三章 セカイと時間のテイタイ4
深夜、人も虫も風も、何もかもが、不自然なほど静かに眠りについていた。
魔女と神はその空間の中、静かに怪しく夜会を始める。
「神でしょ? この街を作ったのは」
「そうだよ。神が作ったよお」
魔女の尋問のごとき厳しい声に、神は笑って応えた。
「阿垣……だったかな? 当時無名だったその設計士のところに行って、いろいろ教えてあげたんだ。おかげで、こんな素敵な街を築くことができた」
「神が設計した箱庭の内部が美しくないはずがない。そこに満ちるエネルギーも他の地とは比べ物にならないだろう。デュケノアはそれに気づいて……」
「だよね。神のせいだとかは、さすがに気付いてないだろうけど。やっかいなことになっちゃたな~。まぁ、でも頑張って」
ひらひらと手を振る神に、魔女はため息を吐くしかない。
「……彼が落ち込んでいたよ」
「ん? どうして」
神は人の心に鈍感だ。魔女は呆れた目で神に言う。
「君に助けられたってね。私に今日のことを報告するとき、表には出さないよう努力していたが、悔しいと思っていることはばればれだった」
「気にすることないのに。ん~、やっぱり、いいな。好きだよ、そういうところ。大好き」
嬉しそうに微笑む神は、愛の言葉を繰り返す。
「彼を助けないのか?」
魔女の問いに、神は微妙な表情をする。
「助けても……いいけど、ちょっとまだかな。深漸くんにはまだ向き合ってもらいたいことがあるから」
「これ以上、彼に何を望む?」
魔女は憂いていた。
彼はどこにでもいる高校生だ。
ただ他人とは違う非凡な才能を持っていたがために、魔女を通して理を知り、滅びを見てしまった。
魔女は彼を哀れに思う。
絶望しきったその心では、彼の心意気はあまりにも眩く、また痛々しかったから。
「彼は強いよ」
神は言い放つ。魔女の心を見抜いて。
「彼はどんどん強くなる。だって、私が選んだ人なんだもん。だから――彼なら出来る。私は彼を愛してるから、それを知ってる」
神は自信に満ち溢れた声で告げる。
「そう……かもね。神が言うならば」
「あれ? 何か投げやりだね。あまり信じてくれてない?」
首を傾げる神の言葉に、魔女は何も返さなかった。
そのまま背を向け、高く高く跳ぶ――
箒を持たない魔女は、夜の闇を自分の足で駆ける。
「……あまり巻きこみたくない」
魔女は誰にも届かない声で呟く。
「彼にも、笑っていてほしいから」
それは、元《善意の魔女》の偽らざる本心だった。
×××
デュケノアから逃げだした次の日の朝。
学校は停滞してしまっていた。