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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第四部:歪なヨゲン
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一章 アラタで懐かしきメグリアイ2

 ケータイを開いた。

 悪夢の、再来。


「…………」


 しばらく、電源落としておこう。エンドの話だったら、《秩序》があるところは辺鄙なところらしいから圏外の可能性も高いし。

 着信が四十四件。メール四十四件。

 なんで両方同じ件数で止めてるんだよ。しかも四って……死ねってか。

 兄貴の奴も怖かったが、これは本当に命の危機まで感じる。

 うるさく鳴り響き、マナーモードにする間もなく着信、メール受信を続けていたケータイが止まった隙を狙い、電源ボタンに指を持って行ったその時――、

 手の中で、ケータイが暴れだした。


「うわっ!」


 油断していたために必要以上に驚いてしまい、指が滑り――

 あ……


『深漸くん! やっと、繋がった。ねぇ、今どこにいるの? 駅前に居るの? 公園にいるの? 私の家の前にいるの? 私の後ろにいるの? あれっ、いないよ!?』


「俺はメリーさんかよ……」


 しまった……。ケータイから大音量で響く唄華の声に、激しく後悔する。

 観念して、ケータイに出る。


「もしもし……」


『深漸くんっ! どうしたの? 今日、私の家に来るって約束してたのに。今日、お父さんもお母さんもいないよ。邪魔するものは、だ~れもいない。ねっ、一緒に遊ぼう』


「俺は、そんな約束した覚えはない」


『何言ってるの。深漸くんのトラウマ治しを手伝ってあげたお礼に、私のいう事なんでも聞いてくれるって言ったじゃない』


「一つって言ったはずだぞ! 俺は!!」


 こんなことになりそうな予感がして、最初に誓約書書かせたのに。


『最初の一つのお願いで「お願いを無限大に叶えて」ってしたんだもん』


「普通、それはなしだろう……」


 誓約書にそういう裏ワザみたいなものが使えないようにびっちりとじょうけんかいていたのに。その項目だけ、こっそり消されていたのに気付かなかったとか……俺はあほかよ。


「でも、もういいかげんいいだろう? 先週末は映画館。先々週末は屋内プール……もう、疲れた」


 もちろん俺のおごりとなっているわけで……。財布+精神へのダメージが限界なんです。


『わかってるよ~。だ・か・ら、私の家』


 楽しそうだな、唄華。

 ……絶対お前、俺を家に帰す気ないだろ。


『深漸く~ん、何いやらしいこと考えてるの? えろえろだなぁ、そんなことしないよ~。……今は、まだ』


「最後にぼそっと呟いたな。俺を最終的にどうしたいんだ」


 何度も告白するとかしなくなったなと思っていたら、外堀から埋めていくようなことを始めやがった。SNSにも《彼氏とデート!》的なことを流してたと、楽士が言ってた。


『ちゃんと、彼氏の上には《七十パーセント》って書いといたよ。《七十パーセント彼氏とデートって』


「七十パーセント? 何だ、それは」


 謎の言葉に首を傾げると、唄華は自信満々の声で言う。


『深漸くんは、もう七十パーセントの部分が私の彼氏です!』


「そんなことはない! 俺とお前の関係はただの同級生だ。頑張っても、腐れ縁だ」


『そうだね………腐ったねばねばの大豆のように、私たちの関係は絡み合っているんだね!』


「普通に納豆っていえよ。でも、そうだよな。納豆って、そういう代物だったよな」


 なんか、そう考えたら違和感というか、食べるのを躊躇いそうになる。外国人の気持ちが分かりそうになった。


『んで、残りの三十パーセントは深漸くんからのキ……キ……キ……………ス』


「どうした? 急に声が小さくなったけど。あぁ、もう電波が悪いのか」


 まぁ、仕方ないよな。

 むしろこんなところで通じるのがおかしい。


「じゃあ、もう切る。唄華、あともう一回だけお願い聞いてやるから、今日は勘弁してくれ」


『え、ま、待って。今、どこにいるの?』


「太平洋」


『……へ?』


 唄華の呆気にとられたような声が耳に入るか入らないかの瀬戸際で、俺はケータイを切った。

