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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第二部:凍りつくカクゴ
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三章 セカイと時間のテイタイ1

 エンドは美術館の壁に手をやり、何かを探るような真剣な表情で壁をなぞっていた。

 それを後ろから見ている俺は歯噛みした。


「あの時、俺があいつが何者なのかちゃんとわかっていたら……」

 

 思わず吐いた情けない後悔の言葉に、エンドは振り向かないまま淡々と、


「わかっていても、君にはなにもできなかったよ」


「……」


「《芸術家》、デュケノア・レオ・ジョバンニ。彼は否理師の中では、一般的なタイプだ。つまり、自分の目的のためならなんでもする、という意味だが」

 

 エンドは今度は想片を取り出して、手のひらで弄び始めた。


「今代の《芸術家》であるデュケノアの目的は『この世界の美しい芸術作品を守り残すこと』だ」


「そして、その目的の結果が……これか?」

 

 俺は小石を美術館に投げつける。

 小石は美術館に当たった瞬間、勢いを増して跳ね返ってきて、とっさに避けようとした俺の頬をかすめた。さするとわずかに指に血が付いた。

 エンドは言う。


「今、この美術館はデュケノアによって《保護》されている。どんな攻撃も干渉も影響を与えることはできない。例え、時間であっても」


「…………」

 

 最初に異常に気付いたのは、お昼のニュースだった。

 テレビキャスターが昨日、俺と唄華が行った美術館に、ある異変が起きていることを報道していた。それによると、今朝、職員が開館準備のためカギを開けようとしたが、カギは回らず開けることができなくなっていた。しかも、緊急手段として窓ガラスを割ろうとしたが、それさえも不可能だった。

 俺の隣でテレビを見ていて、かつ昨日の遭遇について聞いていたエンドには、すぐにデュケノアの手によるものだと分かったらしい。


「元々は、《芸術家》は理を歪めることで、現実にはありえない素晴らしき芸術作品を生み出すことを目的としていた。先代の十六代目が死に、デュケノアが十七代目を継いで二年後、その方針を変えてしまったが、業自体は受け継がれている。この《保護》の業も、それらのうちの一つだろう」

 

 そういうと、エンドは想片を壁に押し当てる。ビー玉の形をしていたはずの想片はぐにゅりとゴムのように変形し、じわじわと広がっていく。


「何をしてるんだ?」


「解析だ。なんとかしてこの業をひっぺはがさなくてはいけないからな」


「……そうだな。急がないと」

 

 俺は地面を睨む。

 そう、この被害は美術館だけではないのだ。

 がん、と足で地面を蹴るとその倍以上の振動が跳ね返ってきた。

 この《保護》はじわじわと拡大している。美術館を起点に、街を飲み込もうとしているのだ。


「何で、こんなことを。街まで《保護》する必要ないじゃねぇか」


「確かに。ここまで範囲が広いのは、デュケノアの活動の中で最大規模だ。何をやつが思っているのか……。まぁ、狂ったやつに聞いてもわかるはずもない」

 

 クールにそう言い切り、口の中で呪文のようなものを唱えて、エンドは解析を続けた。


「俺に何かできることはないか」

 

 解析を終了させ、帰ろうと告げたエンドに俺は問い詰める。


「データを元に、これから《保護》を解除する業を編み出す。しかし……かなりの時間が必要だ。それまでにデュケノアが想片を得るために、何か事件を起こす可能性がある。君は街全体の動向を見張っていろ」


「見つけたら……捕まえればいいんだな」

 

 俺が意気込むと、はっとエンドは嘲笑った。


「身体強化の業しか使えない君に何ができる。今度は、殺されるぞ」


「…………」


「自分の力量をわきまえろ。かって《魔女狩り》を退かせることができたのは、相手が油断していたというだけにすぎず、かつ私がいたからだ。デュケノアは戦闘に特化した否理師ではないにしろ十七代目の《芸術家》。否理師としてはわずか三代目の《魔女狩り》とは格が違う」


「わかってるよ」

 

 乱暴に言い返す。エンドの言ってることは至極当然のことだ。

 だからこそ、自分の非力さに歯噛みする。


「なんであいつは、俺から想片をとれなかったんだ?」


「デュケノアも言ったただろうが、君が否理師だからだ。自分の思いが生み出すエネルギーを知り、それを使う術を知っている否理師は自然と心に障壁を作る。身構えることができる……ということかな。よっぽど油断している時や、弱っている時でない限り否理師からそう簡単に想片は奪えない」


「あぁ、そういうことか」

 

 障壁とか、そんなのを意識したつもりはないが、なんとなく頷けた。

 これもきっと勘で納得しているのだろう。


「勘かぁ……。俺、感覚に頼りすぎているんだよな」

 

 身体強化の業だってそうだ。なんとなくでできてしまっているから、どういう理屈でできているのか俺自身にもさっぱりわからない。


「天才肌は大変だな」

 

 エンドが皮肉る。

 むっとしてみるが、反論の余地がない。


「あせるな。いつかできるさ。……そうそう、しばらく私は業の解除法を探すほうに集中するからしばらく君の特訓は休みにする。自主練でもしとけ。君のことだ。私が理論を教えるより、感覚的につかんだほうが速いのかもしれない」


「エンド……」

 

 珍しく優しい言葉に、心温まる気がした。が、


「それもできないなら、終末をふせぐなんていうあのかっこいい言葉が、全てお笑いになってしまうしな。ん?」

 

 冷めた目で、エンドは嗤っていた。


今回はだらだら説明です。

設定多いな~と思いつつ、混乱して矛盾が生じないだろうかひやひやしています。


次回は、懲りずに唄華さんが出てくる気がします。

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