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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第二部:凍りつくカクゴ
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四章 トウヒの先のケツダン2

 ベットの上に寝転がって考え事をしていたはずが、いつの間にか眠っていた。

 三時間も経っていて、現在午後二時。昼飯を食うのを忘れていたが、食欲はなかった。

 こんな状況で寝るなんて図太すぎる……いや、最近デュケノアを探して徹夜を繰り返していたから疲れがピークに達していたのかもしれない。


「やめるか、進むか……か」 

 

 やめるって、否理師をか?

 終末を防ぐことをあきらめろってことか?

 そんなの、どっちもするわけにはいかない。

 俺は鈴璃に誓ったんだ。鈴璃として生きるエンドに、人類を滅ぼすなんてマネさせないために。

 でも……人を殺すなんて。

 フォルケルトを思い出す。

 罪人だから殺す、と平気で言い切ったあいつ。

 それが《魔女狩り》という否理師であるやつが持つ絶対的な価値観だった。

 

 俺には果たしてあるのだろうか? 


 絶対的にあるもの。

 ぐだぐだと思考を巡らす。結論を出すこともできずに、ベットの上でのた打ち回る。

 情けない。そんな自分に嫌悪を感じ始めた時、机の上に放置していたケータイが鳴った。

 のそのそと動いて、手を精一杯伸ばしそれを取ると、電話だった。しかも唄華からの。

 こいつは学校が、いや街がどうなっているかを知らない。

 考えたくもない現実に触れてしまって顔をしかめるが、手は通話ボタンを押していた。


「なんだ?」

 

 そっけなく投げやりな調子で出ると、唄華は


『魔女ちゃん、行っちゃったよ』

 

 と、囁くような声で言った。


「えっ?」


『言おうか迷ったんだけど、深漸くんに後悔してほしくないから、私は魔女ちゃんとの約束を破って、深漸くんに教えてあげる。魔女ちゃん、一人で《芸術家》さんの所に……行っちゃった』

 

 慌てて、意識を上の階へ向ける。


「いない……」

 

 いつだ? エンドが家を出たならば、俺がその気配に気づかないはずがない。

 いつ……俺が寝ている時か?

 そして、俺は不意に襲われた睡魔について思い出す。

 あれは、まさか。


『また同じ手を使われちゃったんだね』

 

 唄華は納得して言う。


『ほんの一時間くらい前かな……魔女ちゃんが歩いているから声をかけたら、なんかいつもと様子が違ったから。それであの手この手を使って聞き出したんだけど』


 ……あのエンドが口を割るって、お前何したんだ。


『そしたら魔女ちゃんが《芸術家》を倒しに行くって、でも絶対深漸くんに言っちゃダメって。私、止めようとしたんだけど逃げられちゃって』


「ありがとう、唄華。とにかく状況はわかった。俺、すぐに行くから、今どこに……」


『待って』

 

 ベッドから飛び降り、部屋から飛び出そうとしていた俺を唄華が制す。


『深漸くん。ちゃんと覚悟できてる?』

 

 言われている意味はすぐに分かった。踏み出そうとしていた足が、止まる。


『魔女ちゃんが深漸くんを置いていった理由、わからないわけじゃないでしょ? それなのに、そんな中途半端なまま追っても、足手まといになるだけだよ』

 

 唄華の諭すような言葉に、反論することができない。

 そのとおりだ。まだ何も俺は決めていない。


『引き返すのなら、今だよ』

 

 唄華は言う。


『魔女ちゃんはきっとそのことを責めない。ううん、むしろ喜ぶかも。深漸くんが否理師として世界を守るための戦いをやめて、普通の人間に戻れるのは――――きっとこれがラストチャンス』


「ラストチャンス……」

 

