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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第二部:凍りつくカクゴ
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五章 ツラヌクは誰のココロ5

 

 ――させるかよ。

 

 彫刻刀が手から弾き飛ぶ。驚愕の表情で固まるデュケノアの後頭部に、ガチャリと銃を押し当てる。


「……はぁ……セーフ…………」

 

 俺は左手に握った赤い銃をデュケノアに向けながら、かすれてしまう息を必死に整える。

 銃で彫刻刀を撃ち落とすと、身体強化の業を使い、デュケノアの背後に回った。

 がくりと膝を落としたデュケノアに「おっと」となりながらも、定めた狙いを外さないようにする。


「はぁ……あはは……はは…………」

 

 力のない笑い。そしてその声に、ヒュー、ヒューという不自然な音が混じって聞こえた。


「お前……」

 

 始めは自分の喉から出た音かと思ったが違う。デュケノアの口から確かにその嫌な音は漏れていた。尋常ではないほどの汗が、その顔を伝い落ちる。

 おかしかった。

 戦闘の間、駆けずり回っていたのは俺とエンドばかりで、デュケノアは基本受けの構えのまま積極的に動くようなことはしていなかった。先ほどの最後のもがきを除いては。

 なのに白目を剥きそうなほど、激しく疲労している。

 どうして……。


「やはりな」 

 

 エンドが言う。


「デュケノア、そろそろ君の寿命が近いのだろう?」


「はは……正確には………寿命ではなく………病、のせい、なのだがね」

 

 にこりと、顔をあげエンドに微笑みかける。


「おい、どういうことだよ」

 

 理解できない俺が戸惑って声を上げると、デュケノアはエンドを見上げたまま呟く。


「言ったろ? 終末なんか、どうでもいいと……。どうせ、僕はもう……一年も、生きられないんだから」


「――!」 


「在須、君は彼が幾つに見える?」

 

 エンドが言う。


「彼はね、今年で九十七になるはずなんだ」


「! 嘘だろ!?」


「別におかしいことじゃ、ないさ。肉体を若く、保つ業を、編み出している僕のような否理師は……けっこういるんだよ」

 

 にわかに信じがたい話だった。

 この二十代後半にしか見えない男が、九十七だとか言われてもとてもそうには思えない。

 でも、彼は否理師。

 理屈を超えたものなのだ。


「弟子はいるのか?」


「……いない、よ。あと三年しかないのに…………引き継いだってしょうがないだろう?」

 

 エンドの問いにあっさりとデュケノアは答える。

 

 デュケノア・レオ・ジョバンニ。

 彼は『最後』の《芸術家》だった。


「もう残りわずかだからさ……大切なものを、美しきものを、この世界に残したかったんだ」

 

 訥々と彼は語る。


「ねぇ、魔女。以前《保護》の業を見せた時、『これでは終末の影響からは逃れることができない』って言ったよね。新しい、完成した《保護》はどうだった? これだったら、終末に勝てるだろう?」

 

 向けられた熱がこもった視線に、エンドは目を伏せ首を振った。


「残念だが……終末はこの世の理がすべて崩壊することによっておこる災害だ。否理師とはいえ、理を元に業を練る私たちではどうしようもならない。終末が訪れた時、全ての業は無効となり意味を失い、否理師も……ただの人になる」

 

 知らされてなかった終末の全容の一部。その無慈悲さにデュケノアの顔に驚愕と――おそらく絶望が浮かんだ。


「なーんだ、ダメだったんだ……あはは…………意味、なかったのか……悲しー……ね…………じゃあ、いっそのこと――壊しちゃおうかな」


「! 動くな!!」

 

 俺は再度後頭部に銃を押し当てる。だが、デュケノアはそれに構わずこちらをぐるりと振り返り――。

 とんと、銃口を自ら自分の額に当てた。


「後ろから殺られるのは不本意だ。殺るなら――殺す相手の顔はしっかり見てやれ」

 

 手が震えた。

 利き手じゃないとか、そんなのこの銃には関係ないのにどうして……。

 覚悟はしたはずなのに。


「在須。いい、私が……」


「邪魔するな、魔女」

 

 デュケノアの低い声にびくりとエンドは驚いて止まる。


「君は優しすぎる。その優しさは、時として彼への侮辱へとつながる」

 

 俺の眼をしっかり覗いてくる彼に、たじろぎそうになるのを堪える。


「どうするんだ? 君は」

 

 黙っている俺に、デュケノアは畳み掛けるように聞いてくる。


「……《保護》を解く気は」


「ないね。たとえ終末で壊されてしまう美だとしても、放置してしまえば簡単に汚されてしまう。それが美だから」

 

 交渉の余地はなかった。

 俺は引き金に指をかける。

 震える手。

 くそぉっ、止めろ。揺らぐな……!


「ふふふ、迷っているね。かわいいな~。でも、僕だけじゃないんだよ? これからも、君が終末を防ごうとするなら、否理師として生きるならたくさんの人とぶつかる。その度に躊躇している暇が、毎度あるとは限らないんだよ」


「……在須っ」


「来るな!」

 

 走り寄ってこようとしたエンドを怒鳴って制す。


「……俺が、殺るから」


「そう。君が殺してくれるんだね」

 

 落ち着ききった、むしろ晴れ晴れとした表情さえデュケノアの顔を俺は複雑な気持ちで見る。


「怖くないのか?」


「怖いよ。だって死ぬのだもの」

 

 その言葉に俺のほうがビクッとしてしまう。

 じゃあ、なんで……。


「怖くって、本当は命乞いしたいくらいだよ。泣いて、懇願して、無様に跪いて……。どうせもうすぐ死ぬのに、それでも怖くて仕方がない。でも、僕は《芸術家》だからね。見苦しく逝くことなんてできない。美しく死ななきゃ。僕は《芸術家》だ。《美》を求める者なのだから」

 

 自分の感情であっても《目的》のためには押しつぶす。

 デュケノアは《罪人》だった。

 でも、どうしようもなく否理師だった。


「ご、ごめ……」


「謝るな」

 

 ピシャリとデュケノアは厳しく遮った。


「君はその言葉で許されるようなことをするのかい?」


「…………そうだな」

 

 かたかた震える腕に想片が巻きついてくる。無理やり俺の萎えそうになり腕を縛り固定する。

 狙いをずらすな。

 目を閉じるな。


「無理だと思うけど。頑張ってね、《反逆者》くん」

 

 ぐっと唇を血の味がするほど噛む。

 嫌に重く感じる引き金を――引く。

 

 乾いた銃声が耳に響いた。

 

 きらめく血が、その赤が、昔の記憶を引きずり出す。

 赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤。

 

 目の前を赤い包帯が、ひらひらとひらめいた。



次話で第二部が終了します!!


長かったテストがようやく終わり、私もペースを取り戻したいと思います。

次話は八月四日を予定しています。


そして、これから新作のほうも投稿していきたいと思うので、これからもどうぞよろしくお願いします。

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