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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第四部:歪なヨゲン
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二章 サイカイへのミチノリ1

「高いのう。いつもと景色が違うということは、これほどまでに気分を高揚させてくれるものとはな。ひゃはははは」


 肩車してやっている子供が豪快に笑う。

 いや、子供であってたまるか。幼い顔に似合わない邪悪な笑い。エンドの笑みとは違うが、感じる違和感は全く同種だった。


「おいっ、あんまりはしゃぐな! 落とすぞ!!」


 足をバンバン俺の胸に叩きつけはしゃぎまぐるので、俺はいい加減辟易していた。

 前を行くフォルケルトはこちらの状況を無視してずんずん進んでいくし、後ろにいるエンドに目をやると、諦めろという死んだ目で見てきた。

 ため息が口から出そうになったとき、《道化》の足がバンッと今までよりさらに強く叩きつけられた。


「ぐっ……!?」


「お? 変なところでも蹴ってしまったかのう」


 謝れよ……!

 一瞬呼吸ができなくなってびびった。


「いい加減にしないと……まじでこの窓から投げるぞ」


 今上っている塔の階段はらせん状になっていて、時おり窓がありいい景色が見えた。

 と、言った矢先に、窓発見。

 俺が《道化》の身体を掴もうと足首を掴んでいた手を離したら、察したのか俺の首にまとわりついてきた。すぐに頭上から、泣きそうな声が聞こえた。


「こっ、こんな子供をいじめるのか、お前は鬼じゃあああああああ」


「子供って、どうせお前もデュケノアみたいに年誤魔化してる口だろ?」


「あ、ばれた。てへぺろ」


 ……今のは若者ぽかったが、幼児が言うような言葉じゃないだろ。


「なになにじゃ、とか、そんな老獪なしゃべり方をする子供が普通に居てたまるか」


「だって~、儂は否理師じゃぞ? 常識は通じないぞ~、さてはて、儂は本当に子供じゃないのかのう?」


「……じゃあ、お前はいったい幾つなん」


「百二歳じゃ~、ひゃああああははははははは」


 言葉を失くす。

 ひゃく……って。

 デュケノアより年齢詐欺かよ。いや、エンドには負けるが。


「楽しそうだな……」


 哄笑する《道化》にやっと言えたのはこの一言だけだった。


「そうふてくされるでない。儂は今、超超ゴキゲンなのじゃ。ほれほれ、もっと儂を楽しませろ。《神の全知》である儂をいい気にさせとけば、もしかして知りたいことを聞けるかもしれんぞ」


 その言葉に、突然フォルケルトが立ち止りばっと振り返った。


「わっ、いきなり止ま……」


 止まるな、と言いたかったのだが、フォルケルトの眼にある殺気にごくりと唾をのんだ。


「おい……このくそピエロ。それでも情報売る人間か」


「大丈夫じゃよ~、かわゆいハンターくん。どうせ《反逆者(リベリアス)》の質問への答えは一言のみじゃから」


 顔は見えないが、足をパタパタさせているのと声が弾んでいることから、《道化》が満面の笑みであろうと想像できた。

 フォルケルトは不機嫌そうな顔で俺の頭上、《道化》を睨んでいたが、すぐにふんっと鼻をならすとまた無言で階段を上りだした。


「なっ、何なんだよ」


「《魔女狩り》。やはり、君は《神の全知》と取引しているのだな」


 動揺する俺を無視して、後ろから――エンドがフォルケルトに聞いた。


「その一環として、在須をからかうのを手伝わされたという事か」


「うるせぇ」


 フォルケルトはエンドの言葉をすぐに一蹴したが、肯定しているようなものだった。


「お前あれから何しているんだろうとは思ってたけど……知りたいことって、何だ?」


 少しためらったが聞いてしまった。以前会った時とは違う雰囲気。年下の俺が言うのもなんだが、駄々をこねる子供のようでもあった師匠という存在に固執していた以前と比べて、どこか落ち着いた様子になっていて戸惑っていた。