 唄華は少し悲しそうに言う。


『よく考えて、決めて。私はそれを深漸くんにちゃんと決めてほしいの。どうして否理師になったの? 従妹の鈴璃ちゃんの名誉を守るため? でも、それを他のものと天秤にかけた時、簡単に負けてしまう様なら、それは否理師としての深漸くんを支える目的にはならない』


「…………人を殺すことさえも、躊躇しちゃダメってことか?」


『うん……そだね。それが否理師なんでしょ? 基盤のルールや常識にとらわれない、目的のためなら何でもする。深漸くんにはそんな狂った異常な存在になる覚悟、ちゃんとある?』


「…………」


『ないなら、深漸くんはただの一般の人。そんな人が戦場に行ったら、どうなっちゃうかわかるよね』

 

 諭すような、でも厳しい唄華の言葉。

 耳を塞ぎたい。でも、これは俺が向き合わなきゃいけない問題。


『深漸くん、《芸術家》さんは深漸くんを殺そうとしてくるかもしれないよ。ルールなんて無視して。今回だけじゃない。利害の不一致やら、なんやかんやの揉め事とかで、誰かと殺しあうことになっちゃうかも。深漸くんは(ルール)を壊す世界に行こうとしているんだから。そこ、甘く見ていない?』

 

 答えることはできなかった。

 ただ俯いて、唄華の言葉を聞いていた。一つ一つが胸に突き刺さる。


『深漸くんの、本当の望みは何? 今の生活? それとも、鈴璃ちゃんへの贖罪を果たすこと?』


「……俺は」


『私、深漸くんには死んでほしくない。だから、そんな中途半端な思いで行くっていうんなら、あの手この手で…………ふふふ、こ~んな手も使って深漸くんを止めちゃうよ!』


「途中に何を妄想した!?」

 

 急に声のトーンを変えやがって!

 本当に、お前は読めないやつだよ!!

 人の心の中はぽんぽん読みやがるくせに!!

 ふうっと、ため息を吐く。

 自分で自分が作り出した雰囲気をぶち壊すなんて、何てことしてくれる。真剣に鬱々と考えていたこっちの気が殺がれる。

 気が殺がれて――何だかすっきりした。

 俺が望むもの。

 俺を支える《目的》。


「なぁ、唄華。お前は世界に終わってほしいか?」

 

 思ったよりも明るい声で俺は聞いていた。途端、唄華は俺の十倍くらいの明るさを持って、


『い・や・だ! 私、深漸くんとず~っと、ず~っと一緒に居たいもん! いっぱい、いっぱい深漸くんと遊びたいんだもん。まだ恋人にもなってないし、指輪の交換もしてないし、キッ、キッ……キスだって、まっ、まだだもん!!』

 

 ……反応に困ること言うな。

 ま、でもそうだよな。


「うん。俺も、終わってほしくないな……」

 

 鈴璃の名誉とかそういう小賢しい綺麗な建前ばっか言ってたけど、結局はそうなんだろうな。

 なんだよ。結構簡単なことじゃないか。


「ありがとう。覚悟、できた」


 それだけ言うと、唄華はほんの少し黙っていたが、


『うん。そうだよね』

 

 と嬉しそうな声で言った。


『だから、深漸くん好き。ラブなのよ~』

 

 ……いや、あのさ、もうそれはいいから。


「うっ、唄華。で、エンドがどっちに行ったりしたかわからないか? 前の俺の時みたいに、GPSとか使って」


『残念だけど、今回はそんなご都合主義無理だった!』

 

 魔女ちゃんに悟られてブッブーでした、と唄華は残念そうに言う。


『でも、今の深漸くんならきっと』

 

 くすりと、受話器の向こうで楽しそうな声がした。


『きっと、わかるよ――――』



さすがにもうこれ以上は逃げないよな……と不安になりながら書きました。

どんだけ優柔不断な意思が弱い主人公かと……


でも今回の決断で成長し、これからはしっかり物語をひっぱっていってほしいなと思いました。

お願いしますよ! 在須!!

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