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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第四部:歪なヨゲン
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二章 サイカイへのミチノリ3

「で、用件というのは何なのだ?」


 しばらくしてエンドはやっとエレミヤからの(愛情)攻撃になれたようで、元の不遜さを取り戻し《道化》に尋ねた。

 突然『来い』とだけ言われ、エンド自身も《秩序》に用事があったため特に追求せずここまで来た。その話を聞いた時、どうして俺もと思ったが《終末》についてもっと知りたいなら《秩序》に接触しなければならないと言われれば、来ないという選択肢は存在しなかった。


「うむ~、その話をしたいと考えていたのだが、ちょっとこちらの事情が変わったのじゃ」


 相変わらず俺の膝に座っている《道化》が、腕を組んだ。


「今日は泊まっていくのじゃろう? 話をするのはもう少し待ってくれんか」


「できれば今日中に帰りたかったのだが……」


 エンドは渋い顔をする。俺も同じ気持ちだった。一応親には鈴璃の母方の親戚に行くと言ってあり、その偽装工作も全てエンドによって済まされているが……やはりあまり疑念を抱かれそうなことはしたくない。

 エンドには《鈴璃》の代わりをやってもらわねばならないのだから。


「今日帰るの……無理だよ、無理だよ。お母様」


 エレミヤが初めて、ほんの少しだけ微笑んだ。


「《秩序》を……今、全速力で日本から離してるから…………《光の道》も作れないくらい、遠く、遠く」


「エッ、エレミヤ……」


 ほんのわずかな表情の変化だが、それでもエレミヤはニコニコ楽しそうだ。エンドが顔を真っ青にしている。


「《道化》……、《秩序》の操作は君が行っているのでは?」


「最近、歳での~。辛くなってきたのじゃ。それで《預言者(ヴォルヴァにお任せしておる。もう、この子ったら恥ずかしがり屋で、陸地から遠く遠くへ移動しようとしてアメリカにぶつかりそうになって、慌てて離れようとして日本にぶつけそうになったりして、なかなか見てて楽しいぞ」


「お母様……、今日は一緒、だよ。楽しみ。楽しみ」


「…………」


 俺とエンドは空いた口がふさがらなかった。エンドも変人の一人だと考えていたのが、とても申し訳なく感じた。


×××


 遅めの昼食を終え、何やら人生ゲームとか、ババ抜きとかすることになりあっという間に否は過ぎてしまった。もう晩飯という時間で、本当に今日は帰ることができないようだ。

 結局、肝心な話は聞けずじまい。うまくはぐらかされ遊びに付き合わされただけで、本当はこいつは暇をつぶすためにエンドを呼んだのではないかとも思ってしまった。


 それほどに、何もない島だった。

 了解を得て、ほんの一時間ぐらいだったが島を一人探索してみた。

 古めかしい建物がたくさんあるのに、その中には人が住んだ形跡はなくはりぼてのようだった。景色は素晴らしいのだが、人の気配があまりにも少ない。

 一度目をつぶり探ってみた。確実に鋭くなっている俺の勘でも、城の中に二十人いるかいないかぐらいしかわからなかった。

《秩序》は《道化》――《神の全知》がいれば成り立つ。他は全て、雑用仕事しかない。

 時間の流れから隔絶された異様な島。

 それが、わずか半日足らずだが得た俺の感想だった。


「そうかの~。まぁ、この島は儂のおもちゃじゃからな。他人から見たらそうかもしれん」


 また肩車してやっている《道化》が言った。「この島はどうじゃ?」と聞いた彼の質問に、迷ったが素直に言った感想だった。


「今度おぬしがくることがあれば、でぃぬりーらんどみたいなファンタジックな魔法の国っぽくしたほうがいいかのう? その方が、われら否理師の島とわかりやすいか」


「これ作ったの全部お前だっていうのは聞いたけど、そんなにころころ変えたら想片がいくつあっても足りないだろ」


 まだ未熟者の俺でも、想像は容易だ。


「想片の枯渇の心配は一般の否理師にとって必然じゃ。だが儂にとっては関係ない。儂は《神の全知》、情報屋のようなこともしておる。その見返りとして想片をいくらでもせびれるのよ」


 どうやらフォルケルトのように労働を代価とするのは、想片が足りなかったのみだけとのことだった。


「さて、おぬしは――儂から何が聞きたい?」


 突然話を振られ、俺は戸惑う。


「えっ、俺は別に……」


「なまっとるのぉ」


 不満げな声がするのと同時に、《道化》は俺の肩を蹴り空中に跳び、器用に回転して俺の前に降り立つ。


「せっかく二人っきりになれるよう、わざわざおぬしの今日の部屋の案内をかって出たのに、いささか腑抜けが過ぎるようじゃな。儂がせっかく、悩んで二つ名をつけてやったのに」