「うるせぇ、誰が教え」


「教えてやれんがの~。あと、もう一、二か月は儂の奴隷……いや、犬になってもらわんとのう!」


 フォルケルトの言葉にかぶさって、《道化》が言った。

 再び、すごい形相でフォルケルトが振り返って来て、驚いた俺が足を一歩引く間もなく《道化》の胸倉をつかんで俺の肩から引きずり落とした。


「これ以上俺をこき使う気か! てめぇ!!」


 前言撤回。こいつの短気は全く変わってない。《道化》が引きずり落とされたとき、俺の顔蹴られたんだけど。痛みないから怒る気になれんが、そう直情的なのも周りの迷惑だ。


「そりゃあ、おぬしの求める真実はそれほどのものだという事じゃよ」


 床にたたきつけられたのに、お前も痛みないのかと疑ってしまいそうなほど平然と、からからと《道化》は笑う。


「案内が終わったら、アキバに行って《守れない!? 危ないかりんちゃん★》の眼鏡萌えっこ天使シジミちゃんの限定フィギア頼むぞ!」


「また日本の秋葉原かよ! 三日前に行かされたばっかだぞ!」


「あの時は、かりんちゃんの限定萌えボイスCDじゃったろ? 今度はシジミちゃんをゲットなのじゃ~」


 ……そのアニメ、まだやってたんだな。あぁ、そういえばこの前、楽士が抱き枕持ってきてた。『これがないと眠れないんだっ』と。

アホか。


「わかったか? 在須」


 隣に来たエンドが囁くように聞いて来た。


「何がだ。《道化》が変人だってことか?」


「全てが終わってしまった否理師の末路だよ」


 エンドは冷めた目で、はしゃいでフォルケルトの足に絡みつく《道化》を見ていた。


「彼は百十一代目の《神の全知》。十三代前の《神の全知》に『この世界の全てを知る』という目的を達成してしまったがゆえにするべきことを失い、ただ後世に業を伝えてゆくのみになってしまった否理師。……自ら死を選ぶものがほとんどで、《道化》と呼ばれる当代の《神の全知》のようなものはその中でも稀有と言っていい」


 俺は《道化》を見る。ただ無邪気に笑う子供、そんな悲壮を抱えているような雰囲気は微塵もなかった。


「少し付き合ってあげてくれ。彼は人をからかうことで、己の虚無を埋めようとしているのだ。腹が立ちそうな物言いをするやつで、どうしようもない返事だが……頼むな」


 覚悟しろって言うのはそういう事かよ。

 最近、頼み事するの多くなったなと思いつつ決して悪い気はせず、俺は即頷いた。


「何を話しておるのじゃ?」


 不意に《道化》が俺を見た。大きな黒目がこちらをうかがうようにする。


「別に」


 エンドがさっぱりとした返答をする。《道化》も特に興味がないのか「そうか」とだけ言って前を向く。


「来い、《反逆者》等よ。塔の最上階まであとわずかじゃ」


 笑いながら《道化》は白衣を翻して上へと駆け出す。言いくるめられた様子の忌々しそうに顔をしかめているフォルケルトに続いて俺達も上る。

 それから本当にわずかなところにあった大きな木の扉の前で《道化》は立ち止った。


「さぁ、《反逆者》よ。開けてくれ、儂じゃ手が届かんのでな」


《道化》が言った通り、ドアの取っ手は彼の背よりだいぶ高い。やれやれと俺は肩をすくめた。


「ここ、開ければいいんだな」


「そうじゃ、頼む」


 にんまりと笑う《道化》の表情にはエンドが言っていたように、よく見れば嘘っぽいような気がしないでもなかった。

 終わってしまった……か、俺にはとても想像できない。

 エンドの先ほどのお願いに思いを馳せつつ、扉に向かうと――


「隙ありじゃああああああああああ!」





 ……しばらく、お待ちください。





「ひゃああああああああああああああああははははははは」


「殺すぞ……、このくそガキが……!」


 ほんのわずかでも哀れと思った自分を恨む。フォルケルトまで俺を可哀想なものを見ているような目で……。


「いいのう。《反逆者》の若―い、若い坊やの尻は!」


 この、変態が……!

 さすがに唄華もこんなことしたことないぞ!!