 ぎりぎり一本立っていたのに、それを最後にケータイの電波は圏外となる。これで、さすがに唄華にこれ以上邪魔されずに済むだろう。


「話は終わったか」


 前を進んでいたエンドが、振り返って聞いてきた。


「まぁ、ぼちぼち」


「恋愛について私に語った癖に、自分の方はどうなんだ」


 返す言葉もない。俺は悟られるように、さりげなく目をそむけた。


「それより、《秩序》はまだなのか? もうかれこれ五時間は走っているんだけど」


 俺はエンドの背中を追いながら、いい加減変わらぬ景色に飽きて聞いた。


 俺とエンドは今、海の上を走っている。

 朝、四時起きして、電車を乗り継ぎ海岸まで来たかと思うと、そのまま海に向かって走り出したから度肝を抜かされた。

 そしてとっさに追いかけ、水の中に足を入れたつもりだったのに、その上を普通に走れてしまったことには、もう言葉もなく、息を呑むことしかできなかった。


 エンドによると、《秩序》は太平洋上に動く島にあるらしい。というか、その島自体が否理師によって作られたと聞かされたら、流石にあきれ果てるほどの異常さだ。

 その島にたどり着くには、秩序に許可をもらい、島から海岸までこの《光の道》を引いてもらう必要がある。俺が今走っているところで、ここから足を踏み外すと海にどぼんだ。始めは気づかなかったが、《想片》のエネルギーを濃密に凝縮することで作り出しているらしく、目に見えてしまうほどである。

 これも、やはり《想片》に精通した否理師しかわからない道らしく、この上を走っているものは周りから姿が見えなくなるらしいから、すごいとしかいいようがない。いままで戦闘用の業ぐらいしか派手なもの見てなかったから、否理師はこういうこともできるのかと感嘆してしまう。


「でも、せっかく道は作れるのに、移動手段が徒歩って言うのはな」


「テレポート、のような超能力のごとき業もあるが、あれは空間を歪めるがゆえに、想片の使用量が膨大すぎる。身体強化の業程度ならば、消費も少ないし、この道自体が分からないかもしれないがエスカレーターのごとく動いているのだ。私たちの速度と、この道とを合わせることで時速二百キロメートル。これほど大規模な業が使えるのは、《道化》だけだ」


 エンドは古くからの知り合いだという《道化》の話を、この道中語ることが多くなっていた。


「すごい……やつなんだな」


「実質、《秩序》はあの男がいないと成り立たない。立ち上げようと先代に話を振ったのは私だが、ルール無用の否理師たちにここまで《秩序》を浸透させたのは《道化》だからこそできた偉業だ」


 エンドはため息を吐くように言う。


「彼は紛れもなく、現代においてもっとも《神》に近い否理師だ」


「……《神》?」


 ともすれば聞き逃してしまいそうなほど小さい声だったため聞き返したが、エンドは何も答えなかった。

 聞き間違えたのか、もしくはただの比喩だったのか。

 エンドが《神》を信仰するようなやつだとはとても思えない。


「おっ、やっと島が見えてきたな」


 エンドの言葉に目を凝らすと、確かに遠くに微かに塔のようなものが見えた。三百六十度見渡してただ青いだけの世界にぽつんと見えるそれはまるで現実感もなく、波の合間に覗いていた。

 以前、ちらりと聞いた《秩序》のイメージにぴったりな光景に、ほんのわずかにだが心踊る。時速二百キロというのはだてではなく、島にどんどん近づいていく。

 中央に大きな塔がそびえ立ち、それらを中心に城のような建物が広がっている。その合間、合間に除く緑の木々が、その風景をより古城めいて見せた。

 あとわずかで上陸という時――、

 赤い、赤い火柱が島のあちこちに、幾本も上がった。


「うわっ!」 


 わずかだが熱風を感じて、とっさに顔を隠し、立ち止ってしまう。


「何だ、これは!?」


 目を見開き叫ぶが、エンドが乱れなく進んでいるのに気付き、慌ててその背を追う。


「これは……」


 島が赤い炎に覆われていた。火は生き物のように、蠢き、蹂躙している。

 強い既視感を抱かせる光景。


「エンド、まさか……!」


「覚悟が、必要なようだな」


 不機嫌そうに、エンドは言い切った。




次回は、懐かしき人が来る!はずです。

今まで出してあげられなくてすまんよ~って感じです。


精一杯、書き上げますw

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