《道化》は冷めきった目で俺を見る。さっきまでのおちゃらけた様子が全て演技だったかのように、そこにいるのは今日初めて会う別人のような《道化》だった。


「おぬしの否理師としての目的は?」


「……終末の回避」


「なら、なぜ儂に何も聞こうとしない」


 俺のことをねめつける視線。身長的には下から見られているのに、上から蔑まれているようなそんな威厳があった。


「おぬし、儂は《神の全知》ぞ。儂に知らぬことはない。儂は極めきった否理師じゃ。なぜ儂に何も聞かない。おぬしは、終末を舐めているのではないか?」


「そんなことは……」


 ない、と断言したかったのに、言葉が詰まった。

《道化》に聞こうと考えなかったのは、俺が《神の全知》というのがいまいちピンと来ていないのが大きい。だから、聞かなかったという点では弁解できると思った。

 だけど、『舐めている』という言葉にはなにも返すものが見つからなかった。

 知った当初はとにかく焦って、とにかく強くなろうとした。否理師の経験を積まねば何もできないと考えて、まず自分が成長することのみに執着した。

 あれから三か月が過ぎようとしている。少しは強くなったかもしれない、だが、そこから俺は何も踏み出せていない。


「《芸術家(アルティメスタ)》との死闘、《魔女》との溝、おぬしの文化祭での起こった否理師騒動、落ち着いて考える暇がなく、おぬしが強さに拘ってしまった理由はいくらでもわかるが、いいかげんそろそろ現実を見てはどうじゃ。終わりは着実に近づいているのに、いつになったらお主は動くのじゃ?」


なんで俺のこれまでを知っていると聞こうとして、はっとなる。こいつは《神の全知》。知らぬことは何もない、と。

《道化》の厳しい視線に、目を逸らしたくなるのをぐっとこらえた。


「…………――っ」


 何かを言葉にしようとした。だが、動かした口からは何の言葉も出てくれなかった。


「《魔女》が悩み苦しんだ四百年間を、君はたかが三年で超えねばならぬのになにをちんたらしているのか」


 ただ聞いていることしかできない自分が、情けない。


「つまらん」


 そう言い、くるっと俺に《道化》は背を向けた。

 それだけで、頭がぐらぐらとするほど打ちのめされた気分になった。

 自分の甘さ、それはもう捨てようと、デュケノアを殺した時に覚悟したはずなのに――――。


「……」


「………」


「……………」


「…………………あの、怒ったのはわかった。俺の弱さも甘さも思い知った。だから……、その、なにかしてください」


 がくっと座り込みそうになる。

 背を向けたまま微動だにしなくなった《道化》が、恐ろしい。


「いやぁ、《反逆者(リベリアス)》。儂は別に怒ってはないぞ。子供の体だからといって舐めきって、敬語を使わないおぬしに少々年甲斐もなく苛立ったせいで」


「あ、それは……ごめんなさい」


「な~んちゃって。敬語なんて使われたら身の毛がよだつから、それで態度変えられても困るんだけどね!」


 くるりと道化はふりむき、顔の下に拳を作りまさにぶりっこのポーズを……。

 あぁ、お前のキャラが読めない。


「儂が先ほど固まっていたのは、儂はおぬしの部屋を知らぬためどうすればいいか困ってしまったからじゃ」


「お前、知らないのかよ!」


「儂は客人と遊ぶために居るのじゃ。そこら辺のこまごまとした対応は、雑用A、Bに任せていればいいのじゃよ」


 えっへんと、やたら偉そげな態度に、違う意味でまた脱力してしまいそうになる。

 でも、先ほどのショックからは未だ立ち直れていない。

 もっと、考えなくては――――


「先生」


 涼やかな声が、石壁に響いた。


「おう、唯生(いお)


《道化》が俺を越えた向こうへと、親しげに手を振る。

 振り返るとそこには、中学生くらいの少年が息を切らして走ってきていた。どう見ても日本人としか思えない顔立ちで、これといった特徴もない平凡なごくごく普通の少年。彼に特筆すべき点があるとすれば――バーテンダー服。


「先生。探しました」


 抑揚がない、淡々とした声。バーテンダー服が、異様に似合っていた。

 なんだ? エレミヤのウェディングドレス、《道化》の白衣。《秩序》はコスプレ集団かよ。


「いやぁ、待っておったよ。唯生なら、儂の可愛い教え子なら、すぐにでもここを見つけてくれると……」


「三十分もかかりました」


 会話を見ていると、少年はエレミヤよりも表情の変化が少ないような気がした。彼女の人形のような容姿と違い、彼は現実感にあふれているのにそこが少しだけ引っかかった。


 あれ……?


「お前、どこかであったことないか?」


 突然の俺の問いに、少年はきっぱりと言った。


「いえ、僕はここからあまり出ませんので」


「じゃが、唯生は先日、《反逆者》の文化祭に行ったじゃろう? その時に、すれちがったとかではないのか?」

 いくら俺でも、個人の気配を察知できるほど化け物染みた感を持っているわけではない。よっぽど人とは違う感じがする唄華を除いて。否理師だったら、かなり集中すればできないこともないと思うが……。


「俺の勘違いだ。何でもない」


「そうですか」


 さっぱりとした返答で、やっぱり中学生らしくない感じがした。

 この少年も否理師だろうから、そこはやはり普通とは変わってしまうのだろうか。



唯生が再登場しました!

フォルケルトはあっさりばいばいでしたが、彼はどうなるのでしょう……

そこそこのキーパーソンのつもりなのですが。


美形&特殊の中に平凡が混じると際立つと思うのですが、それが少しでも作品に出てたらいいなと思います。


次話、《魔女》と《道化》の談笑ですw

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