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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第二部:凍りつくカクゴ
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二章 ヒメイ響く望まぬデアイ2

 静けさに満ちた美術館。日曜日のためか、夏休みのためか、ちらりちらりと家族連れが目に入る。どうやら夏休みの絵画教室なるものが開かれているらしい。

 唄華が元気よくそこに飛び込もうとしたため、引きずって会場から引き離した。


「『小学生の絵画教室』ってちゃんと書かれているだろうが」


「見た目は大人、中身は子ども!! だから大丈夫!」


「自覚はあるのか……」

 

 美術館であるから、絵画から彫刻まで様々な芸術品が展示されている。それらの価値は俺にはちっともわからないが、この雰囲気は嫌いじゃない。完璧な空調で、適度に涼しいのも暑い夏の日なのに贅沢してるなと思う。


「ねぇ、深漸くん。魔女ちゃんとの修業、どんな感じ?」

 

 郷土資料という展示スペースで、この近辺から出てきたという埴輪などを見て回っている際、唄華は突然そう切り出してきた。


「どんなって……あんまり進んでない」

 

 もどかしい話だ。俺は顔をしかめる。


「自分に合った武器を創れって言われてるんだけど、想像すらできなくて。否理師になったとか言っても、俺はただの高校生だ。自分が日常的に武器もってる様なんて考えられない」

 

 その言葉に、唄華はくすくす笑う。


「嫌だなぁ。日常なんて、とっくのとうに壊れちゃてるよ、深漸くん」


「……」


「深漸くんの思考がどうしてもそこから離れられないのはわかるけど、でも世界を救うんでしょ? そんな異常中の異常なことをしようとしているのに、そんな心意気で大丈夫なのかな?」

 

 唄華は笑みを崩さないまま、俺の顔を覗き込んで言う。


「私だったら、異常なんてどんと来いだよ。いつでも想像可能! あぁ、今でも目を閉じればその情景を浮かべられるよ~。白馬に乗って大きな剣を抱えた深漸くんが、捕らわれた(わたし)を救い出してくれるところがね!」


「それは妄想だ。でも、そうだな。異常はお前の専売特許だったな」

 

 俺は全然だめだ。今もちょっと考えてみたが、少しも浮かばない。悩んでいる俺に、唄華は「まぁ、考えすぎることないよ」と言う。


「どんな武器を持って戦うにしても、深漸くんならかっこいい戦闘を見せてくれるよ。そう、例えばトイレのすっぽんするやつで戦うことになっても……」

 

 想像してみた。

 ……えぇ~、それは嫌だ。

 と、同時にそれはあっさり想像できてしまった自分に落ち込む。


「ていうか、もうそういう荒っぽいことはないだろ」

 

 フォルケルトは《魔女狩り》として罪人のエンドを襲ってきたが、大抵の否理師はそんなことを積極的にしないらしい。

 自分の目的の成就に必死で、罪人を狩るのはよっぽど大量の想片が必要でない限りしないそうだ。しかも、わざわざ有名で強そうな《終末の魔女》を襲ってくるものなどいない。

 だから、あんな戦闘はもうきっとありえない。


「そうは言いきれないよ。深漸くん」

 

 唄華が笑う。


「何がきっかけで誰かを敵に回すのかわからない世界なんだよ。普通の人でもそうなんだから、深漸くんがしようとしてることを考えたら……魔女ちゃんじゃない、誰かの思いにぶつかってしまうかも。以上、唄華ちゃんの大予言でした~」

 

 俺が何も言えないでいると、唄華は笑って話を打ち切った。


「あっ、深漸くん。あれじゃないかな? 永河原先輩の絵が飾られているところって」

 

 郷土資料の展示スペースを出たところの奥には、県内の小・中・高の学生たちの絵画を展示するスペースがあった。なんでもこの美術館では年に一度作品を募集し、その中でも特に優秀とされたものを展示しているらしい。


「永河原先輩の絵、私も大好きだよ。何だか暖かくって、ほかほかした気分になるよね~」

 

 唄華は小さくスキップしながら先へと進む。

 小学生のコーナーから始まっていて、一目見ただけで度肝を抜かされた。


「嘘だろ……。こんな緻密な絵、小学三年生が描いたのかよ」

 

 初っ端から想像していたレベルを軽く超えた作品が展示されていた。

 小学生でこれだ。

 改めて、永河原先輩の偉大さを実感する。

 しかし、唄華は俺が驚愕した絵を見て、少し不満げに口をとがらせた。


「う~ん。でも、個性が足りないなぁ。先生に言われて、技術だけを鍛えましたって感じ。この絵を描いた子が大成するには、まだまだ経験がいるねぇ」


「何いっぱしの批評家みたいなコトいってるんだよ。これだけ風景をリアルに描きだせるだけでもすごいじゃないか」


「これだったら、私にだって描けるもん。何せ私は深漸くんが言うところの天才なのなのですから」

 

 そうだった。

 唄華が中学の美術の時間に描いた絵は、クラスのみんなはもちろん、堅物で知られていた美術教師もうならせていたことを思い出す。


「あの時、深漸くんは崩壊寸前のバベルの塔を描いていたよね。あぁ、懐かしい」


 ……バベルの塔でなく、この町の電波塔を中心とした風景だったのだが。まぁ、俺に絵心がないのはわかってるし、塔だということは伝わっているから上々だろう。


「私は天才だから、細かい絵とかそれっぽく描くのは得意だけど、簡単にできちゃうから思いを込めるのは苦手なんだよね。だから永河原先輩はすごいよ。あの強烈な印象は永河原先輩の思いが込められているからだよ」


「ふ~ん」

 

 俺には等しくすごいと思うが、まぁ永河原先輩の絵が別格だということはわかる。

 あの絵の前に立つだけで、ひどく心が揺さぶられる。

《芸術家》ってことだよな。


 そうこうしているうちに中学生のコーナーも通り過ぎていて、いよいよ高校生のところへ入ろうとした時――――俺は立ち止った。

「およ?」っと不思議そうに唄華も俺の横に並ぶように止まる。

 高校生の部の展示コーナー、一際目立つところに飾ってある絵の前。

 真っ白い髪を持つ男が、一人立っていた。


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