!?

 ……じゃなくて、弟子じゃない?


「僕はこの島で唯一、《否理師》でもないですから」



 遅くなりました!

 

 今回は唯生&在須です。思ったより長くなってしまいました。

 

 唯生に着せたアニマル着ぐるみパジャマ、実は憧れです。偶然リラッ○マのやつを見つけた時、ものすごく欲しかったです(財布にお金なかったのでダメでした)

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