「だから言っただろう、在須。覚悟してくれ」


「さっき頷いたの、今からでもいいから取り消させてくれ」


 るんるんしている《道化》は、俺に胸倉掴まれているのに関わらず、豪放に笑う。


「よいではないか。ちょっと尻をもんだくらいで」


「この、変態じじいが……!」


 怒りで頭がおかしくなりそうだ!

 このままこの年齢詐称で幼児の身体を言い訳に使うとんでもないじじいに、どんな制裁を加えてやろうかと思案していた時――


「誰……です、か」


 まるで虫の羽音のように小さくかすれて聞き取りづらい声が、不意に耳に飛び込んだ。

 振り返って、思わず飛び退きそうになった。俺がさっき開けようとした扉。それが指が一本入る程度に

開いていて、その隙間から陶器のように白い人形のような顔がのぞいていた。


「……お、客様?」


 声は澄んだ高い声ですぐさま女性のものと分かった。目が探るようにこちらを見回す。すると突然、その眼に驚愕が浮かんだ。と、わかった瞬間、


「お母様!」


 さっきまでの小声はどこに行ったのか、鼓膜が破れそうなほど大きな声で女性は叫んだ。


「お母様! お母様! お母様! お母様! お母様!」


 バンッと勢いよく扉が開かれ、目に留まらぬ速さで女性が目の前を走り去ったと思ったら、「ぐほっ」というエンドの苦しそうな声が響いた。


「お久しぶりです。お久しぶりです。お会いしたかったです。お会いしたかったです。この体はどうなされたんですか? この体はどうなされなんですか? 可愛いです。可愛いです。お母様! お母様!」


 エンドに抱きつき、というかもう絞殺せんばかりの勢いでしがみつき、壊れたラジオのように同じセリフをくりかえす。

 行動は異常そのもので、もう「ああ、否理師か」と変な納得をしてしまったけど、その容姿も並はずれていた。 

 これからパーティかと疑いたくなるほどの純白で清楚なドレス。と、いうかウェディングドレスだ……、しっかりベールもつけている。陶器のように白い肌にはつやのある赤毛がしなやかに流れ、腰まで伸びていた。否理師は見た目の年齢で判断できないが、顔立ちとかは二十歳半ばぐらいに見える。宝石のような透き通った緑色をした目が、その女性からさらに現実感というものを奪っていた。


「エンド、お母様って……」


「あぁ、彼女は――」


「お母様………」


 女性はぐいっとエンドを力づくで胸に抱いた。エンドが抵抗することもできないくらいがっちりと拘束し、恍惚とした表情でその胸の中に…………


「《反逆者》く~ん、どうして目を逸らしているのじゃ? おや、《魔女狩り》の坊やもか。顔が真っ赤

じゃぞ、ひゃははははは」


 にやにや顔で《道化》が言う。


「まぁ、仕方ないことじゃ。《預言者(ヴォルヴァ)》の胸は、宇宙の神秘じゃからの! おぬしらにはやらん!!」


「いっ、いらねーよ!」


 言ってしまった瞬間、はっとなった。さっきまでエンドしか見ていなかった女性が、じっとこっちを見ていたからだ。

 もしかして、傷つけたとか……?


「ぶはっ! ほら、相変わらずの人見知りのようだが、ちゃんと自己紹介しなさい」


 やっと腕の中から這い出てきたエンドがそういうと、女性はためらいながらこくり頷いた。その動作は

子供じみていて、おどおどとした様子で女性は口を開いた。


「はじ、めまして。エレミヤ……です。《孤影(イクシン)預言者(ヴォルヴァ)》で、す。…………お母様ぁ」


 たったそれだけ言うと、顔を俯けてまたぎゅっとエンドを抱きしめた。

 ちらりと上目づかいにこちらを見る目が、不安そうに揺れていたのがひどく印象的だった。


 

 



最初に……ごめんなさい!

 

一週間以上も投稿できませんでした!!

ここまでPC開かなかったのって、本当に久しぶりです。

「遅れます」報告もできなくって、やっと今日時間が取れてほっとしています。


これからはここまで時間が空かないように、精一杯やらせていただきます。

報告も……きちんと。


こんな作者ですが、これからもよろしくお願いします。

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