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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第二部:凍りつくカクゴ
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一章 ニチジョウの合間のイジョウ3

「そりゃあ、君みたいなのが弟だったら、私でも過保護になる。いや、むしろ刻兎くんは君の

意思を尊重してくれているよ。私が彼の立場だったら、君を監禁して二十四時間管理するだろうな」


「お前が兄だったら、俺は十七まで生きれてなかっただろうな、っと!」

 

 日本刀を振りかぶって、エンドへと切り込む。

 エンドは余裕を持って、簡単に俺の斬撃を避ける。


「力任せにしすぎだ。そんなのだったらいとも容易く――」 


 ふっと、エンドが視界から消えた、と思うと、


「死ぬぞ」

  

 ぞっとする声とともに、首筋に冷やりと刀が触れている感触。


「くそっ」


 慌てて距離を置く。

 エンドはその位置に立ったまま、俺を見下すような目を向けてきた。


「情けない。修行が始まってからもう二週間も経つのに、ちっとも上達のほどが見えない。勘(才能)に頼りすぎだ《探索》の業を教えるのは楽でいいが、技術系はさっぱりだ。よくその口で終末を防ぐと言ったものだ」


「うるせぇよ」

 

 もう夜も遅い学校の屋上。退院したその日から毎日、エンドから指南を受け、否理師としての修業を積んでいた。

 俺はエンドから借り受けている《想片》でできた刀を再度構える。

 エンドはふむ、と刀をもったまま腕組みする。


「やはり似合わないな。刀は向いてないんじゃないか? 上達があまりにも遅い」


「今まで平凡な一般市民やってたんだ。できねぇのは、仕方ないだろ」


「いや、そうじゃない。その刀は《想片》でできているんだぞ。もちろんただの刀じゃない。使い手の意識と同調すると、武器としての性能が自然と引き出されるようになっている。通常は持ち主のみに対してだが、今回は君にも適用されるよう私は作った。それなのに少しも使いこなせないということは……君にはこの武器が向いてないということだ」

 

 エンドが刀を振ると、その刀も俺の手にあった刀も、光の粒を散らして消えてしまった。

 

「他の武器を考えなくては。これ以上、刀にこだわっても上達は望めない」

 

 あっさりと言われるが、それはこれまでの剣技の修業が無駄だったということだ。

 嫌でも気分は沈んでしまう。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、エンドはあっさり話題を変える。


「今夜は、君に否理師として重要な《想片》の補充について教えよう」

 

 エンドは羽織っている例のだぼだぼコートの懐から取り出したものを見せる。

 俺は切り替えようと自分に言い聞かせ、身体強化の業を解く。視界の端をちらついていたうざったい赤い包帯が俺の右手にしゅるしゅると集まる。勝手に円柱状にまとまったそれをピンで止め、ポケットにしまうと、エンドに駆け寄ってその手のひらにあるものを見る。

 そこには暗闇のなかでも、微かに虹色に光るサイコロのようなものがあった。


「これは《収集器(コレクト)》という。《想片》を集めるように変化させた器だ」


「《想片》を? でもそれって、乱暴なやりかただけど人の中に手をずぼっと入れて集めるんじゃあ……」


「それではいっぺんに手に入るが効率は悪い。君は《魔女狩り》みたいに通り魔騒ぎを起こすつもりか。《魔女狩り》だって、普段は《収集器》を用いていたはずだ」

 

 そりゃあ、そうだよな……。

 否理師が全員フォルケルトと同じことをしてたら、この世界では毎日通り魔騒ぎが起こっていることになる。


「君が人の気配に敏いのは、人間が常に自分の思いを微量ながらも外に放出しているからだ。《想片》は人の思いをエネルギーに変換したもの。つまり、その溢れ出したものを集めればいい。直接奪ってしまうのより得られる絶対量は少ないが、ちりも積もれば山となる。《収集器》を携帯し、人込みの中などで持ち歩くことで、少しずつ《想片》を手に入れることができるというわけだ」

 

 なるほど、理屈は簡単だった。だが俺は、首を傾げた。


「でも、お前この前言ってなかったか? 俺の持っている《想片》は、《痛み》という重要な《思い》を取り出したものだから莫大なエネルギーが込められているって。しばらく《想片》が枯渇するのを心配する必要はないって」


「確かに、君の持つ《想片》のエネルギーは膨大だ。身体強化の業だけを用いるのであれば十五年はもつだろう。しかし技術系の業、《召喚》や《予知》を行おうとすれば、その際に要る《想片》の量は身体強化の時の比ではない。例え――」

 

 エンドがふっと嘲笑う。


「君がその技をひとっつもできなくても、もし使えるようになった時のために備えておくのは悪いことじゃないだろう」

 

 ……ごめんなさい。


「それに《収集器》を作るにも、初歩的な技術がいる。その訓練だとも思え」


 エンドは目を細め、俺を見据えるようにした。


「しばらくは、眠れない夜が続きそうだな」

 

 空を見上げる。月が怪しく夜を照らしている。

 エンドはその月光の中……身が震えそうなほどおぞましい笑みを浮かべていた。


やっと投稿しました!

遅くなってすみません。


スケジュールが恐ろしいくらい埋まっていて……なかなか次を練る暇もなかったです。

そのハードな日々は続いてます(笑)

でも小説を少し書く時間は(無理やり)取りました。


今回はプチ修行編。

エンドは真面目ですから、在須くんをそりゃもうビシバシと……

物語では夏休みに突入ですね。

今日も暑かったです。

クーラーが……欲しい

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