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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第二部:凍りつくカクゴ
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五章 ツラヌクは誰のココロ4


「っていうか、俺も数にいれられてる!?」


「私を無視するからだ! この大ばか者めが~!!」

 

 叫んだ俺にエンドが跳んできて蹴られ、大きく吹っ飛ばされたあげくに壁に激突した。


「怪我人に容赦ねぇ!」


「うるさい! 怪我人だって言うなら、そこでおとなしくしてろ!」

 

 鬼気迫るその表情を向けられ、体がビクッと怯んだ。

 やばい……めちゃくちゃ怒ってる。

 背は向けられているのに、これだけの殺気が入り混じった怒気。

 握りしめられた拳もぶるぶる震えて――血が。

 はっとする。その小さな肩の震え。ただ見ているだけで、何もできなかった彼女。


「……エンド、すまなかった」


「ほんと、大ばか者が…………」

 

 俺の謝罪に、エンドは声まで震わせて言った。


「君はそこで休んどけ。後は、私がやる」

 

 俺は躊躇ったが頷く。体がもう限界だった。腕の中をゆっくりだが確実に侵食していく刃を、どうにかする必要がある。

 黒いコートを纏う魔女は、目の前の相対者に微笑みかける。


「遅くなったね、デュケノア。私との遊びをほっといてこんなガキに懸想するなんて、正直がっかりだよ」


「待ちくたびれたよ、《魔女》。君が育てている彼の教育に一役かってあげたんだ。感謝してほしいね」

 

 名乗りは既に終わらせていたのだろう。

 それだけを交わすと、すぐに火花を散らすような攻防が始まった。

 刀を生成したエンドがデュケノアの懐に入り込む。目にも止まらぬ斬撃が振り下ろされ――外した。

 エンドは既に分かっていたような顔して、冷静にカウンターが来る前に距離を取る。と、思うとまた跳びかかっていく。だが、また――――。

 エンドもダメなのか……いったいどうやっているんだ?

 俺は荒い息を吐きながら、思考を巡らす。感覚を研ぎ澄ます。何か業を使っているなら俺には分かるはずだ。

 目を閉じる。閉じていても二人の動きがおぼろげながらわかる。

 勘が鋭くなっている今だからか、おそらく二人の体からあふれる《想い》のエネルギーを感じて把握している。

 ……あ。

 ふとした違和感。どこかがずれている感覚。

 目を再び眼前の光景を見て、また閉じる。信じられず何度もその動作を繰り返す。

 目を開いて視覚が捉える映像、目を閉じて感じて描く想像。

 それらにあるわずかなずれ。

 これは……。


「エンド! もう少し右だ!」

 

 目を閉じたまま叫んだ。


「ぐっ」

 

 デュケノアが呻く声に目を開く。

 エンドの刀がデュケノアの脇を浅くだがかすめていた。今度はデュケノアが後ろに下がるばんだった。


「ははは……厄介な才能だね」

 

 俺を見てデュケノアは言う。


「ふん、私ももう少しで掴めるところだったのに」

 

 と、エンドは悔しそうに言った。


「もうわかったか?」


「あぁ……実際にデュケノアがいる位置と、俺らが目で見ているデュケノアの位置がずれてる」


「そうだよ」

 

 あっさりとデュケノアは答えた。


「目の錯覚を利用してるんだ。結構細かくてめんどくさい業なんだけど……。錯覚を使って生み出された芸術品はたくさんあるだろ。その応用」

 

 それでデュケノアは俺たちの攻撃があさっての方向に向けられるように仕向け、距離感覚を狂わせ一瞬にして近くに現れたかのように感じさせたのだ。


「でも仕掛けが分かったところで、どうしようもないだろ? 《反逆者》くんの指示で狙いを定めるにはタイムロスが生じるし、僕に致命的なダメージは与えられない」 


「確かにそうだ。そして私もこれ以上在須に力を借りるつもりはない」

 

 エンドが腕をふるって、コートの中から素早く想片を取り出す。ビー玉の形をしたそれをエンドは空いている左目で握りしめ、目元まで持ってくる。


『汝ノ敵ハ我ノ敵。汝ノ友モ我ガ敵。親シキモノヲ拒ムガヨイ。ソノ身ヲ砕キテ、我ガ心ヲ砕キテ』

 

 想片が握りつぶされたわけでもないのに、粉々に砕け散った。小さな破片がエンドを中心にして散らばり、徐々に拡散していく。


「つっ!」

 

 デュケノアの頬に突然、ぴっと一筋赤い線が走った。破片の一つが本体をかすめたのだろう。目で見えている像は、あくまでも本体の現身だから、その体に傷があるということは、本体に傷が入ったということだ。

 すると、頬を押さえたデュケノアに破片が一斉にきらめきながら飛んでいく。

 像の隣に、見えないがおそらくは本体があるところに。

 不思議な現象が起こった。破片が集結して無為に飛び回っているように見える横で、破片が一つもない空間で、デュケノアが必死に何かから身を守ろうとしている。顔や腕をかばい、余裕がない表情で。

 エンドが破片が集まっているところに、ゆっくりと近づいていく。それに気づいた像がふっと笑うと、不意に掻き消えた。途端、破片に囲まれ身動きが取れなくなっているデュケノアの本体が現れた。


「動けなくされたことへの仕返しかい? 見事にいやらしい手口だな」

 

 デュケノアが笑う。

 エンドは冷たい瞳をしてただそれを見返していた。

 くくくっと、デュケノアは楽しそうだった。


「僕を殺す?」

 

 エンドは答えない。ただゆっくりと刀を構えた。

 その触れるだけで切り裂かれてしまいそうな立ち姿に、デュケノアは恍惚とした表情を浮かべる。


「美しい。じつにいいよ」

 

 刃がきらめいた。その輝きを瞳に映したデュケノアは呟いた。


「そういえば、五代目の《芸術家》の言葉なんだけど、『破壊も芸術』なんだって」

 

 破片を払い落とすように手をふるう。何気ない自然な動作で、だから反応に遅れた。

 指輪からごとりと大きなルビーが零れ落ちた。もう片方の手で受け止めたそれを、エンドに向けて放る。


『破壊より、混沌より、蹂躙せよ。新たなものを構築せよ』

 

 爆発した。

 風と熱が一気にあたりに広がる。


「エンド!」


「くっ」

 

 間一髪、放り投げられるわずかな間に大きく距離をとりエンドは直撃を避けた。

 ほっと胸を撫で下ろしたもの束の間。粉塵と砂ぼこりの中、視界が遮らてしまい、不意にその中から彫刻刀を握った手が、エンドに向かい伸びてきた。


「あははははははははははははははははははははは」

 

 狂った悲鳴のような笑い声をあげ、彫刻刀はエンドの胸へと――。



あっ、あともう少しなのに…試験期間のせいで書けず……短い。ごめんなさい(汗)

二部完結まで残り二話となりました。

週一にペース落ちてしまっているのに、読んでくださりありがとうございます。


8月1日から、以前のペースに戻そうと思います。

あと……できれば新作も……がんばります。


これからもよろしくお願いします。

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