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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第二部:凍りつくカクゴ
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終章 真を見たものは偽を捨てる

 

 星が綺麗だった、

 目を開けると、視界いっぱいに夜空が広がっていた。


「目が覚めたか?」

 

 傍らにいたらしいエンドが、俺の顔を覗き込む。


「俺は……」


「呆然自失になってしまってどうしようかと思っていたら、突然ぶっ倒れて驚いたよ。体力が限界だったんだろう。全く、無茶をする」


「んー、全然覚えて……っ」

 

 途端、目の前が真っ赤に染まった。

 崩れゆくデュケノア。倒れている鈴璃。その映像が交互に出てきて、頭の中が真っ赤に染まる。


「――――うっ」

 

 忘れることはきっとできない。幾度となく、こうしたフラッシュバックを味わうことになるだろう。手にはまだあの重みがのしかかっている気がした。

 でも、これが俺の選んだ道だった。

 背負うしかない。耐えてみせる。

 崩れ落ちてしまって泣きべそをかいて――――そんなことで許されるようなことをしたわけじゃないんだから。

 耐えきる。

 それが選んでしまったことへの《贖罪》だった。

 喉元にせりあがってくる吐き気を必死に抑えて、平静をよそおる。そんな俺の意地なんてエンドにはお見通しなのかもしれないが。


「……デュケノアの体は」


「私がすでに埋葬した。白骨死体発見とかになったら困るから、ちょっと工夫はしたがな」


「ふうん……」


「ちなみに君の腕に刺さっていた彫刻刀も、奴が死んだと同時に消滅した。でも、中身はすでにぐちゃぐちゃだった。今回も多少は治してやったけれど、副作用を考えて完治まではあえてさせていない。しばらくは痛む――ことはないか。無理に体を動かすな。刻兎くんの定期検診までには、診せられるよう用心しとけ」


「あぁ……サンキュ」

 

 グーパーをくりかえすと、すこし引き攣った感じがある程度だった。エンドに言われた状況が全然ピンとこないぐらいに。


「美術館も街も、もう全部もとに戻してきた。はい、これ」

 

 エンドが俺の胸に転がしたのは、丁寧に巻かれた包帯の形をした赤い――。


「――っ」

 

 気づかれないように、静かに湧き上がってきたものを飲み込む。……トラウマになりかけてないか、俺。

 ため息を吐きそうになり、ついでに苦笑いまで出そうだ。


「デュケノアは予想していたよりはるかに多くの想片を所持していた。まさか《保護》を解除してもなお、私たち二人でわけあっても十分な量が残るなんて。いったいどれほどの数の人を……」

 

 想像したくないことだ。

《目的》のためなら、どこまでも歪んでいってしまったデュケノア。そして俺も、その岐路に立っていた。

 俺は甘かった。フォルケルトと戦ったのに、舐めていたんだ。

 そのまま曖昧な位置に立っていられると思っていたんだ。

 やっと踏み出した。もう自分を偽ってはいられない。

 俺は《否理師》になった。《異常者》になった。この世界を縛っている《理》から抜け出そうとして《逸脱》した。

 認めろ。自らの手を、あの一番憎い色で濡らした。

 もう引き返せない。だったら――突き進むしかないよな。


『――来い』

 

 想片を掴んでぽつりと呟いた。しゅるしゅると包帯が俺の左手首にゆるりと巻きつく。ふつりと包帯は中途で切れ、手首に巻きついている部分が縒られていき……。


「……できた」

 

 腕を上げると、手首にどこにでもありそうなミサンガがしてあった。赤い色で気が遠くなりそうになるが、まぁそれはそのうち慣れるだろう。今は疲れているから、心も弱っているだけだ。


「君はほんと常識外れだな」

 

 エンドが呆れていった。


「ふむ……悪くない。いい《収集器(コレクト)》だ。やっと一山越えたな」

 

 エンドは微笑む。だけど、目はちっとも嬉しそうじゃなかった。罪悪感でいっぱいで、俺を哀れなものとしてみる瞳に、腹が立った。


「エンド、お前のせいじゃないぞ。これは俺が……」


「ねぇ、在須。君を幸せにするために私は何をすればいいんだ?」

 

 薄く笑んで、弱々しい声で呟いた。


「私がこの娘になったばかりに、君をとんでもなく不幸にしてしまっている。私は君にも幸せになってほしいんだ。何をすればいい? 私に何ができる?」


「おごるな、エンド」

 

 無理やり体を起こして睨み付ける。

 怯む彼女に、俺は腹の底からイラついていた。


「何か、やっとデュケノアから言われた言葉が響いた」


『君が不幸でかわいそうだったから、《魔女》は君を捨てられなかったんだね』


「……ふざけるな」

 

 なんでわからないんだ、こいつは。

 俺は何度もこいつに覚悟を示したはずなのに。挫けそうになったけれど、こうして今も自分の道を決めて進もうとしているのに。

 何で認めてくれないんだ。

 俺を対等の位置に置いてくれないんだ。


『君は優しすぎる。その優しさは、時として彼への侮辱へとつながる』


 ――その通りだよ、バカが。


「してあげるだ? ふざけるな。俺の幸せは俺自身で掴んでやる。自分自身のことが何一つできないほどガキじゃない。余計なお世話だ」


 エンドは笑う。儚く微笑む。

 ……だから、それが嫌だって言ってるじゃないか。

 顔を俯けた俺に、エンドは囁くように言った。


「ごめんね、在須。……ごめんね」



第二部終了です!


在須とエンドの関係に変化をもたらした部分となりました。


テストのせいもあって、思ったよりも長い部となってしまいましたが、自分なりに精一杯かけて満足です。


読者の方々には本当に励まされています。

アクセス数……そして何より感想。とてもとてもありがたいです。


このまま三部へ向けて頑張っていきたいと思うので、

どうぞこれからもよろしくお願いします。

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